珈琲王子の過去はプロの殺し屋だった...「珈琲いかがでしょう」主演・中村倫也の魅力が余すところなく味わえる後半の展開

公開: 更新: テレ東プラス

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珈琲いかがでしょう」(毎週月曜夜11時06分/テレビ東京系)で中村倫也が演じる青山一とはいったい何者なのか? コナリミサトによる原作漫画をまだ読んでいない人は、ドラマが始まってからずっとそう思っていたに違いない。おしゃれなキッチンカーで都心のオフィスビルから住宅地まで、いろんな場所に行っては移動カフェ"たこ珈琲"を開く男。それが青山の第一印象だ。きっちりめの白シャツにコーヒー豆の柄のネクタイを締め、その上にコーヒー色のエプロン。なぜか右手に手袋をしたままケトルを持ち、時間をかけて丁寧にドリップコーヒーを淹れる。原作のセリフにもあるようにその姿はまるで"王子"。上品な言葉遣いで女性に優しく話しかけ、にっこりとほほ笑む紳士という感じなのだが、一方では謎の金髪男・ぺい(磯村勇斗)が血眼になって青山を捜している。それはどうしてなのか。そんな疑問に、ついに第5話で答えが出た。
(※以下、5月3日(月・祝)放送 第5話までのネタバレあり)

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青山は第1話で知り合った不器用で真面目な会社員・垣根志麻(夏帆)と再会するが、同時に"ぺい"にも捕まってしまう。"ぺい"は垣根を人質にするようにして、キッチンカーに3人で乗り込み、垣根に青山の過去の仕事を「清掃業」だと語る。"ぺい"は暴力団の下っ端であり、5年前までは青山も"ぺい"と共に組織にとって不都合な人物を"掃除する"汚れ仕事を担っていた。今とは違う金色に染めた髪で返り血を浴びながらターゲットを殴り殺す青山。回想シーンで登場したその姿は、移動カフェの店主である今と同一人物とはとても思えない。これまで、青山が過去に「人を殺したことがある」のは伏線として張られていたが、それはひとりふたりを殺したというレベルではなく、プロの殺し屋だったのだ。

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珈琲王子からの落差がすごい。原作やアニメ版を見てきた人は既にインプット済みだが、改めてドラマの主人公として見ると、とんでもない闇属性の設定である。この4月クールのドラマは、少女漫画のようなラブコメディが多く、ヒロインのお相手は大企業社長の御曹司や豪邸に住む漫画家、堅実な自衛官といったところ。もうひとり同じようにキッチンカーで飲食業をしている男性キャラもいるが、怪しげなところはなく。そこに来て元ヤクザの殺し屋とは......。しかし、だからこそ、他にはないドラマティックな要素があり、青山が最終的にどうなるのか気になる。よくある主人公が闇落ちするパターンではなく、闇落ちしていた過去から逃げていたのに追いつかれてしまうのだ。これは恐ろしい。

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5月10日(月)放送の第6話「たこ珈琲」では、青山の人生が変わるきっかけになったホームレスのたこ(光石研)という男との過去が描かれる。人殺し稼業を請け負い、社会の底辺で生きていた青山にとって、たこが謎の豆を挽きハンドドリップで淹れてくれた珈琲は、コーヒーというものの概念を覆すほどにおいしかった。まるで「ウォーター」と衝撃を受けたヘレン・ケラーのように、青山は生きている喜びを知り、たこに弟子入りを懇願したのだ。その申し出を受け入れたたこは、ただ単純に「珈琲をおいしく淹れる」だけではない、青山自身に足りていない何かを気づかせるための修行を始めた。現在、青山が経営する"たこ珈琲"はこのたこという男から名前を取ったのだろうし、青山が各地を転々としている理由も彼と関係があるようだ。今後は、元殺し屋で現在はコーヒー屋という激しいギャップを埋めるストーリーが丁寧に描かれていく

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漫画やアニメではなく実写で青山の極端すぎる両面を同一人物として演じるのは相当、難易度が高いが、中村倫也は垣根やお客と話すときの柔らかい表情から、"ぺい"やかつての仲間(ガソリンスタンド店主・ゴンザなど)に対するときの厳しい表情への変化を自然に見せている。そして、そのどちらの顔も魅力的だ。

かつての青山は"ぺい"が言ったように、「常軌を逸したようなまっくろな目」で人を殺し「いろんなものが欠落」していて、それが同じ裏社会に生きる男たちからはかっこよくも見えた。クールで冷酷、闇で病み。中村はそんな青山の暗黒時代をリアルに、かつせつなさもにじませ演じている。青山が組を抜けるときリンチにあって「俺はただおいしいコーヒーを淹れたい。それだけです」と言ったときの表情も印象的だった。人は大切なものができたとき"まっくろな目"に光を宿す。そんな壮絶な過去を乗り越え、移動カフェのオーナーになり、かつて自分がたこという男に救ってもらったように、多くの人にコーヒーのおいしさを伝えている。そんな青山が愛おしくなる。

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今回、中村は「凪のお暇」に続いてのコナリミサト作品への出演。「凪のお暇」(TBS系)で演じたゴン役はコミックとは見た目が違うものの "メンヘラ製造機"という異名を持つゴンの魅力や危うさをうまく表現していた。「珈琲いかがでしょう」は、ドラマ化決定前から理想のキャスティングに挙げられていたとおり、まるで原作から抜け出してきたかのようなビジュアルでハマり役。原作を一文でまとめてしまうと、青山と名乗る周囲の人を惹きつけずにはおかない美しい男がいたという童話のような話になるのだが、常に冷静で人間らしい感情に欠けたような孤高の男を中村が演じると、より青山の優しさが前面に出て、安心して見ていられる。

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"ぺい"役の磯村勇斗も好演している。大河ドラマ「青天を衝け」(NHK)で演じる育ちの良い徳川将軍役も似合うが、近年、映画『ヤクザと家族 The Family』(2021年)では半グレの男、ドラマ「TWO WEEKS」(関西テレビ/フジテレビ系)では殺し屋を演じていて、こういった狂気を見せる役柄も上手い。ドラマオリジナルのエピソードである第5話の後半「初恋珈琲」で、"ぺい"のせつない過去が明かされ、青山に再会したときもさんざん脅かしながら結局は自分で自分の足を刺して去っており、"ぺい"の根っこは優しい人間で、いまだに青山を慕っているということも描かれた。

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中村と磯村のやり取りは、これまでたくさんの役柄を演じてきた2人だけに、変幻自在で緩急の付け方も上手く、見ごたえがある。青山と"ぺい"は追いかけてくる闇から逃れることができるのか。最終回までドキドキしながら見届けたい。

(文/小田慶子)

動画配信サービス「Paravi」では、第1話から最新話まで配信。さらにParaviオリジナルストーリー「珈琲"もう一杯"いかがでしょう」も公開中。

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「珈琲いかがでしょう」(毎週月曜夜11時06分)5月10日(月)放送の第6話は?

第6話
「たこ珈琲」
垣根志麻(夏帆)が淹れた珈琲を味わいながら、青山一(中村倫也)は珈琲の道に進むきっかけとなった、ホームレスのたこ(光石研)との出会い、そして青山が珈琲を淹れながら各地を巡っている本当の理由を打ち明ける。
たこの淹れた珈琲に魅了され弟子入りを懇願した若き青山。その申し出を受け入れたたこは、ただ単純に「珈琲を美味しく淹れる」だけではない、青山自身に足りていない何かを気づかせるための修行を始めるのであった。今まで自分が過ごしてきたヤクザな世界とは真反対な、穏やかな日常を過ごしたり、ちょっとしたシアワセに気づくような日々を送る青山。珈琲の腕前が上達していくのと比例するかのように、青山の中でも小さな変化が起き始めていた...。
とある雨の日、青山がいつものようにたこの家にいくと、そこには寝込んでいるたこの姿が。たこの淹れた珈琲を飲む青山は「いつか俺も誰かに美味しい珈琲を淹れることができるんだろうか」と問いかける。するとたこは青山に一番必要で大事なものが何なのかを語り始めるのだが...。
垣根を家まで送り、ぺい(磯村勇斗)から託されたメモを手掛かりに、本当の目的を果たすべく車を走らせる青山。最終地点に辿り着いたと思ったその時...。

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