「和太鼓」への愛が紡いだ絆と縁が人生を変えた! 内気なオーストラリア人女子高生が挑む新たな夢:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は「ニッポンにご招待したら人生が変わっちゃった!感謝のビデオレターが届いちゃいましたSP」をお届けします。

おとなしい女子高生が和太鼓にハマった理由

紹介するのは、昨年ご招待した桶胴(おけどう)太鼓を愛するオーストラリアの高校生・ジェーンさん。

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初めて出会ったのは今からおよそ1年半前。ジェーンさんは築40年のお家にお母さんのバーグさんと2人で暮らし。週3回、日本人が運営する「和太鼓りんどう太鼓教室」に6年前から通っています。

最初はお母さんが和太鼓に興味を持ち、近所に教室を見つけたそう。もともと音楽好きでドラムをやっていたジェーンさんもお母さんが通う和太鼓教室に付いて行ったところ、その音と響きに感動し、すっかりハマってしまったといいます。

和太鼓には大きく分けて長胴太鼓、桶胴太鼓、附締(つけしめ)太鼓の3種類があります。

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長胴太鼓は大きな欅(けやき)の木などをくり抜いて作るのに対して、桶胴太鼓は細長い板を貼り合わせて作るため、他の太鼓に比べて軽く、肩から担いで叩くことができます。踊りながら太鼓を叩いて舞う「鹿踊(ししおどり)」など、さまざまな行事で古くから親しまれてきました。

「桶胴太鼓は担いで叩けるので、音色だけでなく、さまざまな表現ができるのが魅力なんです」と話すジェーンさんですが、通っている和太鼓教室には桶胴太鼓を専門に教えられる先生がおらず、習うことができません。夢はニッポンで桶胴太鼓の打法を教わって、和太鼓の持つ表現力を学ぶこと。

じつはジェーンさんが2歳の頃、ご両親は離婚。ひとり親家庭でギリギリの生活の中、1万円以上の月謝を払って和太鼓教室に通うのにはある理由がありました。

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「ひとり親だったせいもあって少し塞ぎがちだったジェーンでしたが、和太鼓と出会って、楽しそうな顔を見せるようになったんです。ニッポンに行く夢を叶えてあげたいのですが、今の生活では厳しくて...」と、お母さんのバーグさんが理由を教えてくださいました。そんなジェーンをニッポンへご招待!

念願のニッポンへ。和太鼓部の名門校で部活と"たこパ"を初体験!

お母さんと一緒に念願の初来日! さっそく向かったのは、大阪府高槻市にある大阪府立芥川高等学校。

創部26年の和太鼓部は、文化部の甲子園といわれる「全国高等学校総合文化祭」に16回出場。日本一に輝いたこともある名門で、元アメリカ合衆国大統領夫人のミシェル・オバマさんが来日した際にも演奏を披露しました。「プロを超えるアマチュアたれ」を合言葉に、年間60回以上の公演を行っています。ジェーンさんの"桶胴太鼓を本気で学びたい"という熱意を伝えたところ、快く受け入れてくださいました。

「同世代の子の練習を見られるなんて嬉しい!」と興奮ぎみのジェーンさんを創部以来26年間、日本一の和太鼓部を指導してきた名誉顧問の山下勉先生が笑顔で出迎えてくださいました。

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和太鼓部の練習場へ向かうと、1年生と2年生合わせて46名の部員の皆さんから温かい拍手が上がります。「じゃあ『FESTA』をやるから演奏隊形に」と山下先生が号令をかけると、さっそくジェーンさんの目の前で圧巻の演奏を披露してくださいました。

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祭りをテーマに生きる喜びを表現する楽曲「FESTA」。その演奏の中心を、桶胴太鼓が担います。重厚な長胴太鼓の音が響きわたるなか、軽やかに舞う桶胴太鼓が祭りの楽しさや華やかさを表現。

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「すごいエネルギーを感じて、ビックリしました。本当に素晴らしいです!」と、感激するジェーンさん。お母さんも「素晴らしかったです。これが私たちのためだけの演奏だなんてもったいないです」と拍手を送ります。

すると山下先生が、「ジェーンさんとお母さんにも入ってもらって、我々が見せてもらえるような曲はありますか?」とリクエスト。今度は2人が曲を披露することになりました。

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息の合った2人の演奏に、山下先生からは「素晴らしい! あなたは勉強するよりも私たちに教えてください」と、お褒めの言葉が! 「これは何というタイトルの曲なんですか?」との問いに、「『ダンショウ』です」と答えるジェーンさん。さらに「どういう意味なんですか?」と尋ねられると、ジェーンさんもお母さんも肩をすくめて黙ってしまいました。和太鼓教室で習った「断章」という曲、ジェーンさんは曲の意味までは考えたことがなかったそう。

山下先生は「私たちは曲の意味、何をテーマにしているかということをすごく大切にしていて、この曲はこういう意味なんだっていうのを演奏者がわかっていると(聴く人に)しっかり伝わる」と、演奏者として大切なことを教えてくださいました。

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太鼓は音階や旋律のない楽器。だからこそ叩き方だけでなく、表情や全身を使って曲の意味を表現しなければ聴き手の心に伝わらないのだそうです。

いよいよ念願だった桶胴太鼓の練習へ。

一緒に練習するのは、桶胴太鼓パートの1年生の皆さん。入部してから3カ月間は、和太鼓を叩くための筋トレが中心だそうで、皆さんも桶胴太鼓の練習を始めてからまだ半年ほど。まずは基本的なリズムを打つ練習から始めます。口頭でリズムを確認してから、実際に叩いていきます。

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桶胴太鼓はほぼ我流のジェーンさん、意外と様(さま)になっているように見えますが...。山下先生はあっさり一言「不合格」。その理由は、強弱のアクセントがついていなかったため。「強弱つけなかったら、全然楽しくならない」と山下先生。コーチの中塚さんにお手本を見せていただいたところ、たしかにしっかり強弱がついていて豊かな表現になっています。

強弱をつけることでメロディーのような抑揚が生まれる桶胴太鼓。さらに手首のスナップをきかせて叩くことで、太鼓の表面だけでなく胴の中で振動する、より響く音になることも教えていただきました。練習すること約1時間、最初と比べると音色に抑揚が出てきたことがわかります。山下先生からも「すごく良くなった」とお褒めの言葉をいただき、この日の部活は終了。

音声翻訳機を使ってすっかり打ち解けたジェーンさんと部員の皆さん。仲良くなった小西風(ふうい)さんのお宅に桶胴太鼓パートのメンバーと一緒にお邪魔させてもらうことになりました。ハグで大歓迎してくれた風さんのお母さんが準備してくださったのは、大阪名物たこ焼き! 初めてのこたつとたこ焼きにジェーンさんもお母さんのバーグさんも感動しきり!

タコ以外にもウインナーやコンニャクなど9種類の具材が用意されており、たこ焼きパーティーが始まりました。「日本人はみんなこの機械を持っているんですか?」と尋ねるジェーンさんに、「大阪には一家に1台あるやんな?」と、風さん。「あるある!」と全員が同意すると、「うちも買わないと!」というジェーンさんにみんなで爆笑。初めてのたこ焼きに挑戦すると...。

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初めてとは思えない竹串さばきでくるりとたこ焼きを返すことに成功。「ジェーンうまい! プロフェッショナル」などの声もあがり、パーティーは大盛り上がり! 味も「グッド!」とのことで、ジェーンさんもお母さんのバーグさんもたこ焼きをすっかり気に入った様子でした。

ジェーンさんが部員の皆さんに和太鼓部に入ったきっかけを聞くと、「先輩の演奏を見て、したいと思ったからです」との返事が。「一緒やな、絶対みんなそれ」と他の皆さんも賛同します。さらに「高校生でここまでできるんや、みたいな」、「やってるときに服が小刻みにグワーって揺れとった」、「お尻がガタガタガタって。なんかきてる振動! みたいな」と、それぞれ先輩方の演奏に感銘を受けて入部を決めたといいます。

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ジェーンさんも「私も初めて和太鼓教室へ見学に行ったとき、体に直接伝わる振動にビックリしました」と、皆さんの話に同意します。その後は女子高生らしく、ジェーンさんのイケメンのボーイフレンドの写真を見たりと、ガールズトークがさく裂! 話が尽きず、小西家に部員の皆さんと泊めていただけることになりました。

世界でも有名な老舗和太鼓店で太鼓作りを体験。1年後にサプライズが!

翌日。練習前に山下先生から「日曜日、太鼓の練習場でコンサートをやります」とのお知らせがありました。ジェーンさんのために部内での発表会を企画してくださったのです。しかも...

「ジェーンも含めて『FESTA』を実際に演奏します。ジェーンはよしのに代わって、メインのポジションでやります」とのこと。なんとジェーンさん、腕前を見込まれ、桶胴太鼓のリーダー、2年生のよしのさんが担当しているセンターを任されることになったのです!

『FESTA』は、桶胴太鼓、長胴太鼓、笛、チャッパによる合奏曲。練習期間はわずか3日間。まずはパートごとに練習し、最後に全体で合わせていきます。

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「『FESTA』は全体を分けると11通りになるんですけど、1つずつ分けてリズムを覚えていきます」と、よしのさん。11パターンのリズムを、「手打ち」という楽譜を使わず、脚を手で叩く練習法で体にリズムを染み込ませていきます。

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「オーストラリアでは最初から太鼓を叩いて練習していました」と話すジェーンさん。手打ちは太鼓がなくても練習できるので、和太鼓部ではこの練習方法でリズムを覚えるそう。リズムを体に染み込ませたら、太鼓を担いでの練習。ジェーンさん、飲み込みが早く、初めての練習法でもすぐにリズムを覚えたようです。

「いい感じだね。じゃあ少し膝を使って、ノリながら打ってみる?」と山下先生。和太鼓の演奏には指揮者がいないため、太鼓のリズムだけでなく体の動きをそろえることで一体感が生まれるといいます。

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「桶が動くと体だけじゃなく、太鼓も踊っているからね。だからお客さんは楽しくなってくるよね」との山下先生の言葉に、ジェーンさんも大きくうなずきます。これこそ担いで叩ける桶胴太鼓ならではの演奏。リズムに合わせて太鼓も踊らせることで他の太鼓にはない表現力が生まれます。

3時間かけてひととおりのリズムを教わり、ジェーンさんも何とか動きにはついていけるようになりました。「すごいです。本当にすごいと思います」と驚くよしのさんですが、「全部覚えている自信はないです」と不安げなジェーンさん。それもそのはず、部員の皆さんは完璧に演奏できるまで3カ月はかかったそう。それを3日間で身につけようというのですからとんでもない挑戦です。「とっても濃い3日間になりそう。この曲が演奏できるようになれば、すごい成長だと思うわ」と、お母さんに話すジェーンさん。

練習を再開すると、山下先生はあることが気になります。「これ何回もあるやろ? これやるのは何でかというとね、お客さんはバチの動きをよく見てるから、このバチを上げると顔を見る」。

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曲の意味を表現するのに欠かせない表情。バチを上げるときには特に意識しなければならないのだと教えてくださいました。ジェーンさんも挑戦しますが、どうしてもリズムのほうに気を取られ、硬い表情になってしまいます。

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太鼓を叩いていないときは自然に出る笑顔も、演奏を始めるとなかなかうまくいきません。本番まで残りわずか。はたして笑顔で演奏することはできるのでしょうか?

そんなある日、部活の休みを利用してジェーンさん親子が向かったのは愛知県岡崎市にある「三浦太鼓店」。じつは来日の際、「『和太鼓りんどう』の先生が使っている三浦太鼓店の桶胴太鼓が素晴らしい音で、どんなふうに作られているのか見てみたいんです」と話していたのです。

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156年前、初代・三浦彌一(やいち)が創業し、現在は六代目彌市・三浦和也さんが作る和太鼓は、アメリカ、デンマーク、オーストラリアなど世界各国から注文が来るほどの名品。2019年に行われた「ラグビーワールドカップ2019日本大会」の入場式にも使用されました。じつはジェーンさん親子が通う「和太鼓りんどう」の坂本先生の還暦祝いに、生徒たちで三浦太鼓店の桶胴太鼓をプレゼントしたのだそう。

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値段は、標準的なタイプで約15万円ほど。ジェーンさんたちにはとても手の届かない値段です。「叩いてみる?」と三浦さんに促され、新品の桶胴太鼓を叩かせていただくことに。担いでみた感想は「とても軽いです」。「桶胴太鼓は担いで使う楽器なのでできるだけ軽く作っています」と三浦さん。お母さんのバーグさんが「『FESTA』を演奏して!」とお願いすると、「えーっ!」と、照れながらも冒頭部分を演奏します。

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「とても良い音ですね! 音は高いんだけど高すぎなくて」とジェーンさんが言うと、お母さんのバーグさんも「明るい音だけど耳障りじゃない。とにかく心に響きました」と感想を伝えます。「お2人が言ってくれたとおりで、良い音っていうのは心に響きます」と、三浦さん。

心に響く桶胴太鼓の音...。いったいどのように作られているのでしょうか? その要となる桶作りの工程を見せていただきます。密度が高く、音の反響が良い秋田杉の板をタガと呼ばれる竹を使って1枚1枚組み合わせて桶を成形していきます。「これを外してみてください」と、三浦さんが2人に渡したのは、小ぶりの桶。すると...

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「わー!」。桶のタガが外れ、板がバラバラに散らばってしまいました。使われているのは杉の木と竹のみ。何十枚もの板をこのタガだけで束ねているので、タガを外すとバラバラになってしまうのです。ちなみに「秩序が失われること」を意味する"タガが外れる"とは、この状態を表したもの。

「なんで接着剤を使って留めないんですか?」というジェーンさんの質問に、「接着剤は板と板の間で音を吸収してしまう」と三浦さん。良い音を出すために接着剤は使用しないのです。桶胴太鼓の音は牛の皮でできた打面を叩くと桶の中で反響し、増幅。それが反対の面を震わせ、より大きな音色になるのです。

桶の形にも良い音を出す秘密がありました。板の両端の側面を削り、カーブを作って太鼓に膨らみを持たせることで内部の体積が大きくなり、反響する音に深みが生まれるのだそう。

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ジェーンさんも板を削る作業に挑戦させてもらいました。すべての板が削れたら「仮輪」と呼ばれる鉄製の輪に板を並べ、徐々に輪を狭め、絞り上げるようにしていきます。仮輪を竹でできたタガに付け替えると...

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桶胴太鼓の胴が完成しました! ここに塗装を施し、牛の皮でできた打面をつければ完成です。できあがるのは約1カ月後。

「三浦さんの太鼓にかける情熱に感銘を受けました」とお母さんのバーグさんが言うと、三浦さんから「ここから先は僕たちが預かってきれいにしてプレゼントしようかなと思っています」とのお言葉が! 思いがけないサプライズにジェーンさんは「え...本当ですか?」と信じられない様子。嬉しさのあまり大粒の涙がこぼれます。

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「次回はオーストラリアで会いたいと思っています」という三浦さんに、「ぜひ来てください!」と、感無量のジェーンさん。

あれから1年。番組スタッフが三浦太鼓店を訪れ、「ジェーンさんにやっと太鼓を届けてまいりました」と報告すると、「とうとう無事に!」と三浦さんも喜んでくださいました。

じつは、新型コロナウイルス感染症の影響で、オーストラリアへの太鼓の輸送に厳しい制限がかかってしまい、今まで太鼓をジェーンさんに届けることができなかったのです。1年近く経ってようやくジェーンさんに桶胴太鼓を届けたときの様子を三浦さんに見ていただきました。

今年1月、向かったのはジェーンさんが通う「和太鼓りんどう太鼓教室」。

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いつものように元気に練習していたジェーンさんは突然のサプライズにビックリ! さっそく心待ちにしていた三浦さんの桶胴太鼓を箱から出して担ぎます。

和太鼓教室の生徒さんたちからも拍手と歓声が起こり、「カッコいいね!」、「めっちゃうらやましいわ」と声が上がります。「なんでこのデザインを選んだの?」との質問に、「日本とオーストラリアの融合を表現しているの! 私の下手な説明を三浦さんのセンスでカッコよくしてくれたの」と答えるジェーンさん。

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胴体に描かれたのはオーストラリアを代表する「ピンクガムツリー」の花。

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さらに、専用のケースと肩掛け紐にはニッポンの桜が描かれています。

「これで日本とオーストラリアがつながった印象ですよね」と、三浦さん。

さっそく叩いてみると、その響きに「素晴らしいとしか言えない。今は嬉しさのあまりまったく言葉が見つからないです。これで練習したら間違いなくうまくなると思います。脚に当たっても全然痛くないし、何よりも可愛い! トシ先生の太鼓を悪く言う気はないけど、正直、私の太鼓のほうがイケてると思います」と、終始満面の笑み。

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そしてジェーンさんから感謝のメッセージが。

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「三浦さん本当にありがとうございました。三浦さんが太鼓への情熱を共有してくれたことで、多くのことを学ぶことができました。この太鼓は本当に素晴らしい私の宝です。この太鼓のことで困ったことが起きたらニッポンに行きますから直してくださいね! でもこれは宝物ですから大事にしますよ!」。

この言葉を聞いた三浦さんも、「嬉しいですね、本当にこうやって海を越えて自分たちの太鼓の音色が響いているっていうのが。すごく嬉しい反面、不思議な感覚というか」と新たにつながった縁に喜んでくださいました。

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三浦さん本当にありがとうございました!

演奏会当日。課題をクリアできないジェーンさんのために部員たちが奮起!

そして、再び話は1年前の芥川高校に戻ります。

発表会まで残すところあと1日。部活までの時間も、「手打ち」練習を続けるジェーンさん。うまくできそうか尋ねると、「そうなるといいんですが。まだ確実じゃないところがたくさんあって...」と、やや不安そう。ジェーンさんが担当するのは桶胴太鼓のセンター。全体のリズムをリードしなければいけないポジションなのでミスは許されません。

この日は、前回覚えた演奏の復習からスタートしますが、手打ち練習では覚えていた動きが、実際に太鼓を担ぐと、飛んでしまうようです。ジェーンさんがミスをすると、全員の演奏も止まってしまいます。山下先生から「ジェーンが間違ってストップしたら曲は止まるからね。絶対にストップしたらダメね。間違っても」と厳しい指導が入ります。その後も、笑顔を意識すると演奏が飛び、演奏に集中すると硬い表情になってしまい、センターの役目を果たせないジェーンさん。

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ところがそんなジェーンさんに、よしのさんがかけた言葉は「ジェーン、ベリーグッド」。誰もジェーンさんのミスを指摘しません。部活終了後、山下先生がジェーンさん以外のメンバーを集めました。

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山下先生:「明日本番があるやんか。ジェーンは完璧にやれると思う?」
部員:「いや、まだ完璧には...」
部員:「完璧にするのは私でも難しいので...。無理って言ったらダメなんですけど、少し難しいかなと思います」
山下先生:「ほんまにそれでジェーンは満足して帰るか? (いつまでも)ゲスト扱いでは私はアカンと思う。ジェーンはめっちゃこっち向かってきてると思うで。勝負してると思う」
部員:「私たち教えている側より一生懸命やっている。やっぱりそれは感じます」

...皆さん、ジェーンさんの努力を知っているからこそ、それ以上は求められなかったのです。

山下先生は「部員として何かを感じて帰ってもらわないと。ゲストとして帰ってもらったらアカン。これが和太鼓部のやり方なんや!」と部員の皆さんに投げかけます。

最終日。本番は夕方4時からですが、練習場には朝早くから桶胴太鼓のメンバーが集結していました。

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「今日早く集まってもらったのには理由があって。今日の演奏会は絶対に成功させたい。ジェーンに失敗してほしくないなって。間違えたら後悔すると思うので。私たちはジェーンに絶対後悔してほしくないので、完璧な演奏するために本番までみっちり練習していきたいなと思っています」と、よしのさん。体験しに来たお客さんではなく、同じ部員として、完璧を目指してもらう...。桶胴太鼓のメンバー全員で話し合ってそう決めたのです。しかし、そこに山下先生の姿はありません。

「言うこと言うたらあとはもう生徒に任せているので。生徒信じて任すしかない」。長年指導してきた山下先生らしいお言葉です。

指揮者も楽譜もない和太鼓演奏。全員が心を合わせ信頼し合うことで、初めて1つのメロディが生まれます。ジェーンさん、動きはそろうようになったものの、課題にしている表情がなかなか追いつきません。

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「楽しんでやっています。でも次の動きのことを考えて集中すると真剣な顔になってしまいます」。3カ月分の練習を3日で仕上げるのですから当然といえば当然です。「みんなの顔見てたら笑顔で見てくれるので、そしたらつられて笑顔になります」と、風さん。他の桶胴太鼓のメンバーも、笑顔になれるアイデアをいろいろ提案してくれました。

迎えた本番。演奏直前に全員で円陣を組み、心をひとつにします。

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演奏が始まると、課題だった表情もクリア!

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桶胴太鼓の見せ場でも、ジェーンさんは見事センターで全体を引っ張っていくことができました。最後は自信に満ちたこの表情!

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山下先生からも「素晴らしいです。今日を含めて4日しか練習していないんですけど、絶対やってやるぞっていう気持ちが伝わってきました。本当に感動的な演奏でした」と嬉しい言葉をいただくことができました。

「私が学んだのは曲の背景や込められている感情を考えて、それをお客さんにどうやって伝えるか?ということです。それを表現するには仲間の存在がなければ何もできません。みんなが『もっと笑顔で』『すごい』といつも声をかけてくれたから最後まで演奏できたんです」と、ジェーンさんは技術だけでなく、仲間の大切さも学んだようです。

4日間、時間を共にした皆さんとも別れのとき。和太鼓部46名全員のメッセージが入った寄せ書きと、部員だけに配られる特別な帽子、さらに、山下先生の奥様手作りの桶胴太鼓の肩掛け紐をプレゼントしていただきました。

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ジェーンさんも感謝の手紙を読み上げます。

「芥川高校和太鼓部の皆さん、本当にありがとうございました。皆さんのことをまるでずっと昔からの友達のように感じます。私は皆さんに単なる技術だけでなく、和太鼓の本当の価値を教わった気がします。私が『FESTA』を覚えられるように一生懸命教えてくれたことを忘れません。そしてオーストラリアに戻っても笑顔で桶胴太鼓を演奏することを忘れません。和太鼓を一緒に演奏できる信頼しあえる仲間ができたことが私には何より嬉しいです。いつかオーストラリアで会える日を楽しみにしています」。和太鼓部の皆さんから拍手が上がり、最後はハグと涙の嵐になりました。

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あれから1年。ジェーンさんからのビデオレターを芥川高校和太鼓部の皆さんの元へ。

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1年でどんな変化があったか聞いてみると、風さんは、去年よしのさんが担当していた桶胴太鼓のパートリーダーになっていました!よしのさんは今年の3月に卒業し、今は看護の専門学校に通っているそう。ジェーンさんのビデオレターを観るために駆けつけてくれました。

「山下先生、よしの、うらら、ふうい、そして和太鼓部の皆さん、ジェーンです!」と、ビデオレターが始まると、皆さん笑顔で画面に向かって手を振ります。

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「『FESTA』の演奏はとても楽しかったのですが、私にとっては大きなチャレンジでした。3日間という短い期間で本番に臨んだ自分を褒めたいです」とジェーンさん。

お母さんのバーグさんいわく、ジェーンさんは帰国後、自信を持ってさまざまなことにチャレンジするようになったのだそう。

山下先生はジェーンさんを見て、「すごく落ち着いているし、自信を持てているみたい。前来たときとは本当に違う素晴らしい女性になりつつある、という感じがしますよね」と感慨深そう。

また、ジェーンさんは多くの人が番組を観たことに驚いたのだとか。「和太鼓りんどうのみんなも観てくれて、先生も教室が終わったら私のところに来て、『放送観たよ! すごく良かった!』って。ちょっと不思議な気分でした。番組を観て泣いてしまったという人もいたんです」。

ジェーンさんの部屋にはいつも見えるよう勉強机の横に和太鼓部の皆さんからの寄せ書きが飾ってあり、和太鼓部の帽子もよく被っているそうです。山下先生からいただいた肩掛け紐もいつも使っているとのこと。

さらに、新型コロナウイルスによる自粛期間中、和太鼓部のある動画に元気をもらったというジェーンさん。それは和太鼓部の皆さんが、コロナと闘う人たちに感謝の気持ちを伝えるために動画サイトに公開したもの。

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「まさか観てくれているとは思ってなかったです」と、驚く和太鼓部の皆さん。ビデオレターの続きには驚きの光景が!

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なんとジェーンさんのお家で"たこパ"をしている様子が映っていました!

「風さんの家でたこ焼きを作ったのはとても楽しかったです。桶胴太鼓のメンバーも一緒で素晴らしい時間でした。私たちも家で作っています」とジェーンさん。帰国後、たこ焼き器を買い、友人たちとたこ焼きパーティーをやっているのだそう。具材はニッポンで食べたときと同じ、ネギにチーズ、エビに揚げ玉、コーン、タコ。

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そして、現在も通っている「和太鼓りんどう太鼓教室」で帰国後のジェーンさんの変化について聞いてみると、「今まで後ろのほうでおとなしく、人の影で叩いてたんですけど、すごい積極的に前に出て叩くようになったし、質問なんかもどんどんしてきますね。あとは練習の量がだいぶ増えてきたので、自信が出てきたのかな。人に教えることもどんどんやるようになりましたね」と、坂本先生。

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今年2月に無観客で行われた「メルボルン日本夏祭り」で「和太鼓りんどう」がオープニングアクトを務めた際には、ジェーンさんが桶胴太鼓のセンターを任されたのだそう。

「この話もらったときからもう1年経つんやなんてすごい。でもまた会いたいなって思って」と、ビデオレターを観終わって話す風さんに、「せっかくなのでちょっとネット上ですけど会ってみますか?」と、スタッフが伝えると、「え?会えるんですか!?」と、皆さん大喜び。

というわけで、遠く離れた絆を中継で結んじゃいました! インターネットを通じて1年ぶりの再会!

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「みんなに会えてとっても嬉しいです」と話すジェーンさんに「ミートゥー! ミートゥー!」と、うららさん。まず話題にあがったのはイケメンのボーイフレンドのこと。当時のカレとは別れてしまったのだそう。そして先ほどのたこ焼きパーティーにいたのが新しいボーイフレンドとのこと!

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「今の人もカッコいい」と、うらやましそうな風さん。

「ちょっと恥ずかしいんですけど、最近の演奏動画があるので観てもらえますか?」と、ジェーンさんが皆さんのために演奏したという動画を観せてくれました。

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演奏だけでなく、その表情にも大きな成長が見られ、「めっちゃスゴい」、「むっちゃ笑顔が良かった」と口々に驚きの声があがりました。山下先生からも、「学んだことをしっかりと演奏に取り入れていて、本当にセンターにふさわしい演奏だと思います」とお褒めの言葉をいただきました。それを聞いて本当に嬉しそうなジェーンさんは、「ありがとうございます。褒めていただけて嬉しいです。まだセンターにふさわしいか自分ではわからないけど、これからに期待してください!」と返します。

そして、卒業したばかりのよしのさんからの「将来何をしたいとかありますか?」との質問には、「私は警察官になりたくて、3月から学校に通っているんです」との答えが。

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「めちゃカッコいいな! 次は私たちがジェーンのいるオーストラリアにお邪魔して、いっぱい遊びたいと思っているので、そのときは案内よろしくお願いします」とよしのさんがお願いすると、ジェーンさんは「もちろん大歓迎です! みんながオーストラリアに来てくれたらとても嬉しいです。メルボルンやオーストラリアの良いところをつきっきりで案内しますよ!」と約束してくれました。

ジェーンさんをニッポンにご招待したら桶胴太鼓の演奏に自信がつき、母国でもセンターを任されるほど上達していました!

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