温存、全摘でも生存率は同じ? 気になる局所再発率は? 乳がんと診断されたら必ず考えたいこと:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、今話題の健康法から、いざというときの医師・病院選びのコツまで、医療に関するさまざまな疑問に答える知的エンターテイメントバラエティ。毎回テーマに沿った健康情報を第一線で活躍中の医師たちがわかりやすく解説します。

今回WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」に寄せられたのは、乳がんと診断された方からの今後の治療に関するご相談です。早速、同番組のレギュラー、日本乳癌学会乳腺専門医の南雲吉則医師に教えていただきましょう。

乳房全摘術のほうが局所再発率は低い

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Q:30代女性です。じつは乳がん検診でステージⅡとの診断が出ました。温存より全摘のほうが生存率は高いと聞いたのですが、独身なのでどうしても躊躇してしまいます。そんなとき、乳がんにおくわしい南雲先生の病院を検索していたら、「大きく取っても小さく取っても生存率は同じ!」という記事を見つけました。続けて「どちらを選んでも生存率は変わりませんが局所再発率と審美性は変わります」とあったのですが、理解が追いつきません。少しわかりやすく教えていただければと思います。

── 先生、術式によって「生存率は同じだが局所再発率は変わる」とはどういう意味なのでしょうか。治療後の生活を考えると、とくに若い女性の患者さんには重要な情報なのではと思います。

「昔は30代の女性の乳がんはそれほど多くなく、40代・50代に多いといわれていました。最近は若年性乳がんといって35歳未満の人の乳がんが徐々に増えてきています。その原因として考えられるのが、未婚・晩婚・少子化。規則正しく女性ホルモンが分泌されることが、がんを成長させるといわれています。

この相談者の場合は、ステージⅡと診断されているとのこと。非浸潤がん(がんが発生した乳管内にとどまっている状態)のステージ0やステージⅠと同じく、ステージⅡも一応早期がんに分類されますが、しこりが大きい(2~5cm)か、すでに脇の下のリンパ節が腫れている状態です。そうなると命が大切です。大きく取った(乳房全摘術)場合と小さく取った(乳房温存術)場合ではどちらが生存率が高いのか、ということが心配になると思いますが、結論をいえば生存率はどちらも一緒です。

では、違うのは何かというと、大きく取ったほうがやはり局所再発率は低いんですね。脇の下のリンパ節についても同様に生存率は一緒ですが、大きく取ったほうがリンパ節の腫れの再発は少なくなります。ただし大きく取ってしまうと、そのことがきっかけでリンパ浮腫(腕がパンパンに腫れ上がる)という術後の後遺症が起こり、なかには一生苦しむ人も。

そこで今は脇の下のリンパ節は、転移がいくつも証明されたときに初めて切除が検討されるようになってきています」

── 現在は乳房を残せる温存を選択するケースが増えているのですか。

「乳房温存術は1987年に始まり、瞬く間に日本中に広がって乳がん治療の第一選択になりました。再発率はたしかに全摘のほうが低いのですが、生存率が一緒ならばまずは温存しましょうということになったのです。

ところが無理な温存によって、局所再発を何度も起こしてしまったり、大きく変形してしまうケースが出てきた。再発率を下げるために放射線をかけると、その後、乳房再建ができない。もはや三重苦ですよね。そのため、変形が最初から予測されるような場合には、逆に全摘が選択されるようになりました。

それでも温存は危険だけど全摘は嫌だという人はいるわけです。そこで第三の選択として2013年から保険適用が認められるようになったのが皮下乳腺全摘+同時再建という方法です。これは小さな傷から乳腺を全部取って同じ大きさ・形のシリコン(インプラント)を入れるというもので、比較的きれいに胸を再建することができます」

── 同時再建(一次再建)というのは、後から再建する(二次再建)のと比べて体の負担的にはどうなのですか?

「それは1回で済んだほうがいいですよね。いったん傷が治り硬くなった傷口にシリコンを入れるのは本当に大変なことなので、同時にできるのが理想です。たとえば、胃を切除したら同時に食道と腸をつないで再建しますよね。

乳房に関してはこれまで再建の費用が保険で認められなかったので費用負担を考えると難しい面もあったのですが、現在はその選択肢を検討しやすくなったということです。

しこりがやや大きく、そして乳房があまり大きくないのであれば、乳房温存術では変形することは必至です。その場合には全摘もしくは皮下乳腺全摘同時再建を検討すべきでしょう」

同時再建という選択肢も。セカンドオピニオンは必ず受けて

shujii_2020429_02.jpg画像素材:PIXTA

── 同時再建するという方は増えているのですか。

「年間9万人が乳がんといわれて、うち4万人が全摘になるのですが、そのうち同時再建を選んでいる人は6000人くらい。その他の方は摘出だけにとどまっています。この人数は保険がきくようになってからで、ここ数年の間、ほとんど変動していません。同時再建を行わなかった理由としては、再建できるのを知らなかったという人もいれば、そこまで考える余裕がなかったという人もいます。

欧米では同時再建を希望する人が多いのですが、日本人の場合はとにかく命あっての物種で、美しくなることまで考えてはいけないという道徳観があるのかもしれません。年齢的には若い人のほうが若干多いようですが、背景には見た目として必要とする以外にもうひとつ、ネットで情報を調べたりしないと同時再建できる病院を見つけにくいという現実があります。

つまり、病院で医師から『全摘しかないよ』と言われたら、そうなのだと思う人がほとんどなんですね。乳がんの罹患数は年々増加していますが、まだまだ知られていないことが多く、ちょっと聞いたことがあったとしても、具体的な治療実績などについては情報を得られていないのでしょう」

── この相談者は全摘に抵抗があるようですが、温存して再発してしまった場合はどうなるのでしょう。

「それは全摘しかないですね。その場合、再建も困難です。この方のようにステージⅡでしこりがある程度大きいのであれば、同時再建がベストでしょう。

医師の中にはそうした情報を持っていなかったり、持っていたとしても希望する情報を告げてくれなかったりする場合があります。自分の得意な治療だけを薦める医師も少なくないのです。ですから、乳がんと診断されたら、必ず病理結果のコピーをもらい、必要に応じて自分でセカンドオピニオンを受けることがひとつの自己防衛になります。

セカンドオピニオンは、提唱されるようになって20年以上経ちますが、まだまだ受ける人は少ないようです。医師には "自分の力でなんとか治してあげたい" という情熱もあるのですが、患者さんにとっては一生に一度のこと。チャンスは一度きりなんですね。

セカンドオピニオンはその権利です。病理結果のコピーさえあれば、紹介状がなくてもセカンドオピニオンは受けられます。たいていは手術まで何週間か待たされるわけですから、その時間を無駄にしないように、ネットで情報収集したり、セカンドオピニオン受けるということを当然のこととしてやってほしいですね」

――南雲先生、ありがとうございました!

【南雲吉則医師 プロフィール】
医学博士 昭和56年3月、東京慈恵会医科大学卒業
東京女子医科大学形成外科研修、癌研究会附属病院外科勤務、東京慈恵会医科大学第一外科乳腺外来医長を歴任。平成2年 医療法人の認可を受け、「医療法人社団ナグモ会ナグモクリニック」を開設。医療法人社団ナグモ会理事長、ナグモクリニック総院長 平成28年4月 ナグモクリニック福岡院長。
著書に「命の食事」(主婦の友社)、「紫外線のすごい力」(主婦の友社)など多数。

※この記事は南雲吉則医師の見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った南雲先生も出演する「主治医が見つかる診療所【おうちでできる!超カンタン代謝アップ法SP】」(4月30日木曜夜7時58分)。

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