プーチン大統領&習近平主席の狙いとは?池上彰が斬るワールドカップの思惑

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プーチン大統領&習近平主席の狙いとは?池上彰が斬るワールドカップの思惑

ジャーナリストの池上彰が、テレビ東京系で9月8日に放送されたサッカー番組『FOOT×BRAIN』(毎週土曜24:20~)にゲスト出演。池上ならではの視点で、ロシアワールドカップから見えたプーチン大統領や習近平国家主席の思惑に迫った。

まず池上は、ワールドカップで日本代表の長友佑都がセンタリングを上げる瞬間の写真を見ながらトークをスタート。しかし、池上が注目したのは、プレーする選手の姿ではなく、その後ろにある看板だった。「今大会、中国の看板が随分ありましたでしょ? もちろんVISAやコカ・コーラ、マクドナルドといったアメリカの企業も多いのですが、中国企業の7社に対して、日本企業は0社になりました」と中国の躍進について言及。実際に、今大会の国別スポンサー料(推計・ゼニスメディア調べ)を見てみると、全体2,046億円のうち、中国が約920億円で1位、アメリカが約440億円で2位、そして、開催国ロシアが約70億円で3位となっている。

スポンサーになった中国の7社は、日本ではあまり知られていないが、銀座を歩く中国の人々に話を聞くと、ホテルなどを経営する不動産大手「大連万達集団(ワンダ・グループ)」をはじめ、中国国内のテレビシェアNo.1の家電企業「Hisense」、スマートフォンで世界的に躍進する「VIVO」、食品会社「蒙牛乳業」など、中国では生活に密着している企業であることがわかった。そして、それぞれ「誇らしい」「中国の経済と国力の工場を見せつけられた」と胸を張っていた。

しかし、チームが出場していない中国が、どうして大きな投資をしたのか? そこにはサッカー好きを公言する習主席の戦略が隠されているという。

池上は、FIFAのジャンニ・インファンティーノ会長と習主席がにこやかに握手を交わす写真を紹介し、「FIFAに対して、中国にはワールドカップを開催するだけの経済力があるとアピールしている」と分析。また、出場国が現在の32か国から48か国に拡大し、アジア枠も4.5から8.5へ増加することについて「こうなれば確実に中国代表が出場し、中国からのスポンサーが増える。出場枠の増加はFIFAの思惑があるとつい思ってしまう」と話した。

また、無類のサッカー好きを公言する習主席は、2030年のワールドカップを中国で開催し、50年までに優勝できるサッカー大国にすると宣言。実際に、中国スーパーリーグでは、その資金力で世界中から有力選手を獲得するなど、マーケットは広がっている。番組アナリストの都並敏史は「広すぎてまとまらないで苦労してきている」としつつも、選手だけでなく指導者も世界中から集め、2020年までにサッカー競技人口を5千万人以上、2025年までにサッカー学校5万校建設を目標とする中国に対して脅威を抱いている様子。

一方、念願のワールドカップ開催を果たしたロシアのプーチン大統領の思惑が、開催11都市からも見て取れると指摘。例えば黒海沿岸のリゾート地で、オリンピックが開催されたソチは、大会施設を活用し、国際的な観光地にすることを狙っているという。日本代表がキャンプ地に選んだカザンは、ロシア連邦を構成する国の一つ、タタールスタン共和国の首都。街中には、イスラム教のモスクがいたるところにあり、多くの民族で構成されるロシアにとって、「国の一体感を高めたい」という狙いがあると分析した。

そして池上が最も注目したのは西端にあるカリーニングラード。ここは、元々は旧ソ連だったバルト三国(エストニア、ラトビア、リトアニア)が独立した際に、リトアニアの中に飛び地として残ったという歴史がある。バルト海に面し、ロシア海軍基地があるこの土地は、NATO軍(北大西洋条約機構)を牽制するための戦略的拠点と位置づけられている。バルト三国からすれば、ロシアがウクライナからクリミア半島を一方的に自国領に編入した4年前の出来事もあり、「カニーリングラードでの開催に嫌な思いを抱いていたのでは」と池上は予想。実際、ラトビアとリトアニアは、ロシアの領土侵攻に備え、14年から4年間で防衛費を2倍以上に増やしている。

また、開幕戦でロシア代表がサウジアラビア代表に5-0と快勝し、その傍らでプーチン大統領がサウジアラビアのサルマン皇太子と会っていたことに注目。実は、冷戦時代からロシアとサウジアラビアは遠い関係にある。サウジアラビアは、イスラム教の宗派や民族、言葉の違いからイランと対立関係にあり、冷戦時代にサウジアラビアをアメリカが、イランをソ連がそれぞれ支援していたという背景もあり、サウジアラビアとイランの対立は、中東のエネルギー資源を巡るいわばアメリカとソ連の代理戦争だったのである。

ところが、ソ連崩壊やアメリカのシェールガス革命により、アメリカは中東に以前ほど関心を示さなくなり、サウジアラビアもアメリカばかりに頼ってはいられず、ロシアとの関係も改善しようと考えるようになった。一方ロシアは、OPEC(石油輸出国機構)に加入しておらず、OPECに加入するサウジアラビアとお互いの石油生産量を調整することで石油の値段をあげ、収入を増やすことができるというメリットがある。彼らの関係からも様々な思惑が透けて見えたという。

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