日本最高級の「豊橋筆」、伝統工芸品「雨畑硯」...書道を愛するアメリカ人が職人技と出会い、驚きの進化を遂げていた!:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。今回は「ニッポンの職人技を愛する外国人大集合スペシャル!」をお届け!

200年の伝統を持つ日本最高級の「豊橋筆」...筆づくりの職人技に感動

最初にご紹介するのは、アメリカ東海岸、全米で最も小さい州・ロードアイランド州に住むエステバンさん。

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2年前に出会ったエステバンさんが愛してやまないのは、ニッポンの「書道」。ご自宅の地下には書道専用の部屋があり、書が所せましと飾られています。

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なかなかの腕前! 「中国から伝わった書道を、ニッポンでは空海などの達人が進化させたのです。字の骨格が太く力強いことが特徴だった中国の書き方を、ニッポンの書家は柔らかく曲線的にしました。かすれなどの手法も考案し、より繊細な日本独特の美を生み出したのです」と知識も豊富。

2000年前、漢字が伝わるとともに始まったニッポンの「書道」。平安時代になると、弘法太師・空海など、優れた書道家たちが文字の美しさを追求。「字の美しい表現を追求した文化がニッポンの書道。他の国では見られない芸術ですよ」とエステバンさん、書道愛が止まりません。

17歳の時、合気道の日本人師範からもらった書の美しさに感動。それから20年、ニッポンに行くことを夢見て、本やインターネットを参考に独学で書道に取り組み、1日50枚以上書き続けています。そんなエステバンさんには、ニッポンでどうしても叶えたい夢がありました。「書道には文房四宝という言葉があります。いい道具があるからこそ良い書が書けるのです」。「文房四宝(ぶんぼうしほう)」とは、書道には欠かせない「筆、硯、墨、紙」4つの道具を意味する言葉。

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中でもエステバンさんが気になるのが200年の伝統を持つ日本最高級の「豊橋筆」。「一流の書道家が愛用する最高級の筆作りが見たい」とのこと。筆の生産量日本一は化粧筆でも有名な広島の熊野筆ですが、機械を一切使わない完全手作りの豊橋筆は、一流の書道家がこぞって特別注文する高級筆の全国シェア、ダントツ1位。高いものは1本30万円以上するものもあり、2018年3月には、愛知県特別表彰記念品として、藤井聡太二冠に贈られました。

書道に夢中なエステバンさんを、ニッポンにご招待! 愛知県豊橋市を訪れ、念願だった「豊橋筆」を作る職人さんの元へ。

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江戸時代から200年続く手仕事を今に受け継ぐ「嵩山(すせ)工房」の、職人歴62年、伝統工芸士の山崎亘弘さんと、職人歴56年の渡邊一明さんが出迎えてくださいました。まずは念願の豊橋筆で、一筆書かせていただけることに。

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「筆も滑ってコントロールしやすいし、何より墨がじわじわ出てきてなくならない感じがします」と感想を伝えるエステバンさんに、「上手だね」と褒めてくださった山崎さんと渡邊さんでしたが、ひとつ気になった点が。「一文字を書くのに墨をつけ足す。ノー! ノー!」と渡邊さん。山崎さんも「今、墨足したでしょ? 墨足しちゃいかんね」と指摘。エステバンさんは「本」の字を書くとき、途中で墨を足していました。「豊橋筆ならさっきの字は一気に書いた方がいい。そうすると字に勢いが出るね」と渡邊さん。大量生産で作られた筆は途中でかすれてしまい、一気に書くのが大変ですが、抜群の墨持ちの良さを誇る豊橋筆は墨を足さなくても十分書ききることができます。

いよいよ豊橋筆の作り方を教えていただきます。「今日は馬の毛と山羊の毛を混ぜた筆を作ります」と山崎さん。用途によって異なりますが、長さが違う5つ以上の毛の束を混ぜ合わせ、1本の筆ができています。先端に来る最も長い毛の束が命毛(いのちげ)。山羊の柔らかい毛を使うことで"払い"などの繊細な表現を可能にします。根元には農耕馬の太い毛を使い、筆に弾力を与えます。そして、豊橋筆に抜群の墨含みを与える秘訣が、籾殻の灰と鹿の皮。

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毛に籾殻をまぶし、鹿皮にくるんでしっかり揉みます。籾殻の灰には脂を抜く作用があるので、揉みこんで毛の脂を取っておくことにより、墨が染みこみやすくなるのです。さらにエステバンさんはこの他、毛先の悪い毛を指先の感覚だけで引き抜く、熟練の職人にしかできない技を見せていただきました。中学卒業と同時に筆職人の道に進んだ山崎さんと渡邊さん。筆作りの楽しさがあったからこそ、師匠の厳しい指導に耐え、50年以上頑張れたそう。

翌日、筆作り最大の難関を見せていただきます。まず、1番長い命毛となる山羊の毛を基準に、馬の毛を筆の根元に行くほどに短く切っていきます。この毛の長さの違いで生まれた段差によって、墨が一気に落ちにくくなるとのこと。そして長さの違う毛をひとつにまとめる職人技が! それが、数種類の毛をムラなく組み合わせる「練り混ぜ」。毛を伸ばした後、くるくると折り返しながら混ぜていきます。

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これを6回ほど繰り返すと...。全ての毛がしっかり混ざって均一になりました!

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これにはエステバンさんも...。

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筆の形に整え、混ぜた毛を中から飛び出ないよう柔らかい山羊などの毛で包み、麻糸で根元をしっかり固定します。毛のタンパク質を溶かして接着したら、毛がまっすぐになるよう海藻で作ったノリに浸し、余分なノリを絞り出します。こうして抜群の墨持ちを誇る、最高級の豊橋筆が完成!

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別れの時。「ここに来た瞬間から本当に特別な場所だと感じ、間違いなく人生一度きりになる経験だと思いました。豊橋筆を日本一にしているのは、皆さんの技術と心が合わさった職人技なのだと思いました」と伝えるエステバンさん。「みなさんから教えていただいたことを書にしました」と、感謝の気持ちをしたためた「入魂」という書を手渡します。

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山崎さんたちからは、豊橋筆と奥様への化粧筆をプレゼントしていただきました。

あれから2年。エステバンさんからのビデオレターを「嵩山工房」に届けます。「(帰国後は)まったく違う次元になっていました」と話すエステバンさんの奥さん。どうやらニッポンご招待が、人生を変える出来事となったようです。「いただいた豊橋筆は、毎日一度は必ず使っています。豊橋筆がなければ私の書道は成り立ちません」。数カ月前、新しい筆が必要になった時も、豊橋筆をインターネットで探して購入したそう。それらの筆には、すべて山崎さんの号である「松渓」の文字が!

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帰国後も書道に打ちこむエステバンさんは「豊橋筆を使うようになってから、あきらかに書道の腕が上がりました」と話します。ニッポンに行く前と行った後の字を見れば、その差は歴然。

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「豊橋筆の最大の特徴は墨をよく含むこと。おかげでひとつの文字を書くのに墨を付け足す必要がありません。ここぞというところで墨がのるので、筆先がコントロールしやすいです。太いところ細いところも自由自在です」。この言葉を聞き、渡邊さんも「偉い! すごく成長した。字が生きとる!」と笑顔に。山崎さんも「いいこと言ってくれるね」と嬉しそう。

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以前はカタカナで書いていた名字も、今では「丸庭音須(マル・テイ・ネ・ス)」と漢字をあてて書くように。「『須』は『用いる』という意味があるので『音』を『用いた』『丸い』『庭』という詩的な意味を持たせています」と、書だけでなく漢字についても勉強熱心。まな板で代用した漢字の表札も見せてくれました。

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ニッポンで学んだ書道の知識をアメリカで広めたいと考えたエステバンさん、なんと書道教室の先生になっていました! 世界中の人たちが学べるよう、オンライン教室もスタート。自宅の書道専用部屋に撮影スタジオまで作り、今では100人近い生徒が学んでいます。

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教室では、ニッポンで学んだ知識が盛り込まれ、豊橋筆の伝統や品質も紹介しています。「生徒に『筆は何を買ったら良いですか?』と聞かれますが、必ず『豊橋筆が一番だよ』と言っています」。そんなエステバンさんから山崎さんにお願いが。「豊橋筆のウェブサイトがあるのは知っていますが、もしできれば英語のサイトを作ってくださいませんか?」。これを聞いた山崎さんの娘・亜紀さんから「外国の方でも気軽に買えるサイトにしたいという気持ちがあふれ出てきました」と頼もしい答えが返ってきました。最後に「嵩山工房」の皆さんへ一筆。

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「皆さんに会った時に感じたのは職人さんのこだわりです。ニッポンへ戻ることが叶い、豊橋筆の工房で再びお会いできることを祈っています」と伝えるエステバンさんに、「若いからこれからも頑張ってもらって、生きてる間にぜひもう一度会いたいですね」と山崎さん。渡邊さんも、「今度来た時、免許皆伝出すぜ!」とおっしゃってくださいました。

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伝統工芸品「雨畑硯」...700年受け継がれる驚きの手仕事に衝撃!

続いて向かったのは、山梨県早川町雨畑(あめはた)にある「硯匠庵(けんしょうあん)」。

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約700年の歴史を持ち、徳川家にも献上したという山梨県の伝統工芸品「雨畑硯」。藤井聡太二冠
2018年2月には、国民栄誉賞の記念品として、井山裕太棋聖と羽生善治九段に記念品として贈られました。最盛期は100人以上の職人がいましたが、現在はわずか数名。希少価値が高く、50万円を超えるものもあるといいます。この伝統を受け継ぐのが、職人歴42年の望月玉泉(もちづきぎょくせん)さん。

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「硯匠庵」では、望月さんが作った硯を中心に300点を展示、販売しています。触らせてもらった重さ8~10㎏ほどの巨大な雨畑硯の値段が約25万円と聞いて驚くエステバンさん。

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硯は、墨をする"丘"と呼ばれる部分の良し悪しで値段が決まります。

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丘の表面には、鋒鋩(ほうぼう)という石の粒子があり、それがヤスリのような役割を果たすため墨をすることができます。雨畑硯の丘には特徴が。雨畑硯で墨をすって書いてみると...。

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「墨が伸びるので払いが美しい。墨汁とは全然違う書き味です」とエステバンさん。原石である雨畑石(あめはたいし)を拡大して見ると、ヤスリの働きをする凸凹がびっしり!

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「3回すっただけで書ける濃さになる」という雨畑硯は、石の粒子が一般的な硯と比べてきめ細やかなので、すった墨の粒子も小さくなり、ダマにならず墨が遠くまで運べるそう。さらに、細かく並んだ石の粒子が水を内部に通さないので、墨持ちも驚くほど良いのが特長。

抜群の墨の伸びと水持ちの良さの秘密は、奇跡の石と呼ばれる雨畑石にありました。山梨県雨畑は、日本列島を東西に分ける地層の溝がある場所。約2000万年かけ、地殻変動で地層がこすれ合うことで、銅や鉄の結晶が粉々になり、粒子の細かい良質な石が生まれたのです。幅1m50cmのうち、硯の原石が採れるのはわずか40cmほど!

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さらに表面がすべすべで、より石の粒子が細かいものだけが雨畑硯になるのです。

原石を硯にする工程を見せていただきます。まずはグラインダーで表面を平らにしながら硯の形を作る荒割(あらわり)。表面にひとつでもヒビを発見したら使えないため、荒割まで残る原石は100個中わずか2個程度。

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「雨畑硯の伝統を残したい」と、20歳の時、今は亡き父・麗石(れいせき)さんに師事した望月さん。当時は機械も一切なく、手にマメを作りながら必死に削っていたそう。

荒削りが終わると、いよいよ仕上げ。そこには700年受け継がれる驚きの手仕事が! 「砥石で磨いて凸凹をなくします。平らかどうかガラスの上で確認する」と望月さん。硯の裏面を砥石を使って水平にすること3時間! 目と手で確認しながら0.1ミリ単位で削っていくまさに職人技。

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見事水平になった硯の裏を見て「水平器を使わず、感覚でこんなことが出来るなんて奇跡の職人です」と驚くエステバンさん。

続いては表面。硯専用のノミを使い、全体重を乗せて、墨をする丘を平らに彫っていきます。ヒビなどが出てきたらその瞬間、硯としては使えなくなってしまうため、一発勝負です。ひたすら彫り続けること2時間。作業は墨をためる"池"へ移っていきます。そこからさらに彫ること3時間。「これでここは仕上がり」と望月さん。

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「圧巻で言葉も出ません。木を彫るのとはわけが違いますから」というエステバンさんに、望月さんは手にできたタコを見せてくれました。

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「痛そうですが、これぞ職人の手です」とエステバンさん。こうして彫り終えた雨畑石を今度は砥石で表面を滑らかにすること3時間。最後に、漆と墨で光沢を与えれば...日本最高級の雨畑硯が完成!

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ここで、望月さんが大きい立派な硯を見せてくれました。「美しいです」と感動するエステバンさん。これは40年ほど前に2度と採れない良い石で、望月さんが父・麗石さんと一緒に作った思い出の家宝だそう。その価値は数百万円とも。

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まだ誰も墨をすったことがないという家宝ですが、「エステバンさん、ぜひすってみてください」と思いもよらないお言葉。「よろしいんですか? 本当に使っていいんですか?」と信じられない様子のエステバンさん。「エステバンさんになら使って欲しい」という望月さんの思いがつまった最高のおもてなしです。

墨をすり始めて気づいたのはその音の素晴らしさ。そして「このすり心地の良さは...ダイヤモンドの上みたいです。これほど墨が伸びるのを感じたことはありません。本当に特別な硯です」と格別だったよう。「する音とか聞いていたんですけど、やっぱりいいなと思って...他の石とは比べものにならない感じが。やっぱり使ってもらうのが、硯としては幸せなのかなと思って」としみじみする望月さん。その書き味は、「今までこれほど墨が伸びる事を感じたことはありません。本当に特別な硯です」とのこと。

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「硯匠庵」の皆さんともお別れ。感謝の気持ちを伝えるエステバンさんに「40年前に僕が父親と作った硯を初めて使ってもらって、本当に宝物になりました。ありがとうございました」と望月さん。「今回印象深かったのは、硯作りには2つの物が必要だということ。最高の石、そして職人さんの技術です。それを込めてこれを書きました」と、感謝の気持ちをしたためた「調和」という書を贈ります。

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望月さんからは「今日作った硯です」と、2日かけて作った雨畑硯をプレゼントしていただきました。

あれから2年。「硯匠庵」の皆さんにエステバンさんからのビデオレターを届けます。「硯は特別なものを書く時に大切に使っています。この硯の本当に好きなところは表面がすごく滑らかだという点です。雨畑硯に筆を押し付けると雨畑の大地と岩の大きなエネルギーを感じます」。これを聞いた望月さんは「作る人間としては一番嬉しいことですよね」と嬉しそう。エステバンさんは書道教室の先生になったことも報告。雨畑硯で学んだこと、望月さんの職人技の素晴らしさを伝えていると話します。ここで「硯匠庵」の皆様に一筆。

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「望月さんに『鼓舞』を贈ります。望月さんの仕事に対する姿勢を見て自分の心も鼓舞され、奮い立つ気持ちが湧いたのでこの言葉を贈りたいと思います」。このメッセージを見た望月さんは「僕、体調があんまり良くないし、硯はもう辞めようと思っていたんですよ。でも、エステバンさんがこんなに頑張っているから辞められなくなっちゃった。もうちょっと頑張ってみようと思います。エステバンさんに負けないように...。自分もやります! また会えるよう楽しみにしています」とエステバンさんの「鼓舞」によって芽生えた新たな決意を話してくださいました。

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エステバンさんをニッポンにご招待したら、先生となって書道の素晴らしさを広め、筆や硯の職人技を世界に広めてくれていました!

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