ももクロの魅力を再確認、本広克行監督が改めて語る映画『幕が上がる』舞台裏

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――仲の良い演劇部の中に、転校生としてやってくる中西(杏果)と部長のさおり(夏菜子)の関係が深まっていく駅のシーンと、部員が演技力を磨くために、それぞれが一人芝居で家族を紹介する「肖像画」のシーンが印象的でした。

駅のシーンは、高校生のにぎやかな日常を描いている中にある本当に静かなシーンで、心の変わり目になるポイントです。しかも、二人の若い女優をあの難しいシーンに持ち込むのはとても大変でした。現場で二人と話していると、杏果ちゃんは子役からやってきただけに上手いんですよね。だから、直接的な演出じゃなくて意図を伝えるだけで彼女は反射してくれる。一方の夏菜子ちゃんはそういうのが一切わからないので、「どうやれば良いのですか?」と具体的な指示を必要としていました。そこで僕は「杏果ちゃんのお芝居を反射させてみて」「意識を分散だ!」と、またそこで伝えました。そうしたら、二人が高めあっていってすごく良いお芝居をしてくれた。“ミュージシャンの人はお芝居が上手い”と言われるのはこういうことなのでしょうね。このシーンは序盤に撮影したのですが、スタッフが「きっと良い映画になる」と手応えを感じた瞬間でもあり、そのスタッフの空気をメンバーが感じて、みんなが良い作品を作ろうという思いで一つにまとまったシーンでした。

「肖像画」のシーンは、高校演劇で実際にやっているところもあり、その高校の演劇の先生を取材して参考にさせていただきました。「肖像画」は、自分のことについて語るものなので、助監督とかみんなで、ももクロが出ている雑誌を読んで、家族のことを話しているところを探し出して、実際の彼女たちのことを書いた台本を作りました。そして、彼女たちにはこれまでに渡していた本編の台本にはない芝居として「肖像画」のシーンを説明しました。それに、演出部の中に演劇担当の女性がいて、彼女とももクロでやってもらい、あえて僕はあまり介在しないようにしたのです。役者さんは急に台本を渡されるとしびれるのですけど、みんなから緊張感が伝わってきたとても印象的なシーンです。

――吉岡先生(黒木)が部員に「肖像画」を見せるシーンも引き込まれました。

黒木さんは、そのシーンでクランクインしたのですが、やっぱり上手いですよね。とてもムードがあって、どこまでが芝居なのだろうというくらいのものを見せてくれました。それを目の当たりにして、ももクロたちは「ヤバイ! かなりちゃんとしなくちゃいけない」と思ったらしいです(笑)

――監督から見ても、ももクロにとって、黒木さんとの出会いは大きな出来事だったと思いますか?

すごく大きかったと思います。成長がグッと上がるというか、特に夏菜子ちゃんは、黒木さんと絡み始めてからニュアンスが出てきました。何かを言われたのか、何かきっかけがあったのかは全くわからないですが、黒木さんのお芝居を受けていると、ちゃんとキャッチボールが出来ているのですよ。映画の中では、最初はしょぼい演劇部なので芝居も下手で良くて、先生と出会うことで演劇部として芝居が上手くなっていき、それに呼応するようにももクロ自身の芝居も上手くなっていけば良いなと思っていたのですが、きれいにグラフを書いたように成長していったと思います。そこは裏演出としてもやりがいがありました。

――ということは、撮影の順序もかなりこだわったのではないでしょうか?

そうですね。なるべく順撮りに出来るように演出部のスケジュール担当とかなり相談しました。順撮りにすると予算をちょっと出てしまうけど、確信犯的にプロデューサーに掛け合ってもらいました(笑)でも、彼女たちがそんなに成長しているなら、日程はかかってしまうけど、なるべく順撮りできるようにしようと覚悟を決めてくれました。

それに、今回は映画のためにももクロのマネージャーさんが「真剣勝負でやりましょう」とスケジュールを空けてくれたんです。そのマネージャーさんは以前、安藤政信くんを担当されていて、「サトラレ」が同じような良い現場だったと感じてくださっていて、「ももクロにちゃんとした映画を任せるときは本広さんにお願いしたい」と言ってくれました。こうやって「みんなで大切なものを作ろう」という雰囲気の中で撮影できたことは本当に幸運だと思っています。

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