「『青春高校』がやってるからって学芸会みたいなドラマにはしたくない」佐久間宣行P×矢野了平 対談後編:あなた犯人じゃありません

公開: 更新: テレ東プラス

青春バラエティ番組「青春高校3年C組」(毎週月曜深夜0時12分放送)の生徒たちが本人役で登場する学園ミステリー、木ドラ25「あなた犯人じゃありません」(毎週木曜深夜1時放送)が、2021年1月7日(木)スタート。

当初は2020年4月クール放送の予定だった本作。白紙の状態から放送までわずか2ヵ月という異例のスケジュール、無事クランクインしたものの緊急事態宣言により2日目にして撮影中止......など災難に見舞われたものの、お蔵入りの危機を乗り越え、9ヵ月遅れて放送が決定した。

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そんな本作で陣頭指揮を執る佐久間宣行プロデューサーと、かなりのムチャぶりによる"謎監修"を務めたクイズ作家・構成作家の矢野了平さんの対談。前編では、ドラマの成り立ちから脚本制作の過程をお聞きしたが、今回はクランクインして以降のご苦労、そして難産ゆえ愛着の深まった本作に対する熱い思いを聞く。

前編はこちら

災い転じて「演技力が伸びたからよしとしよう」

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――企画が決まってわずか1ヵ月余りで全8話の脚本が完成。3月にクランクインしましたが、撮影時のご苦労はありましたか?

佐久間「めちゃくちゃありましたよ。脚本がある程度見えてきて監督がロケハンに行ったら、お借りした学校にそんな場所はないとか。構造上は無理とか。そうなるとまた矢野さんに『あのトリック、無理だって!』と泣きついて(笑)」

矢野「ある場所から月が見えなきゃいけないのに『見えません!』っていうのもありましたね(笑)」

佐久間「そういうのを1個1個ツブしていって、ようやく第1話がクランクイン。1月末に企画が始まり、1話から5話まで全話脚本家を変えて(脚本は土屋亮一、西条みつとし、根本宗子、冨坂友、福田卓也が担当)、同時並行で作っていって。その裏では矢野さん、鈴木秀明さん(キャラメルボックスの元劇団員で俳優、ミステリー作家)という謎のプロたちが全体を通す大きな謎を作り。脚本の整合性をとりながらボロボロ飛び出す食い違いはみんなで話し合って直す。そんな怒涛の2ヵ月間でした」

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――いざクランクイン。主演の日比野芽奈さんをはじめ、3年C組のみなさんはいかがでしたか?

佐久間「みんな演技は素人なので、クランクイン1ヵ月前からワークショップを始めたら『この子の今の力量ではこのセリフ量は無理です』とか、どんどん問題が出てくるんですよ。だからセリフを減らしたり、サポート役の子を付けたり。逆に、ものすごく伸びた子はセリフを増やそうとか。その都度、脚本家のみなさんに書き直しをお願いしました」

――伸びしろがあった生徒はどなたでしょう?

佐久間「主役の日比野は、3月のクランクインの時にはセリフをほぼ完璧に入れてきていていました。スケジュール的に"生徒のセリフ覚え待ち"とかあり得ない状況だったので、そこは本当に助かりました。あと、(緊急事態宣言によってクランクイン2日目にして撮影を休止した後の)再開後は日比野も含め生徒全員、演技力が伸びていました。撮影休止、放送は白紙になって......と、いろんなトラブルに見舞われましたが、その点はよかったです」

――真夏になって、ようやく撮影が再開。しかし、またもや困難が......

佐久間「もろもろのスケジュールを調整して8月の末くらいだったら撮れるかも......となったんですが、舞台となる学校が撮影NGになってしまって。3月に撮った1話ぶんを大幅に撮り直すことになりました。物語の設定が11月なので、真夏に冬の制服を着てやった生徒も大変だったと思いますが。そうなるともうポジティブに考えるしかない。『アイツらの演技力が伸びたからよしとしよう!』って(笑)」

「学芸会みたいなドラマにはしたくない」の一念で

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――今後こんなハードな現場もそうそうないと思います。改めてどんな現場でしたか?

矢野「ドラマのお仕事は今回が初めてですが、周りの人たちに聞くとかなり特殊なやり方だったんだなと改めて思います。これだけ短時間で、機動力で押し切ったドラマは後にも先にないんじゃないかなと」

佐久間「こういうタイトなスケジュールって、本職のドラマスタッフばかりだとできなかったとは思います。バラエティスタッフっていい悪いは置いといて、ムチャぶりには慣れてますから(笑)。混合で作ったのが功を奏しました」

矢野「ドラマのスタッフの方とお仕事をして一番感じたのは締め切り感の違いです。ドラマの世界ではありえないスピードでアイデアを出していきました。バラエティをやっていると『明日までに』『今晩中に』というのはしょっちゅうなので。だからこそ乗り切れたんじゃないかと。それを可能にしたのは、やはり佐久間さんの作戦勝ちと言いましょうか、緻密な計画と佐久間さんが培われた人脈がなければ成立していなかったと思いますね。普通こんな無茶なやり方は思いつきもしないでしょうから」

佐久間「いやいや、僕も含めて全員やりながら要領をつかんでいったところはあると思いますよ」

矢野「僕も今回のトリックを考えていく中で少しずつ慣れて、要領を掴んでいきました。 "謎会議"をやった日が遠い昔のように思えますが(笑)、1日目よりも確実に成長できたと思います」

佐久間「何でこんなにやれたかっていうと"『青春高校』がやってるからって学芸会みたいなドラマにはしたくない"という、その一念ですかね。観終わった後、ちゃんと"観てよかった。見応えがあった"と思ってもらった方があの子たちのためにもなりますし。『視聴者も、あなたたちがやってるからOK(学芸会ドラマでも許そう)ってことはないよ』と、常々あの子たちには言ってきたので。だから、一番こだわったのはドラマとしてのクオリティですね」

矢野「僕も『面白かった』とミステリーファンに言ってほしいですし。普段ミステリーをあまり観ないという『青春高校』ファンにも"ミステリーって面白いな"と思ってほしくて頑張りました」

佐久間「毎回ちゃんと犯人を論破していく様子を視聴者も一緒に楽しむことができて、なおかつ最後に『あなた犯人じゃありません』と決めセリフを言うことでカタルシスも得られる。特に、ドラマの後半戦、"犯人たちはなぜ自分から名乗り出たのか?"――。大きな謎の回収も楽しみにしてほしいです。あと10代の子たちって爆発的に伸びるんで、"撮影中にこんなに伸びるの!?"という3年C組の成長もお見逃しなく」

再タッグでは笑いの中に謎を取り入れた企画を

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――『青春高校』がご縁で今回ドラマを作られたお2人ですが、再びタッグを組むならどんな番組を作ってみたいですか?

佐久間「僕はずっとクイズ番組を作ってみたいと思っているんですけど、今回初めてミステリーを作ってみて、やっぱ面白いな~と思ったんですよね」

矢野「本当に面白かったです」

佐久間「だからまた矢野さん、鈴木さんのお力をお借りしてミステリーが作ってみたいですよ」

矢野「僕も『あなた犯人じゃありません』に携わらせてもらってから気になって、刑事・警察ドラマの長寿番組である『相棒』とか『科捜研の女』を観るようになったんですけど、どちらも身近な話題を上手にトリックに落とし込んでいるんですよね。例えば激辛料理が流行っていれば、それでトリックを考えたり、時代性も取り入れていて。それって楽しいだろうなと思いましたし、ドラマの一番の面白味の部分をトリックが担う快感というか。それを今回味わうことができたので、またミステリーをやってみたいです」

――蛇足ですが、矢野さんの『あなた犯人じゃありません』でのクレジット表記は?

佐久間「確か"謎監修"とか、そういうクレジットだったと思います。ストーリー以外の謎部分を全部監修する」

矢野「よそのドラマがどうやって作られているのかわかりませんが、おそらく日本で唯一の肩書かと思いますので、次なる佐久間さんとのお仕事を、楽しみにお待ちください」

佐久間「例えば、お芝居のエチュードを取り入れた『ゴッドタン』の『キス我慢選手権』とか、音楽を取り入れた『マジ歌選手権』とか笑いの中に別な要素が入っているものが僕は好きなので、それこそ笑いと謎とかミステリー、そういうのもやってみたいですね。コントなんだけど、最後まで観たら真犯人がわかるとか」

矢野「僕が大好きなフェイク・ドキュメンタリーの『放送禁止』のような、佐久間さんがおっしゃったようにコントに見えて実はシリアスなメッセージが隠されているとか。逆に、真面目なドラマに見えてバカバカしいメッセージが隠れてるとか、そんなこともやってみたい。考えるだけでワクワクしますので、その時はぜひ、お声がけお願いします」

佐久間「こちらこそ、またお力を貸してください。一緒に面白いこと、やりましょう!」

【プロフィール】
佐久間宣行(さくま・のぶゆき)
1975年生まれ。福島県出身。テレビ東京プロデューサー。早稲田第学卒業後、テレビ東京に入社。『TVチャンピオン』などで経験を積みながら、入社3年目にしてプロデューサーに。『ゴッドタン』のプロデュース・総合演出を務めるほか『有吉のバカだけどニュースはじめました』『あちこちオードリー』などを担当。ラジオパーソナリティのほか活躍範囲を広げている。

矢野了平(やの・りょうへい)
1977年生まれ。埼玉県出身。構成作家・クイズ作家。大学時代は東洋大学クイズ研究会に所属し、『アタック25』でも優勝。2001年CAMEYOに入社。放送作家として『高校生クイズ』『くりぃむクイズ ミラクル9』『水曜日のダウンタウン』『林先生が驚く初耳学』『今夜はナゾトレ』『マツコ有吉かりそめ天国』『潜在能力テスト』など数多くの人気番組に携わっている。

(取材・文/橋本達典)

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