歴史ある温泉街を市民参加型プロジェクトで再建へ@山口県長門〜長門湯本温泉の挑戦〜

公開: 更新: テレ東プラス

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本州の最西端、山口県北部の日本海に面した自然豊かな静かな街。国の名勝及び天然記念物に指定されている「青海島(おおみじま)」や日本の棚田百選にも選ばれた「東後畑(ひがしうしろばた)棚田」、CNN"日本の最も美しい場所31選"に選ばれた「元乃隅神社」など、日本の原風景ともいえる景色が立ち並ぶ街に、600年の歴史を誇る温泉街がある。「長門湯本温泉」だ。

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室町時代から続くこの温泉は、大寧寺の定庵禅師が、座禅を組み老翁の姿をした住吉大明神からのおつげによって発見された、山口県では最も古い歴史を持つ「神授の湯」といわれている。泉質は、アルカリ性単純温泉で無色透明。アルカリ度はかなり高く、肌にやわらかな湯で、化粧水成分に近く「美肌の湯」とも呼ばれている。神経痛、筋肉痛、関節痛、疲労回復、健康増進などの効能があるといわれている。

日本中がバブルに沸いた頃、同じく長門温泉も団体客で溢れ、賑わっていた。しかしバブル崩壊後、旅行スタイルに大きな変化が生まれ、法人・団体客のニーズから、友人、家族などの個人ニーズが増えるように。老舗旅館が立ち並ぶ歴史ある温泉街にとっては大きな痛手だ。さらに、リーマン・ショック以降、その影響はさらに大きくなり、2014年には150年の歴史を誇る老舗高級旅館「白木屋(しろきや)グランドホテル」が自己破産申請をすることに。

こうした現状を打破するため、2016年に長門市が動く。長門湯本温泉の再生を目的とした「長門湯本温泉観光まちづくり計画」を策定したのだ。それに伴い、より良い未来に向けて温泉街全体のリノベーション進めることに。社会実験、住民説明会、ワークショップ、イベントなど様々な活動の企画、運営、サポート、情報発信を行う市民参加型プロジェクトである「長門湯本みらいプロジェクト」が発足した。

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2014年に自己破産申告した白木屋グランドホテルの跡地を活用し、星野リゾートの温泉旅館ブランド「界」が進出することが決定。長門湯本温泉観光まちづくり計画は、星野リゾートとともにまとめたプランがベースになっている。観光まちづくりを進めるために、専門家による検討会議、住民とのワークショップや意見交換会、民間事業の促進や地域イベントの開催など、公民が連携して新しい温泉街を作り出す試みが今も行われている。

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本プロジェクトの運営母体「長門湯本温泉まち株式会社」エリアマネージャーの木村隼斗氏にプロジェクトについてのお話を伺った。

――木村さんがプロジェクトに関わったきっかけを教えていただけますか。
「元々は経済産業省におりまして、2015年に長門市役所に出向になりました。それから3年間は市役所の立場でプロジェクトに関わっていました。一度経済産業省に戻りましたが、1年前に経済産業省を退職して長門湯本温泉まち株式会社のエリアマネージャーとしてプロジェクトを進行しています」(木村氏 以下同)

――プロジェクト発足のきっかけは?
「白木屋グランドホテルさんの廃業がきっかけですが、なかなか次のホテルが見つからなかったんです。そこでお声がけさせていただいたのが星野リゾートさんでした。星野リゾートさんとお話をさせていただく中で、"ただホテルの進出ということではなく温泉街全体の取り組みが重要だよね"という話になり、市の事業として2016年8月に『長門湯本温泉観光まちづくり計画』を策定、以後、公民で連携した取り組みがスタートしました」

――経済産業省を辞めて「長門湯本温泉まち株式会社」に参画した経緯を教えて下さい。
「長門市役所出向時に、地方創生には民間を巻き込んだ形で事業を進めることが重要と考えて施策を行なっていました。昨年『恩湯(おんとう)立ち寄り湯』がリニューアルオープンしたのですが、これも施策の一例です。『恩湯』は、長門温泉600年の歴史の始まりの湯ですが、赤字続きの市営施設でした。地元の若手の力で再建できたら...と思っていたところ、民設民営でリニューアルすることができたのです。民間側で再建した方から『今度、長門湯本温泉まち株式会社を立ち上げるから一緒にやろうよ』という公募が出て、そこに飛び込んだのがきっかけです」

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――改めて、木村さんが感じる長門湯本温泉の魅力をお聞かせください。
「我々のコンセプトは"オソト天国"。温泉街の中心を流れている音信川(おとずれがわ)の川沿いを歩くことがとても気持ちがいいということもあり、そぞろ歩きしやすいようなまちづくりを展開しています。河川に川床を置いたり、遊歩道を整備したり飛び石があったり...自然豊かな温泉街で気持ちの良いそぞろ歩きができるというところが魅力ですね」

――日本海に面しているのに名物が焼き鳥なのはなぜですか?
「実は港が近いことが関係しています。有名な仙崎漁港があり、ここはエソを使った蒲鉾が有名なので、蒲鉾で使う以外の部位を無駄にしないために養鶏場を作り、エソを餌にしました。そこで育った鶏を焼き鳥にしています。焼き鳥の有名な土地では、独自のタレや食べ方に特徴があったりしますが、長門は地場の養鶏場で新鮮なため、素材そのものの味を楽しむために塩でいただくことが多いですね」

――中長期で考えた上での"長門湯本温泉のビジョン"を教えてください。
「きれいな川、歴史ある温泉、萩焼の里が近くにあったり良いところがたくさんあります。それらの土地に根差した中核の魅力を守りながら磨き上げることが大切だと思っています。会社のコンセプトとして"消費から共感へ"という言葉を挙げていますが、旅のあり方としてただ消費するのではなく、観光客の皆様に、地域の多様性やチャレンジする地元の人々の魅力に触れていただくことが大切なのかなと。旅を通じて、観光客の皆様の日常にも地域に暮らす人々にも何かしら影響を与えられるような町にしていけたら...そう思っています」

この度、紹介した「長門湯本未来プロジェクト」が、「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー2020 地方創生大賞(地方創生担当大臣賞)」を受賞した。「ふるさと名品オブ・ザ・イヤー」は、地域の将来を支える名品とその市場開拓を支援する表彰制度。地域の魅力づくりを応援する民間企業が、各地域に眠る名品とそれを支えるストーリーや取り組みをそれぞれの視点で選んで表彰する。政府の後援も得て、さまざまな地域の活性化を生み出すイベントだ。

この他にも、全国の地域を盛り上げる熱い取り組みを紹介しているので、ぜひサイトでチェックして欲しい!

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