「医者が患者を助けるだけではなく、患者も医者を助けている」 作家・夏川草介が「神様のカルテ」で伝えたいもの

公開: 更新: テレ東プラス

4週に渡り2時間×4話で放送中の福士蒼汰主演ドラマスペシャル「神様のカルテ」(テレビ東京系/毎週月曜夜8時放送)。信州のとある病院に勤める内科医・一止(福士)が悩みながらも患者たちの命と誠実に向き合う姿を中心に、彼と周囲の人々とのふれあいや夫婦愛を温かく描き感動を呼んでいます。

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原作は、シリーズ累計330万部を超える大ベストセラー小説「神様のカルテ」。著者・夏川草介氏は、現役の医師で、多くの患者のために多忙な日々を送っています。初ドラマ化への思い、そしてコロナ禍で医療に取り組む率直な心境を語っていただきました。

主人公を演じる福士蒼汰さんは...!?

――「神様のカルテ」初のドラマ化を、どのように感じていますか?

「『神様のカルテ』を最初に書いたのはもう10年以上前になります。長い期間が経った作品がこういう形になり、書き続けてよかったと思いました」

――2011年と2014年に映画化もされていますが、ドラマ版と映画版で違うと思われる点があれば、お聞かせください。

「映画版の時は、私は映像についてまったくの素人ですし、まだ10数年目の医師だったこともあり、すべてお任せして。できあがった作品を観て純粋に楽しませてもらいました。

今回は、事前に脚本を読ませてもらい、めちゃくちゃ面白かった。言葉のテンポや、それを物語の中に配置していく流れが、私のイメージしているものと非常に一致しているような気がしました。

私が作品を書く時に大切にしているものの一つは、ユーモア感覚。映画ではどちらかと言うと、人の命にシリアスに向き合う面がやや強めでしたが、今回はユーモアとのバランスがあり、また雰囲気が違う。原作に近いものになっているんじゃないでしょうか」

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――今回、福士蒼汰さんが主人公の栗原一止を演じています。夏川さんはこのドラマが発表になった時、「周りの看護師さんから、先生には似ていないわねと言われそうだ」とコメントしていらっしゃいましたが(笑)、福士さんへの印象をお聞かせください。

「映画化の時から言っていますが、『"栗原一止"は私ではないです』と重ねて言いたい(笑)。それはそれで、ありがたいことですが。今回、福士さんと初めてお会いして、背が高くてカッコいい方でした」

「神様のカルテ」はライフワーク

――10年以上前から書き続けている作品が、コロナ禍の今、映像化されることの意義はどのようなところにあると思いますか?

「私にとって『神様のカルテ』はライフワークみたいなものです。今、医療をテーマにした作品をやることはコロナとの関連をどうしても考察したくなるとは思いますが、私にとって大きな意味ではコロナも日常の医療の延長上にありますから、今だからこの作品が特別な意味を持つわけではないと思っています」

――ライフワークということは、今後もずっと書き続けていく作品になるのでしょうか?

「そうですね。できれば、主人公が年を取っていくところまで書いていきたいですが、状況によりますね。特に、ここ一年はコロナの対応に追われていますので、こういう時に執筆を優先させることは100%ないです。状況が落ち着いてコロナの患者さんも減ってくれば、また書きたいと思います」

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――この作品には、医療関係者ではない個性豊かなキャラクターもたくさん登場しますね。一止が病院外で関わる人々とのやりとりは、物語に厚みを加えているような気がします。

「医者が主人公、医療を主題にした作品はたくさんありますが、どうしても医療行為だけが特別なものとして取り上げられることが多く、"医者も人間である"という面を描く作品をあまり見ないような気がします。

医者の側からすれば、日常の中に医療行為があり、家族と過ごす時間があり、プライベートがある。特に『神様のカルテ』を描く時は、医療だけが特別なものにならないように、医療と同じくらい、医療と関係ない日常の景色を入れるように気を付けています。

一歩踏み込んで言うと、私自身は医療小説として書いていません。自分の知るある人物の人生を成長とともに描くイメージ。それゆえに、医療者の共感が得られやすい作品なのかもしれません。医療から離れた日常の部分に注目してもらうのも、楽しみです」

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――一止を取り巻く人々は、みんな温かく素敵な人ばかりです。夏川さん自身が温かい人に囲まれているのですか?

「いないと言うと、いろんな人から反感を買いそうですね(笑)。素晴らしい人たちは確かにいます。素晴らしくない人もいます。殺伐としてやたら人を攻撃する人。自分の権利を主張して信頼関係を築けない人。逆に、驚くほど他人を思いやれる人もいる。

余命が数ヵ月しかないというガンの患者さんから『先生、少しは休んだ方がいいよ』『全然ご飯食べてないみたいだから、パンを買っておいたよ』と言われたり。元気であれば他人を気遣うのは難しくないですが、おそらくその患者さんは相当調子が悪く痛みもあるのに、他人を気遣ってくれる。すごいことだと思います。

命にかかわる状況にあっても他人を思いやれる人に出会うと、気持ちが前向きになり、励ましをもらいます。この人たちのことを何かに残しておきたい、こういう人が実際に存在するんだ、ということを伝えたいと思う。それを形にして届ければ、多くの人にとって励ましになるんじゃないか、との思いで作品を書いています。

もちろん、文学の務めとして人間の邪悪な部分や負の部分を描くのも大事ですが、私はあえてその部分は誰かに任せて、人間の美しい面や清らかでかっこいい面をしっかり書き残して、特に若い人に読んでほしいと思っています」

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――一止は夏目漱石の影響を受けていますが、夏川さんの生き方に影響を与えた人は誰なのでしょうか?

「一番の核になっているのは、夏目漱石です。漱石という人は、世の中全体を心配していて、"競争社会はこのままではよくない。人を蹴倒してそれでいいわけがない"と書いています。また、『吾輩は猫である』には、"ナポレオンでもアレキサンダーでも、勝って満足した人はいないんだよ"と書かれています。

今は、漱石が生きていた当時より、もっと過酷な競争社会になっていて、"勝てば官軍"のような風潮が強まっている気がします。私にとっては、"このままでは良い方向に行かないだろう"という漠然とした思いに、しっかりと形を与えてくれた思想家。漱石の作品が好きなだけではなく、作品の根底に流れている"もっと相手を思いやりましょう""道徳はとても大事だ"という考え方に共感するところがあります。だから、疲れている時に漱石を読むと、とても励まされるんでしょうね」

――このドラマでも、人に対する思いやりの大切さが伝わってほしいということでしょうか?

「そうですね。人と人が支え合うことが物事を良くしてくれると思うので。医者が患者を助けるだけではなく、患者も医者を助けている。そうした支え合いの景色がうまく伝わるとうれしいですね」

インタビューの続きは来週公開。夏川さんが書き続ける理由とは!?

(取材・文/伊沢晶子)

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今夜2月22日(月)夜8時放送の第2夜は?

第二夜
「患者を救うために、家族を犠牲にするのか?」栗原一止(福士蒼汰)の大学時代の同期・進藤辰也(中村蒼)が本庄病院に加わる。辰也との再会を喜ぶ一止だったが、患者や看護師と対立する姿に疑問を感じ、衝突してしまう。そんな折、恩師である古狐先生(イッセー尾形)が院内で倒れ、検査結果に一止や大狸先生(北大路欣也)は衝撃を受ける...。一止は医師の責任の中で、夫婦や友人、家族との"つながり"を改めて自分自身に問う。

出演者ゲスト:中村蒼、高橋ひとみ藤井美菜、大橋彰(アキラ100%)、実咲凜音品川徹

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