2月から私の連載『池谷実悠の"推し事"備忘ログ』がスタートしました! 初回でもお話しさせていただきましたが、元々サブカル女子で、最近は『女性アナ本気まんが部』や『池袋KAWAIIプロジェクト』など、推し事(※推しを愛するための活動)をお仕事にするという大変幸せな機会に恵まれることも多くなりました。この連載でも、皆さんに私の"推し事"をお伝えしていけたらいいなと思っています。
『千と千尋の神隠し』を"面白い"という感覚だけでなく、"興味深い"という観点で見始めたのは大学生の頃
今回は連載第2回! 初回の自己紹介で、私、池谷実悠がどんな要素で構成されているか...少しだけお話しさせていただきましたが、今回は、私が大好きな"ジブリ"と大学時代に学んでいた"歴史"との関係性についてお話しさせていただこうと思います。
※池谷の考察ということでご理解いただけましたら幸いです。
ジブリ作品と聞いて...皆さんは何の作品を思い出しますか? 『となりのトトロ』『風の谷のナウシカ』『崖の上のポニョ』など、大ヒットを記録した作品がたくさんあります。そんなジブリ作品の中で、私が一番好きなのは『千と千尋の神隠し』。10歳の少女・千尋が奇妙なトンネルから通じる不思議な世界に迷い込む物語です。
私が初めて『千と千尋の神隠し』を見たのは千尋と同い年くらいの頃。母とスーパーに買い物に行った時、偶然ビデオテープが売られていました。そして、普段はそういうものを買わない母が珍しく『家族で観よう!』と言って買ってくれたのです。今まで、映画のビデオを借りることはあっても、買うことはなかったので『なんでこの作品はいいの?』と驚いたのを強烈に覚えています。
▲小学生時代。交通安全の旗を嬉しそうに振っています。
実際に観てみると、子どもながらに八百万の神がいる世界をスッと受け入れることができました。当時私は身長が高いことで悩んでいて、『これ以上成長しないで欲しい!』と、近くの神社に通いつめて真剣にお祈りをしていたので、神様が身近な存在だったのです。なので神様が近くにいる感覚は理解することができましたし、湯婆婆が経営する油屋を多くの神様が訪れるシーンは、観る度、とにかくテンションが上がりました。
そんな『千と千尋の神隠し』を"面白い"という感覚だけでなく、"興味深い"という観点で見始めたのは大学生の頃。私は史学を専攻していましたが、そこで出会った日本史の教授が、授業で『千と千尋の神隠し』を取り上げたのです。
この授業で、昔は『子ども=大人が持っているような規則や感覚にとどまらない常識が通じない相手=神様に近い存在である』そう考えられていたと教えていただきました。これを踏まえた上で改めて作品を観てみると...千尋がすぐ神様の世界に馴染むことができたり、大人が何も感じないトンネルを嫌がったりすることに納得がいきます。また、油屋は橋を渡った先にありますが、橋などの境界線を渡ると世界が変わるという感覚も、昔から当たり前のように日本に根付いていたことだそう。
これは持論ですが、千尋は物語中で初潮を迎えているという一説もあります。もし仮にそうだとしたら、千尋はあの時、大人と子どもの「境界線」にいて、そのために神の世界と人間の世界をまたぐという不思議な体験が出来たのではないか...とも思えるのです。
私は、この授業によって、古代の日本人が持っていた感覚と『千と千尋の神隠し』の世界観に深いつながりがあることを知り、俄然ジブリ作品に興味を抱くようになりました。過去の人々の生活習慣を垣間見ることが好きだった私にとって、ジブリ作品は打ってつけの題材だったのです。
▲大学時代、友人と...。
『もののけ姫』は、中国・殷の時代の生活様式に似ている
歴史と関連づけして見直すと面白い! そう思ったもうひとつの作品は『もののけ姫』です。『もののけ姫』は中世の日本を舞台に、自然を破壊する人間たちと森に住む"もののけ"たちの争いを描いた物語。あるインタビューで、宮崎駿監督は『室町時代をベースにした』と語られていましたが、東洋史の教授いわく、『中国・殷の時代(紀元前17世紀~11世紀頃)の生活様式にも似ている』とのことでした。
物語では、照葉樹が覆い茂る森をたたら場の人たちが侵していくのですが、当時の長江流域も同様に照葉樹が広がっており、当時の人々はそこに小さな村を作って暮らしていました。村が点在しており、その間に森が覆い茂っていたそうで、これはたたら場にかなり近いイメージです。そして、殷の時代の人々が恐れていたのが、森の中の動物や盗賊、お化けや妖怪。森に対して恐れを抱き、"人の力が及ばない物"という印象を持っていたそうです。
神様に対するアプローチも似ています。殷の時代、至上神を帝(てい)と呼んでいましたが、当時の人々は神を奉るようなことはしませんでした。絶対的なトップであることは間違いないのですが、"人間が奉ってどうにかなる存在ではない""人間の力が及ばない存在だから奉らない"というシンプルな考えを持っていたそうです。これって『もののけ姫』のシシ神様と似ていませんか? 『もののけ姫』の世界で、モロは奉られ、人間とコミュニケーションが取ることができますが、シシ神は基本謎のままです。そんな神様との距離感や考え方などに注目して見るとものすごく面白い! 祀らない至上神が存在する殷の人々の信仰の仕方というのはかなり珍しいもので、理解されにくい部分もありますが、『もののけ姫』に置きかえて考えてみると、ぐんとわかりやすくなるような気がします。
昔からその時代の市井の人の生活を知ることが好きだった私にとって、ジブリ作品は動く資料本みたいなもの。物語はもちろんですが、そこに描かれている細部まで興味深いことばかりです。歴史の知識とともにジブリ作品を読み解くと、新たな発見や驚きがたくさん! 初めて『千と千尋の神隠し』や『もののけ姫』を見たときには感じなかった面白さや奥深さを、大人になってから知るという喜びに満ちあふれています。今思うと、『千と千尋の神隠し』のビデオテープを買ってくれた母は、すでにそういう面白さを知っていたのかもしれません。今度母に、その真相をインタビューしてみたいと思います!
もちろん、『カオナシのように言いたいことを言わずに爆発しちゃう人っているよな~』『坊ネズミって一生懸命でかわいいな』など、魅力的なキャラクターに注目して観るのも楽しみ方のひとつ。ちなみに私が一番好きなキャラクターは『もののけ姫』のエボシ御前です。常識では考えられないようなことをしますが、信念があってカッコいいですよね。私も彼女みたいに真っ直ぐな女性になりたい! 永遠の憧れの存在です。
今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました! もしもご興味を持っていただけた方がいたら、ぜひ一度、歴史と紐づけながら楽しんでみてください。きっと新たな発見があると思います♪
次回は4月下旬に公開予定です!
【池谷実悠アナウンサー プロフィール】
1996年9月18日生まれ。静岡県出身。O型。2019年、テレビ東京に入社。『よじごじDays』(月、水、金曜メインパーソナリティー)『7スタライブ』『日経ニュース プラス9』『追跡LIVE!SPORTSウォッチャー』などを担当している。