3人のドラマプロデューサーが語るwithコロナ~キスシーンは本番だけ? ドラマ制作ガイドラインの実情を明かす

公開: 更新: テレ東プラス

4月の緊急事態宣言発出から約1ヵ月半...わずか数週間で、テレビ業界は大きく変わった。バラエティ番組はスタジオ収録がほぼなくなり、過去の総集編・傑作選のほか、タレントのリモートによる出演が増えるなど新たな可能性を模索している。

ドラマは......というと、先頃、NHKが大河ドラマと連続テレビ小説の放送を6月中に中断すると発表。余裕をもって撮影がなされていた大河と朝ドラですら"ストック"がなくなり、各局が収録を自粛して以降、元の状況に戻れずにいる――。

そうした中、5月25日に東京を含む5都道府県で宣言が解除され、中断されていたドラマ撮影の再開に光明が差してきた。飲食店同様、ドラマの撮影現場は3密の状態を作りやすいと言えるが、果たして撮影再開後は、「どんな対策が、配慮がなされるのか?」「ドラマの内容にはどんな変化が起こるのか?」「テレビ東京だからこそできることは何か?」......。4月クールのドラマを担当し、最前線で奮闘するドラマプロデューサー3人に聞いた。

dramap_20200529_01.jpg※左から、稲田秀樹プロデューサー(ドラマホリック!「レンタルなんもしない人」ほか)
森田昇プロデューサー(土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻 Season2」(BSテレ東)ほか)
阿部真士プロデューサー(ドラマ24「浦安鉄筋家族」ほか)

各局3密を避けるべく、キャスト、スタッフの数を制限しているようです

――緊急事態宣言が解除され、ドラマ撮影の再開が待ち望まれていますが、とはいえ、現場は3密が問われる場所です。具体的な対策はあるのでしょうか?

阿部「テレビ東京では撮影ガイドラインを作りまして、そこに細かく書かれていますね。例えばプロデュサーで言えば、"現場から一番離れたところにいるように"と書かれていたり...。現場ではまったく役に立たないのが僕らですから(笑)」

稲田「確かに一番いらないですよね、プロデューサーは」

阿部「マネージャーさんも、本当は俳優の段取りをリハーサルの段階から見ていたいと思いますが、離れたところからモニターで見る、リハの様子をリモートで配信するなど、独自の対策を考えています。現場にはカメラマンや照明部、演出部などのスタッフで結構な人数になってしまうので...」

dramap_20200529_02.jpg画像:PIXTA

稲田「テレビ東京に先んじて撮影再開を進める他局も、ガイドラインやマニュアルを作成しているようです。各局とも具体的な人数はまだ思案している最中だと思いますが、極力3密を避けるべく、キャスト、スタッフの数を制限しているようですね。ほかにも"エキストラを使わない"などの決まりごとがいくつか設けられています。当面は、そこらへんをケアしながらやっていくしかないのかなと思います」

森田「東日本大震災(2011年)の直後、様々なことに配慮しながら撮影する中で少しずつ日常が戻っていたように、今回も世の中が落ち着いてきたら......と個人的には希望を持っていますが、実際のところ、ワクチンでも開発されない限り、本格的に元には戻らないでしょう。それでも稲田さんがおっしゃったように、僕らは限られた条件の中、やっていくしかないわけです」

――例えば、食事のシーンはどうなりそうですか?

稲田「『レンタルなんもしない人』(※9話以降延期が決定)は、再開後、まさに台本にある食事のシーンを撮らなくてはならないのですが、やはり"対面はやめておこうかな"と、色々と思案中です。部屋の中で横並びも変だから90度かな? とか...」

阿部「しばらくの間はそうなるかもしれませんね」

――では、とりわけ恋愛ドラマには欠かせないキスシーン、ラブシーンはどうなるのでしょう。

稲田「キスシーンに関しても、リハーサルまではマスクをして、本当にキスするのは本番の一度だけとか、そういうガイドラインがありますね」

森田「ガイドラインを作る際、みんなで真面目な顔をして、"リハではマスクをしているけど、本番でキスするのはOKなのかどうか"などと議論しまして...」

――"もしもその1回で感染したら......?"という意見も出てくると思います。

森田「潤沢な予算があれば、キスシーンでも抱き合うシーンでも、グリーンバックにして合成すればできるんでしょうけどね。テレビドラマはお金も時間も少ないものが多いので、前でも述べたように本番1回でやらざるを得ないよな......と。今後は"濃厚接触は嫌です"とおっしゃる役者さんも出てくるでしょうから、そういうときは僕らの撮り方や演出を変えていかなきゃいけないのかな、と思っています」

――バラエティのように、アクリル板越しに...というわけにはいきませんよね。

稲田「コロナ禍を逆手にとった企画を、"あえて狙ってやる"ということはあるかもしれません」

森田「どうしてもはずせない人の営みというのはあるわけですよ。現場で変わらなきゃいけないこともあれば、変われないところもある。だからキスシーンも、"いつの間にかやってるよね"という日が早く来ればいいなと思います」

――少しずつ日常が戻ってくるまではラブシーンを避け、例えばテレビ東京で前々クールに放送された「ひとりキャンプで食って寝る」や前クールに放送された「絶メシロード」のように、登場人物が少なくて、広々とした屋外が舞台というドラマが増えてくるのかな? と想像します。

阿部「企画の段階では、そういうテイストのドラマが増えてくるでしょうね。ただ、例えば『孤独のグルメ』も、基本的には主人公の五郎さん(松重豊)がひとりでメシを食べてるだけなんですけど、一般のお店をお借りすることが前提にあります。『絶メシ~』もしかりで、キャスト、スタッフの人数を減らしたとしても、現況では苦労することが多いでしょうね」

森田「カメラに映ってる人はひとりでも、フレームの向こうには30人くらいが右往左往していて、店内にひしめいていますから」

稲田「当座はキャストの人数が少ない、ワンシチュエーションであるとか、スタジオを借り切ってひとつセットを作って済ませられるようにする企画が求められていくんじゃないかと。実際僕も、近々そういう企画をやります。でも、森田さんがおっしゃったように、僕らのスタイルは変えられないところも多いので、早く元の日常に戻って欲しいです」

森田「王道のドラマは絶対になくならないし、我々がなくさないようにしないと...」

普段から制約に慣れていて、だからこそ新しいものが作れるテレ東の強みを見せていきたい

――こう言うと失礼かもしれませんが、元々予算が潤沢でない中、限られた条件でやってきた「テレビ東京だからできること」に期待するドラマファンも多いと思います。

阿部「お金がないから知恵を絞るという(笑)。我々は、常々与えられた条件の中でやりくりしてきたわけですけど、そこにさらにコロナという新たな制約ができてしまいました」

稲田「制約には慣れているんだけど、"これ以上はもうヤメてくれ"というのが正直なところで」

――ハコ(撮影場所)を減らしたり、スタッフの編成をコンパクトにしたり、撮影期間をタイトにしたり......様々な創意工夫をされていると聞いています。

阿部「コロナ禍以前でも、常に現場では事件が起きていましたからね。ですから、もうひとつのっかってきた制約に慣れていくしかない、やるしかないです」

森田「『サイレント・ヴォイス』にしても、"取調室のみで話が展開するなんて面白い!"と言っていただけたりしますが、様々な制約の中、それしかできなかったということも多々ありますよ。でも結果、それが素敵に見えたり評価されたりすることもある。自粛明けも、制約の中、七転八倒してアイデアを絞りだしていけば何かしら光が見えるんじゃないかと思っています」

dramap_20200529_03.jpg※密な取調室を舞台に展開される「サイレント・ヴォイス」。幸いなことに3月ですべて撮影は終了

稲田「そうせざるを得なかった結果、見えるものもありますからね」

森田「ドラマ業界全体が保守的になりそうな中、テレビ東京の人間はそれぞれ何か考えるんじゃないかなと、僕は前向きに考えています」

――そういう困難な状況であるからこそ、脚本家、演出家など、新しい才能の出現も期待できそうです。

阿部「舞台系の脚本家さん、演出家さんがより台頭してくるんじゃないかと。予算などの制約がある中、ワンシチュエーションで面白い会話が書ける方、そういう企画が出せる方、動画サイトで短いコンテンツの構成をされている方......そういうクリエイターがたくさん出てくるんじゃないかなと期待しています」

稲田「こういう時こそ、新しい人材に出てきて欲しいですよね。"自分にその発想は出ない"と、ビックリさせて欲しい」

森田「コロナ禍でリモートに慣れちゃったところはあるんですけど、できれば脚本家さんとは、今後も顔を突き合わせてやっていきたいですよね。本打ち(台本の打ち合わせ)って、脚本家さんの反応を五感で感じる場だと思うので」

稲田「でも僕の周りでは、移動時間のロスもなくなるし、"打ち合わせはリモートでやりましょう"という要望も増えています。それに伴って、本打ち後の飲みの機会も減りそう」

阿部「リモートの本打ちが当たり前になると、台本の中に遊びが少なくなっていくんじゃないかという不安はないですか?」

稲田「そうだね。僕はリモートの本打ちは全然OKなんだけど、本音を言うと飲み会だけはやりたいの(笑)。そこで出てくるアイデアもあるから」

阿部「そうですよね。膝を崩した場で議論して理解を深めることは本当に大事で...」

森田「ただリモートの本打ちは、情報量が減る分、面白いかそうでないか? 本の内容だけに注力できるというプラスなところもあると思うんですよね」

稲田「マイナスなことばかりじゃない...プラスもあると受け止めて、状況に応じてやっていきましょう」

――では最後に、今回のコロナ禍を経てやってみたいテーマなどありますか?

阿部「ここ数年は一貫して、"政治と嘘"をテーマに何か作ってみたいと思ってやってきたので、世の中が元に戻ったら、今回の経験を踏まえてぜひ挑戦してみたいです」

稲田「そういう"今"を切り取ることができるのもドラマの良さですよね。僕も、秋に向けて準備しているドラマでコロナ禍の現状を取り入れています。今後状況が変わることもあると思いますが、配慮しながらトライしたいです」

森田「僕はあえて濃厚接触するドラマを作りたいですね。もちろん安全対策はしっかり取りつつ、人と人とがいろんな意味で密着したドラマをやってみたいです」

稲田「過度に自粛したドラマばかり並んでもつまらないですからね」

阿部「そうですよね。普段から制約に慣れていて、だからこそ新しいものが作れるテレ東の強みを見せていきましょう」

「withコロナ」の現状における変化を受け入れながらも、変わらない王道のドラマ作りを目指す。そして、窮地を好機に転じる。テレビマンの矜持を胸に、テレ東がこれからどんなドラマを生み出すのか......撮影の再開が待ち望まれる。

(取材・文/橋本達典)

そして今夜9時放送! 土曜ドラマ9「サイレント・ヴォイス 行動心理捜査官・楯岡絵麻 Season2」(BSテレ東)は...。

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行動心理学で嘘を見抜く美貌の女刑事・楯岡絵麻(栗山千明)と対峙するのは国会議員・藤川(石田法嗣)。ある新聞記者の不審死との関わりが疑われたが、相手は現職の議員。さらにSNSを駆使し若者から圧倒的に支持されており、迂闊には手が出せない。絵麻は藤川の嘘を見抜き追及するが、逆に高圧的な取り調べを支持者に訴え警察を攻撃。絵麻は小さな証拠から点と線を繋ぎ合わせ追い込むと、遂に藤川の持つ狂信的な顔が現れる...。

どうぞお楽しみに!

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