水の底に”巨大市場”...「水中ドローン」で海の産業革命を起こす!?

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ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)のシリーズ特集「イノベンチャーズ列伝」では、社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。「テレ東プラス」では、気になる第25回の放送をピックアップ。

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2020年3月、神奈川県藤沢市沖の海上。「せーのっ!」というかけ声とともに、船の甲板から2人の男性が、ミカン箱ぐらいの大きさのモノを海に投げ入れた。これが今回の主役、「水中ドローン」だ。

innoven_20200407_01.jpg※海に投入された「水中ドローン」。このあと深海へ...

空ではなく水中を漂い、深く潜っていく。この日到達したのは水深250メートルの海底。すぐさま深海の「今の姿」が映像で送られてくる。それを船のパソコン画面上で食い入るように見つめるのは、新江ノ島水族館(神奈川県藤沢市)の飼育員たち。深海にどのような生き物がいるか、調査しているのだ。「カナドかな、面白い面白い」「歩いてる、歩いてる!」。砂の海底を、エビのような細い脚でチョコチョコ歩く姿に、歓声をあげる飼育員たち。その1人は「網で捕ると、どういう形で生きていたかが分からない。それを見ることができるのは、水中ドローンならでは」と話す。

innoven_20200407_02.jpg※水中ドローンが水深250mの海底で映し出した「カナド」の歩く姿

実はこれまで、こうした深海の様子を確かめるには非常に大がかりな機材や多くの人員が必要で、水族館が自前で調査することはほぼ不可能だった。ところが最近、あるベンチャー企業が「日本初」の水中ドローンを開発、実用化させたことで、こうした調査を手軽に行えるようになったという。

そのベンチャー企業「フルデプス」の創業者、伊藤昌平社長(33)も今回の調査に立ち会っていた。伊藤氏は「水中ドローンを使って、簡単に、当たり前に水中のことが分かるようにできれば、人の役に立てるのではないかと考えた」と振り返る。

innoven_20200407_03.jpg※ 「水中ドローン」を開発したフルデプスの創業者、伊藤昌平社長

フルデプスの拠点は東京・台東区の小さなビルにある。中に入ると、いきなり目に飛び込んでくるのが"プール"だ。水中ドローンの実験がいつでもできるよう、オフィスの中に設置してしまったのだという。水の底には、被写体としてなのか、おもちゃのエビが沈んでいた。

伊藤社長が、このプールで水中ドローンを動かしてくれるという。機体を沈めたあと、手に取ったものは...「普通のゲーム用コントローラーです」。レバーを上げると浮上し、下げると沈む。旋回や、前後への動きも自在だ。操作をとことん単純にしたことで、だれでも2時間も練習すれば動かせるようになるという。

innoven_20200407_04.jpg※ 水中ドローンの操作はゲーム用コントローラーから。「沈む」も「回る」も自在

この水中ドローン、レンタルなら保守・メンテナンス込みで、月20万円からで利用できる。かなりリーズナブルに映るが、カメラはフルハイビジョンの高精細、推進器は7つも搭載していて、高性能をうたっている。

innoven_20200407_05.jpg※フルデプスの水中ドローン。メンテナンス込みで月20万円から

ただ意外にも、水中ドローンを開発するうえで最も困難だったのは、本体と船上のモニターを結ぶ「ケーブル」だった。水中は電波が通らないため、ドローンとは有線でつなぐしかないのだが、「潮の流れでケーブルがたわんで、ドローンが浮いてしまう」(伊藤社長)という問題が立ちはだかったのだ。最終的に、伊藤氏らは波の抵抗を受けにくい「極細」で、かつ切れにくいケーブルを開発。これでようやく、水中を自在に動き回り、沈むことができるドローンを実現できたという。

その水中ドローンが3月下旬、海ではなく「ダム」に投入された。100年以上前に、神戸市で水道用として建設された「立ヶ畑ダム」だ(現在、水道利用は休止)。実はこうしたダムや港など水中インフラでは、「老朽化の点検」が欠かせない。これを従来は、潜水士が潜って全部目で見て確認するしかなかった。しかし「水中の作業は過酷なので、潜水士がどんどん減ってきている」(伊藤社長)。これを水中ドローンによって大幅に省力化できないか、いま実証実験中なのだという。水中ドローンが先に様子を確認し、補修が必要な時だけ潜水士が潜れば、人手不足を解消でき、コストも下げられる。

innoven_20200407_06.jpg※ 水中ドローンはダムや港の老朽化チェックでも活躍

そのほか、魚の養殖施設で育ち具合や設備の破損をチェックするなど、水中の「見える化」需要は幅広い。さらに伊藤社長が将来に向けて描く"野望"が、海底のあらゆる情報をデータ化することによって、「海の産業革命」を起こすことだ。「グーグルの"ストリートビュー"を海底で完成させることが、私の1つの夢です」。海底の形だけでなく、水質、海流、資源など、あらゆる情報をデータ化すれば、今までにない産業が興せるのではないかと見込んでいる。「今後も人は海と付き合い続けていく。そうした情報は必ず、必要になる」。

innoven_20200407_07.jpg※ 「夢は"海のストリートビュー"を作ること」。そこからどんな産業が生まれるか?

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