33年連続増収増益を実現! 家具の王者・ニトリが大変貌した秘密:読んで分かる「カンブリア宮殿」

公開: 更新: テレ東プラス

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安いだけじゃなかった~主婦熱狂! 便利商品が続々

長引くコロナのダメージで大手企業も試練の時が続いている。しかし、そんな中にあっても絶好調の企業がある。家具業界の王者、ニトリだ。

東京・北区のニトリ赤羽店。最大の魅力はやはり安さだ。女性2人組が買っていた「レディース木製ハンガー」は、5本セットで399円。特にお気に入りが滑りにくい素材で出来た「すべりにくいアーチ型ハンガー」(3本セット304円)だという。

別の女性客のお薦めは布で出来た「カット式 台ふきん」(42枚入り199円)。1枚ずつ切り離し、洗うこともできる使い捨てのふきんだ。

肘掛の角度が変わるソファベッドは3万454円。テーブルに椅子とベンチがついたダイニングセットは3万2890円。ラグは一番大きいサイズでも5990円だ。

家具や日用品はもちろん、ベビー用品も売っている。ベビーカーは7546円と破格。さらにオリジナル家電のコーナーでは外からスマホで操作できるエアコンが4万9900円(6畳用)だった。

だが最近のニトリは安いだけではない。商品に機能性という新たな武器が加わっている。

例えば「滑り止め加工 木製トレーL」(1690円)はカップを載せて傾けても落ちない。滑りにくくなる塗装を施し、運びやすくしたのだ。

また、耳用の穴がついた横向きに寝やすい「横向き寝促進まくら」(5084円)は、横向きに寝ると気道が圧迫されず、いびきをかきにくくなるという。

さらに「Nグリップ掛け布団カバー」(2027円、シングル)には、普通の布団カバーには付いている「取り付け紐」が付いていない。その代わりに、カバーの内側に超極細の繊維でできた布が付いていて、この摩擦力の効果で、マジックテープで付けたように布団がずれなくなるという。

「こんなものが欲しかった」という客の気持ちに応えてくれる機能的な商品を続々開発し、ニトリらしいお値打ち価格で販売しているのだ。

一代で6000億円企業を築いたニトリホールディングス会長・似鳥昭雄(76)が店舗視察のため東京・練馬区ニトリ成増店を訪れた。

さっそく部屋のコーディネートを提案する売り場でダメ出しが始まった。テーブル単体の値札はあるが、椅子を合わせたセット価格が出ていない。客が最も気になる値段なのに不親切だと怒ったのだ。

「計算をするのが大変。セット価格を上に乗せておけばいいのに」(似鳥)

怒ったのは客目線が足りないから。徹底して客の立場で考えるのがニトリのやり方だ。

200億円商品だらけ~大ヒットが生まれる秘密

ニトリの商品はどうやって世に出るのか。今回、特別に取材許可がおりた。集められたのは来年発売予定の新商品およそ50アイテム。これを会長の似鳥に直接プレゼンする。本当に客が求めるものかジャッジしてもらうのだ。

例えば飲み物を冷たいまま保存できるペットボトルホルダー。実は似たような商品を他社も作っている。だが、ホルダーを持ってふたを開けようとすると、ペットボトル本体が動いてしまい開かないのだ。そこでニトリのホルダーは「ある方法で本体とホルダーを固定」して開けられるように。こうした客が喜ぶ商品を続々投入。この「お値段以上の機能性」こそ、今のニトリの基本戦略なのだ。

「『安かろう』ではダメで、プラス機能性が付いてくる。今はそういう世の中です。お客が希望するのであれば機能性商品をつくらなければならない」(似鳥)

そんなこだわりを持つ似鳥だからこそ生まれた大ヒットシリーズが、客目線に立って求められている機能をプラスしたワンランク上の「Nシリーズ」。ニトリの「N」をあえて冠した絶対の自信を持つシリーズだ。

その代表が、寒い冬向けの大ヒット商品「Nウォーム」。汗などの湿気で暖かくなる繊維を使った寝具のシリーズで、この機能性が受けて年間売り上げは200億円。真逆の夏向け商品、触るとヒンヤリする「Nクール」も年間200億円。さらにはマットレス「Nスリープ」も年間200億円だ。最新作では中のコイル1本1本を細くし、これまでの3倍の量を入れた。これで寝そべった時の体圧をより細かく分散できるようにした。

こうした大ヒットを生みながらニトリは33年連続増収増益。2020年はコロナの影響から休業期間があったのに売り上げは過去最高7000億円を超える見通しだ。

そして今、この時も新たな機能性商品の開発を進めている。上海から車で3時間、江蘇省の帝人フロンティア研究開発施設。繊維メーカーの帝人とタッグを組んだ開発現場だ。 ここで開発を進めているのが、これまでにない性能の熱を蓄えない糸。この糸で作ろうとしているのが、来年の夏用の光も熱も通さない一石二鳥の遮光・遮熱カーテンだ。完成すれば、外からの熱が入らず、夏場のエアコン代が2000円以上安くなる見通しだと言う。

原料から開発し、世の中に無いものを作るニトリのやり方に、タッグを組んだ帝人フロンティアの家原重隆さんも「他の小売り企業さんも頑張っていると思いますが、さらに掘り下げて開発しているのがニトリさんじゃないかと思います」と、驚きを隠さない。

大成功を手にした似鳥だが、一方で、後に続く人たちへの思いも強い。

「若い人や社員に夢と希望を与えられる企業になりたいと思っていました。長期的なビジョンを立てれば、不可能に思えることも達成できるんだ、と」(似鳥)

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業界騒然! 驚きの買収劇~知られざる本音を独占告白

昨年10月末、ニトリが突然、記者会見を開いた。会場には多くの報道陣が詰めかけ、似鳥の言葉を待っていた。

発表したのは、都内を中心に展開するホームセンター「島忠」の株式公開買い付け。「島忠」はホームセンター大手「DCM」との経営統合目前だったのだが、そこにニトリが割って入ったのだ。

買収金額2000億円を超える大勝負。「ニトリと同じことをやればいいんです。業種が違うだけで、全部応用できる。極端なことを言うと、僕はどんな流通業でも食品業でもやれる自信があります」と言う似鳥に、スタジオであらためて買収の真意を聞いた。

「ニトリは家の中の物が多い。島忠は家の外のキャンプ用品、園芸用品などニトリが扱ってない分野も多くある。総合的に外も内も家に関連する商品を扱いたいと昔から思っていました。また、島忠は一等地に広い面積がありますから」

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もはや安いのは当たり前~イメージを変えた新戦略

ニトリ赤羽店の一角に洋服売り場がある。中高年の女性から「服を買う店がない」と聞き会長の似鳥が作った婦人服ブランド。ターゲットは30代から60代の女性だ。

最大の特徴は、多くの大人の女性が抱える体型の悩みを解消してくれること。例えば縦にも横にも伸びる素材を使った「マジックベルトストレッチパンツ」(2990円)。穿いた時に楽なだけではなく、下半身のラインがスッキリするという。もちろん、どれもニトリお得意のお値打ち価格だ。

客の喜ぶ商品を作って買ってもらう。似鳥はそれをずっと続けてここまで来た。

ニトリは1967年、札幌の1軒の家具店からスタート。開業当時はまったく売れず、少しでも安くして客を呼ぼうと奔走。そこで始めたのが、問屋を飛ばして中間マージンを省く、メーカーからの直接仕入れだった。

「メーカーに買いに行っても断られるんです。あんたのところには売れない、と。問屋は何十倍も買うのだから、と」(似鳥)

問屋から圧力がかかった。それでも似鳥は新たなメーカーを探し出し、夜中に商品を運び出すのだが、すぐにばれる。次のメーカー、次のメーカーと列島を南下し、ついに国内で仕入れ先がなくなると今度は海外へ。1994年にはいち早く工場を作って自社製造に乗り出す。

ひたすら安さを求め、手を打ち続けた結果、ニトリは企画から製造、物流に小売りまで一貫して行う世界でも例を見ない家具チェーンとなったのだ。

カンブリア宮殿に初登場したのは2007年。当時、似鳥がいかに安さを重要視していたかが分かるのが「1に安さ、2に安さ、3に安さと3番まで安さ。『品質』というと価格が高くなってしまう」という発言だった。

ターゲットは年収800万円以下の人たち。「お金持ちはどうぞ高級店へ」と言い放ったのだ。安売り路線は庶民に支持されニトリは急成長していく。

しかしその後、ある出来事がニトリに変化をもたらす。2008年のリーマンショック。アメリカから世界へ金融危機が広がり、日本では製造業がバタバタ倒れ、部品の調達コストがアップ。だがニトリは、値下げキャンペーンを断行。2年半に渡って4000以上の商品を値下げした。するとニトリには客が殺到、独り勝ち状態となったのだ。

しかし、その一方で客層には変化が起きていた。

「年収800万円以内がターゲットだったのが、年収600万円以下の人は来ても700万円~800万円の人が来なくなっていたんです。もっと品質の高い物はないかと言われ、どうすればいいか1年ぐらい悩みました」(似鳥)

このまま値下げを続ければ「安かろう、悪かろう」というイメージが定着してしまう。そこで似鳥は方針転換を決意。安さ一辺倒から、今まで4番目においていた「品質」を2番目に格上げし、重視すると宣言したのだ。

その姿勢の象徴とも言える品質業務改革チームが東京本部にある。来年発売予定のソファに勢いよく腰かける男たち。他の社員はそれを食い入るように見つめ撮影まで。今度はカッターで切り裂き解体。バラバラにすることで部品一つ一つをチェックしているのだ。

ひっくり返すとある場所で目が止まった。改善チームが目をつけたのはソファ本体と脚を接続する部分のネジ穴。そこに入っているネジ受けには頭に出っ張りが付いている。このソファでは板の下にネジ受けを入れ、そこに脚を接続していた。これでは力が掛かった時に、出っ張りが効かず下に抜けてしまう恐れがある。

そこで品質改善チームはネジ受けを板の上から入れるよう指示。これなら下から引っ張られても出っ張りが効いているから抜けない。

商品作りに妥協せず、完成した商品でも、もう一度1からチェックする。こうしてニトリは品質向上に挑み続けている。

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客が欲しいものを売れ~繁盛店をつくるトップ改革

ニトリには巨大店舗と並行してもう一つ増やしている販売チェーンがある。駅ビルなどに入っている、「デコホーム」だ。店内には生活雑貨がずらり。大型家具は置かず、キッチン用品やお掃除グッズなどに特化したいわば「ミニ・ニトリ」だ。

例えば「簡単取り込みハンガー」(1017円)は、雨で部屋干しとなっても、引っ掛ける部分がありいろいろな場所にかけられる。使い終わったらペシャンコになる「たためるバケツ」(1518円)は場所をとらない。「ちょっと便利な商品が、ぱっと寄って買える店」として重宝され、都心を中心に106店舗を超えるまで拡大した。

しかしこの「デコホーム」の売り上げはここ2年、伸び悩んでいると言う。

「前年比100%に届かないのはうちの中では非常に問題なんです」(デコホーム事業部・佐々木秀樹)

上向かない業績についに会長の似鳥自ら店舗改革に動き出した。

この日はさいたま市のルミネ大宮店に出向き、問題点をチェック。足を止めて見入ったのはルームウエアの売り場。ライバル店と差別化するために作った「デコホーム」のオリジナル商品だが、商品の撤去を指示。ニトリ本体では売れている商品でもお構いなし。すごい速さで判断し、撤去を指示していく。

「一番売れているのは家庭用品や厨房用品。その品数を増やしたほうがお客様に喜ばれる」(似鳥)

売れない商品を一旦減らし、その分、売れ筋の品揃えを増やそうと言うのだ。

「デコホーム」はライバルとの差別化で、様々なジャンルのオリジナル商品をどんどん作り、いろいろな物を置き過ぎるようになっていた。結果、肝心の売れ筋であるキッチン用品などの品揃えが悪くなり、売り上げ低迷という悪循環になっていたのだ。

「自分たちの判断で優先順位を決めてしまう。それは間違っている。自分の考えをゼロにして、まず『お客がどう思っているか』なんです」(似鳥)

似鳥からの大号令を受け「デコホーム」全店で、商品の大幅入れ替えが行われた。

以前は15種類しかなかった包丁は35種類まで増えた。やはり売れ筋の季節の寝具売り場は2倍の広さに。掃除用品売り場は3倍まで拡大、品揃えが段違いに良くなった。

この改革により、11月の「デコホーム」の売り上げは前年比で20%もアップした。

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欠点より長所を伸ばせ~似鳥流人材育成術

幼い頃からずっと抱えてきた悩みを、似鳥がテレビで初告白した。

北海道・余市町のニトリ観光果樹園で行われていたリンゴ狩り。その一団の中に似鳥がいた。これは東京大学の教授が始めた「異才発掘プロジェクト」のひとコマ。発達障害などの理由で学校に行けなくなった子どもたちに様々な経験の場を与え、人生の突破口を見つけてもらおうという取り組みだ。元々寄付を募って続いていたが、共感した似鳥は1億5000万円を支援すると決めた。

「やる気になってもらうことが一番重要だから。みんな自分の人生に悲観的だから、夢と希望を与えるのが私たちの仕事かな、と」(似鳥)

似鳥が入れ込む理由もある。

「勉強の成績は最低でした、先生の言うことが理解できなかった。真面目に聞こうとしても1分ぐらいで、その後は何を話しているのか分からない」(似鳥)

小学校の高学年になっても、似鳥は自分の名前を漢字で書けなかった。

「東大の先生のグループと会った時にそのことを話すと、『発達障害の特徴は漢字を書けない人が多いこと』と言われたんです」(似鳥)

似鳥自身も発達障害だったのだ。だからこそ、同じ悩みを持つ子どもたちの力になりたい。この日、参加者の前に似鳥は立ち、こんなメッセージを伝えた。

「100のうち99欠点があってもいい、一つの長所を探せばいい。違うことをやってみたら好きになるかもしれない、うまくできるかもしれない。勉強だけでなくて、違う経験、体験をしてみることが大事だと思うんです」

~村上龍の編集後記~
小学校から勉強はまったくダメ、就職も10社ほど回ったが全部断られて「死のう」と。他にやることがなくなり金を借りて商売をはじめる。ニトリの創業だ。だが対人恐怖症で接客ができない。すぐ傍に1200坪の競合店が。死ぬことばかり考えるようになるが、そのころアメリカ西海岸の視察セミナーがあり、参加して「ロマン」と出会う。製造物流小売という世界初、他に例を見ない業態になり、売上高6000億円に達する企業となった。
ただし似鳥さんには、ダメダメだったころの記憶がはっきりとある。だから、絶対に威張らない。

※ニトリが「珪藻土コースター」と「珪藻土バスマット」の一部商品に法令基準以上のアスベストが含まれていたとして、対象商品の自主回収を発表しました。対象商品についてニトリは、「通常使用をしている限り、直ちに健康被害があるものではない」としています。回収の時期や方法は、決まり次第、ホームページなどを通じて発表される見通しで、ニトリは「今後、より一層、品質管理体制の強化に努めていく」としています。

<出演者略歴>
似鳥昭雄(にとり・あきお)1944年、樺太生まれ、札幌育ち。1967年、似鳥家具店開店。2010年、ニトリホールディングス設立。2016年、会長就任。

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