ワークショップでも大人気! 奥深く幻想的な「切り絵」の世界:世界!ニッポン行きたい人応援団

公開: 更新: テレ東プラス

ニッポンに行きたくてたまらない外国人を世界で大捜索! ニッポン愛がスゴすぎる外国人をご招待する「世界!ニッポン行きたい人応援団」(毎週月曜日夜8時~)。毎回ニッポンを愛する外国人たちの熱い想いを紹介し、感動を巻き起こしています。

純日本的な切り絵を作っているブルガリア人女性

去年12月にスタッフが訪れたのは、ニッポンと交流を始めて110周年になるブルガリア。大興奮で迎えてくれたのはアネリア・イバノヴァさん(32歳)。

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婚約者のエミオさんと暮らしているアネリアさんが夢中になっているのは...ニッポンの「切り絵」!

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こちらは源氏物語に出てくる"葵の上"だそうで、アネリアさんは純日本的な切り絵を作っています。

奈良時代に中国から伝わり、和紙や伊勢型紙と合わせることで独自に発展したニッポンの切り絵。年齢を問わず楽しめることから、近年はワークショップがブームになっています。

アネリアさんの作品は、ある日本人の影響を受けていました。「特に好きなのは渡部弘さんの作品で、いつも真似しています」。

5年前に亡くなった切り絵作家・渡部弘さんは、ニッポンの四季と日常風景を切り絵ならではの直線や曲線で表現。「渡部さんが凄いのは、奥行きが表現されているところです。絵画と違い、切り絵で立体感を出すのはとても難しい」と語るアネリアさんですが、まだニッポンに行ったことはありません。「独学なので日本人の先生のもとで学びたいですし、自分のオリジナル作品も作りたいです」というアネリアさんをニッポンにご招待!

大自然に囲まれた集落で創作活動をする切り絵作家

3ヵ月後。アネリアさん、念願の初来日です。まず向かったのは、滋賀県米原にある曲谷(まがたに)集落。

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日本屈指の豪雪地として知られ、集落から望む伊吹山は、かつて12m近い積雪量を記録し、今も世界一だそう。

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迎えてくださったのは、切り絵作家の早川鉄兵さん(38歳)。

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早川さんは切り絵制作のため、9年前に大阪から曲谷集落にある築100年の古民家に家族で引っ越しました。自然をテーマにした大きなものや、光を取り入れ、幻想的な世界を表したものなど、「お客さんが体験できる」切り絵を制作しています。

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自宅では、奥様の由佳理さんと長女のしずくちゃんが出迎えてくださいました。「とても素敵なおうちで眺めも素晴らしいです!」とアネリアさん。早川さんによれば、紅葉の時期や雪の時も綺麗で、野生の鹿が歩いている様子も家の中から見えるとのこと。

自然豊かな地で生まれる早川さんの作品には、自然のモチーフがあふれています。しずくちゃんの椅子や照明器具、グラスにも切り絵のデザインが使われているのを見て、「切り絵が生活に溶け込んでいて驚きです。壁に飾るだけではないんですね」と感心するアネリアさん。

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「いろんな物になって、たくさんの人に手にとって楽しんでもらえるのが嬉しい」と話す早川さんの切り絵作りを見せていただきます。用意した紙を半分に折ると、下絵を書かず、いきなりカッターを入れていく早川さん。切り始めてわずか10分、「できました」といって差し出してくださったのは...。

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開いてみると...。

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なんとキツネの顔に! 「すごい! びっくりです」とアネリアさん。短時間で見事な切り絵が完成したことに驚きを隠せません。出来上がったキツネの顔をよく見ると、耳と目の上に小鳥が、さらに目の斜め上にリスの姿が。「キツネの中に自然界が表現されています」と気づいたアネリアさんに「山で生きていこうと思ったら、キツネだけでは絶対に生きていけない。でも大事なのはそういう難しいことじゃなくてかわいいかどうか」と早川さん。早川さんの作品は左右対称がひとつの特徴で、3歳の頃、母親に教わった切り方を続けているそう。

大きな作品は別の場所にあるとのことで、車に乗って1時間、着いた先は創建約400年の大通寺。お寺には、江戸時代後期、京都画壇で活躍した岸駒(がんく)のふすま絵を始め、数々の貴重な作品があり、建物の多くが国の重要文化財に指定されています。早川さんの切り絵は、そんなお寺の本堂正面にありました。

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障子18枚分に、命の循環をテーマに、親鸞(しんらん)聖人と様々な動物たちが描かれています。制作に丸1年費やしたという大作です。

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そこへ大通寺の僧侶・永井貴宗さんがやってきて、「よかったら中に入りますか?」と本堂の中へと招いてくださいました。本堂の中から切り絵を見てみると、日の光によって切り絵が浮かび上がり、より幻想的な風景に。

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神々しいほどの美しさに圧倒されたアネリアさん、「心が満たされます。私が憧れたニッポンです」と涙がこぼれます。

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次に永井さんが案内してくださったのは144畳の大広間。実は今度ここで、早川さんの個展が行われる予定なのだそう。すると永井さんから「もしよければ、アネリアさんの作品も一緒に展示するのはいかがでしょう」という提案が。早川さんからも、「これから一緒にオリジナルの作品を考えて頑張りましょう」という嬉しいお言葉をいただき、アネリアさん、初めてのオリジナル作品の制作に挑戦することに! 帰国日が決まっているため、制作期間は1週間。

翌朝、「今日は作品のアイデアを膨らませるために山に行こうと思っています」と早川さん。作品をつくる前は、必ず近所の山へ行くとのこと。

「元気に声を出していかないと熊が出るかも」と教えてくれた早川さん、時々「あ~」と大きな声を上げながら山の奥へと進んでいきます。よく見ると、あちこちに熊の爪痕が! 今も多くの野生動物が生息する滋賀の山。天然記念物に指定されているカモシカの姿も!

険しい山道を歩くこと30分。幸い熊には遭遇せず、目的地「五色の滝」に到着。そこには自然が織りなす造形美がありました。

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水辺には鹿の足跡も。「動物たちが森の中でどうやって暮らしてどうやって遊んでいるのか...山に入るとそういうアイデアが浮かんでくる」と早川さん。アネリアさんも、早速作品のアイデアが浮かんだようです。

続いて早川さんのアトリエへ。かつて小学校だった建物を借りていて、家に入りきらない大きな作品が保管されています。作品を拝見したのち、オリジナル切り絵の制作開始! アネリアさんが考えた作品のテーマは「ニッポンとブルガリアの動物の共演」。

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「早川さんの作品に影響を受けたので、ひとつの作品に四枚の切り絵を貼り付けたいです」と大作をつくるよう。アネリアさんが感銘を受けた早川さんの「行灯」がこちら!

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切り絵が一面ずつ描かれ、四面すべてが線でつながっている難易度の高い作品です。

まず下絵を早川さんに見ていただくと、「オオカミはバランス的に黒がいいと思う。どこを黒にするか白にするかが重要になってくる」というアドバイスが。切り絵は白い部分が多いと明るく、黒い部分が多いと重厚になるので、そのバランスがとても大事。

オリジナル作品を作ったことがないアネリアさんは下絵を描くのに四苦八苦。あっという間に夜になってしまいました。片付け中、アネリアさんが「これは日本製のカッターで、ブルガリアでは買うことができません。切れ味が全く違うんです」とマイカッターを見せると、「僕も同じ刃です」と早川さん。アネリアさんは、ニッポンに行く友人にこの刃を渡し「必ず同じものを買ってきて!」とお願いしているそう。その後、「うちで一緒にごはんを食べましょう!」と誘ってくださった早川さん。

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奥様が作ってくださったのは、新鮮じゃないと出来ない「フナの卵まぶし」や山菜を味噌漬けにした田楽など、山の幸をふんだんに使ったお料理。

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メインのすき焼きに使うのはなんと熊肉! 猟師さんから獲った熊や鹿、イノシシをいただくのだそう。熊肉は脂が絶品で、熱を加えても溶けにくく、体にも良いとされています。アネリアさん、初めて食べた熊肉の感想は?

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「おいしいです。牛肉に味が近くてとても濃厚です」。

ニッポンを代表する切り絵アーティストから技を学ぶ

翌日早川さんは自宅を離れて仕事をするため、一旦お別れ。東京に戻ってきたアネリアさんが訪れたのは、阿佐ヶ谷。切り絵アーティスト・福井利佐さんを訪ねます。

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福井さんは歌手・中島美嘉さんのアルバムジャケットや桐野夏生さんの小説で表紙を担当。世界各国で個展を開く、ニッポンを代表する切り絵アーティストです。

作品を見せていただくと、インターネットで知っていたものの、作者がわからなくてずっと気になっていた作品だったようで大感激。鯉が餌に群がる様子を描いたこちらの切り絵は色紙を使っていますが、黒の輪郭は一枚の紙から切り抜いたもの。

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作品のお値段は約50万円。ブルガリアから持って来たアネリアさんの作品を見ていただくと、「すごい! 線はきれいに切れていますね」と福井さん。するとアネリアさんが「いつもお手本に沿って切っているだけなので、オリジナル作品が一枚もありません。"つなぎ"に自信がないんです」と悩みを打ち明けました。「つなぎ」とは、すべてのパーツを一枚の紙で完成させるために必要な切り絵ならではの技。そこで福井さんが取り出したのは、「はる」と縦に書かれた紙。離れている二文字をくっつけるため、福井さんが描いた下絵はこのような形に。

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「春という文字のイメージから、蝶々やそよ風のような線で表しています」と福井さん。言葉のイメージから生まれたアクセントを加えることで、オリジナル性のある立派な作品になるといいます。「意味を持たせてパーツをつなげるのが大事なんですね。私も挑戦したいです」とアネリアさん、苦手な"つなぎ"に挑戦することに。選んだテーマは「あき」。作業開始から2時間。出来上がった作品は...。

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秋を表す楓を散りばめることでつなぎに成功。文字に切り込みを入れ、枝を表現しています。福井さんからも「キレがある」と褒めていただきました。「つなぎが苦手と思っていましたが、考えるのが楽しくなってきました」とアネリアさん。今後の作品に活かせる大きな収穫があったようです。

別れの時。福井さんからツバメの切り絵をプレゼントしていただきました。

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「一生の宝物にします」と感謝を伝えるアネリアさん。

まさに神業! 憧れのアーティストの技を見学

次にアネリアさんが訪れたのは千葉県の住宅街。出迎えてくださったのは、アネリアさんが憧れていた切り絵アーティスト・福田理代さん。アトリエを見せていただいたアネリアさんは、「全部知っている作品です!」と大興奮です。福田さんの作品は、紙を切って作ったとは思えない細かい描写が特徴で、SNSを通じて世界中に知れ渡っているそう。こちらは代表作の「Octopus」。

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制作期間は2ヵ月で、お値段は約120万円。「細かい部分はまさに神業ですね」と話すアネリアさんに、福田さんも「ありがとうございます。よく見ていただいてすごく嬉しい」と笑顔に。

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こちらの作品は福田さんが普通のコピー用紙を使い、耐久性の限界に挑戦したもので、一番細い部分はわずか0.2mm! 一体どうやって切るのか...その神業を見せていただきます。

カッターの刃先を使い、白い部分を切り落としていく福田さん。

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「ものすごい集中力です! 老眼にならないことを祈っています。私はすでに老眼なので...(笑)」と感動するアネリアさんに、にっこりと優しい笑顔で返す福田さんでした。

テーマは「ニッポンとブルガリアの動物たち」行灯に挑戦!

ホテルに戻ったアネリアさんは個展に出す作品作りを再開。「素晴らしい先生たちに出会い、この旅は自分が成長するチャンスだと思うので絶対にやり抜きます!」。そして下絵で姿を現したのは、ブルガリアの国章にも描かれているライオン。

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顔の部分は早川さんに教えていただいた左右対称の切り方にすることにしました。それから3日間、東京観光をすべてキャンセルして作業を続けたアネリアさん。出来上がった切り絵を持って、早川さんのアトリエに向かいます。

「おー! いいですね! すごい。この短い時間ですごくいいものができたと思います」と早川さんに認めていただいた作品がこちら!

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テーマは「ニッポンとブルガリアの動物たち」。ライオンのたてがみを葉っぱにすることで、自然な形で他の動物たちとつながっています。「これで行灯はできますか?」と早川さんに尋ねると、「もちろん! 十分つくれます」と力強いお答えが返ってきました。

さらに、「色のついた和紙を行灯に使おうと思います」と和紙を取り出しました。実は「作品に色をつけたい」という強い希望を持っていたアネリアさん、すでに滋賀県の歴史ある「成子紙工房」で、ガンピという植物からつくられる貴重な和紙を手に入れていました。

「見ていて面白い。僕も勉強になりますね」と話す早川さんの前で最後の仕上げに取り掛かります。出来上がった切り絵をプリンターで拡大し、1mの大きさにしたら、それを木枠に貼り付けます。ついにアネリアさん初のオリジナル作品の完成です!

完成した行灯を持って大通寺へ。果たしてアネリアさん初のオリジナル作品は気に入ってもらえるでしょうか? 行灯に光を灯した瞬間、見ていた皆さんからは「お~」と感嘆の声が。

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白い光を放つ切り絵行灯。国境を超えた動物たちの共演です。ライオンの目にはブルガリアの伝統的刺繍模様を和紙で表現。山の中で足跡を見つけた鹿は、伊吹山に生える秋の楓とともに姿を見せ、絶滅してしまったニホンオオカミをヨーロッパオオカミと仲良く並べました。

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アネリアさんが「私が日本にきた証をこのような形で残せたのは幸せです。早川さんに感謝しています」と伝えると、早川さんは「アネリアさんが頑張ったからできました。彼女のこの先が楽しみ」と心強いエールを贈ります。

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別れの時。アネリアさんは大通寺のみなさんにブルガリアの名産・バラを使った香水を、しずくちゃんには「早川さんのご家族には本当にお世話になりました。東京で買ったものですが...」とお菓子をプレゼント。

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早川さんからは、ご自身の切り絵の絵本と欲しかった日本製カッターの刃800枚をプレゼントしていただきました。

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「全部使い切ります!」と嬉しそうなアネリアさんは突然どこかへ...。

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「これはブルガリアの古いおまじないです。咲いた花に紐を結ぶと、また同じ場所に帰ってこられるんです」とアネリアさん。この素敵なおまじないに、早川さんも「嬉しいですね。ぜひ帰ってきてほしいです」と感動した様子。アネリアさんも「この場所を忘れません」と伝えます。

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切り絵を通して様々な出会いがあったニッポン滞在。帰国を前にアネリアさんは、「今、私には大きな悩みがあります。この旅の思い出を切り絵にしようと思うのですが、あまりにも多すぎてどこから手をつければいいかわかりません。今回お世話になった方たちに喜んでもらえるような切り絵を作りたいと思います」とメッセージをくれました。

アネリアさん、またの来日お待ちしています。そして今回お世話になった皆様、本当にありがとうございました!

番組では、約2年前にご招待した「メロンパンを愛する」ジョージア人男性・ギオルギさんも登場。1日6000個メロンパンを販売する「ふくやまベーカリー」(熊本県荒尾市)で念願の指導を受け、秘伝のレシピまでプレゼントしていただいたギオルギさん。帰国後も、レシピをもとにパン作りを続けていた彼がパン職人修業のために再来日を果たしました。

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そして、今夜8時放送! 月曜プレミア8「世界!ニッポン行きたい人応援団」では、ギオルギさん再来日の後編を放送!

ギオルギさんは、「ふくやまベーカリー」の店主からオリジナル商品をつくる提案を受け、挑戦することに...。そんな中、彼から驚きの報告が!

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そして、約4年前にご招待した「和菓子を愛する」チェコ人女子高生が再来日。実は前回のご招待後、さらに和菓子やニッポン文化に興味を持った彼女は大学で1枠しかないニッポンへの留学を勝ち取り、京都府・立命館大学に通うことになっていた! お世話になった老松の皆さんに感謝の手紙と新作創作和菓子を持ち、訪問するとそこには素敵なサプライズが...。

約3年前にご招待した「かつお節を愛する」アメリカ人男性からも感謝のビデオレターが。前回のご招待時、静岡県西伊豆町・創業138年の老舗であるカネサ鰹節商店を訪問。江戸時代から続く幻の製法でつくるかつお節作りを教わった。そんな彼が帰国後、驚きの進化を遂げていた...。

どうぞお楽しみに!

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