浮世絵に魅せられたフランス人男性が職人の技を学びにニッポンヘ! 4年後...驚きの報告が!:世界!ニッポン行きたい人応援団

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浮世絵を支える職人の知恵とこだわりが詰まった「ばれん」

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「摺りの技術を高めるには、ばれんについて学ぶことが重要だと思います」とやって来たのは、神奈川県大磯町にある「ばれん工房 菊英」。ご主人の後藤英彦さんは、本ばれんを作り続けて42年。伝統的な方法で一から本ばれんを手作りする、ニッポンで唯一の職人です。

浮世絵をはじめ、木版画の出来、不出来を決めるのが日本独自の摺り道具・ばれん。最上級の本ばれんになると10万円を超えるものも。そこには、機能と使いやすさを追求した職人の驚きの知恵と知られざるこだわりが詰まっています。

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ばれんは、外側を覆う「包み皮」、それに包まれた「当皮(あてがわ)」、紙に力を伝える心臓部「ばれん芯」で構成されています。後藤さんによると、当皮を作るのに大体7〜8ヵ月かかるとのことで、これを聞いたブノワさんは、驚きのあまり「エッ?」とフリーズしてしまいます。

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当皮の材料は糊と和紙と漆。和紙は150年ほど前の大福帳を使います。当時の和紙は、原料である楮(こうぞ)の質が高かったためとても丈夫なのだそう。和紙を円形に切り取り、糊づけします。糊は、わらび粉と柿渋を混ぜて作った渋糊。極めて粘着力が強く、糊の厚みを極力薄くできるといいます。さらに柿渋の効果で防水性が高まり、強度も格段に増すそう。

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1枚和紙を貼ったら、丸1日以上かけて乾燥させます。これを50枚ほど貼るため、最低50日は必要になります。和紙を貼り終えたら絹の布を貼り、さらに漆を7〜8回塗り重ね、軽くて丈夫な当皮が完成。

これほど手間をかけるのは、多いときは1日300枚ほど摺る摺師に負担がかからないようにするため。さらに、和紙が持つ適度な弾力性は版木に彫られた細かい凹凸の感触を摺師に伝えます。軽さと強さを併せ持ったばれんは、いわば“摺師の目”ともいうべき重要な存在なのです。

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そして、作品の仕上がりを左右するのが、ばれん芯。素材は江戸時代より、ばれん芯の最高級素材とされるカシロダケという竹の皮。マダケよりも筋目がきつく、丈夫で硬い芯を作ることができるそう。福岡県八女市のみで生育する品種ですが、10年ほど前、最後の生産農家が廃業。そこで後藤さんは地元の方から土地を借り受け、自らカシロダケを育てています。

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ばれん芯の素材として使えるのは、一枚の竹皮のうち、厚みが均一なごくわずかな部分のみ。これを水に浸し、5分ほど指で揉みながら柔らかくします。その後、薄い甘皮を剥がして丈夫な繊維の部分だけを残すと、皮を裂くために作った専用の針で、幅も長さもほぼ均一な状態に。そしてまた選別。この段階で良い材料が揃わないと、最後に編んだとき、綱の太さにバラつきが出るといいます。

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こうして徹底的に選別した竹の皮で、ばれんの芯となる綱を編んでいきます。ねじりながら縒(よ)り合わせ、ばれん芯の基本となる「2コ縒り」の状態に。1つのばれんに必要な長さはなんと約15メートル! 少しでも凸凹があると後に影響するので、驚くほどの正確さで機械のように編んでいきます。

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さらに2コと2コで「4コ縒り」、4コと4コで「8コ(やっこ)縒り」と、太いものを作り、これを円形に巻いたら完成! 江戸時代から伝わる技術で編まれた綱は、こぶ状の突起に圧力が集中し、きれいな摺り上がりになるといいます。ブノワさんも「ばれんはこれほど手間がかかるから高価なのだと、初めてわかりました」と納得の様子。

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休憩を兼ねて、後藤さんがブノワさんを相模湾が一望できる高台へ案内してくださいました。かつて歌川広重が描いた東海道五十三次の、大磯から箱根までが望めるスポットです。中でも、後藤さんが見て欲しかったのは富士山。ずっと浮世絵で見てきたニッポンの富士山に、ブノワさんは「マウント富士!」と感激。

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工房に戻り、作品を後藤さんに見ていただくことに。忠臣蔵の作品を見た後藤さんは、「面白いですね。繊細に摺られています」と感想を。さらにもう一つ、侍をテーマに創作した作品も見ていただきます。明治初期に撮影された侍の写真をもとに、浮世絵の手法を取り入れて作った木版画です。後藤さんは「このブルーがすごく効いている」と褒めてくださいました。

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色ののりが十分ではなく、かすれてしまうという悩みを相談すると、後藤さんから「もう少し効きの良いばれんでも良いかもしれない」とアドバイスが。そこで、フランスで使っているばれんを見ていただくことに。インターネットで4000円で購入したその中身は、ナイロン製のばれん芯。やはりこのばれんでは、効きが弱いそう。

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ここで後藤さんが、中身の「ばれん芯」が違うという5つのばれんを用意してくださいました。竹の皮の縒り方、素材の太さなどによって細かく分かれており、プロの摺師は、摺る場所や紙の厚みによって5〜6種類のばれんを使い分けているといいます。「墨一色で摺ってもらって、ばれんの違いを感じてもらいたい」と後藤さん。違いを知ることが今後のブノワさんのためになると考えたのです。

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まずは、「8コ極細」というばれん芯。かなり効きの弱いばれんですが、髪の毛など極めて細かい彫りの表現に向いています。実際に摺ってみたブノワさんは「これは本当に勉強になります!」と大興奮。一つずつ試し、一番効きの強い16コで摺ると…完璧に塗りつぶすことができました! 初めてばれんの種類の違いを体験したブノワさんは、感激のあまり後藤さんの手を取り「ばれんの奥深さがわかりました。ありがとうございました」と大喜び。

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その夜、ブノワさんのために、後藤さんと奥さんが、生しらすに金目鯛、アジなどお刺身の盛り合わせや、手作りの紅しょうがが入ったいなり寿司を用意してくれました。大磯の地酒で乾杯して美味しい食事で盛り上がり、話は後藤さんご夫婦の馴れ初めに。二人が知り合ったのは美術学校と聞き、「私も妻とは美術学校で知り合いました」とブノワさん。さらに奥さんが年上という共通点もありました。

「“ばれんの職人に会いたい”と言っていただいたのはとても嬉しかった」と後藤さん。ブノワさんも「今回教えていただいたことは、今後の私の人生にとても大きな意味を持ちます。後藤さんに会えて本当に幸せです」。絆が深まり、古くからの友人のように気持ちが通じあった2人。ブノワさんの目には熱いものが。

翌日は、ばれんの包み方を2時間みっちり教えていただきました。「とても素晴らしい時間を過ごさせていただき、ありがとうございました」「こちらこそ言いたい。ばれん職人のところに来てくれてありがとう!」と、2人は握手を交わします。

別れの時。ブノワさんからは、後藤さんが褒めてくださった侍の写真をもとにした作品をプレゼント。後藤さんからは貴重なカシロダケの皮をいただきました。

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あれから4年、ビデオレターを後藤さんご夫婦のもとへ。ブノワさんとはメールでずっとやりとりが続いているそうですが、姿を見るのは4年ぶりです。

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後藤さんに見て欲しいものがあると案内してくれた先には竹林が! 偶然見つけたとのことで、春に竹皮を採って、使い古したばれんを新しくしているそう。実は後藤さん、番組の放送後に、「いつでもばれん修理ができるように」と道具を送ってくれていたのです。

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さらに見せてくれたのは、後藤さんが書いたばれんの本。絶版になっていましたが、ニッポンの古本屋で見つけてインターネットで取り寄せたそう。ばれんを作るのに必要な情報が全部載っているこの本。ブノワさんは、いつか自分でばれん作りを一からやってみたいと意気込みを語ります。

ここで、後藤さんに現在進行中の浮世絵を見ていただくことに。ばれんの使い方を見て、「摺師と同じような使い方。ぼかしも段々上手くなってきてるし、どんどん技術が上がっている」と後藤さん。

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ビデオレターと一緒に届いた作品の実物を見た後藤さんは、「このベノさん(ブノワさん)の“べの”は私が書いたんですよ」と教えてくれました。以前はカタカナで書かれていましたが、「ひらがなの方がいいだろう」と書いて、メールでアドバイスしたそう。

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カラスに使われた艶摺りという技法に「凝ってるね」と感心しきり。

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さらに後藤さんは作品の裏側を見て、染み具合をチェック。「ばれんを使い分けているのがよくわかります。4年前とは雲泥の差ですね」と絶賛!

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最後に、「近いうちにまたニッポンでお目にかかりたいです」と話すブノワさん。後藤さんも「また日本に来て、一緒に酒飲もう!」と笑顔で応えてくださいました。ブノワさんをニッポンにご招待したら、驚くほど技術が向上し、一流浮世絵師の階段を登り始めていました!

メキシコのペドロさんから思わぬ相談?

続いて紹介するのは、メキシコで大衆食堂を営むペドロさんとアイメさん。

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2人は、約2年前に念願の初来日を果たし、岐阜県にある老舗大衆食堂「三勝屋(さんかつや)」へ。ご家族と固い絆を結びました。

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そして今回2人は、東京・清瀬市にある老舗「みゆき食堂」へ。夫婦で50年続けてきた圧巻の連携プレーに驚愕!

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そんな「みゆき食堂」の皆さんにビデオレターをお届けすると、ペドロさんから「料理のことになると、妻に厳しく言いすぎてしまうんです」と、思わぬ相談が……? 続きは近日公開します!

3月29日(月)夜8時放送! 月曜プレミア8「世界!ニッポン行きたい人応援団」では、「ニッポンにご招待したら人生が変わっちゃった!感謝のビデオレターが届いちゃいましたSP」をお届けします。

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▼ニッポンの“和太鼓”を愛するオーストラリア人女子高校生。「一番好きな和太鼓は桶胴(おけどう)太鼓です」「桶胴太鼓の打法を学びたい、作るところを見てみたい」という彼女を、約1年前、ニッポンにご招待。そんな彼女からお世話になった皆さんへ感謝のビデオレターが届く。さらに、オーストラリアとニッポンをネットでつなぎ、生中継も!

▼新企画「ニッポンお店開いちゃった人応援団!」ニッポンに移り住み、自らお店を開いて暮らしている外国人の方たちを応援!

どうぞお楽しみに!

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