急成長を遂げる飲食業界の黒船。知られざるウーバーイーツの舞台裏:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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早い・便利・美味しい~知られざる出前革命の全貌

街でやたらと見かける四角いバッグのウーバーイーツ。コロナで外食離れが進む中で利用者が急増し、飲食業界に新たな旋風を巻き起こしている。

ヘビーユーザーは、注文する時に使うアプリの使い勝手がいいと言う。アプリを開くと、GPSで注文する人の現在地が割り出され、その近所にある出前可能な飲食店がずらりと出てくる。配送料や届く時間もひと目でわかるのだ。

注文する際にはご飯の大盛りやソースを選ぶこともできる。あとは注文ボタンを押せば手続き完了。平均配達時間は約30分。このスピード感もファンを掴んでいる。さらにこのアプリには、待っている間、配達員がどこまで来ているか、地図上で確認できる機能がついている。

ウーバーイーツだと料理代金の他に10%のサービス料や配送料がかかる。店で食べるよりは高くつくが、アプリは400万人以上がダウンロードしたと言われている。

加盟する飲食店も続々と増えている。東京・世田谷区の住宅街の駅からはちょっと遠くにある「とんかつ ひびき」。2年前、ウーバーイーツに加盟した。看板メニューが白いトンカツ。低温でじっくり揚げるからパン粉が焦げない。

今は人気の繁盛店となったが、実は2年前まで、閑古鳥が鳴いていたという。

「最寄り駅から離れた立地なので、広告を兼ねてみんなに知ってもらうためにウーバーイーツを始めました」(オーナー・野瀬徹さん)

この日もウーバーイーツの注文が。注文と一緒に、配達員が引き取りに来る時間も表示されるから、店はそれに合わせて作っておけばいい。コロナで客足が途絶えた時はまさに救世主。ウーバーイーツの注文が殺到し前年の2.5倍を売り上げたという。

では店はウーバーイーツにいくら支払っているのか。

「売り上げに対して35%です。その分、商品価格に上乗せさせてもらっています」(野瀬さん)

店で「ロースカツ定食」は1800円だが、ウーバーイーツのメニューでは2100円。こうして利益を確保しているのだ。

ウーバーはサンフランシスコ生まれのアメリカ企業。日本でサービスを開始したのは4年前だが、出前代行の会社ではない。注文を受け付け、飲食店と配達員に情報を流すビジネス。出前したい飲食店と、配達で稼ぎたい人を結びつけるマッチングの会社だ。配達員は14万人以上。大勢が街に出て仕事を待っているから客に早く届けることができるのだ。

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配達員14万人以上の最大手~高級店も続々と加盟

コロナをきっかけに配達を始めた人も多い。大手化粧品会社に勤めるナナさん。コロナの影響から在宅勤務になったのを機に、副業でウーバーイーツの配達員を始めた。

「コロナがなければ副業は考えていなかったです。時間もできたし運動不足もあるので、気分転換で始めました」(ナナさん)

ナナさんは会社の仕事がない朝と夜、やりたくなった時だけ配達に出ている。そこで頼りになるのが配達員専用のアプリだ。開くとGPSで今、自分のいる場所が表示され、出発ボタンを押せばその瞬間から仕事を受けられるようになる。

「(他の仕事は)2週間前にシフトを提出しないとダメ、朝と夜だけシフトに入るのはできないので、好きな時にできるのがメリットだと思います」(ナナさん)

アプリを起動して5分、注文が入った。すると画面には店までの地図と所要時間が。店には前もってウーバーから注文が入っているから、出来たてを受け取るだけだ。次の画面は配達先までの地図。ここまでアプリが指示してくれるから、初めての人でも配達できる。

結局、ナナさんは注文を受けてから20分ほどで届け先に到着した。矢継ぎ早に配達をこなし、体が空いたところで向かったのはマクドナルドの前。実はここが稼げる大人気の待機場所なのだ。

「だいたい2キロ圏内ごとに1店舗あるので、長距離の配達にはならないんです」(ナナさん)

長い距離の配達より回数を増やした方が稼げるという。実際、マックの届け先はすぐ近所で、この配達は狙い通りわずか5分で完了した。その報酬は413円。この日は2時間で4回配達し、1700円ほどの収入になった。

「ランチ代です。この分が豪華になります」(ナナさん)

ウーバーイーツの拠点は東京・渋谷にある。そこであちこちの名店からウーバーイーツでおやつを取り寄せていたのが、ウーバーイーツ日本代表・武藤友木子だ。武藤は代表に就任して2年半で、加盟店を20倍にまで増やした急成長の立役者だ。

「チョコレートケーキ、焼きそば、たこ焼きと、何でも運べるようにしました。圧倒的な種類の多さ。可能性は無限大です」(武藤)

武藤が最近、力を入れているのが高級店の開拓だ。

東京・港区の「ウルフギャング・ステーキハウス」六本木店は、皿ごと焼き上げる熟成肉のTボーンステーキが名物。ニューヨークからやってきた味も値段も超一流のステーキハウスだ。4月からウーバーイーツに加盟。これまでのウーバーイーツのボリュームゾーンは2000円から3000円ほどだったが、「ステーキ(2人前)」は2万8002円(配送料別)だ。加盟を決めたWDIの清水謙社長は、始めてみて注文の多さに驚いたと言う。

「4月から8ヵ月の売り上げは1億円以上。他の出前会社と比べてもウーバーの注文が多いです。『これは手数料が下がらない』と思うくらい突出しています」

ウーバーイーツと 手を組みたいという飲食店は増え続け、サービス開始から4年で加盟店の数は7万店を超え、デリバリー業界でトップを走っている。

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加盟店が20倍に増えた~店も配達員も儲かる秘密

ウーバーイーツの象徴ともいえるのが料理を運ぶバッグ。実は毎年のように、進化を遂げている。

「例えばタピオカティーが流行したから、ドリンクホルダーを付けました」(武藤)

また、従来のバッグではピザの注文が入った時に入れることができなかった。そこで手直ししたのが、バッグの下の部分。蛇腹にして引っ張り出せるようにし、大きなピザも水平のまま運べるようにした。「常に改善です」と武藤はいう。

東京で生まれた武藤は、社長だった父親に憧れ、自分も社長になると勉強を頑張った。大学を卒業後は大手外資系コンサル企業に入社。寝る間を惜しむ働き方で自分を磨いた。

「月、火、水の睡眠が40分、木曜は徹夜で金曜が最終報告会。それが一番タフな1週間でした。やり抜く根性というのを学びました」(武藤)

やがてITバブルが到来すると、武藤もその波に乗ってコンサルをやめ、25歳にして友人とBtoBのマッチングサービスを行うIT企業を起こした。事業は軌道に乗ったが9ヶ月で楽天に売却。武藤自身も楽天に移り、統括本部長として活躍した。

その後は、グローバル企業を渡り歩き、グーグルの新規顧客開発・日本代表も務めた。

そんな武藤に2018年、ウーバーイーツの日本代表にならないかと声がかかった。しかし、その頃のウーバーイーツは東京・神奈川・大阪の一部地域だけで展開する先の見えないベンチャー企業だった。

「まだ海の物とも山の物とも分からない状況でしたが、絶対にこれは大きくなる。使っていて便利だったので、「みんなに知ってもらいたい」という使命感がありました」(武藤)

とにかくウーバーイーツを広げなければならない。鍵を握るのは配達員の確保だと考えた武藤は、配達員のモチベーションをアップさせる手を打っていく。

例えば去年からチップがもらえる機能を導入。前述のナナさんも「モチベーションになります」という。だいたい4人に1人はチップをくれるという。

さらに、稼ごうと思えば稼げるシステムも取り入れた。鈴木優さん(41)は配送ドライバーをやめ、ウーバーの専業配達員となった。収入は「多い時で月70万円」と言う。

稼げる秘密の一つが地図にあった。注文が殺到しているオレンジ色のエリアで配達すると、報酬が上乗せされるのだという。さらに「月曜から木曜の4日間で80回配達すると1万1070円のボーナスが出ます」(鈴木さん)。配達回数をクリアするごとにボーナスを用意。鈴木さんは昼過ぎからから終電まで毎日出動し、配達80回を目指してペダルを漕ぎ続けている。

さらに、配達員達が待ち望んでいた新たな仕組みも作った。専用の保険だ。対人、対物、配達員の傷害補償の保険料をウーバーイーツが負担する。

こうしたあの手この手で配達員を増やし、配達エリアを32都道府県まで拡大させた。

「こういった新しい働き方が増えるのはうれしい。「やった」という感じがします」(武藤)

エリアが広がると、意外なところからも声がかかる。武藤が向かった先は100店舗以上を展開する雑貨店フランフラン・青山店。食品を扱っていない店の初めての加盟だ。買える物はまだ限られていて、インテリアにもなる加湿器やアイスコーヒーなどに使えるタンブラーなど30品目。これらを注文すると30分で届けてくれる。

「プレゼントの需要として、自分が受け取り渡しに行くこともできるし、直接贈りたい相手に届けることもできます」(武藤)

プレゼントには欠かせない機能も追加。希望すればラッピングもしてくれる。

「料理に限らず、『今これが欲しい』というニーズを満たせるサービスに進化して、毎日使ってもらえるサービスになっていきたいと思っています」(武藤)

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事故や配達マナーに批判も~直面する課題への対応は?

若者に人気の街、東京・三軒茶屋。駅前のマクドナルドの前には数多くのウーバーイーツの配達員が待機していた。通称「ウーバー地蔵」。道端で地蔵のようにじっとしてただひたすら注文を待ち続けるのだ。なぜこんな事になってしまったかというと、配達員のひとりは「配達員が1年前と比べると増えて、仕事の取り合いになり稼ぎにくくなっています。夏は月収40万円ほどだったが、10月、11月は20万円ほど。30万円はいかない。10万円以上月収が落ちました」という。

すさまじいスピードで拡大する一方で、ウーバーイーツには様々な課題も生まれている。

例えば配達員の事故。一部で問題のある交通違反も報じられたが、前述の鈴木さんも事故にあっていた。

「ウーバーイーツが日本に上陸したから生活ができているので感謝していますが、一回事故を起こしました。何のケガもなく相手もケガはなかったのですが、その時のウーバーイーツの対応は他人事でした。雇用されているわけではないので仕方ないですが」(鈴木さん)

配達員は全員、個人事業主という扱い。ウーバーイーツとの間に雇用関係はなく、事故の時に責任を取る関係にもないとされる。それでも保険を導入し、鈴木さんの事故でも保険金はおりたが、事故相手との交渉などはノータッチだったという。

また、利用した人からは、「Uber Eats頼んだら、配送30分ぐらい遅れたうえに、スープをこぼされてグチャグチャになっていたから、受取拒否したら、マンション共有部分に投げ捨てられていた」などという声も。少数派とはいえ、マナーの悪い配達員がいたことは事実だ。

真面目な配達員はこの状況について、「正直、迷惑です。一部のマナーの悪い配達員が少なくなるよう、ウーバーイーツには働きかけをしてほしいと思っています」という。

さらに、ウーバーイーツのユーザーである小池栄子もこう言う。

「届いたものが間違っていた時があって、すぐ配達員に電話をしたら、英語のアナウンスが流れて配達員と連絡が取れなくなっていました。やきもきした思いをどこにぶつければいいのか......」

これらの声について、スタジオで武藤は次のように語っている。

「まだまだ改善の余地がありますが、いろいろな声が届くたびに、新しい教育プログラムを入れたり、配達を始める前に気を付ける項目をチェックリストにしています。(配達員と連絡が取れなくなったことに対しては)お客様相談室を設けて、そこに連絡できるようにしました」

~村上龍の編集後記~
利幅は薄いらしいですが本当ですか。武藤さんは「本当です、だから店舗数や注文件数のスケールをとっていかないと」と答えた。あのロゴが入っているカバンはよく目立つ。わたしには無理だなと思う。配達員は個人事業主だ。Uber Eatsに雇われているわけではない。だから不安定で悪さをする人もいるし、だから自由だとも言える。自由な生き方を求めている人が増えているとも言えるし、自由な生き方しかできない人が増えているとも言える。わたしたちはUber Eatsに、本当に自由に生きたいのかと試されている。

<出演者略歴>
武藤友木子(むとう・ゆきこ)東京都生まれ。1998年、大手外資系コンサル会社入社。2000年、友人とIT企業を起業、楽天へ売却、楽天へ転籍。その後、トラベルズー・ジャパン社長、オープンテーブル社長などを経て、2017年、グーグル合同会社にて新規顧客開発 日本代表に、2018年ウーバーイーツ日本代表就任。

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