ピロリ菌、バリウム、内視鏡...胃がん早期発見のために本当に必要な検査

公開: 更新: テレ東プラス

木曜夜7時58分から放送の「主治医が見つかる診療所」は、第一線で活躍中の医師たちが、病院選びのコツや最新の健康法など、医療に関するさまざまな疑問に答える知的エンターテイメントバラエティです。

今回WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」で取り上げるのは、胃がんの原因として知られるピロリ菌について。同番組のレギュラー医師・森一博先生に、検査や除菌の方法などについても教えていただきました! 

ピロリ菌の感染は幼児期の衛生環境の良し悪しが関係

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Q:40代女性です。最近、ピロリ菌と無関係の胃がんや、ピロリ菌を除菌した後でも胃がんになるケースがあると聞き、今までの認識を改めなければならないと感じています。

ピロリ菌がいない場合でも、やはり50歳を過ぎたら定期的に胃カメラ検査(内視鏡検査)を行う必要はあるのでしょうか。それとも毎年受けていればバリウム検査だけでも大丈夫ですか? そもそもどんな人がピロリ菌に感染しやすいのでしょうか。

―― 先生、ピロリ菌を除菌することで胃がんの発症はどの程度抑えられるのですか。

「ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)は胃の粘膜に棲みつく細菌で、定着すると胃の粘膜に炎症を起こして胃炎を発症させます。この胃炎が10年20年と続くと胃粘膜は徐々に薄くなって萎縮し、その萎縮した胃粘膜には胃がんが発症しやすくなります。ですから胃がんとピロリ菌には密接な関係があります。

胃炎と診断された人を対象にした調査では、10年間で胃がんになった人の割合が、ピロリ菌に感染している人では100人に3人、ピロリ菌を除菌した人でも100人に1人というデータがあります。ピロリ菌の除菌治療を行うことで胃がん発症のリスクをおよそ3分の1に軽減できるわけですが、除菌治療をしてもゼロになることはないのです。」

―― なぜピロリ菌に感染してしまうのですか。

「ピロリ菌の感染は0~5歳のときの衛生環境の良し悪しが関係しています。これは胃の粘膜の免疫が未熟な乳幼児のときに水や食物を介してピロリ菌が口から入り、棲みついてしまうからなんですね。ですから大人になれば感染の心配はほとんどありません。

日本でのピロリ菌の感染者数はおよそ6000万人といわれています。年齢が上がるとともに保有する人が増える傾向があり、10~20代では10%前後ですが、50代で約40%、60代以上で約60%と感染率が徐々に高くなります。

60代以上の方に保有者が多いのは戦中あるいは戦後すぐの頃に生まれていることなど、国内の衛生状態が今より良くなかったことが関係していると思われます。保有率は年齢層によって差がありますが、地域差などはみられません。」

―― ピロリ菌に感染していなければ胃がんの心配はしなくていいのでしょうか。

「たしかにピロリ菌がいたほうが胃がんになりやすくなります。胃がんの9割以上はピロリ菌が原因といわれていますが100%ではありません。つまりピロリ菌が陰性の胃がんの方が1割くらいはいるわけですから、それもまた問題なのです。

"ピロリ菌に感染していなければ大丈夫" と言えないのは、ピロリ菌は条件がそろっていないと生存できないからです。たとえば、胃炎が長年続いて胃粘膜の萎縮が高度になると、ピロリ菌が棲めなくなるほど胃の中の環境が悪くなっている場合があります。胃の粘膜が薄くペラペラになって菌が寄生できなくなってしまうんですね。そうなるとピロリ菌検査をしても陰性になるのですが、じつはこのタイプの慢性胃炎が最も胃がんになりやすいので要注意なのです。

ちなみに、ピロリ菌(+)萎縮性胃炎と比べて、ピロリ菌(-)萎縮性胃炎は、約6倍がんになりやすくなります」。

内視鏡とレントゲンによる検査を交互に受けるのがおすすめ

doctor_20210120_02.jpg画像素材:PIXTA

―― やはりピロリ菌検査は受けておいたほうがいいのでしょうか。会社や自治体の健康診断でバリウム検査をしていれば問題ないですか。

「検査は症状のある・なしにかかわらず受けたほうがいいですね。ただ、ピロリ菌の検査だけでは治療したほうがいいか、する必要がないかを決められません。検査結果が陰性でも前述したように気をつけたほうがいい人がいるので、ピロリ菌検査にプラスして内視鏡検査(胃カメラ)を行い、治療が必要かどうか見極めることが大切です。

もちろんバリウム検査(レントゲン検査)にも良いところがあります。レントゲンは上部消化管全体の状態がわかり、簡単で時間もあまりかからず料金も安いので、集団健診に向いています。受ける機会があればぜひ利用してもらいたいのですが、ただ、毎年のバリウム検査だけでは、たとえば食道や十二指腸あたりを含めた病変がなかなか見つからないときがあるんですね。できれば内視鏡検査、あるいは1年ごとに内視鏡とレントゲンによる検査を交互に受ける方法がおすすめです」。

―― 内視鏡検査の優れているところはどんな点ですか。

「内視鏡は胃を通過して十二指腸の中まで見ることができるので、喉、食道、胃、十二指腸までを直にきれいな画像で確認できるのが最大の利点です。とくに食道や喉の病変はレントゲンではなかなか写りにくいのですが、内視鏡なら5ミリくらいの小さな薄っぺらな形をしたがんも見つけることができます。

ピロリ菌とは関係なく、中には胃液(胃酸)が食道に逆流する逆流性食道炎が原因となって起こるがんもあります。逆流性食道炎が長年続いていると、食道粘膜をこれ以上傷つけないようにするために、酸に強い胃の粘膜が食道の中に入り込んでいきます。

この胃粘膜はバレット上皮と呼ばれています。バレット上皮は食道の中に侵入した不安定な粘膜なのでがんを発症しやすく、正常の人と比べると約11倍もがんができやすいことがわかっています。内視鏡検査はこうしたがんの早期発見にもつながります」。

―― ピロリ菌検査はどんな方法で行われるのですか。また陽性だった場合の治療について教えてください。

「ピロリ菌の検査には内視鏡で胃の組織を採取して調べる方法と、吐いた息や血液、便を調べる方法などいくつかの検査方法があります。受診する医療機関によって異なりますが、内視鏡検査とセットで受けることが大切です。検査や除菌治療にかかる費用は、内視鏡検査で慢性胃炎と診断がつけば保険診療が適用されます。

ピロリ菌の除菌治療については、1種類の胃酸の分泌を抑える薬と2種類の抗菌薬を7日間内服する方法です。健康保険上では1回目の治療が不成功でも2回目が可能で、その除菌率は約95%です。

内視鏡検査をしたくない、あるいはピロリ菌に感染しているかどうかだけを知りたい場合には、今はインターネットなどで申し込める検査キットがあります。ただ、それだけを調べてもあまり意味はなく、全額自費扱いになるので料金も割高になる可能性があります。

最後に注意点として、除菌治療前に細胞レベルでがん化が始まっている場合があり、除菌治療後2〜3年経ってから胃がんが見つかることがあります。除菌治療後、とくに5年間は、定期的に内視鏡検査を受けておくことが重要です。」

―― 森先生、ありがとうございました。

【森一博医師 プロフィール】
獨協医科大卒業。祖父は人間ドックの考案者・坂口康蔵医師。
獨協医科大学内科 特任教授
日本内科学会認定内科医・指導医
日本消化器内視鏡学会専門医・指導医
日本消化器病学会専門医・指導医
日本大腸検査法学会評議員
米国消化器内視鏡学会会員
医学博士

※この記事は森一博医師の見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った森先生も出演する主治医が見つかる診療所SP(1月21日木曜夜7時58分)は【芸能人ドロドロ血液ドック&冬の冷え・乾燥解消】!

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