脱チケット収入依存 Jリーグクラブの独自戦略

公開: 更新: テレ東プラス

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清水エスパルスの山室晋也社長

コロナ禍で、プロスポーツチームは無観客や観客の入場制限の影響を受け、厳しい経営環境が続いています。特にサッカーJリーグはプロ野球に比べて試合数が少ないこともあり、2020年シーズンの入場料収入が前年に比べて6割の減少となりました。生き残りをかけ、チケット収入頼りの収益構造からの転換を目指す清水エスパルスの独自戦略を追いました。

静岡市を本拠地とするJ1の清水エスパルス。Jリーグの創設時から参加する名門チームです。しかし、スタジアムの収容人数が2万人ほどと元々少ないため、コロナ禍での入場制限がチームの収益に重くのしかかっています。

2年前からクラブ経営の舵取りを担うのが山室晋也社長です。2014年から6年間、プロ野球・千葉ロッテマリーンズの社長を務め、球団初の単体黒字、最多観客数を達成するなど経営手腕を発揮しました。みずほ銀行出身で、その経歴から「リアル半沢直樹」の異名を持つ山室社長。コロナ禍でチケット収入頼りのビジネスモデルから脱却すべく、力を入れるのがグッズ販売です。

「グッズは商品企画、在庫管理、プロモーションなどかなり専門的な知識が求められます。ただ、しっかりビジネスをやれば確実に利益が出てくる」(山室社長)

満員の観客を呼べない状況でも利益を確保するため手を組んだのが、アメリカに本社を置くスポーツグッズメーカー「ファナティクス」。サッカーや野球など世界で300以上のプロチームと契約し、年間3000億円規模の売り上げを誇る世界最大手です。

ロッテ時代からファナティクスと付き合いがあった山室社長。昨年12月、アジアのサッカーチームとして初めてパートナー契約を結びました。店舗の運営から新商品の企画開発までグッズ戦略全体をファナティクスに託します。

「小さなクラブの中のリソースではどうしても限界があります。世界的なノウハウがあるところと組むことで相乗効果がものすごく出る」(山室社長)

新たなグッズ戦略「ホットマーケット」

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試合終了直後から限定発売された「マンオブザマッチ」グッズのTシャツ

まず取り組んだのが、グッズショップの改革です。今年2月にリニューアルオープンした静岡市清水区にある「S-PULSE STORE」。収益が悪化していた5店舗を閉め、一つの店舗に集約しました。その分、売り場面積を広げ、毎週新商品を投入。さらにカジュアルウェアなどのジャンルを強化し、新たなファン層を開拓する狙いです。

改革は店舗の充実だけではありません。新たなグッズ戦略として「マンオブザマッチ」グッズを計画。エスパルスがホームゲームで勝利すると、その日最も活躍した選手のタオルやTシャツを、試合終了直後にECサイトで限定販売するというものです。

勝利の高揚感で購買意欲が高まっているファンに、その日しか買えない限定グッズを提案するのがファナティクス流です。

「我々は『ホットマーケット』と言っています。アメリカではこのビジネスがすごく大きなものになっていて、試合結果が決まってから48時間以内の時間軸の中で売り上げの6〜7割は取れます」(ファナティクス東アジア代表の川名正憲さん)

シーズン開幕から3ヵ月。肝心のホームゲームで勝てずにいましたが、5月26日にようやくホーム初勝利を収め、ついに温めていたホットマーケットが動き出します。

試合終了直後、スタジアム内の大型スクリーンでマンオブザマッチの企画を告知。選ばれたのはゴールを決め、守備でも無失点に貢献したブラジル人のヴァウド選手です。すぐさま、スタジアム内でユニフォームにヴァウド選手の背番号をプリント。スタジアム内ショップに特設コーナーを設置し、QRコードなどで限定グッズを販売するECサイトへ誘導します。

注文から実際に商品が届くまでのスピードもホットマーケットの鍵を握ります。千葉・流山市にあるファナティクスの倉庫では約100万点のグッズを保管していますが、実は工場の機能も持っており、早ければ試合の翌日にはここでグッズの生産を始められます。

受注から製造、発送まで全て自社で行うため、ファンの手元にグッズが届くのは最速で試合終了の2日後。チームが優勝したときや選手が記録達成した試合など、ことあるごとにホットマーケットが機能するといいます。

今回のマンオブザマッチグッズを購入したエスパルスファンは「(グッズに)日付も入っていて、試合のことが鮮明に思い出されて買ってよかった。試合に勝つと財布のひもが緩くなる。勝って終わりだけではなく、その先にこういった楽しみがあるのは本当に良いことだと思います」と話します。

清水エスパルスはファナティクスとの連携で、グッズの売り上げを現在の4億円から10億円程度まで伸ばす計画です。

「苦しい中でも攻めに転じることができたのは非常に意義深いと思っています。今のうちに芽を見つけて、スタジアムの来場制限がなくなったときに、打って出るだけのノウハウを蓄積したい」(山室社長)

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