「低予算のホラー映画をナメてたら、めちゃくちゃ面白かった」最後まで見ると、そんな喜びが待っている:あなた犯人じゃありません

公開: 更新: テレ東プラス

白紙の状態からドラマ放送まで2ヵ月! 「企画と脚本を同時進行でやっていくためには、複数名の脚本家に書いてもらわなければならない!」 佐久間宣行プロデューサーの前代未聞の作戦により集められた土屋亮一西条みつとし根本宗子、冨坂友、福田卓也という新進気鋭の戯曲家・劇作家、放送作家はどんな苦労があったのか?

青春高校3年C組」(毎週月曜深夜0時12分放送)の生徒たちが出演する木ドラ25「あなた犯人じゃありません」(テレビ東京系・毎週毎週木曜深夜1時放送/BSテレ東では毎週火曜深夜0時放送)が、数々の困難を乗り越え完成するまでの裏話を、佐久間Pと、脚本家陣を代表して土屋さん(第1、7、8話担当)、冨坂さん(第2、6話担当)が語る鼎談。出会いから起用の理由、今回のオファーまでを聞いた「前編」に続く「後編」をお届け。

anahan_20210127_01.jpg写真左から、土屋亮一さん、佐久間宣行プロデューサー、冨坂友さん。

問題が起きるたびに脚本の書き直し!?

――クランクインまで1ヵ月を切るというタイトなスケジュールの中、具体的にどのような流れで脚本を書かれたんですか?

冨坂「まずトリック単体のアイデアをたくさん出していただいて、どの話のどこに当てはめるかを決める作業があって、そこから書くという流れでした。第2話に関しては、ご提案いただいたトリックも使いつつ、それだけだと成立しないところがあったので、ミステリー好きの友人に取材して自分なりのトリックを足したりしました」

土屋「僕は第1話が上がって、1話の撮影中に残る7、8話を書いていました」

――トリックの部分以外で気を配られたところは?

冨坂「学校を舞台にしていますが、"高校生らしさ"はあまり意図しないようにしました。佐久間さんから教えていただいた3Cの生徒たちのキャラクターを優先しつつ、話し方や考え方など子ども向けのドラマに見えないよう意識しましたね」

土屋「僕は、あのくらいの年齢の子がわちゃわちゃする作品は好きなので、ひたすら楽しくやらせてもらいました(笑)」

anahan_20210127_02.jpg第3話より

――登場人物のキャラクターについては、佐久間さんいわく、プロットの段階では主人公の相棒となる刑事役の山崎樹範さんもキャスティングできていなかったので「最初のうちはふわふわしていた」と。

佐久間「最初はみんな想定で書いてきてましたよね」

冨坂「それぞれイメージする刑事像が違ったと思います」

土屋「僕は幸い『青春高校』でコントを書いたことがありましたし、番組も観ていたので、3Cの生徒たちのキャラは何となくわかっていて。それに第1話担当だったから、最初にイメージを決められるのでそこまで苦労は無かったんですけどね」

佐久間「でも土屋くんは、自分が書いた1話に最後苦しめられることになる(笑)。伏線の回収に苦労してたよね?」

土屋「そうですね。自分で伏線を張っておきながら(笑)」

――冨坂さんが苦労されたところは?

冨坂「ドラマの仕事が久しぶりだったこともありますが、尺とかボリュームには苦労しましたね。第2話は推理して実証して、というのを何回か繰り返す展開だったのですが、尺を大幅にオーバーしてしまって。監督から『10分くらいオーバーしてる』と言われて、最後の最後に調整してセリフやシーンを切りました。舞台で3分やるくらいのボリュームで書いたら明らかに多過ぎました」

佐久間「劇作家さんに脚本をお願いして、自分の劇団のテンポで書くと大体そういうことが起きますね」

土屋「短すぎるってことはないですね。大体、長くなる(笑)」

佐久間「普段であれば監督が切るんですが、ミステリーだから整合性や伏線の問題もあって、今回はそうはいかなかった。すごくタイトなスケジュールだったので大変申し訳なかったんですが、何か問題が起きるたびに脚本家さんに相談して書き直していただきました」

土屋「そんな中、冨坂さんの直しは早いな~と、いつも感心してました」

冨坂「早いかどうかはわからないですが......プロットの段階までは苦労しましたが、打ち合わせの段階で佐久間さんや、謎監修の矢野(了平)さん、鈴木(秀明)さんと細かい点まで話すことができたので、いざシナリオを書く段階になるとバーッと書けた印象があります。普段ゼロから考えているのと比べるとやりやすかった。舞台で台本を書くのと何か違ったかと言われたら尺とかボリュームのことくらいで、割と困らずに書けましたね」

ドラマ脚本における劇作家"あるある"

anahan_20210127_03.jpg第3話より

――ドラマの場合、実景やら何やら脚本では見えない情報も挟みこまれますから、舞台とは尺の感覚が違うでしょうね。

佐久間「いくら(人物の動きを指定する)"ト書き"と(場所や時間を指定する)"柱"が増えても、演劇は"見立てる"からそれでできるけど、ドラマの場合そうもいかないので」

土屋「もう少し画(え)変わりするシチュエーションにすればよかったな、という反省もあります」

佐久間「ワンシチュエーションにいきがち、というのもドラマ脚本における劇作家の"あるある"で。とはいえ、今回はコロナ禍でもありバジェットの都合もあってロケ先やセットを増やせなかったから、物理的な問題で撮れなくなり何回かお戻ししたこともありました。それも申し訳なかった。あと、演劇ではあまりやりませんが、カットバックで見せるというのも入れてもらったり」

――カットバック=追う刑事、逃げる犯人など対照的な2つの場面の切り返しで盛り上げる手法ですね。

佐久間「演劇は芝居で見せられる役者さんたちが揃っているので、カットバックしなくても成立するんですよね。その点、今回は演技経験のない10代の子ばかり。『芝居の力量的にもう少しカットバックで見せたいです』という注文もさせてもらいました。そうしたら最終的にあの子たちが成長して、結構できるようになったんですけど」

anahan_20210127_04.jpg第3話より

――2~3人ならよく見かけますが、今回はひとつの作品に脚本家が5人。しかも旬の劇作家、放送作家がズラリ。同じ作品を手掛けることで、ぶっちゃけ他の作家の書く内容が気になったりはしませんでした?

土屋「佐久間さんのラジオ(『佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)』)を聴いていると、根本宗子の名前ばっか出てくるんでそれは気になりましたね。"あれ、俺の名前は?"って(笑)」

佐久間「土屋くんの名前はこれまでも散々出してるから(笑)。リスナーから"またか"と思われちゃう」

冨坂「僕は、真面目な話をすると、他を意識するような余裕がなかった、というのが正直なところでしたね」

佐久間「ホントだよね。"マジで間に合わないんじゃないか!?"って」

冨坂「だから人より面白いのを書いてやろうとか、そういうライバル心もなかったです。担当回の前の回の台本が送られてくるので、これをどうつなげるか確認するだけで。佐久間さんのオーダーに応えるのでいっぱいいっぱいでした」

土屋「いや~、わかります。マジでヤバかったです」

佐久間「時間的な余裕が一切なかった。まず脚本を上げてもらう、キャラクターをキャスティングに合わせて変更してもらう、横軸の謎を入れ込んでほしいとオーダーがいく、また直ししてもらう......。さらに土屋くんに至っては、それを全部回収する最終話を書かなきゃいけない。しかも最初の脚本が40~50分くらいの分量があったので半分くらい削らなきゃなんなくて(笑)」

土屋「長いかな~とは思っていましたが、そんなにありました!?」

佐久間「直してもらった脚本も少し長かったから、最終的に編集で1つ前の7話の最後に最終回の脚本にあった要素を入れて。でもそれくらい内容のある、見応えのあるドラマになったと思います」

――脚本家さんで一番ご苦労されたのは?

佐久間「根本さんが苦労されていました。なぜかと言えばミステリーに対する興味が全然なくて、知識ゼロだったんで(笑)。あとは土屋くんの7、8話。本当に間に合わない! 『土屋くん一緒にがんばろうよ』と、すごい勢いで書いてもらって。何とか形が見えてきた時に1話がクランクインして、現場の情報をもらいながら7、8話を直してる途中、緊急事態宣言で撮影が休止になるという」

土屋「脚本の段階では"時間がない!"と言いながらやっていたのに、今度は撮影が休止になって時間ができて。できたらできたで直しがたくさんやってきました(笑)」

佐久間「監督って欲張りだから(笑)、"もっとよくしよう!"って。いいことなんですけど、監督の要望も聞いてたらとんでもない分量になっていって、それを土屋くんに調整してもらって。でも結果、めちゃくちゃよくなりましたけどね。3Cの成長も重なって、ものすごくよくなった」

劇作家のテレビ進出、演劇界のこれから

anahan_20210127_05.jpg第3話より

――舞台とは違ったドラマ脚本ならではの面白い部分はありましたか?

冨坂「セリフがなくてもパッと画で見せられるので"展開がどんどん速くなるな""省略をすることができるな"と、やりながら気づいた部分があったので、この感覚を忘れないうちにもう少しやってみたいです。これまで以上に映像作品にも興味が湧いています」

土屋「僕は逆にシーンを飛ばすのが苦手なんですが(笑)、自分で演出もやる演劇と違って、自分の手を離れて育っていく過程が面白いと思いますし、脚本の段階で思い描いた自分のイメージを超えたものが出来上がってくると『おおっ!』っとなるんですけど、今回は逆に思い描いていた通りの画になっているシーンが多くて、それはそれでまた違った感動がありましたね」

佐久間「自画自賛するのもなんだけど(笑)、こんな面白くなるとは思わなかった。いろいろ無理言った矢野さん、鈴木さん、脚本家のみなさんには本当に感謝したいです」

――昨年5月にコロナ禍におけるドラマ制作の現場についてテレ東のドラマP陣に取材した際、「いろんな制約が増える中、ワンシチュエーションで面白い会話が書ける舞台系の脚本家や演出家が増えてくるのでは?」とおっしゃっていたのですが、佐久間さんは劇作家さんの魅力、テレビ進出をどう思われますか?

佐久間「僕はドラマの脚本家さんを知らないし、演劇が好きでずっと観てきて、劇作家の作風がわかりやすいからお願いすることが多かったんですね。今回の企画にも、そんな理由で参加していただきましたが、やはり劇作家の魅力は"セリフ"だと思います。目の前の観客とダイレクトに向き合っている人が多いので、セリフの強度があるんですよ。テレビも配信時代になってコンテンツがすごく増えているし、脚本家が足りないし、かと言って面白くない人よりも面白い人の方がいいし。これからもっと、劇作家のテレビ進出は増えると思います。あと、書ける芸人さんですね」

―― 一方、コロナの影響によりなかなか公演が打てなかったり、観客の人数制限を余儀なくされている演劇界はこれからどうなると思いますか?

冨坂「僕はもともとどんどん配信をやっていけばいいなと思っていたクチなので、今後も公演と配信で上手く共存できればいいなと思っています」

土屋「考えようによってはいい機会でしたよね。これまでなかなか足を運べなかった地方のお客さんにも観ていただけて」

冨坂「これまでは何度か上演してそれでお終いだった演劇作品のアーカイブが残る。これもメリットだと思います」

――では最後に、佐久間さんから「あなた犯人じゃありません」をご覧になる視聴者にメッセージをお願いします。

佐久間「3年C組の生徒たちの力量とテレビ東京の深夜のバジェットを考えると最大限やれることはやりました。"面白くなってくれたらいいな"と願いつつ、全力で作りましたが、ひいき目抜きで本当に面白いドラマになったと思います。低予算のホラー映画をナメてたら、めちゃくちゃ面白かった。最後まで観ていただいたら、そんな驚きと喜びが待っていると思いますので、ぜひご覧ください!」

【プロフィール】
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
1975年生まれ。福島県出身。テレビ東京プロデューサー。早稲田第学卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで経験を積みながら、入社3年目にしてプロデューサーに。『ゴッドタン』のプロデュース・総合演出を務めるほか『有吉のバカだけどニュースはじめました』『あちこちオードリー』などを担当。ラジオパーソナリティのほか活躍範囲を広げている。

土屋亮一(つちや・りょういち)
1976年生まれ。東京都出身。國學院大学在学中、放送サークルでラジオドラマを執筆。卒業後の1999年に劇団「シベリア少女鉄道」を設立。以後、全作品の脚本・演出を担う。『ウレロ☆』シリーズ、『SICKS 〜みんながみんな、何かの病気〜』(ともにテレビ東京)、『LIFE~人生に捧げるコント~』(NHK)など多数の脚本を手がけ、劇団活動以外にも活躍の場を広げている。

冨坂友(とみさか・ゆう)
1985年生まれ。千葉県出身。国府台高校文化祭のクラス演劇で演劇に出会い、高校卒業後にオリジナルのシチュエーションコメディを創作するため「アガリスクエンターテイメント」を旗揚げ。2014年度サンモールスタジオ最優秀演出賞、黄金のコメディフェスティバル2014最優秀演出賞、黄金のコメディフェスティバル2015最優秀脚本賞など数々の賞を受賞した若き先鋭。

(取材・文/橋本達典)

次回1月28日(木)深夜1時から放送の木ドラ25「あなた犯人じゃありません」第3話は?

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第3話

学校で起こった殺人事件を担当する刑事・五島ケイジ(山崎樹範)とそのバディとなった3年C組のクラス委員長・日比野芽奈(本人)。
嘘をついてまで犯人だと名乗り出る生徒たちに、疑問を抱く日比野たち。次に現れたのは兎遊(本人)。ボールドウィン零(本人)が犯人だと告発してきたのだ。
事件当日、学校でYouTube用に撮影した映像に、プールから走って逃げる零の姿が映っていたと告白する兎遊。真実を確かめるため、零に話を聞くと、犯人だと認め...

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