伊藤智彦監督が語るアニメ『僕だけがいない街』注目ポイント

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――これまで制作を進めてきて手応えはいかがですか?

自分ではまずいことになっていないと思っていますが、だからってどれくらい良いものになっているのか、正直、長いこと関わりすぎていてイマイチよくわからないんです。だけど、取材依頼も沢山ありますし期待されているのかなって(笑) あと、たまたま別の演出さんが1話を見て「監督、これ面白いじゃん」と言ってくれて、作品にどっぷりつかってない人が見て「面白い」と言ってくれたのは、今のところ一番嬉しい一言ですね。

――今回の作品の中で、映像としてチャレンジしていることや注目ポイントはどこですか?

舞台のひとつが冬の北海道の住宅地ということなので、絵的に落ち着いた感じになりがちです。はじめから地味な画ばかりにならないようにしようというのはスタッフと共有しました。ストーリーや雰囲気はノスタルジック感を残しつつ、映像は2016年に作っている感じにするのを目標にしました。それは音響面で特にこだわっています。ハリウッド的というか、ハリウッドのサスペンスのような音の付け方を音響監督の岩浪さんがこだわってくれているので、僕としても勉強になっています。

――ハリウッド的な音響というのは?

環境音の整理の仕方に違いがあります。「ドーン」とか「グオォォォォ」という不安を煽る音の使い方が特徴ですね。ハリウッドでは驚かそうとするようなタッチ音を多く使っていると思うのですが、デビッド・フィンチャー監督の作品や海外ドラマ的なものをイメージするとわかりやすいかもしれません。あまり日本のアニメでは感じたことのない系統の音響になっていて、海外ドラマを見ているような感覚でノイタミナの時間を楽しんで貰えるようにするのを目標にしています。

――コミックのイメージをアニメにすることで気を配られたことはありますか?

“マンガ原作モノあるある”としては「このコマがあるのだから、このコマを使えるようにしなくちゃいけないんじゃないか?」というジレンマを感じることがあるんです。だけど、今回はそれをやめることにしました。原作は印象的なマンガの書き方をしているので、アニメにした時の連続性はちょっと薄いと思い、それよりもマンガを読んだ感覚をアニメで表現した方が良いと考えました。もちろん、気に入ったコマをそのまま使うこともありますが、基本的には、原作に縛られることなくやった方が良いと思っています。原作に最大限のリスペクトを持ちながらも遠慮はしない。それが今回の我々の基本姿勢としてあります。

――冬の北海道が舞台のひとつとなっていますが、雪の表現などはいかがですか?

実際に北海道の苫小牧にロケハンに行かせてもらいましたけど、雪が降っていなかったので体感できませんでした(笑) そもそも苫小牧は太平洋側なので大雪が積もるようなところでもないみたいなんですけどね。それで今回は、撮影監督の青嶋さんに雪のテストを何パターンか作ってもらいました。昨今のアニメでは、雪はコンポジットの段階(キャラクターや背景の映像など合わせる作業)で入れていくのですが、試行錯誤しながら雪を合わせて、最終的に固すぎず、柔らかすぎず…という着地点となり、フワッとした感じに降らせています。

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