withコロナ~3人のドラマプロデューサーが語るリアルな舞台裏「撮影中断は本当に辛かった」「恐る恐る撮影を続けていた」

公開: 更新: テレ東プラス

1953年に日本初となる地上波のテレビ放送が始まって67年――テレビ業界が、かつてない危機を迎えている。

4月7日の「緊急事態宣言」発出から約1ヵ月半が経過。5月25日、東京を含む5都道府県で宣言が解除され、軒並み中断されていたドラマの撮影も、間もなく再開される見通しだ。

しかし、ソーシャルディスタンシング(社会的距離拡大政策)の実施は宣言解除以降も長期化する可能性があり、元通りの生活が戻る兆しはなかなか見えていない。事態が収束した後も大きな影響を及ぼすことになるだろう。

dramap_20200526_01.jpg画像素材:PIXTA

スタッフやキャストの縮小、ワンシーンにおける登場人物の制限、食事シーンやキスシーンなど接触シーンの消滅!? 今後はドラマの現場でも、脚本やシチュエーション、カメラのアングルなど、3密を防ぐような配慮が求められるのかもしれない。

外出自粛でテレビの視聴者数は増加しているものの、制作現場は活動の制限を余儀なくされている。そんな中、テレビマンたちは何を思うのか? 「テレ東プラス」は、4月クールの作品を担当したテレビ東京のドラマプロデューサー3人にリモート取材。熱い思いを聞いた。

dramap_20200526_02.jpg※左から、稲田秀樹プロデューサー(ドラマホリック!「レンタルなんもしない人」ほか)
森田昇プロデューサー(「サイレント・ヴォイス」ほか)
阿部真士プロデューサー(ドラマ24「浦安鉄筋家族」ほか)

次第に「このまま続けるんですか?」という声が上がるように...

──緊急事態宣言が出された4月以降、ドラマの撮影はストップした状態が続いています。現場ではどのような流れがあったのでしょうか。

阿部「2~3月と新型コロナの影響がじわじわと迫ってきて、現場のスタッフの間でも"果たして、いつまで安全に撮影できるのだろうか?"という声が上がる中、キャストのみなさんが"ギリギリまで頑張ろうよ!"と言ってくださったこともあり、細心の注意を払いながらなんとか撮影を進めていました。しかし、テレビ東京の方針で4月1日に撮影がすべて中止と決まりまして...。1日の午前中まで撮影をして、終了後にその旨をキャストとスタッフにお伝えし、"必ず再会しましょう!"と約束して一旦解散。以降は完全に撮影を中止したというのが、『浦安鉄筋家族』の現場の流れですね」

dramap_20200526_03.jpg※「浦和鉄筋家族」は7話以降延期に...

稲田「『レンタルなんもしない人』も、安全を確保しながら騙し騙し撮影を進めていましたが、緊急事態宣言が現実味を帯びてきたあたりから、現場で"このまま続けるんですか?"という声が上がるようになりました。それを無視できない状況になってきたのが、3月の末くらい。会社と"いつまで撮影するのか?"相談しつつ中止を決めたのが、同じく4月1日でした」

──撮影中断は、苦渋の決断だったと想像します。

稲田「やはり我々は、職業柄"作りたい!"という欲求が前に立ちますし、撮影現場には元々"ドラマのためなら..."というクレイジーな部分もありますから、その決断は非常に辛かったですね。この世界で長く現場に立ち続けてきましたが、自分の経験でもなかなか判断がつかないことばかりで苦しかったです」

森田「『サイレント・ヴォイス』に関しては、幸いなことに3月ですべて撮りきったので、中止の決断をされたお2人は大変だったろうなと想像します」

──現場の様子はいかがでしたか?

森田「3月には全国の学校で休校が決まりましたが、我々も恐る恐る撮影を続けていて......。予算の都合上、撮影のほとんどが取調室内で行われるので、狭い中、ギュウギュウにひしめき合って、1日何時間も撮っているという状況。キャスト、スタッフ共に、おっかなビックリやっていたという印象ですね。"なんとか撮りきれてよかったね"と胸を撫で下ろしつつ、コロナは潜伏期間がありますから、編集作業の際も"俺たち大丈夫かな......"と。そんな話ばかりしていたことを記憶しています」

──そこから2ヵ月近くが経過しました。5月25日に東京を含む5都道府県で宣言が解除されたので、いずれドラマの撮影も再開されますよね。

阿部「『浦安鉄筋家族』は残り6話ありますが、よりバカバカしい回がたくさんあるので楽しみですね。監督の瑠東東一郎さんがドリフのように演出されているシーンもあり、結果として、亡くなった志村けんさんへのオマージュになっています。脚本を担当しているヨーロッパ企画の上田誠さんは、1話の段階から"各回に散りばめた伏線を最終回で回収したい"とおっしゃっていたので、そちらにもぜひ期待していただきたいですね。上田さんが大好きなSFテイストがヒントです」

稲田「『レンタルなんもしない人』は、本日の放送を含めると残り5話。 増田貴久くん演じる"レンタルさん"こと森山将太はもちろん、それ以外のレギュラー陣にも注目していただきたいです。アンチレンタルさん・神林勇作(葉山奨之)がダークサイドに堕ちていったり、いつも本を売りつけている金田(古舘寛治)の正体が明らかになったり。奥さん(比嘉愛未)との関係にも変化が訪れます。また依頼者も、みなさんが関心を寄せてくださっている原作の中でもメジャーな依頼(エピソード)が登場します。それに伴い、豪華なゲストも予定していますので、ぜひご覧いただきたいですね」

dramap_20200526_04.jpg※「レンタルなんもしない人」で神林勇作を演じる葉山奨之

森田「『サイレント・ヴォイス』は、栗山千明さん演じる女性刑事・楯岡絵麻が、嘘をつきながら主張を繰り広げる強大な敵と対峙しますが、見どころは取調室のシーンです。(ソーシャルディスタンスの問題で)今後しばらくは、飛沫が飛ぶようなあれほどまでに激しい会話劇はなかなか撮れないと思うので、しゃべりとしゃべりで魅せる、今となっては貴重なシーンにどうぞご期待ください」

dramap_20200526_05.jpg※新型コロナ感染拡大ギリギリに撮り終えた「サイレント・ヴォイス」

もしかしたら、今までのような撮影は延々できないかも知れない......そう考えたりします

──『浦安鉄筋家族』と『レンタルなんもしない人』は、後半の撮影も残され、差し迫った状態だと思いますが、現場や撮影スタイルで何か変化することはあるのでしょうか?

阿部「今後、半年か1年は今までのような撮影はできないと思っていて、もしかしたら延々できないかも知れない......そう不安になったりもします。それでも個人的には、ずっと『物語』を作っていきたいと思っているので、そうなると、今までのようなオールドスタイル、オーソドックスな方法でしか撮れないだろうなと......」

稲田「コロナ以前の状況に戻ってほしいな...という希望はありますよね。多くのクリエーターのみなさんがこんな状況下でもエンターテインメントを供給されていて、本当にリスペクトしかないのですが、その一方でリモートドラマは見ていて限界も感じたので......」

──たしかに。自粛期間中、リモートドラマやリモート映画が公開されたので、それはそれで楽しく拝見しましたが、「今後もそれを続けて見たいか?」と問われると、やはり話は別です。

稲田「あと、こういう状況に置かれて、打ち合わせや仕上げの作業はリモートやデータのやりとりでも可能だと実感できたところもあって、現場ももっとコンパクトに工夫できる余地があるんじゃないかな、と思いました。変えられるところは変わっていかなきゃならないと。再開後しばらくはロケ現場も大勢押し掛けるわけにはいかないだろうし、ほかにも対応していかなければならないところは多々あります」

森田「稲田さんや阿部くんがおっしゃったように変化はあるとは思いますが、僕はあえて"変わらないのではないか"と考えています。2011年に起きた東日本大震災の後も、"この先どうなるんだろう?"とみんな不安だったけど、気づかないうちに日常が戻ってきた。変わらなきゃいけない部分もあれば、どうやっても変われないところはある。テレビ局は、50年前と変わらないオールドスタイルでやっている部分もあって、それでなきゃ撮れないものも多いんですよね」

阿部「そんな中、新しい可能性としては、動画サイトに配信されているような短いコンテンツが増えていくのかなと。例えばテレビ東京の『きょうの猫村さん』(毎週水曜深夜0時52分)のように、短い尺で情報量をギュッと詰め込んだものがカテゴリーとして増えてくるのではないかと想像しますし、自分でもやってみたいと思います」

稲田「今後撮影が再開した時、リアルな『withコロナ』の現状をどれくらいドラマに反映させるのかということも考えますね。出演者もマスクをして、家に帰ると必ず手を洗うのか、食事のシーンは対面ではなく、横並びなり90度にするのか......。今、どこまでどう取り入れていけばいいのかを思案しています。作品によるかもしれませんが」

5月30日(土)よる8時15分に公開予定の後編では、より深く細かいところに踏み込んで、ドラマ業界の「withコロナ」を考えます。新型コロナにおけるドラマの変化、自粛期間に思ったこと、テレビ東京だからこそできること――。3人のプロデューサーが語るテレビマンとしての矜持をお送りします!

(取材・文/橋本達典)

そして、5月27日(水)深夜0時12分放送! ドラマホリック!「レンタルなんもしない人」第8話は...。

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「レンタルなんもしない人」というサービスを始めた森山将太(増田貴久)。そんなレンタルさんの元に瀬戸正一郎(松尾諭)から依頼が舞い込む。マッチングアプリで知り合った女性とデートし、告白したが3週間連絡がなく...何が悪かったのかデートを一緒に振り返って欲しいという依頼だった。瀬戸は現在42歳。色々手を尽くしたが結婚には程遠く30戦30敗だという。デートも終盤、告白した場所だった池のボートを乗り終えた、ちょうどその時、なんと彼女からのメールが......!

※そして最後、番組に関する大事なお知らせがございます。

今夜の放送をどうぞお楽しみに!

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