ジェーン・スー「愛憎の浄化のさせ方は人それぞれ。書くことがいい人もいれば、セラピストに話を聞いてもらう方がいい人もいる」:生きるとか死ぬとか父親とか

公開: 更新: テレ東プラス

4月からスタートしたドラマ24「生きるとか死ぬとか父親とか」(毎週金曜深夜0時12分)。
"独身のカリスマ"と呼ばれ、作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティとして活動するジェーン・スーさんが、その半生や父親との関係について綴った同名エッセイ(新潮社)をドラマ化。スーさんをモデルにした主人公・蒲原トキコを吉田羊さんが演じています。トキコは20年前に母を亡くし、今では父・哲也(國村隼)がたった一人の肉親。40代半ばの娘と70代の父が改めて向き合い、交流を重ねる様を描きます。

「テレ東プラス」は、原作者のジェーン・スーさんを取材。インタビューを前後編に渡ってお届けします(※前編はコチラ!)。

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これまで抱いていた父に対する恨みやつらみ、愛憎まみれる感じはずいぶん整理がつきました

――原作では、スーさんがお父様に取材をし、若かりし頃からお母様との出会い、結婚生活、商売の成功と失敗までを振り返っています。取材している間、スーさんの中で"親孝行をしている"という気持ちもあったのでしょうか。

「そういう気持ちはありませんでした。親孝行になったかどうかは父に聞いてみないとわかりませんし...。私は父の人生を切り貼りして面白おかしく書き、それを原稿料に換えているわけで、むしろひどい娘なのでは? と(笑)。一応そのお金が、父の住むマンションの家賃になってはいますが、親孝行しているとか父が喜んでくれるとか、そういうことを期待してはダメだと思っています。そもそもこうして父に取材をしたのも、それまで普通の親子関係が築けていなかったからですし...」

――それでは、お父様について改めて書くという行為は、スーさんの中で何か良い作用をもたらしたのでしょうか。

「そうですね。これまで抱いていた父に対する恨みやつらみ、愛憎まみれる感じはずいぶん整理がつきました。父も自由に書かせてくれて、『あれを書くな、これを書くな』と言われることは一切なかった。出した本も読んでいないぐらいで、それはむしろ感謝しています。"家族にひびが入るようなことを書くわけはないだろう"という信頼があってのことなので、そのような信頼関係が私たちの間にあることを確認できたのが、この本を書いた功績と言えるかもしれません。ただ、愛憎の浄化のさせ方は人それぞれなので、私のように書くことがいい人もいるでしょうし、例えばセラピストに話を聞いてもらうとか、他にもいろいろ方法はあると思います」

ikirutoka_20210415_02.jpg▲第2話より

――第1話では、ラジオ番組でトキコが不倫している女性から相談を受け、熱く語るシーンが印象的でした。ラストに「私はまだ父を許せていないのだ」というセリフもありましたが、原作でもお父さんに女性の影があったことへのわだかまりを正直に書いていらっしゃいます。

「私と父の関係は一般的ではないだけで、仲が悪いわけではなく、お互いに愛情もありますし、何が困ったことがあれば頼りにする...そういう仲ですが、女性関係の過去を許せるかと言ったら、許容はできないですよね。それはそれ、これはこれ。父の人生なので好きにすればいいですけど、私が家族の構成員として嫌な思いをしていたというのは変わりない。それでも私が父に向き合っているのは、そうしないと将来後悔が残りそうで、それは嫌だという保身なんです。だから父のケアをしているというのが多分にあるので、そういう意味では処世のテクニックでもある」

――原作の初版は2018年ですが、約3年が経過した今、お父様は日々をどのように過ごしていらっしゃいますか。

「元気ですよ。ここ1年ほどは新型コロナの感染リスクがあるのでなかなか会えず、月1回ほどしか顔を見ることができませんが...。コロナ禍なので、『健康のために運動してくれ』とか『外で歩いてくれ』とかあまり言えないじゃないですか。それは困ってはいますが、一応父にスマホで朝夕のご飯の写真を撮って送ってもらい、食生活についてのアドバイスだけはしています」

――この3年で親子関係に変化はあったのでしょうか。

「加齢ですね。ふたりとも年を取りました。そうなると、お互い詰め将棋のようなことをしなくなります。父がまた同じことを話しているなと思っても、『はいはい』と流せるようになりました。『生きるとか死ぬとか父親とか』を連載していた時点では、もっとイライラしていましたね。おかげで穏やかな関係になり、今は平和です」

――スーさんのように平和になる前段階で、親の老いが許せず、接する時についついきつくあたってしまうという葛藤を抱えている人は多いと思います。

「私も連載当時はそうなりがちで、いちいち反省していました。"どうしてきつくあたってしまうんだろう"と...。子どもが1対1で親と向き合うと、ついケンカしてしまうので、第三者に入ってもらえばよかったと思いました。介護が視野に入る段階ならば、早めに地域包括支援センターに電話して、ケアマネージャーさんに相談するという手もありますしね」

――「親子って嫌でもどうしても似てしまう」と本の中でも書かれていましたが、お父様とスーさんはどんなところが似ているのでしょう。

「人としてちゃんとしていないところ(笑)。わがままというか、私も父も人がたくさん集まる場に行くと、すぐ帰りたくなっちゃうんです。友だちと2、3人ぐらいまでならいいけど、5人以上だとちょっと...。今のご時世、パーティーみたいなものはありませんが、友だちとリモートで話していても、知らない間に私が寝てしまって、目が覚めたら終わっていたとか、そういうマイペースなところは父にもあったなと。自分の欲望を優先せずにはいられない...それはもうあきらめですね。しょうがないと思っています」

――第2話では、亡き母の妹、トキコの叔母(松金よね子)のエピソードが描かれます。原作でも生涯独身で通した叔母さんの最期の日々が印象的でした。

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「叔母は人生を堪能しつくしたと思います。華道の先生で老後の資金もあって、介護施設の費用を自分で出し、墓や葬式の手配までしていきましたから。同じ独身でも、私は正直"そこまでのお金は貯められないな"と思ってヒヤヒヤしています。ただ、他人の真似をしたいわけではなく、その人はその人で立派、私は私の人生で自分らしい着地点を見つけるだろうと思っています。何事も正解不正解というのはなくて、親子関係にも正解はないですよね。生涯結婚しなかったけれど、叔母は幸せだったという死に際が描かれるので、ひとりの女性の生き方として観ていただきたいですね」

【ジェーン・スー プロフィール】
1973年、東京都出身。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。「ジェーン・スー生活は踊る」(毎週月~木曜午前11時 TBSラジオ)に出演中。「貴様いつまで女子でいるつもりだ問題」(幻冬舎)で講談社エッセイ賞を受賞。著書に「私たちがプロポーズされないのには、101の理由があってだな」(ポプラ社)、「女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。」(文藝春秋)、「今夜もカネで解決だ」(朝日新聞出版)、「これでもいいのだ」(中央公論新社)、「女のお悩み動物園」(小学館)など。コミック原作に「未中年~四十路から先、思い描いたことがなかったもので。~」(漫画:ナナトエリ、バンチコミックス)がある。

(取材・文/小田慶子)

そして4月16日(金)深夜0時12分放送! 第2話のあらすじは...。

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ある日、父(國村隼)からの提案で叔母(松金よね子)のお見舞いに行くことになったトキコ(吉田羊)。華道の師範としてバリバリと働き、独身を貫いた叔母は自分で用意したケアハウスに入居した。「外の空気が吸いたい」という願いをかなえるため、トキコはスーパーでの買い物に付き合う。自力で動けない叔母のため久しぶりの外出を精一杯楽しく演出するトキコ。しかしスーパーから戻ると叔母の部屋には見知らぬ女の姿があり...。

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