「偶然とチャンスをモノにできるか」スポーツカメラマン長田洋平が語る写真の真髄

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「偶然とチャンスをモノにできるか」スポーツカメラマン長田洋平が語る写真の真髄

国内最大級のスポーツ専門フォトグラファーチーム「アフロスポーツ」のカメラマン長田洋平が、テレビ東京系で4月20日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(毎週土曜24:20~)にゲスト出演。1枚の写真に込められたスポーツカメラマンの思いを伝えた。

4,000万点を超える写真や動画、イラストなどを有料で提供しているアフロスポーツ。テレビや雑誌、ネットなどで「アフロ」という表記が添えられた写真を目にしたことのある人も多いのではないだろうか。長田は、ロシアワールドカップや平昌オリンピックなどでも活躍した気鋭のカメラマンで、試合前のベルギー代表が組む円陣の内側を撮影した写真は大きな注目を浴びた。

番組アナリストで元日本代表の北澤豪も「よく撮れたね。一緒に円陣を組んでいるみたい」と驚いたこの1枚。今大会、ベルギー代表が円陣を作る際、ゴールキーパーが足を上げることに気付いた長田は、フランスとの準決勝で、ゴールキーパーが足を上げた瞬間にカメラを突っ込み、ファインダーを見ずにシャッターを切ったという。

さらに、フランス代表のキリアン・エムバペを捉えた写真を紹介。敢えて高速で動く腕や足をブレさせ軌跡を描くことで、その驚異的なスピードを表現。長田は「表現の仕方は様々。ピントが合っていなくてもそれに意図があるなら自信を持って出します」と語り、番組MCの勝村政信は「昔だったら削除の対象。ちゃんと作品になるとすごい写真になる」と感嘆。またスピード系でも、佐藤寿人のようなワンタッチゴーラーは、ディフェンスが予測しづらいのと同じでカメラマンからしても捉えるのが難しいのだとか。アルゼンチン代表のリオネル・メッシに至っては、「ヒザ下の振りが速すぎて、ボクシングのジャブを撮っているような感覚。気がついたらボールがない」と語り、選手の動きを予測して(つまり選手のプレースタイルを知った上で)撮影することが大切だと説いた。

勝村が「同じような場所で撮影していても、その良し悪しが出てくるわけじゃない?」と、写真の違いを生み出す要因を質問すると、長田は「偶然とチャンスをモノにできるかが大事になってくる。自分がどういう風に現場を切り取るかが腕の見せ所だし、個性になってくる」とコメント。それを聞いた北澤が「良い写真は本人も喜ぶ。それを残してもらえるのは歴史を残すのと同じこと。いつも俺の写真はブサイクだったけど(笑)」とこぼすと、長田は「どんな顔をしているのかは重要」と語り、「例えばフィギュアスケートであれば、ジャンプの際に顔が歪んでしまいがちだが、極力そのような写真は出さないようにしています。選手本人に喜ばれるのが一番なので」と思いを伝えた。

そんな長田の撮影の様子を知るためにJリーグの試合会場に同行。カメラマンがピッチサイドで最初に行うのが場所取り。カメラマンの場所は早い者勝ちで、この日の長田は、ゴール裏のコーナーフラッグとゴールの間の場所を確保。ゴール前が撮りやすく、ゴールした選手がサポーターの方に抜けていくことがあるので、その瞬間に狙いを定めたという。

試合が始まると長田は2台のカメラを駆使して撮影。片方のカメラには、ゴール前からセンターライン付近まで選手の表情がとらえられる超望遠の400mmレンズを装着。多くの場合こちらのカメラを使い、近い位置に選手が来るともう片方のカメラに持ち替える。ハーフタイムになると前半に撮影した写真の選定を行い、アフロのサイトに撮影したばかりの写真をアップロード。ワールドカップなどではこの速報性が売上に大きく影響してくるのだとか。スコアレスドローに終わったこの日の試合を象徴する1枚を聞くと、両チームの選手が激しく競り合う瞬間を選び、スコアを物語っていると思うと話した。

また、ロシアワールドカップの準決勝、フランスvsベルギーの試合直前に撮影された1枚が話題に。ベルギーの国歌斉唱の時、元フランス代表選手で当時ベルギー代表アシスタントコーチだったティエリ・アンリだけがうつむき、他の監督・コーチは顔を上げて国歌を歌っていた。この時の本当の気持ちは本人に聞かなければわからないが、「これを1枚絵で表現できるのはカメラマンならでは」と表現の面白さを伝えた。

そんな長田が、カメラマンとして憧れる写真を紹介。イングランド代表のデビッド・ベッカムがコーナーフラッグの手前で膝をつき、両腕を高々と掲げるこの1枚。アフロの青木紘二社長が日韓ワールドカップで撮影したモノで、実は、ベッカムが得点したシーンではなく、コーナーキックでアシストした瞬間が押さえられた。「そもそもベッカムは右サイドなので、左サイドはカメラマンに人気がなかったと聞いている。基本的には得点シーンを狙うので、コーナーキックだったらペナルティエリア内の様子を狙うのがセオリーなんです。でも、ベッカムフィーバーがあったので、何があってもベッカムを押さえるべきと考え、蹴って喜んでこっちを向いたときが勝負だと想定して撮られた。ギャンブルになりますが、広角レンズを持ってベッカムが振り向くのを待つ。これをできる勇気みたいなのがある」と、この1枚に隠されたストーリーを紹介し、スポーツフォトの奥深さを伝えていた。

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