松嶋菜々子が不気味なスーパー家政婦役で新境地『家政婦のミタ』TVerで配信中

公開: 更新:

最終話の視聴率は40%(※)を記録し、社会現象となった『家政婦のミタ』(日本テレビ系、2011年)が、民放公式テレビポータル「TVer(ティーバー)」にて期間限定で配信されている。

「了解しました」。この言葉、ていねいなつもりで何気なく使ってはいないだろうか? 実はビジネスマナー書などでは、目上の人、取引先相手に使用するのは不適切な言葉だとされている。「了解いたしました」と直せば日本語的には問題ないはずだけど、それさえもビジネスでは避けたほうがいいとされている。ハンコは傾けて押す、暑くてもジャケットは脱がない……日本は本当に謎のビジネスマナーがはびこりすぎている。

では、「わかりました」と返事したい時には何と言ったら正解なのか。実はこのドラマにその答えがある。正解は「承知しました」だ。みんな覚えているだろうか、三田さんのことを。「承知しました」「それは業務命令でしょうか」。三田の決まり文句をマネした人は当時たくさんいたはず。

『家政婦のミタ』は、松嶋菜々子演じるスーパー家政婦の三田灯が、阿須田家(母親を亡くし、4人の子供と父親が家庭崩壊の危機に直面している)に派遣されることから始まる物語。さまざまな問題を解決しながら、バラバラだった家族が次第に絆を取り戻していくという内容だ。

ちょっと頼りない阿須田家の父・恵一を長谷川博己が、長女の結を忽那汐里が、長男の翔を中川大志が、末っ子の希衣を本田望結が、四姉弟の叔母のうららを相武紗季が、それぞれ好演している。子役たちはこの作品後にちゃんと人気俳優へと成長しているのも頼もしい限りだ。

このドラマの魅力といえば、なんといってもヒロインのキャラクターだろう。喜怒哀楽はまったく表情に出さずに淡々と業務をこなす三田は、まるでロボット。業務を行う際のエプロン姿とは打って変わり、普段はワークキャップを深くかぶり、季節を問わずグレーのダウンジャケットを着ているという謎多きファッションも特徴的だった。

そして家政婦としてのスキルの高さも話題に。『逃げるは恥だが役に立つ』のみくりさん、『私の家政夫ナギサさん』のナギサさん、『家政夫のミタゾノ』の三田園さん、そして本家『家政婦は見た』の秋子さん……と数々のドラマで家政婦(夫)は登場するが、三田はドラマにおけるトップオブトップの家政婦だと思う。

なぜなら、家事以外にも勉学、情報収集、遺失物捜索、さらに遊びやスポーツ……と、あらゆる技能を備えてるのだ。意外な能力でいうと、ルービックキューブは5秒で全面を揃えられるし、動物や人の声マネも得意(AKB48も全員分マスターしているらしい)。これらのスキルを駆使し、業務範囲であればどんな顧客の要望にも応えてくれる。もう家政婦の領域に留まっていないので何の仕事をしても成功しそうだが、家政婦という職業にも意味がある。

業務命令によっては過激な行動を取るので「今度は何をしでかすか分からない」という期待と飽きさせない展開で、視聴率は右肩上がり。三田の破天荒さはもちろんのこと、回を重ねるごとに「この人は何者なのか」「この人はどんな傷を抱えているのか」という部分にも関心が集まった。

朝ドラヒロインや大河ドラマの主演などで魅せた正統派の演技はもちろん、『GTO』や『やまとなでしこ』などラブコメヒロイン的な役柄でも十二分に存在を発揮してきた松嶋にとって、「承知しました」の一言で犯罪行為までやってのける三田の振り切れたキャラクターは、まさに新境地だった。

無表情・無愛想で感情がまったく読み取れないし、声に抑揚がない三田。演じる人によってはつまらないキャラクターになってしまう難役のはずだ。それを家政婦とは似つかないイメージだった松嶋が、そつなく演じきっているというギャップもドラマの大成功に大きく貢献している。指の先から目の表情、まばたきの無さ、些細なしぐさまで役作りは徹底している。特に三田が壮絶な過去を独白するシーン(第8話)は、淡々としたしゃべりとは裏腹に、見開かれた目の奥に悲哀が宿る様を見逃さないでほしい。

また、母親の自殺、父親の浮気、いじめなど、シリアスな家庭崩壊の問題がてんこ盛りな阿須田家からも目が離せない。重苦しい問題を扱ってはいるが、ミステリーかつコミカルな要素もあることで見やすく、家族があるべき姿へと修復されていく様をじっくり見守ることができる。『家政婦のミタ』は家族の再生の物語としても、見応えがたっぷりある。クズな父親・恵一が家族とどう向き合っていくのか、その成長過程も楽しんでみてほしい。度々登場する大号泣の演技にも注目だ。

はたしてこの家族に救いはあるのか。そして笑うことのない三田は、笑顔を取り戻せるか。結末はもちろん気になるが、まずはぜひ改めて三田の「承知しました」の耳障りを感じてもらいたい。ほっとするような、ぞわっとするような、あの不思議な語感を。

なお、TVerでは「これぞTVer!傑作ドラマ特集」と題し、過去に話題となった作品が続々と配信されている。

(文:綿貫大介)

※ビデオリサーチ調べ、関東地区・世帯

PICK UP