車いすテニス国枝慎吾の悩みに衝撃「世界中で一人しかわからないこと」

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国枝慎吾
国枝慎吾

車いすテニスプレーヤーの国枝慎吾が、6月13日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。長年にわたりトップに君臨し続ける王者のメンタリティを紐解いていく。

テニスの世界4大トーナメント(全豪オープン、全仏オープン、ウィンブルドン、全米オープン)を同年に制覇する年間グランドスラムを5回達成し、シングルス107連勝のギネスブック記録を保持。さらにパラリンピックでも2004年のアテネ大会からシングルスで2つの金メダル、ダブルスで1つの金メダルと2つの銅メダルを獲得するなど、名実ともに世界のトップに君臨する国枝。

そんな国枝の強さの秘密がラケットにある。それはフレームに貼られた「オレは最強だ!」と自身で書いたシール。一見すると何の変哲もないシールだが、これには深い意味がある。2006年1月。当時、世界ランキング10位だった国枝は、アン・クインというオーストラリア人の女性メンタルトレーナーと出会った。かつて世界ランキング1位だったパトリック・ラフターなどテニス界のレジェンドたちを指導した名トレーナーだ。

国枝はアンに「僕のテニスを見てナンバーワンになれる可能性がありますか?」と質問。「あなたはどう思っているの?」と返され「ナンバーワンになりたい」と答えた。すると彼女は「“なりたい”じゃなくて“自分がナンバーワンだ”と断言するトレーニングから始めましょう」とアドバイス。「オレが最強だ!」というフレーズはそこから生まれた。

そこから朝起きて鏡に映る自分に「オレは最強だ!」と言い聞かせるなど、潜在意識に刷り込んでいく日々がスタート。弱気な時ほどサーブでダブルフォルトがよぎり失敗してしまうものだが、そのような時こそ「オレは最強だ!」と呟くようにとアンは伝えた。すると効果はすぐに表れた。国枝は「そうやって打つと“オレは最強だサーブ”になるんですよ」と笑いながら明かし、少し考えを変えるだけでプレーに好影響が現れることを実感したという。

そうして国枝は、その年の大会を次々に制覇。アンとの出会いからわずか9か月にして世界ランキング1位へと駆け上がった。国枝は「(勝ち続けるたびに)オレは最強だって思えるようになって、よりその力を込めてショットを打てる好循環になっていきました」と当時を振り返り、「2006年から2020年になりますが、こうしてラケットに貼ってあるのは、それだけ自分にとっては効果があり、信じ込める言葉」と言葉の持つチカラを伝えた。

そして、感情のコントロールも重要な要素の一つ。試合前の練習で狙ったプレーができないと、そのプレーに固執してイライラをつのらせ、それが試合にも悪影響を及ぼしてしまうことがあった。するとアンは「それ最高じゃない」と思いもよらない言葉で鼓舞。「すでに緊張しているからこそイラつくの。一人で暗いトンネルの中を歩いていて、だいぶ後ろにいる足音がクリアに聞こえる状況を想像してみなさい。緊張は五感を研ぎ澄ますのに役立っているのよ。あなたは試合前の練習から緊張状態にある。それは五感が研ぎ澄まされている証拠だから、試合にいつでも入れるということ」とアドバイス。それ以来、緊張との向き合いが楽になり、今では「よっしゃ緊張してる」とポジティブにとらえられるようになったという。

こうして鍛え上げられたメンタルによって、シングルス107連勝という前人未到の大記録を達成した一方で、強者ならではの悩みも。「100連勝が近づいてきて数えだしちゃったんですよ。すると行くべきところで行かない安全な試合運びをするようになっていて、そろそろ負けた方が良いと思った」と感じていたのだとか。「負けた瞬間に肩の力が抜けた」と明かし、そこから再び良い試合ができるようになったという。この言葉に番組MCの勝村政信は「世界中で一人しかわからないこと」と強すぎるが故の悩みに衝撃を受けた様子だった。

国枝の強さの秘密はほかにもある。これまで車いすテニスでバックハンドは、強打やトップスピン系のボールはほとんど使われておらず、スライスの方が車いすの操作を含めると楽だと考えられていた。しかし、国枝は固定観念を捨て、トップスピンと強打の打ち方を研究。それまで良いとされてきたフォームとは違うアプローチで技をモノにし、実戦でも有効であることを証明した。

さらに車いすでは出来ないと思われていたサーブ&ボレーも、2つのポイントを攻略することで可能にした。まずはコース。厳しいコースに打つことで相手が返球できるスペースを狭める。もう一つがスピード。車いすテニスはサーブを打つ瞬間のスピードがゼロのためトップスピードに持っていくのが難しいとされていた。しかし、少しでも惰性があれば難しくはないのだという。それまでの常識にとらわれることなく挑戦することで進化を続けてきた。

さらに国枝は、周囲がレベルアップする中で現状維持をしているだけでは相対的に落ちてしまうと言い、変化を恐れないことの重要性を説いた。2016年のリオパラリンピックでは、シングルス3連覇に臨んだが、肘のケガの影響などもあり準々決勝で敗退。「その中でも若手の成長を見せつけられて、万全でもやられていたという思いがあった」と当時の心境を明かし、「怪我を直して復帰するまでに今までと同じではいけない。バックハンドや車いす、シーズンの途中にコーチも変えました。新しい風を常に取り入れてチャンピオン奪還を目指しました」と模索の日々があったことを伝えた。すると2018年1月に全豪オープンで優勝。34歳という年齢でランキング1位に返り咲いた。

「王座陥落してさすがに“オレは最強だ!”と思い込めないよと思ったことはありました。でも、これはお守り的な感じで最後まで外せなかったですね」という国枝。勝村は「年齢を重ねることをちゃんと武器にしている。若い頃にいた場所にはいられないけれど、同じようなところに違うカタチでいられる」と衰えることのない向上心を賞賛。国枝も「知識がどんどん増えていくのでアイデアも増えていく感覚があります。今、めっちゃ楽しいです」と笑顔を見せていた。

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