宮藤官九郎がオファーの際に重要視するのは企画、枠、人? 野木亜紀子のテーマの決め方は?:コタキ兄弟と四苦八苦

公開: 更新: テレ東プラス

「結局は人ですよね。誰とどんなことをやりたいのか」

宮藤「時間も迫ってるので最後、ひとつ質問をしていいですか? 答えるのが難しいと思うんですけど、テーマってどの段階で決めてますか?」

野木「企画自体のテーマと、1話1話のテーマ、両方ありますよね?」

宮藤「あります。えーっと、お題をもらう時に……例えば『コタキ兄弟』。兄弟もので、となった時にパッケージから入るのか、見せ方から入るのか」

野木「それぞれ違いますね。『アンナチュラル』(TBS系)なんかは、『女性が主人公の法医学もので』と言われて、調べてみると不条理なことっていっぱいあるんだなと思ったところから考え始めたんですけど」

宮藤「それだけのお題で、あんなに膨らませて書けるなんてすごいなー」

野木「今回の『コタキ』の場合は、まず兄弟ありきで、主人公があのおふたりで。なんとなく無職っぽいなと想像していって(笑)」

宮藤「(兄弟を演じる)古舘(寛治)さんと滝藤(賢一)さんのキャラクターから入ったんですね」

野木「そうですね。で、芳根京子さんが決まったところから、じゃあこの3人だったらどういう話がいいかなと考えて。宮藤さんはどっちですか?」

宮藤「僕も場合によりますけど『次は昼ドラです』と言われたら、それだけでワクワクしちゃうところがあって(笑)。だから、こういう取材で『どうしてこんなお話にしたんですか?』と聞かれたりすると困るんですよ。相手はきっとテーマを聞きたいんだろうけど、意外とテーマって最後に決まることが多いので」

野木「大体は書いてるうちに決まっていきますよね」

宮藤「特に僕は、書かないと見えてこないから。それをあたかも最初からあったフリをしなきゃいけない時があるから、申し訳ないなーって(笑)。放送が終わった後ならいいんですけど、書いてる途中だと自分でも分からない時があるので。

(NHK連続テレビ小説)『あまちゃん』をやった時も、東北の震災について描きたかったように思われちゃってて、まったくそうじゃないから『違うんです』と何度も訂正したんですよ。でも、後から監督に『このまま行くと、どうしても震災のエピソードは入って来ますよね』と言われて、あれ? そうか、最初から震災を描く前提で書いてたかも知れないな俺、って(笑)。途中で気がつくんです。最後の方まで書き上げないと分からないから」

kotaki_20200227_07.jpg第7話より。ごみに埋もれて動かないあかり(門脇麦)は面倒くさい病!?

──与えられたお題なりテーマがあって、そこに当て込んでいく方がやりやすいですか?

宮藤「例えばプロデューサーから……『木更津キャッツアイ』の場合は、磯山さんから『“主人公が死んでしまうお話”で、そうすると命がテーマになるよね』と言われたから、1回そこから逃げて、いつかそこに戻ればいいかなって思うからやれたんですけど。自分から『命がテーマです』って言うことは、まずないです。だから今後、そういうものも求められるようになった時どうしよう? しんどくならないかなって」

野木「でも『命がテーマ』と言われても、最終的にどういうテーマにするかは自分で決めていきますよね。じゃないと書けない」

宮藤「そうですね、きっかけだけで。最後に何を言いたかったのかは、自分です」

野木「途中で迷った時は、最初に(プロデューサーなりから)与えられたテーマに立ち返と、その方が上手くいく時もありますけどね。必ずどこかで道に迷うじゃないですか。そういう時に『ああ、そうだった』って」

宮藤「確かに。僕も最初『こういうドラマにしたい』と言われて、“それならできる”と思った時の気持ちは忘れないようにしようとは、いつも思っていて。ただ、それが上手く口で説明できるものではないので、これからはもっと上手くコーティングして、さも頭がよさそうなフリをして(笑)、言えるようになりたいですけど」

野木「相手にもよりますよね。プロデューサーもいろんなタイプの方がいるし」

宮藤「“企画を通す才能”がある人もいますしね。プロットを送って、できた企画書を見たら『わーっ上手!』って(笑)」

野木「(笑)」

宮藤「最初書きたかったのはプロットの方だったけど、こっちもいいな、みたいな気にさせられる。それって僕にはない才能なんですよ。大人の……僕も大概大人ですけど(笑)、大人の人を説得する才能がある人とか。すごいなーと思います」

野木「私も最後にひとつだけ。宮藤さんは仕事を受ける時に重要視するのは、企画ですか枠ですか、人ですか」

宮藤「企画とキャストの組み合わせで話がきた時に、“どうしてもやりたいかどうか”を考えて。あとは、キャスト以外に、それを持ってきた人がどんな人か。僕、人を見る目がないとよく言われるので偉そうなことは言えないですけど(笑)」

野木「そうですよね。人は大事ですよね。誰とどんなことをやりたいのか」

宮藤「見てくれる人もそうですけど、誰かが見てくれないとこの仕事は成り立たないので。今日はどうもありがとうございました」

野木「こちらこそ、お忙しい中どうもありがとうございました。これからどちらへ?」

宮藤「1時間後にTBSでラジオで生放送が。すみません」

野木「(笑)、しばらくは脚本家ひとつに絞れそうにないですね。では、またどこかで飲みましょう」

(取材・文/橋本達典)

【プロフィール】
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校8期。卒業後、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。一般企業勤務を経て、2010年「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を受賞後、脚本家デビュー。主な作品に映画『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、ドラマ『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)、『MIU404』(TBS系、4月より放送)などがある。2020年に映画『罪の声』が、2021年には『犬王』が公開予定。著書『獣になれない私たちシナリオブック』が発売中。

宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。2000年、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)の脚本で注目される。映画『GO』(2001年)、『謝罪の王様』(2013年)、『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』(2016年/監督兼任)、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS系)、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など代表作多数。4月より「ウーマンリブvol.14『もうがまんできない』」を上演。

2月28日(金)放送、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」第8話は?

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