主審・西村雄一が感じるVARの可能性「サッカーを次のレベルへ上げる」

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主審・西村雄一が感じるVARの可能性「サッカーを次のレベルへ上げる」

Jリーグプロフェッショナルレフェリーの西村雄一が、8月24日放送のサッカー番組『FOOT×BRAIN』(テレビ東京系、毎週土曜24:20~)にゲスト出演。Jリーグでの導入準備が進められているVAR(ビデオアシスタントレフェリー)の実情と、誤審の減少以外に期待される“可能性”について語った。

VARとは、ビデオ判定を用いたスポーツの審判システムの一つ。サッカーにおいては「得点の有無」「退場に相当する行為か」「PKになるか」「カード提示の間違い」の4つのケースで適用される。ビデオを使ってすべてのプレーを正しく判定しようとするものではない。ワールドカップなどの国際大会をはじめ、ヨーロッパの一部リーグでは既に運用されており、Jリーグでは2021シーズンから導入予定だった。しかし、相次ぐ誤審を受けてVAR導入の前倒しが検討されている。

誤審騒動が度重なるJリーグの状況に西村も「まずは両チームの選手に対して本当に申し訳ない気持ちでいっぱい」と同じ審判員としての思いを吐露。「レフェリー側のミスを全世界中で共有して、それに対して予防策を立てていくということをしている。今後は同じような状況になっても “ネットに当たって出てきたのでは?”と考えられるかもしれない」と話した。

そんな中、番組アナリストの福田正博は誤審問題に対してあるポイントを指摘。昨今、スタジアムには多数のカメラが設置され、スローモーションなども駆使して肉眼では見ることのできない詳細な情報をすぐに確認できるようになった。しかし、審判団だけがピッチ上で見た情報だけを頼りに判定を下さなければならない。これについて福田は、「それでレフェリーだけが悪いとなるのはあまりにもアンフェアだと思う。(VARそのものにもアディショナルタイムの増加や使用基準の不明瞭さなど)課題はたくさんあるが、これだけテクノロジーが進歩している中で、VAR導入の方向性は間違っていない」と話した。

ところで、VARがどのように運用されているかご存知だろうか? ワールドカップの映像などでも度々登場したビデオオペレーションルームは、VAR(ビデオアシスタントレフェリー)、AVAR(アシスタントVAR)、RO(リプレイオペレーター)の3人がチームとなってモニタリングし、ピッチ上の審判団とコミュニケーションをとりながら進行している。

この日の放送では、ゴール前にドリブルで抜け出した選手がファールで阻止されたシーンの様子を紹介。主審はファールを取りつつもノーカードと判断したが、VARチームは、今のファールがドグソ=DOGSO(Denying an Obvious Goal-Scoring Opportunity)と呼ばれる決定的な得点機会を阻止するレッドカードの対象となるプレーではないかを確認。(DOGSOが成立するのは「ゴールまでの距離」「ゴールに向かってプレーしているか」「ボールをコントロール出来ているか」「ディフェンダーの位置と数」の4条件が満たされている時のみ)VARは主審に試合の進行を待つように伝え、ノーカードの理由を質問。主審から「ディフェンスの2人目が追いつきそうだった」と理由を聞くと、オンフィールドレビュー(ビデオ判定)を提案し、主審もそれを採用。VARが用意した様々な角度やスピードの映像を確認し、イエローカードへと判定が変えられた。

オペレーションルームでの会話が想像以上にあることを知った番組MCの勝村政信は「サブチャンネルで聞きたいくらい」と興味津々。福田も「VTRを見ながらあんなに喋っているのですね」と驚いていた。すると西村は、「レフェリーに情報が入りすぎて混乱を招きかねないので、いつもはオペレーションルームの会話は聞こえていなくて、必要な時だけ通信しています」と説明した。

しかし、このシステムを運用するには、オペレーションルームなどのインフラとは別に、FIFAが定めるレクチャーを受けVARの資格を持った審判員が必須。現状では人数が足りておらず、今すぐにリーグとしてVARを始めることはできないのだとか。これらの状況もあり、日本初のサッカー総合専門学校JAPANサッカーカレッジでは、世界初となるVARのオペレーターの授業を実施。即戦力の育成を目指している。

そして西村は、審判団の思いにも言及。「一番間違えたくないのはレフェリー。私達が間違えることによって選手の運命を変えてしまうことはしたくありません」と痛絶な思いを明かし、「最善を尽くして判定していても、実際に間違っていることはあります。しかし、今まではそれを訂正する術がなかった」とコメント。「正しいプレーをした選手が、私達の間違いによって不利益を被るのであれば、それは訂正された方が良い。最終的には選手のためになります」とVAR導入の意義を伝えた。

また、VARは誤審を減らすだけではないという。スペインリーグではVAR導入後にイエローカードが68%も減少。ビデオ判定を騙すことはできないと選手たちも理解し、無駄なチャレンジをしなくなった。さらに嘘のアピールは審判にも観客にもバレるので、プレイヤーにとってデメリットでしかなくなったのだとか。西村は、VARというシステム自体が始まったばかりなので改善の余地はあるとしながらも、「正々堂々と戦う方が良いとなれば、サッカーは次のレベルに行く可能性があると思っています」と大きな期待を寄せていた。

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