『獣になれない私たち』新垣結衣はいつだって私たちの勇気の代弁者なのだ

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最近、ブリーチをしてアッシュグレーヘアカラーにしました。大人の脱色にはダメージを危惧する人も多いと思いますが、最近はカラー剤諸々も進化しているので割と安心なのですよ。印象も気分もついでに運気もだいぶ変わるので中年女子にこそ気分転換にお勧めしたい。

さて今回は『獣になれない私たち』(日本テレビ系、毎週水曜22:00〜)に主演する新垣結衣さんについて。現在30歳の彼女、2005年以降ずっと作品に出演し続けています。読モ時代からひたすら表舞台で活躍し続けて、視聴者の目に触れ続けているのに全く邪魔な感じがしない。

タレント、俳優はデビュー当初から若手と呼ばれる時代まで、露出を多くするのがブランディングの一環になります。結果「またこの人出てるよ〜」という視聴者側が胃もたれしてしまうことが多々。全てが好転反応とはなりません。その現象が新垣さんにはないのです。むしろもっと見たくなってしまう。その理由には彼女の清廉とした印象と、静かな強さを観る側が期待している気がしてならないのです。

■“いい人”の晶が一歩を超えた瞬間、新しいドラマが始まった

放送前、いろいろと資料を読み込んだのだけどこれは素直になれない男女のラブストーリーなのでは? と思っていた。それが第1話から進むに連れて少しずつ重たさを感じるようになっていく。

彼氏の前でさえも本音を隠して、周囲との調和を図ろうとする晶。公認会計士の根元はつい粉飾決算に手を染めてしまい後悔の沼にハマっている。晶の元彼の元カノ・長門朱里(黒木華)はニートで人に寄生することでしか生活ができない。他にも介護問題、パワーハラスメントに近い職場環境と現代では、誰もが関わりのある問題にこの作品は触れてきた。そう、甘ったるいラブストーリーなのではなくこれはヒューマンドラマ。

「私は人に強く言えなくて、負けてしまうとこがあるので。ひとつでも変われたら……」(と新しいファッションに挑戦する)

「バカになれたら楽なのに」

こんな愚痴に近いセリフを並べる晶に対して、個人的には共感できなかった。でもそれはごく一部の話であって『けもなれ(ドラマタイトル略称)』は、放送終了ごとに人気を上昇させていく。視聴率こそ10%を下回ることはあったけれど、SNSでは毎回ホットワードに。『カルテット』(TBS系、2017年)や現在放送中の『中学聖日記』(TBS系、2018年)と同じ現象だ。それだけ晶と同じ思いを抱えている人たちがこの世には多いのだと思うと切ない。

その晶を演じている新垣結衣さん。彼女がここ数年で出演したドラマ作品を回想してみる。『コード・ブルー -ドクターヘリ緊急救命-』(フジテレビ系、2008年、2010年、2017年、2018年)では優秀で温和な性格の医師。『リーガル・ハイ』(フジテレビ系、2012年、2013年、2014年)では真面目な新米弁護士。『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系、2017年)では、東大卒ゆえについ小賢しいことを口にしてしまう、でも頑張り屋な女性。紹介したのはごく一部だけれど、真っ直ぐに前を向いた雰囲気の役がほとんど。

カメレオンのようにコロコロと演技を変えて作品に登場することももちろん素晴らしい。でも現実にいたら誰もがふと頼りたくなるような、クラスの学級委員の存在値を演じ続けているのは稀有なこと。新垣さんはその代表女優だ。

昔、彼女がバラエティ番組に出演していた時の記憶がある。美容法を聞かれていたのだが、他出演者は「特別なことはしていません」と有名人の常套句を並べていた。そんな折に新垣さんは

「時にはプロの手も借りますよ」

と、堂々と話していたことを思い出す。まるで今回の晶役と同じように淡々とした口調だったこともまた、静かな強さを醸し出していたのだ。きっとこの姿勢と役柄のオーバーラップが、世間の人気を担保し続ける理由なのだというのがスナイパー小林予測。

そして『けもなれ』も最終回の放送を迎える。先週放送の第9話ではついに晶は自分の中に潜ませていた本音をぶちまける。

「社長に逆らうと怖いから、面倒だから、みんな裏で文句を言って誰も助けない。これが平和ですか?」

視聴者がそして晶に共感できずにいた私でさえも、心の中でガッツポーズをした瞬間だった。彼女の勇気の行方は一体どこへいくのであろうか。その勇姿を10回目の放送で見守りたい。

(文・スナイパー小林)

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