外食非常事態SP~知られざる未来への死闘:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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緊急事態でも大繁盛~最強焼肉店に潜入

2度目の緊急事態宣言から1か月半。外食業界のレジェンド、横川竟(83)が東京・板橋区の「焼肉はっぴぃ」上板橋店を偵察に来た。「焼肉ではナンバーワンだと思います」と言う。確かに小ぶりな店内はにぎわっている。店を作ったのは、全国に「焼肉きんぐ」など540店舗を展開する「物語コーポレーション」。新業態「焼肉はっぴぃ」の売りは様々な種類の牛たんの焼肉だ。

「『焼肉きんぐ』は郊外ではうまくいっているが、都心にはない。都心には大型店は出られないから、小型店を開発して都心を攻める。『はっぴぃ』は100店舗ぐらい簡単にできるので、多分それを狙っていると思います」(横川)

運ばれてきた「花咲き牛たん」(1097円)は 「タン元」を30日間熟成させたもの。それをレモン汁だけではなく、仙台風に唐辛子味噌をつけて食べるのだという。一方、独自の低温調理で実現したのは「たんユッケ」(547円)。新鮮な食感がやみつき必至だとか。

横川は1970年にファミレスの元祖とも言える「すかいらーく」を作った男。その後も「ジョナサン」などを成功させ売り上げ4000億円の巨大グループを築いた。その横川は今、コロナ禍に打ち勝つため、ジャンルを超えて優れた店を研究している。

「『焼肉きんぐ』はトップです。他は業績が落ちているのに、ここだけはコロナ禍でも着実に伸びている」(横川)

外食業界はこの1年、未曾有の危機にさらされ続けた。政府のコロナ対策にも手足を縛られた。だが、外食で50年戦ってきた横川は、この事態をこう見ていた。

「コロナが良い店と悪い店を分類しているのではないか。価値のある店と努力をしなかった店が、コロナが来たことではっきりした」

横川は2008年に「すかいらーく」を離れ、現在経営しているのは、関東を中心に32店舗を展開する「高倉町珈琲」。広々とした店内ではたくさんの客がくつろいでいた。様々な感染対策はもちろん、コロナ禍でも安心な店と支持されているのだ。

「もともと『高倉町珈琲』を開業する時、楽しくゆっくり休める店がなかったので、天井を高くしたり、息苦しくなるから1時間に6回空気を循環させたりした。そうしたらコロナ向きの店になったんです」(横川)

しかし、このカフェ業態にはコロナ禍で新規参入が急増しているという。

「日本ではファミレスを含めて1500店ぐらいが閉店予定です。閉店した中の2、3割は焼肉とカフェになると思う。うちの近くにも大手のライバル店が出店しています」(横川)

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居酒屋を捨てる?~大打撃ワタミの挑戦

このコロナ禍で最大の危機に直面している外食が居酒屋だ。居酒屋は外食の中でも最も売り上げが落ちている業態。前年から6割も減少している。

そんな居酒屋業界で全国に400店舗を展開するのが「ワタミ」会長の渡邉美樹(61)。24歳で大手居酒屋チェーンのフランチャイズオーナーとなった渡邉は、1992年に「和民」1号店をオープン。一気に巨大チェーンへと成長させた。2013年には政界へ転身。6年間の議員生活を経て経営に復帰した途端、コロナ禍に見舞われた。

そのワタミが居酒屋復活のため、既存店を改装し、新たな店をオープンさせていた。東京・大田区の「三代目鳥メロ」糀谷店。秘策は今までにない楽しみ方の餃子だという。客が自分で餃子を焼くのだ。

必死で生き残り模索する居酒屋。渡邉は去年10月、まるで居酒屋を捨て去るような行動に出た。居酒屋ブランド120店舗を焼肉店に転換してしまうというのだ。

調布の駅前にあった居酒屋「ミライザカ」は、今年1月に改装を終え、「焼肉の和民」へと生まれ変わっていた。店内は結構な繁盛ぶりだ。人気の食べ放題は2880円から。鹿児島の牧場「カミチク」と業務提携して大量の仕入れを確保した。

コロナ禍に客を集める秘策も。店員との接触をなくすため、回転ずしのような高速レーンで肉が運ばれてくる。皿を下げるのは「私にのせてください」というロボット。感染対策と省力化が同時に実現できるアイデアだ。渡邉はロボットにも大きな期待を寄せる。

「月のリース料が10万円だから、時給300円で朝から晩まで働いてくれます」(渡邉)

コロナ禍でもなんとか客に来てもらえる店にするため、必死で格闘していた。

「創業者であり、オーナーでもある。失敗したら自分で責任を取ればいい。ここでじっとしているよりも、前に行かなければいけないという危機感が本能的にあります」(渡邉)

ある日、そんな渡邉が社運をかける焼肉店の一角に肉を食べる横川の姿があった。

「うまい」と褒めたかと思うと、「牛タンが薄い、カルビはものがいいです」。さらに、隣の座席が見通せる空間について「隣が気になる」と言う。

旧知の仲だという横川と渡邉が語り合った。

「どれだけ早くこの店になれるかですよ。居酒屋はやめた方がいい。本当に儲かる50店を残して、焼肉に変えた方がいい」(横川)

「厳しい意見ですが、その通りだと思います」(渡邉)

しかしコロナ禍で、焼肉の競争も厳しさを増しているという。

「今年の秋から来春にかけて、焼肉の上位3社の戦いが始まります。どうなるか」(横川)

「さすがです。我々もそう思っていて、あえてレッドオーシャンに飛び込みました」(渡邉)

一方、コロナ禍で増えているのが、ワタミが作った「から揚げの天才」。テイクアウトとデリバリーをメインに、この1年で80店舗以上にまで拡大した。

玉子焼き付き「からたま」は3個537円。特製のタレに丸一日漬け込んだモモ肉を二度揚げした、サクサクの食感とジューシーな味わいがうけている。

この店は、休業に追い込まれたワタミの居酒屋の社員の受け皿にもなっている。従業員の一人は「居酒屋がこういう状況なのに働かせてもらえて感謝しています。この仕事も楽しいので、プラスにしてやっていきたいと思います」と言う。

まだ先の見えない飲食業界。コロナ禍の厳しい戦いが続いている。

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来店客ゼロでも繁盛店~飲食店を救う絶品デリ

東京・三軒茶屋のラーメン店「麺処禅」。夕飯時に訪ねると、客は一人もいない。ところが厨房ではなぜか従業員総出で大忙し。作っているのはラーメンではない。最近売り始めた新商品は韓国風の味わいの「ニャムニャムチキン」。デリバリー商品として売れまくっている。「溶岩焼き牛カルビビンパ」もデリバリーの人気メニューだという。

この店は本業のラーメン店をやりながら、「ウーバーイーツ」のサイトで、「ニャムニャムチキン」と、「ファルファサン」というビビンパ専門店、2つの店を運営している。その売り上げは店に客が来なくても経営が成り立つほどだという。

「多い日だと80食の注文が入る。これがなかったら笑っていられないです」(店長・石井啓介さん)

「ニャムニャムチキン」の店は現在、東京23区に28店舗あるが、すべて別の飲食店だ。例えば千代田区ではフランス料理店、ラーメン店、しゃぶしゃぶ店が運営している。つまり、「ニャムニャムチキン」はデリバリーサイトにしか存在しないチェーン店なのだ。

そんなデリバリーサイト限定のチェーン店がコロナ禍で急増している。

客足に苦しむ東京・町田市のイタリアンレストラン「ラヴァーズロック」町田店も2つのデリバリーチェーンを手がけている。シェフが仕上げていたのは「鮭のお茶漬け」。ウーバーのサイトに「雪椿」というお茶漬け専門店を出しているのだ。もう一つは「シンタマステーキ&ブロッコリー」など牛の赤身肉を使った肉料理の店。ヘルシーメニューを揃えた「マッスルキッチン」だ。これによりコロナ禍の売り上げダウンを取り戻していた。

「厳しい中でもう一本の柱というか、デリバリーという強みをくれた存在なので、感謝しています」(店長・小島透さん)

飲食店を救うデリバリーチェーンは480店舗に拡大中。仕掛けているのはベンチャーの「TGAL(テガル)」。これまで飲食店向けに40ものデリバリー専門ブランドを作ってきた。黒糖の割り下を使った香ばしい香りが自慢のすき焼き専門店から、ハンバーグのパテを豚肉でくるんだラッピングハンバーグの専門店まで、さまざまだ。

「TGAL」は、それらの中から飲食店が選んだチェーン店のレシピやネットに出店するノウハウ、食材を提供。誰でも簡単にデリバリーサイトに出店できるようサポートする。飲食店は材料費のほか、売り上げの5%を支払う仕組みだ。

「TGAL」のデリバリーブランドの開発で最も重要なのがおいしさと作りやすさの両立。こだわり抜くのは、コロナで窮地に立つ飲食店のビジネスをいかに支えるか、だ。

「少しでも飲食店のオーナーの利益につながれば」と言うのは社長・河野恭寛(43)だ。両親が経営する中華料理店で育った河野は、18歳で広島から上京。大学卒業後、様々な外食ビジネスを経験し、6年前、東京・神保町に「バーガーズカフェグリルフクヨシ」を開業。ヒットさせたのがこだわり抜いたハンバーガーのデリバリーで、自ら配達も行った。

その後、様々なデリバリー専門のブランドを開発し、人気を集めていたが、そこへ新型コロナが。河野は自分たちのデリバリーのノウハウを飲食店に提供しようと決意する。

「僕たちのブランドを取り扱っていただいて、コロナ禍に少しでも希望の光が見えればすごくうれしいです」(河野)

「TGAL」の人気の秘密は導入する店の負担の少なさにある。先述の「ニャムニャムチキン」の場合、店には、味付けされたチキンがTGALから届くため、ほとんど手間をかけず作ることができる。

「従業員の負担もあまりかからず、助かっています」(「麺処禅」店長・石井さん)

「TGAL」の営業担当・池田昌輝が訪ねたのは、デリバリーの導入を考えている千葉・船橋市の「シックスセンスリゾート船橋」。池田は厨房をくまなく見て回り、設備をチェック。そして提案したのが「『ハーベストポテト』という揚げ物のブランドです。フライヤーがあるので、味付けなしで簡単に調理ができる」。デリバリー専用店を厨房の設備によって選ぶことができるため、初期投資が最小限で済むのだ。

河野が最近通い詰めるのが、東京・千代田区で地域の客に愛されてきた牛たんカレーの老舗「仙臺」。TGALのデリバリーブランドに加えるべく、交渉を進めているのだ。

目指すのは、地域のおいしい味をデリバリーでもっと多くの客に届けることだ。実際、TGALのデリバリーで取り扱われることで、大きく飛躍した地域の名店がある。

神奈川・相模原市でハンバーグ店「グリルフクヨシ」相模原本店を営む住村哲央さん。自慢は卵と小麦粉を使わない、ふわふわ食感のハンバーグだ。河野がその味に惚れ込み、デリバリー向けに作ってもらったところ大ブレイク。今では工場まで作り、月5万個のハンバーグを製造。全国でデリバリーされている。

「自分の味を食べもらえるのがうれしい、TGALのデリバリーのおかげです」(住村さん)

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コロナでも大繁盛の謎~知られざるラーメン店

「注目すべき中の1つが『町田商店』というラーメン店。去年の4月、どの店も売り上げが3、4割に落ちた時に8割売っていた。『高島町珈琲』が8割になった時には100%売っていた。なぜ売れるのか、見に行ったら分かりました」(横川)

コロナ禍でも客足を伸ばしていると横川が驚いたのは、122店舗を展開する「町田商店」。詰めかけた客のお目当ては、「MAXラーメン」(950円)など、濃厚な豚骨スープで味わうモチモチの麺が特徴のラーメンだ。

この店で特に注意しているのが、ひっきりなしに行う店内の消毒。そしてもう一つが、「風が強いのにどうもありがとうございます。いらっしゃいませ」「天気が悪い中どうもお客様、気を付けてお帰りください」といった、忙しくても欠かさない客への声がけだ。コロナになって、より力を入れ始めたという。

「誠心誠意、『この時期でも来てくれてありがとうございます』という気持ちで営業しています」(「町田商店」田中亮介さん)

~村上龍の編集後記~
横川さんと、120店舗を「焼肉の和民」に変える渡邉美樹さんの 「牛タン」を巡る論争に注目した。横川さんは「タンは厚くなければ」と主張し、渡邉さんは「部位のせいでしょうがないんです」と弁解した。「メニューには思想が宿る」横川さんの考えだ。「薄い牛タン」に何を感じたのだろうか。
デリバリーの「テガル」には好感を持った。まだ未完成のサービスで可能性を感じたのだ。「離乳食や介護食もデリバリーのニーズがある」と河野さん。デリバリーのメニューにも思想は必要だろう。河野さんは今、それを探している。

<出演者略歴>
横川竟(よこかわ・きわむ)1937年、長野県生まれ。1970年、すかいらーく国立店開業。2006年、すかいらーくCEO就任。2008年、すかいらーくCEO解任。2014年、高倉町珈琲創業。
渡邉美樹(わたなべ・みき)1959年、神奈川県生まれ。明治大学商学部卒業後、1984年、ワタミ創業。2013年、参議院選挙当選。2019年、ワタミ経営復帰。
河野恭寛(こうの・やすひろ)1977年、広島県生まれ。2000年、法政大学卒業後、光通信入社。2013年、TGAL設立。2015年、バーガーズカフェ開業。

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