「レーザーで目に映像を...」 未来のメガネが”見る”を変える!?

公開: 更新: テレ東プラス

ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)では、新企画「イノベンチャーズ列伝」がスタート! 社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。そこで、気になる第17回の放送をピックアップ。

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2018年11月、東京都内で開かれた視覚障害者向けの展示会「Sight World」。文字を大きく見せる拡大読書器など、視覚を補助する様々な機器が展示される中、ひときわ賑わう一角があった。衛星放送を手掛ける「スカパーJSAT」のブースだ。来場者が何やら、メガネのようなものをかけて体験していた。

innoben_20190128_01.jpeg※視覚障害者向けイベントの「スカパー」ブース。何を体験しているのか...

矯正視力が0.04という男性がそのメガネをかけると、みるみる笑顔に変わる。「はいはい、見えます!サッカーですかね」。別の男性も、やはり視力が悪いためテレビから遠ざかっていたというが、体験後には「予想以上に良かった。見やすい」と顔をほころばせる。このメガネをかけると、目の前に鮮明な映像が映し出されたのだという。

視力が弱った人たちを、次々と「映像が見えた」と驚かせる謎のメガネ。これを開発したのは、ある大企業出身の技術者が立ち上げたベンチャー企業だった。

川崎市に本社を構える「QDレーザ」。WBSの相内優香キャスターが訪ねると、出迎えたのはあのメガネをかけた3人の男性...。「これは何のメガネなんですか?」と尋ねる相内に、3人のうちの1人、菅原充QDレーザ社長はこう説明する。「レーザーで網膜に画像を焼き込む、新しいメガネを作っています」。

innoben_20190128_02.jpeg※ベンチャー企業「QDレーザ」本社。あのメガネをかけた男性たちが...

「レーザーで網膜に画像を...?」。一体どういうことなのか、さっそく試してみる相内キャスター。すると、メガネをかけたとたん「おおっ、あー!」と我を忘れて声を上げる。「私の右目に、スマートフォン画面の大きさの映像が、かなり鮮明に映し出されています!」。

innoben_20190128_03.jpeg※「おおっ、あー!」と、"素"で驚く相内キャスター。

相内がそこまで驚くのには理由がある。このメガネ、裏返してみても、どこにも映像が映し出される画面などがないのだ。従来のスマートグラスには、小さなディスプレーが付き物だったが、QDレーザのメガネは何が違うのか?「見えるのはレーザーの光の点だけです」(菅原社長)。

確かに、メガネを裏側から見ると、中央にレーザー光の点がある。その点をスマートフォンのカメラを通して見てみると...、なんと画面には映像が映し出された!

innoben_20190128_04.jpeg※QDレーザのメガネ。裏から見ると「光の点」だけが見える。これを...

innoben_20190128_05.jpeg※スマートフォンのカメラで見ると、なんと映像が!

実はこのメガネ、レーザー光を目の中の「網膜」に直接投影することで、映像を見せていたのだ。それならばと相内、コンタクトレンズを外してもう一度メガネをかけてみる。すると「コンタクトをつけていなくても、全く同じ映像が見えます!」。つまり視力に左右されず、同じ鮮明な映像を見ることができたのだ。「それが網膜投影です。網膜が健全であれば、同じ画像を見ることができます」と菅原社長。網膜に直接投影するため、瞳のピント調整機能がいらないのだという。

innoben_20190128_06.jpeg※レーザー光は水晶体を突き抜けて網膜へ直接、投影される。

こんなことを可能にする技術とは、一体どんなものなのか...。川崎市内の、ある大企業の工場敷地内の一角に、彼らの"コア技術"が隠されているという。

菅原「網膜投影のキーデバイスはあそこで作っています」。

相内「ん?」

意表を突かれた相内。菅原社長が指さしたのは、広大な敷地内にポツンとたたずむ「小屋」だった。この小さな建物に、どんな先端技術があるというのか?

innoben_20190128_07.jpeg※ある大企業の工場敷地内の一角にたたずむ"小屋"。ここに何が...

しかし中に入っていくと、すぐに仰々しい機械が目に飛び込んでくる。菅原社長によれば、「中は宇宙空間並みの"高真空"になっていて、そこに半導体の材料を吹き付けることで半導体レーザーの結晶を作っています」。半導体レーザーとは、レーザー光を出す部品のこと。その四角いチップは1辺1ミリにも満たない。「これには電極が付いていて、そこに電流を流すとレーザー光が出てきます」という。

innoben_20190128_08.jpeg※小さなチップ1つ1つが「半導体レーザー」と呼ばれる部品だ。

この半導体レーザーは、赤、青、緑の「光の3原色」を出すことができる。その3つの光を組み合わせることで、映像を作り出せるのだという。

菅原社長はかつて、富士通でこの技術の基礎となる研究に取り組んでいた。しかし2001年のITバブル崩壊を受け、富士通が事業化を断念してしまった。諦めきれなかった菅原氏は2006年、独立しQDレーザを設立。その後、緑色の光を出す半導体レーザーを安価に量産することに成功した。当時「半導体レーザー分野のインテルになりたい」と野望を口にしていた菅原氏は、あのメガネのもとになる、半導体レーザーを使った超小型プロジェクターの開発に取り組み始める。ところが...

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「目に映像を直接投射する」という、まるでSFのような世界を現実に近づけた菅原氏。視覚障害者向けの用途は見えてきたが、いま、この技術の「新たな生かし方」を模索している。

昨年12月、QDレーザの手嶋伸貴さんは、奈良先端科学技術大学院大学でAR(拡張現実)を研究する清川清教授を訪ねた。そこで開発されていたのは、「ARグラスをかけてバドミントンをプレーすると、シャトルが飛んでいく"未来の軌道"が見える」というシステムだ。

innoben_20190128_10.jpeg※バドミントンのシャトルの「未来の軌道」が、ARグラスで見える...

QDレーザの手嶋さんはこれを試すうち、あることに気づいた。「ピントの移動がある」。従来型のARグラスは、映像をグラスの画面に映し出すため、どうしても目のピントを「現実のモノ」と「グラスの映像」との間で移動させ続ける必要がある。しかし、QDレーザの技術なら、映像は網膜に直接投影するから、「現実のモノ」の方だけにピントを合わせればよくなる。つまり、従来より目に負担の少ないARグラスを実現できるかも知れない。

QDレーザーの技術をARに活用すれば、目の不自由な人だけでなく、より多くの人の役に立てることができるーー。菅原社長はそう考え始めている。「グーグルマップを網膜で見たり、料理しているところでレシピを見たり...。スマートフォンが登場した時のように、網膜投影でイノベーションを起こしたい」。

innoben_20190128_11.jpeg※QDレーザの菅原充社長。「スマホ登場時のようなイノベーションを起こしたい」

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