企画・佐久間宣行×構成作家・矢野了平 対談! 数々の災難、お蔵入りの危機を乗り越え......「あなた犯人じゃありません」が放送されるまで

公開: 更新: テレ東プラス

秋元康が監修を務める青春バラエティ番組「青春高校3年C組」(毎週月曜深夜0時12分放送)に出演中の日比野芽奈が主演、3Cメンバーも本人役で登場する学園ミステリー、木ドラ25「あなた犯人じゃありません」(毎週木曜深夜1時放送)が、2021年1月7日(木)スタート。

本作は、空きが出た2020年4月クールのドラマ枠を埋めるべく、同年2月に急きょドラマ化が決定。脚本・監督・企画すべてが白紙の状態で3月にはクランクインしなければならない......という超ハードスケジュールのもと制作が進められていたが、新型コロナウイルスの感染拡大が深刻化する中でクランクインからわずか2日目に撮影休止に。この夏、撮影が再開したものの、とある理由から撮影済みだった第1話を撮り直しする......などなど、多くの困難、災難に直面していた。

20201223_anatahannnin_001.jpg
そんな本作で陣頭指揮を執ったのが、「青春高校3年C組」をはじめ「ゴッドタン」などバラエティを担当するテレ東・佐久間宣行プロデューサー。そして、ミステリーのキモとなる"謎監修"を務めたのは、「高校生クイズ」「くりぃむクイズ ミラクル9」など数々のクイズ番組を手掛けるクイズ作家・構成作家の矢野了平さん。テレビドラマとしては異例のスケジュールを可能にした秘策とは何か? またおおよそ9ヵ月遅れでついに放送に漕ぎつけた万感の思いとは? 2人に話を聞いた。

ゼロの状態から実質1ヵ月でクランクインできるか!?

――まずは、当初の予定から9ヵ月遅れでついに放送に漕ぎつけた「あなた犯人じゃありません」の企画の成り立ちと、数々の災難に見舞われたというその後の動きを、佐久間さんからご説明お願いします。

佐久間「『青春高校』のドラマをやりたい思いはあったんですけど、"やれたらいいね"くらいの感じで、具体的には全然動いていなかったんですよ。本人たちのバリュー的に、そんなに簡単に枠を空けてもらえるとは思わないし、力量的にも難しいだろうと。そうしたら今年の1月末くらいに、深夜のドラマ枠が急きょ空いたと聞いて、この4月ならやれるチャンスはあると。4月放送となれば3月に撮り始めなきゃいけない。ということは、実質1ヵ月ちょっとで企画から何から全部考えなきゃいけないから、最初は悩みました」

――ゴールデンやプライムタイムのドラマであれば1年~半年前から企画するのが当たり前のところを、わずか1ヵ月間で。

佐久間「よくよく考えたらこんなチャンスはないなと思って引き受けたはいいけど、普通にやっていたら絶対に間に合わない。それでまず、企画と脚本を同時並行で作っていく。撮影まで1ヵ月で連続ドラマは無理だから1話完結ものにして、脚本家さん複数名に書いていただく。一応アイドルドラマなのであの子たちを目立たせたいけど、まだまだバリューも力量もないので、いわゆるアイドルドラマではない、誰もが興味を惹くジャンルにする。なおかつ、スケジュール的に厳しいので限定的なシチュエーションにするという4つの柱を決めて。企画を考えスタッフを集めるのに2週間しかない中で、何とかスタートしました」

――100本ほど企画を出されたそうですが、どんな企画があったのですか?

佐久間「例えば......ガールズラブものにして、主人公が毎回1人ずつ落としていくのはどうだろう?とか、"じゃあ、何でそんなことをするんだ?"というのを縦軸にするのはどうだろう?とか考えたんですけど、そのジャンルが得意そうな脚本家さんを複数名集めるのは難しいと思って。まず手持ちの一番強い戦力は何か考えたところ、矢野さんのことを思いついたんですよ(笑)」

矢野「ありがとうございます(笑)」

佐久間「で、僕が知っている新進気鋭の戯曲家・劇作家、放送作家さんを集めて(脚本は土屋亮一西条みつとし根本宗子、冨坂友、福田卓也が担当)。そのメンバーでやるからには何がいいかなと思った時に、やはりミステリーだろう、と。矢野さんは『青春高校』にも作家として入っていただいて気心も知れているし、クイズ作家としては日本一なので、全体を通す大きな謎を作ってもらおうと思ったんです」

「脚本家は用意するので全部の謎を考えられます?」とムチャぶり

20201223_anatahannnin_003.jpg
――物語は、学校で起こった殺人事件の犯人が「私が殺しました」と名乗り出てくるのを、日比野芽奈さん演じる"陰キャ"なクイズマニアの主人公が「あなた犯人じゃありません」と論破していく1話完結の青春ミステリー。どうやってこの設定に至ったのでしょう?

佐久間「『古畑任三郎』シリーズが好きで、ああいう主人公と犯人が1対1のミステリーで何か新しい構図はないかなと思った時に、毎回『自分が殺しました』と名乗り出て、自白してくる犯人のアリバイなりを論破するのは面白いんじゃないかなと思って。シンプルだけど、どこかでやっていたかも知れないから調べてみたらどこもやっていなかったので秋元さんにお見せしたところ、即決で『面白い』と。OKが出たはいいが"ここからどうしよう?"と思った時に、矢野さんにお声がけしました。『脚本家は用意するので全部の謎を考えられます?』とムチャぶりを(笑)」

矢野「僕としては大変ありがたい"佐久間さんの勘違い"なんですけど......最初は"クイズ作家だからってトリックを考えられるわけじゃない!"と思いましたよ(笑)。クイズの問題は山ほど考えてきましたけど、ミステリーのトリックは正直、一度も考えたことがなかったですから。でも、設定を聞いた時に面白いなと思いましたし、僕も『古畑』が大好きなので、古畑の逆のパターンで考えれば何かアイデアが浮かぶんじゃないかと......浅はかな考えですが、そう思いチャレンジさせてもらいました。まさかこんなにタイトなスケジュールだとは思わなかったですけど(笑)」

――「刑事コロンボ」や「古畑」シリーズに代表される倒叙ミステリー(最初に犯人や犯行過程を明らかにし、主に犯人視点で物語が展開されていく作品)とも違った新しい形式ですね。

佐久間「さらには縦軸となる謎もあって、最終回まで観れば"アイドルドラマだと思ってナメてたらこんな着地するの!?"って驚くと思いますよ」

矢野「知り合いで演劇と体験型ミステリーを融合した舞台を手掛けている鈴木秀明さん(キャラメルボックスの元劇団員で俳優、ミステリー作家)のお力をお借りして、何とか着地することができました」

佐久間「最後の大きな謎は、最初にオリエンテーションで僕が話をしてから1週間後くらいに鈴木さんが持って来てくださって。この企画面白いんだけど、成立してるのかまだわからなかったところ、それを読んで"これはイケるな!"と直感しました」

――お2人はもともとミステリー好きなんですか?

佐久間「学生時代はミステリーかSFばっか読んでる少年でしたから、多少の素地はあったと思います」

矢野「僕は『古畑』と『金田一耕助』シリーズくらいしか観ていないですが、逆に言うと古典的なトリックは知っていたので、それを今の高校生の生活にどう落とし込むか、昔でいう写真を使ったトリックはインスタライブになるのかな......とか。そういうふうに置き換えながら考えました」

――そうした今どきの高校生の情報はどちらから?

矢野「『高校生クイズ』の構成を20年ほどやらせていただいていて、毎年高校生の間で流行っていることやタイムリーなキーワードについて掘り起こす時間がありますので、それが役に立ちました。あとは『青春高校』に参加させていただいていたことで普段から生徒のTwitterなどをチェックしていましたし。なんとなくではありますが、彼らが普段見聞きしているものは知っていました」

"謎合宿"でトリック作り&脚本の同時進行

――謎解きの部分はどんな流れで作られたのですか?

佐久間「乱暴なやり方ですが、まず僕が大枠のプロットを作って、エクセルの表に謎・ストーリー・横の伏線みたいなものを書いて、『こういう理由でこの子が真犯人なんですけど、最終回まで8話全体を通す最後の大きな謎を考えてもらっていいですか?』と、矢野さん、鈴木さんに投げるという(笑)。普通は謎が思い浮かんでから犯行理由を考えていきますが、その逆のパターンですよね。さらには毎回ごとの謎やトリックもお2人に考えてもらって」

矢野「めちゃくちゃ考えました(笑)」

佐久間「それぞれ何十本と作ってきてくれたアイデアを、これ面白いからここに当てはめてみようと考えた後、脚本家5人を同時に呼んで、『○○さんが担当する第○話はこういう謎で、このキャラクター(各話の犯人)まで決まってます。これで30分のプロットをよろしくお願いします』と発注する」

――聞けば"謎合宿"のようなものも行われたとか?

矢野「とにかくどんどんトリックを考えなきゃいけなかったので、普通のバラエティ番組なら週1~2の定例会議で話を進めるところ、日程が合えば会うという感じで。何せトリックが決まらなきゃ脚本に進めなかったので、佐久間さん、鈴木さんと会える時間があれば会って、集中的に考えていました」

佐久間「2月の中盤~後半なんかは週に4日は会っていましたよね」

矢野「日程が合う日に考えたトリックを持ち寄って、例えば佐久間さんから『ここ、毒を入れてないってことにできませんかね?』と言われれば、その場でまた考えるとか」

佐久間「考えてもらった謎を別な部屋に待機している脚本家さんのもとに、『1個出来上がりました!』と持って行って(笑)。で、脚本家さんから『この子がその回の犯人ならコメディにしたい』と言われたら『コメディとその謎は合いますかね?』と、また矢野さん、鈴木さんと話をして。そこから1週間後くらいに脚本が上がってくるという感じでした」

――みなさん1週間ほどで?

佐久間「そうですね。第5話は、どうしても書いて欲しかった劇団『TAIYO MAGIC FILM』の西条みつとしさんのスケジュールが3月まで埋まっていたから、他より少し遅い進行になりましたが。全ての脚本が上がってきたら、『最後に通じる伏線を張りたいから、ここにこういう内容を入れてください』と、また宿題を出したり。1話ごとに犯人を論破していく上に、縦軸も入れなきゃいけないので苦労しました」

20201223_anatahannnin_004.jpg
――毎回、3年C組の生徒の1人が犯人だと名乗り出るわけですが、『青春高校』の放送作家も担当されている矢野さんや福田さんはともかく、ほかの脚本家のみなさんは生徒のキャラをつかむのが難しかったのでは?

佐久間「生徒はもちろん、プロットの段階では刑事役の山崎樹範さんもキャスティングできていないから、最初のうちはどのキャラクターもふわふわしていましたよね」

矢野「そうですね。刑事を熱血漢でイメージしている方もいれば、弱々しいイメージで書かれる方もいらっしゃって」

佐久間「ヤマシゲ(山崎樹範)さん演じる刑事が"刑事ドラマオタク"という設定も脚本を作りながら決まりました。毎回、女子高生探偵に負けちゃう刑事ってどんなキャラだろうって考えたら、刑事ドラマが好きで、憧れの刑事像があって......という感じがコメディリリーフとしてちょうどいいんじゃないかなって」

――ほかに難しかった点は?

佐久間「やってみて思ったんですけど、最初に想像していたよりずいぶん難しかったですね。完璧なトリックであればあるほど面白いんだろうけど、主人公が30分で論破しなきゃいけないから多少不完全じゃなきゃいけない。だから焦点を絞って、こことここの謎を解けば視聴者もわかるというふうに作っていかなきゃいけなくて。これが普通のミステリーを作るより難しかった点です」

――ちなみに矢野さん会心のトリックは何ですか?

矢野「各話ごとの最後の決め手となるトリック、謎はみんな好きですね。さっきも言った"毒を入れていない"証拠に結構、今っぽい要素を組み込んだんですよ。それがパッと浮かんだ時はうれしかったですね」

佐久間「説得力もあるし、あの時は"助かった~!"と思いました(笑)」

こうしてなんとか脚本も完成し、無事クランクイン! ......したものの、さらなる災難に見舞われることに!? 続きは、明日公開の後編で!

(取材・文/橋本達典)

PICK UP