伊藤智彦監督が語るアニメ『僕だけがいない街』注目ポイント

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――監督自身についてお伺いしたいのですが、アニメ監督を目指したきっかけを教えてください。

目指したきっかけというか、作り手という存在を初めて意識したのが中学高校の時に放送していた『新世紀エヴァンゲリオン』です。それで監督をやりたいとは思ったわけではないのですが、「庵野秀明って人が監督らしいよ」ということを話していた記憶があります。それで大学はアニメとか絵とかまったく関係ない学部だったのですが、他大学のアニメを作るサークルに入り、結果、アニメを作る仕事に就きました。

――これまでに影響を受けた監督や作品はありますか?

『時をかける少女』と『サマーウォーズ』の2作品で細田守監督の助監督につかせてもらったのですが、細田監督から受けた影響は大きいですね。俺には3人の師匠がいるのですが、そのうちの一人です。

――細田監督にはどのようなところに影響されたのですか?

細かいテクニック面というより、作品の作り方というか、アニメ思想的な部分ですね。どうやら細田監督には「アニメを作るとはこういうことである」というものがあるらしく、そんな細かいところから考えているんだって啓蒙された感じはあります(笑) それと細田監督は映画が公共に流されるものだという意識が強いよう「エンターテインメントとして、みんなで楽しめるものが良い」ということを言っていて、そこには同じような考え方なのかなと思っています。

――具体的に感銘を受けたエピソードがあれば教えてください。

『サマーウォーズ』の時のことなのですが、納品に向けて行うビデオ編集という作業があり、その時に「ここのカットはもう少し伸ばした方が良かったかな」と突然言い出したり、今までと違うカットを入れたり、最後の瞬間まで諦めないんです。自分が思い描いたベストなものに近づけているのか、それを超える作業なのかはわからなかったですが、監督としてあるべき姿を見せていただきました。これくらいで良いだろうって思ってしまうことがあったので、そういう気持ちを封印して“人からどう見られても最後の最後まで粘ろう”って、その瞬間から思うようになりました。

――師匠は3人とのことですが、あとの2人はどなたですか?

『MASTERキートン』や『MONSTER』を手がけた小島正幸監督です。初めて演出になった時の監督で、今でも一緒に仕事をさせていただくこともあります。もう一人は『WXIII 機動警察パトレイバー』の監督をやられた遠藤卓司さんという方で、すでに亡くなられているのですが、俺がアニメ業界に入った時、下についた初めての監督で、ものすごく細かいおっちゃんでした。絵コンテ用紙にページナンバーを振るわけですよ。実は書かない人が多いのですが、ちゃんとカット番号を確かめてからやるんだって。あとはカット袋の番号の揃え方とか本当に細かく言われました。一緒にやっている時は「うるせえなぁ」と思っていたけど、最初に遠藤監督の下につけて良かったと思っています。

――これまでにクリエイターをしていてツラかったことはありますか?

なんでしょうね? いろいろあると思いますけど、嫌なことは忘れています。仕事で嫌なことはありますけど、女の子にフラれる方がダメージは大きいですよね。仕事にも悪影響が出ますし。でも、今は結婚してとてもメンタルが安定しています(笑)

――近年、日本のアニメやマンガといった文化が世界的にも注目され、高い評価を得るようになりました。どんなところに魅力が伝わっていると思いますか?

海外のイベントに呼んでいただいて感じるのは、日本と文化的に違う地域でも、こっちが面白いと思っているのと同じように感じて貰えていることが多いですね。「主人公カッケー!」とか「この女の子可愛いよね!」とか「グッとくる」っていうのは欧米の人はよりストレートに感じてくれている気がします。ただ、個人的にはアニメやマンガってどちらかというサブカルチャーだと思うんですよ。メインストリームで何かやっているという感じは持たない方が良いと思っています。

――「クールジャパン」という言葉も良く聞くようになりましたね。

もし海外で日本の作品がヒットしたら、それを作っている人たちに還元できるようになって欲しいですし、制作会社に何か優遇してくれたり、地位向上をはかってくれたら良いのになと思います(笑)

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