酒造りが盛んな能登で230年間愛され続ける老舗の酒蔵へ...:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日よる8時)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

今回は「ニッポンにご招待したら人生が変わっちゃった!感謝のビデオレターが届いちゃいましたSP」をお届け!

フランスで日本酒を広める担い手となったピエールさん

まずご紹介するのは、フランス・ブルゴーニュ地方に住むピエールさん。ワインの産地として世界的に有名なこの地で、ピエールさんが魅せられたのは「日本酒」。

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ピエールさんに初めて出会ったのは1年3ヵ月前。当時、薬局とブルゴーニュで唯一日本酒を造っている会社「KURA」でアルバイトをするフリーターだったピエールさんは、新居が決まるまで、婚約者・アンフロールさんの実家に居候中でした。

和食がユネスコ無形文化遺産に登録されると日本酒にも注目が集まり、透明な液体から放たれる奥深い香りと味が人気に。ピエールさんは発酵学を勉強しており、日本酒に興味を持ったそう。「ワインと日本酒は同じ種類の酒でよく似ています。ただ、香りや味を比べると日本酒の方が繊細で気に入っています。こんなに美味しい酒はブルゴーニュでもありませんよ」と大絶賛!

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いつか自分の理想とする日本酒を造るのが夢だというピエールさんをニッポンにご招待! まずやってきたのは石川県能登。「能登は昔から酒造りが盛んで、優秀な杜氏がいると聞きました」とピエールさん。杜氏とは蔵で造る酒の味を決め、働く人たちをまとめる最高責任者のこと。能登は優秀な杜氏を多く輩出し、その技を全国に広めました。

酒造りが盛んな能登で230年間愛され続ける「鶴野酒造」の皆さんが、ピエールさんを快く迎えてくださいました。

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家族で酒蔵を営む老舗「鶴野酒造」。蔵内に並ぶお酒のラベルが手書きであることに気づいたピエールさんに、長男・鶴野晋太郎さんが女将の手書きだと教えてくれました。

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6年前、こちらの「登雷(とらい)」を造った「鶴野酒造」の杜氏が鶴野薫子(ゆきこ)さん。

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薫子さんを見て、ピエールさんはビックリ。「こんな可愛い方だとは思いませんでした」と素直な感想が出てしまいます。元々は薫子さんのお父さんが蔵をまとめていましたが、病に倒れ6年前に他界。薫子さんは「蔵を残して欲しい」という父の想いを継ぎ、杜氏になることを決意しました。長男・晋太郎さんも大手企業を辞め、薫子さんをサポートしています。

新しいスタートを切った「鶴野酒造」が最初に手がけた日本酒が「登雷」でした。ピエールさん、早速薫子さんが造った日本酒をいただきます。まずは「鶴野酒造」の代表銘柄である高級酒「谷泉大吟醸」から...。「美味しいです! 甘さがあってフルーティーなので女性が好みそうなお酒ですね。杜氏の優しそうな人柄がお酒に表れています」とのピエールさんの感想を聞き、「ありがとうございます」と薫子さんの顔もほころびます。

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「使っているお米は山田錦ですか?」との質問に、「そうです! 大吟醸は兵庫県産の山田錦を35%まで磨いたお酒になります」と答える薫子さん。ピエールさんは「35%まで! だからこんなに滑らかなんですね」と驚きます。

日本酒の原料となるのは酒米(さかまい)という酒造り専用の米。一般的な米に比べて粒が大きく、心白というデンプン質が含まれているのが特徴。

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先ほど出てきた35%という数字は酒米をどれだけ精米しているかの値。より磨いてあるほうが高級といわれ、玄米を60%まで磨くと吟醸酒、50%以下に磨くと大吟醸酒になります。日本酒の全てのラベルには、その値が記されています。

続いて鶴野家の想いがつまった「登雷」をいただくと、「ガツンとくるお酒ですね! ただ強いだけでなく香りもしっかりあって素晴らしいです。そして味に奥行きを感じます。とても美味しいです。私もこのようなお酒を造りたいです!」と目を輝かせるピエールさん。薫子さんも「大丈夫です。きっとすぐ出来ると思います」と心強い言葉をかけてくださいます。

今回特別に、酒造りを見せていただくことに。創業当時から変わらない「鶴野酒造」の歴史ある木造の蔵で働く蔵人は3名。平均年齢72歳の皆さんは薫子さんの部下です。

日本酒の材料はお米、水、米麹の3つだけですが、完成まで3ヵ月という長い時間がかかります。
まずは洗米。杜氏はその日の水温や米の具合を見て洗う時間を決めます。この日は120秒に設定し、壁時計から目を離しません。先程までにこやかだった薫子さんが真剣な表情に。

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薫子さんの「はい!」の一声で120秒きっかりで洗い終えた米を袋に詰め、水につける浸漬(しんせき)へ。すると薫子さんの目はストップウォッチをセットしたスマートフォンに。10分30秒になる直前に水から引き揚げ、袋を左右に振りながら水を切ります。「これほど正確に行なっているとは驚きました!」とピエールさん。精米された米はわずか数秒の差で水分量が大きく変化します。より正確な水分量にするため、一袋10キロが決まり。この日は合計120キロの米を洗い、水に漬けました。

日本酒造りには約15もの工程があり、この日は蒸米と最も大切な麹造りが行われました。麹とは米に菌をまき、デンプンを糖化させたもの。この糖がのちにアルコールになります。

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まずは一晩寝かせたお米を「こしき」と呼ばれる蒸し器に入れ、床下にある釜にお湯を張り、温めて蒸気を出して蒸らします。ピエールさんもこしきまでお米を運ぶ力仕事を手伝い、すべての米を入れ終わったところでボイラーを点火! 大量の蒸気が上がり始めます。地元の方々は外まで上がってくるこの蒸気を見て、「今年も酒造りが始まったな」「今日蒸しているんだな」と分かるそう。

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「50分蒸すので(9時)39分蒸し上がりになります」と、蒸す時間も正確です。蒸し上がるまで、しばしティータイムです。「鶴野酒造」では午前と午後に一回ずつティータイムがあり、女将特製の干し柿などを食べながらおしゃべりに興じます。実はこのティータイムにも意味がありました。酒造りには「和醸良酒」という言葉があり、和を大事にしながら作業しないと良いお酒にならないそう。ピエールさんはこの言葉にとても感心したようで、深く頷いていました。

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時間ピッタリにボイラーを止め、蒸し上がった米を食べて確認します。外側がちょっと硬めで中がふっくらしているのが良い蒸し上がり。米に菌を付着させる際、一粒一粒に行き渡らせるため米同士がくっつかないよう外側は硬めに、逆に内側は菌が中心まで入り込むよう柔らかく仕上げるのがポイント。

続いて蒸し上がった米をかついで向かったのは、菌を繁殖させることを目的とした麹室(こうじむろ)。分厚い扉に閉ざされ、中には40度まで温まる電熱線があります。杜氏は室内の温度と湿度を厳しく管理します。

「フランスの会社にはない本物の麹室に入れて幸せです」と嬉しそうなピエールさん。

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まずは蒸米を菌が付着しやすいように広げます。蒸米を広げ終わると麹菌の種付け。でんぷんを糖へと変える麹菌は室町時代にはすでに使われていたそう。小瓶に入れた麹菌を杜氏がまんべんなく高いところから散らします。この時すべての米に菌が着地するまで1~2分は杜氏以外動かないのが決まり。ピエールさんも、カメラマンもフリーズ!

菌が行き届かないとその部分は糖にならないため、米をすべてひっくり返して裏側にも菌を振ります。

ちょうどその頃、厨房には女将さんの姿がありました。ピエールさんの歓迎会を開くためにロールキャベツを作ってくださっていました。鍋にぎっしり詰まったロールキャベツに日本酒を注ぐ女将さん。日本酒が肉の臭みを消し、旨味を引き出してくれるそう。

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入れたのは谷泉特別純米酒。「気合いが入ったお料理には特別純米酒を使います。ロールキャベツは気合いが入りますね!」とのこと。囲炉裏には、近海で獲れた新鮮な刺身、炭火で焼く牡蠣など、能登自慢の料理と鶴野家の定番料理・ロールキャベツが並びます。一口食べたピエールさん、「最高です」とこの笑顔!

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ピエールさんには、薫子さんにどうしても聞きたかったことがありました。「薫子さんはまだ28歳なのにプレッシャーはないですか?」という質問に、「プレッシャーはすごくあります。出来たお酒を飲んで"これで良かった"と思ったことは1回もなくて、蔵人さんの反応とか、取引きしていただいているお客さんの反応を見てちょっと安心するくらい」と素直に語る薫子さん。

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ピエールさんも「大変な仕事であることがよくわかりました。杜氏がチームワークを大切にし、仕事に向き合う姿は素晴らしいと思いました」と感想を伝えます。

翌日、ピエールさんは初めて蔵の2階へ。杜氏の薫子さんが造っていたのは「酛(もと)」。酛は酵母を増やすもので、酵母は糖をアルコール発酵させるために必要ですが、一回で造る酒の量が大量なため、安全にお酒を造るためには、酵母を活性化させる酛が必要不可欠なのだそう。酛作りが終わるといよいよ仕込みです。すべての材料をタンクに入れ、アルコール発酵を促します。薫子さんに「よかったらこのタンクをのぞいてみてください」と言われ、タンクをのぞいてみると...中では醪(もろみ)が生き物のように動いていました。

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醪はすべての材料を加えたもの。人の手を借りずに動いているのは「酵母も息をして生きているから」と薫子さん。約1ヵ月、杜氏は泡の様子や温度を見て発酵の具合を確認。毎日醪を化学分析し、絞るタイミングを決めます。こうして絞られたものがようやく日本酒となるのです。「日本酒の作業は細かくて。だからこそ杜氏の腕も試される。お客さんの顔を想像しながら造れば熱意を持って造れると思います。それがきっとお酒にも伝わる」と薫子さん。ピエールさん、最後に杜氏の大切な心構えを教えていただきました。

別れの時。「みなさんカッコイイです! 本当に温かく迎えてくださって感謝の気持ちでいっぱいです」とフランスからのお土産を一人ひとり手渡しするピエールさん。「鶴野酒造」からは、「谷泉大吟醸」と酒屋さんの仕事着・前掛けをプレゼントしていただきました!

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あれから1年...ピエールさんのビデオレターを届けに「鶴野酒造」へ。

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「ボンジュール! 鶴野家のみなさん! ニッポンではお世話になりました。日本酒のことがもっと好きになりました。今回ぜひ見て欲しいものがあるので感想を聞かせてください。では仕事場を案内します」と始まったビデオレター。

実はピエールさん、本物の日本酒造りを学んだという理由で、アルバイトをしていた「KURA」の正社員になっていました! 現場マネージャーに昇進しており、2人の部下も。仕事着に着替えると「鶴野家のみなさんからいただいた前掛けです。いつもこれをつけて仕事をしています」と気合いが入った様子。

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そして酒造りを披露することに。洗米作業では、薫子さんがやっていたスマホのタイマーを使った方法で正確に時間を測っていました。お米を洗ったらすぐ水に浸けます。浸漬時間は1時間。「鶴野酒造では10分間水に浸けていましたが、こちらは精米技術が未熟で長い時間浸けないといけません」とピエールさん。ニッポンの酒米が手に入らないためイタリア産の酒米を使用しているのですが、お米を削る技術が乏しいため、水に長時間漬ける必要があるとのこと。「それだったら1時間くらい必要ですね」納得した様子の薫子さん。

「1時間という時間は私たちが何度もトライし、ようやく導き出した時間なんです」とピエールさん。ニッポンで学んだことをフランスの環境に合わせて実践していました。浸漬後の水切りも、薫子さんと同じ方式で行います。

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「こうするとしっかり水が切れる。薫子さんに教わったんだ」と部下たちにも伝授。そして、「休憩にしましょう!」と作業の合間にコーヒータイム。

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「和醸良酒」の精神もしっかりと受け継がれていました。社長さんも「フランス人は基本的に個々で仕事をする意識があります。でもピエールが、みんなで力を合わせることで美味しいお酒ができる、と私たちに教えてくれたんです。それからKURAの雰囲気が変わりました」と話してくれました。

ピエールさん、帰国後ますます日本酒作りに没頭し、すでに1300リットルもの日本酒を製造したとのこと。そして私生活でも大きな変化が! 町から離れた場所に家を購入し、居候していた婚約者のアンフロールさんの実家から引っ越ししていました。

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地下室には、「鶴野酒造」からいただいたお酒が大切に保管されています。「鶴野酒造」で最も高級な「谷泉大吟醸」。実は今年6月に行う予定だった結婚式で飲むはずでしたが、新型コロナウイルスの影響で延期になってしまったそう。「来年に楽しみが延びたと思えば少しも辛くはありませんよ」と前向きに話すピエールさん。

そしてこの日は、自宅に義理のお母さんや友人を招き日本酒パーティ! 「今からこの地方の伝統料理・仔牛のクリーム煮を作ります」とピエールさん。「鶴野酒造」でいただいた女将さんの料理が忘れられず、フランスに帰ってから料理に日本酒を使うようになったそう。本来は白ワインで煮ますが、ピエールさんは日本酒を使います。そして仔牛は、酒粕に24時間漬けてありました。ニッポン滞在中、秋田県にも訪れ、酒粕の魅力を知ったピエールさん。美味しい酒粕料理も学んでいたのです。そしてこちらが、ピエールさん作「仔牛のクリーム煮」。

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今回、鶴野家のみなさんに見ていただきたいものがもうひとつありますとピエールさん。「女将さんがラベルを手書きしていることに感動し、私も習字を始めました。いつか自分の手書きラベルを商品に貼る予定です」とのこと。ピエールさんが考えたロゴとは?

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KURAの「K」と日本語の「大」をモチーフにしたそう。鶴野家の長男・晋太郎さんは「ただ書くだけではなく、想いや意味がこもったデザインですごく魅力的だと思う」とコメント。最後にピエールさんは、「今はフランスのお酒コンクールに出品し、賞をとることが目標です。この国の人にもっと日本酒を飲んでもらいたい! ガンバリマス!」と今後の抱負を語ってくれました。薫子さんも「ピエールさんが頑張られていたので負けないように、より精進していきたい」と刺激を受けたよう。ピエールさんをニッポンにご招待したら、フランスで日本酒を広める担い手になっていました!

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