浮世絵に魅せられたフランス人男性が職人の技を学びにニッポンヘ! 4年後...驚きの報告が!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は「ニッポンにご招待したら人生が変わっちゃった! 感謝のビデオレターが届いちゃいましたスペシャル」をお届けします。

浮世絵に衝撃を受け、デザインから彫り、摺りまで一人でこなす

紹介するのは、4年前に出会ったフランス・ボルドー近郊の町・セロンに住むブノワさん。

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高校で美術教師をするブノワさんが夢中になっているものは、ニッポンの「浮世絵」。13年前、フランスの古物市で偶然見かけた浮世絵の美しさに衝撃を受け、その虜になったそう。中でも一番気に入っているのが、歌川広重。江戸時代のニッポンの職人技や和紙に摺られた独特の風合いに感銘を受けたといいます。

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1867年の万国博覧会(フランス・パリ)に出展されたニッポンの芸術作品の中で、特に強い印象を残したのがニッポンの浮世絵でした。中でも広重は、ヨーロッパで最も高く評価された絵師の1人。その風景画は独創的かつ大胆! 広重の表現技法は、モネをはじめ印象派の画家たちにも取り入れられていったのです。

江戸時代、浮世絵は蕎麦一杯分の値段(十六文・約300円)で庶民が手軽に楽しむことのできる大衆文化でした。「200年も前に庶民がフルカラーの印刷物を楽しめたのはニッポンだけではないでしょうか」とブノワさん。

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浮世絵は、世界初のフルカラー印刷とも言われるニッポンの多色摺り木版画。一つの作品に複数の版木を作成し、そこに色鮮やかな絵の具をのせ、1枚の和紙に重ねて摺っていきます。完成までには多くの人の手が必要で、広重のように浮世絵の元になる下絵を描く絵師、絵師が描いたデザインを元に版木を彫る彫り師、わずか数種類の絵の具で無限の色と木版画ならではのグラデーションを生み出す摺師と、様々な職人が携わっています。

ブノワさんはコツコツ貯めたお金で広重や北斎などの作品を収集し、8年前からは分業で作られる浮世絵を、独学でデザインから摺りまですべて一人でこなしています。図案は美術書などからアイデアを得て、コンピュータを使って作成。絵柄をレーザープリンターで木に焼き付け、彫刻刀やノミを使って、色をつける部分以外を削ります。

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伝統的な浮世絵と同じように数枚の版木を作ると、続いて和紙を用意。浮世絵は紙を湿らせた状態で摺るので、丈夫な和紙が欠かせないそう。まずは、版木の色をつける部分を水で濡らし、水性の絵の具と色ムラをなくすための少量の糊をつけ、ハケで馴染ませていきます。そこに和紙を合わせ、ばれんで摺りこみ一摺り目が完了。その後も慎重に色を重ねて摺っていきます。

さらに、光沢のある雲母の粉を使った「雲母(きら)摺り」や、立体的に模様を浮かび上がらせる「浮き出し」など伝統的な技法を使い、忠臣蔵をモチーフにした作品が完成!

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何枚もの版木を使っても絵柄がずれないのは、見当という印のおかげ。見当とは各版木の左下の角と中央付近につけられた印で、これに合わせて和紙を置くことで、何枚摺ってもずれないといいます。この見当から生まれたのが、「見当をつける」「見当違い」といった慣用句。

高校で美術の先生をする傍ら、趣味の浮世絵作りに没頭するブノワさん。当然、家計への影響は小さくなく、遠出の旅行にはもう何年も行けていません。しかし、奥さんのグエナウェルさんは、「何かに情熱を燃やしている人にストップをかけてはいけないんです」と、後押ししてくれています。そんなブノワさんを、ニッポンにご招待!

ニッポンの職人に伝統的な「彫り・摺り」の技法を学ぶ

摺りの技法について深く学びたいというブノワさんが向かったのは、茨城県常総市にある江戸の伝統を受け継ぐ浮世絵制作工房「渡辺木版」。東京で修業し、彫師になった渡辺和夫さんと摺師の吉田秀夫さんはコンビを組んで50年以上。手がけるのは主に江戸時代の浮世絵ですが、近年はキャラクターものなど、新しいモチーフの作品にも精力的に取り組んでいます。

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広重が好きなブノワさんのために、ゴッホも模写した広重の最高傑作の一つ「大はしあたけの夕立」を用意してくださっていました。今回、特別にその制作を見せていただきます。

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摺師・渡辺さんの作業場を見て同じ糊を使っていることに気づいたブノワさん、そのことを伝えますが、渡辺さんから「(そのままでは)濃すぎるよ」とのアドバイスが。早速、糊は水で薄めて使うことを教えていただきました。

伝統的な浮世絵の摺りには、数々の職人技があります。まず、地墨(じずみ)とよばれる黒い絵の具で作品の基本となる線を入れます。そして、ニッポンの木版画の鍵を握るのが「水」。
湿らせた版木の上に水で溶いた絵の具をのせ、そこに水で薄めた糊を加えて刷毛でならしていきます。紙は、繊維が長く破れにくい楮(こうぞ)100%の越前の手漉き和紙を使用。水で湿らせた状態で摺ることで、紙の繊維の中まで絵の具が浸透するのです。

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摺る回数は、なんと約25回。使う色は17色ですが、背景をぼかすときなどに同じ色で2度摺る場合もあるそう。この回数を聞いたブノワさんは、「ワオ! 25回摺りということは25回失敗する可能性があります」と驚きを隠せません。

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吉田さんの仕事を見ていたブノワさんには気になることがありました。「どうして見当を削っているのですか?」とたずねると、「合わないから」との答えが。湿らせた和紙や版木は、季節や気温、湿度などによってわずかに伸び縮みします。そのため、午前中には合っていたものが、午後には若干ずれてしまうことも。そこで熟練の摺師は見当の位置を削ったり、逆に継ぎ足したりしながら、ミリ単位で調整していくのです。

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ここからは摺師の最大の見せ場! 低く垂れ込める雨雲を表現する「当てなしぼかし」と呼ばれる高等技法です。版木に彫ることのできない「ぼかし」の形は、摺師の加減によって決まります。うねるような形状の雲も、一流の摺師は100枚全て同じように摺りあげるそう。広重や北斎の名作も、それを忠実に再現する摺師がいなければ生まれなかったといいます。

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続いては「大はしあたけの夕立」の主役、「雨」。一体どのように「雨」を彫っていくのか彫師・渡辺さんに見せていただきます。下絵をもとに、雨となる細い線の両側に切り込みを入れ、線と線との間を彫っていきます。真っすぐな線を彫るのは、熟練の彫師でも難しい集中力がいる技。その技を間近で見たブノワさんは、「集中力と正確性を見て信じられない気持ちです。浮世絵の繊細さを生み出す揺るぎない技術に胸を打たれました」と感動。

そして摺師にも、夏の激しい夕立を表現するための技が!

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雨の降る角度が違う版木を2枚使用するのです。2枚目に1枚目より色の濃い絵の具を塗り摺ることで、奥の薄い雨と手前の濃い雨が交差し、1枚の時と比べて奥行きが出ます。まるで雨音まで聞こえてくるような情景が、2枚の版木と色の濃さで見事に表現されています。

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ブノワさんも摺りを体験させていただけることに。「本物の職人さんの場所に座って、こうして摺っているのが信じられません」と恐縮するブノワさん。ばれんを包んでいる竹の皮の筋目の跡が出ないようにするため、横方向に摺ることを教えていただきました。教わった通りに摺ると、「上手いじゃんな、ばれんの使い方」と渡辺さん。吉田さんからも「だんだん上手くなってくるね」と褒めていただき、「ありがとう」と笑顔に。

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ここで、渡辺さんと吉田さんに自分の作品を見ていただきます。渡辺さんから「浮き出しは素人じゃ思いつかない」と褒められましたが、色ののりの不十分さという課題の指摘も。改善するための道具の使い方を、丁寧にアドバイスしていただきました。

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その夜、はるばるフランスから来たブノワさんに「ニッポンの家庭料理も食べてほしい」と、渡辺さんの奥さんが心づくしの料理を準備してくださいました。地酒で乾杯し、奥さん得意の肉じゃがやふきの煮物などをいただきます。「ありがとう。とても美味しいです」と舌鼓を打った後は、ブノワさんが地元ボルドー産のワインをプレゼント。お2人とも「おーっ!」と喜んでくれました。

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話は弾み、後継者の話題に。弟子になりたいという人が来れば、二人で協力して教えてもいいと考えているそうですが、現在、跡を継ぐ人はいないそう。「今のお話に、私はとても興味があります」とブノワさん。そんなブノワさんに、お二人から浮世絵のプレゼントが! 広重の「大はしあたけの夕立」です。「一番大切なコレクションになります」と感激するブノワさんに、「また来てください」と渡辺さん。握手を交わし、「メルシーボクー」と感謝の言葉をおくりました。

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あれから4年、ブノワさんのビデオレターを渡辺さんと吉田さんのもとへ届けます。ブノワさんの自宅には、お二人からいただいた広重の版画が飾られていました。「とても大事なものです。いろんなことを思い出します」。

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現在進行中の浮世絵制作を見ていただくことに。まずは教えていただいた割合で、水と糊を混ぜていきます。すると渡辺さんから「もう少し糊をたくさん入れても良い」とのアドバイスが。ブノワさんの糊は雫になって垂れていきますが、吉田さんが実際に使っている糊は、粘りがあって持ち上げてもなかなか垂れません。

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続いてぼかし作業に入ると、「すごいですね、だいぶ腕を上げた。ぼかしがきれいに摺られてる」と驚く渡辺さん。

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ここで吉田さんに質問が。見当がうまくいかず、ずれてしまうことがあるというのです。そんなブノワさんに、吉田さんは爪で押さえるというコツを教えてくださいました。爪先で紙を押さえると、ずれにくく紙も汚れないそう。

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完成したブノワさんの新作がこちら。「この作品は、2017年にニッポンに行った時に思いつきました。街の中にカラスがいたんです。その姿が印象に残っていました。"死"がテーマですが、先祖が僕たちに残してくれたものを描いています」

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ビデオレターと一緒に届いた作品の実物を見た渡辺さんと吉田さんは、「枝のところ、月の光が当たってるじゃん」「(枝に)白を出したんだ。完璧だよ」と絶賛! 月のてかりを表現するために、数ミリの枝をぼかして濃淡をつけるのは、とても高度な技術なのだそう。

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風光明媚なフランス・ブルターニュ地方の情景を描いた作品も。こちらは、2018年に出版されたブルターニュ地方がテーマの木版画全集に掲載されています。さらに、なんとこの作品、ブルターニュの美術館に所蔵されているそう。これには渡辺さんも「美術館でお買い上げなんて大変なこと!」とびっくり。

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さらにブノワさんから質問が。雲母摺りの雲母を定着させるのに、どんな糊を使っているのか知りたいというのです。吉田さんによると、牛革から作った糊である膠(にかわ)を使っているとのこと。膠の実物だけでなく、制作の様子も見せてくださいました。膠をお湯で溶かして版木に馴染ませ、ばれんで和紙に摺り込み、その上から貝で出来た雲母を振りかけていきます。乾いて膠が固まることで雲母が落ちないのです。

ブノワさん、実は「渡辺木版」の他に、もう1ヵ所訪問していました。

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