山田五郎「東京の活力の源は”雑多性”。バランスよく新陳代謝していく街であってほしい」

公開: 更新: テレ東プラス

1995年の春にスタート! 街を徹底的に紹介する都市型エンターテインメント「出没!アド街ック天国」が、4月4日(土)よる9時の放送で25周年を迎え、番組がこれまで撮影してきた25年分の秘蔵映像を一挙大公開する。

そこで「テレ東プラス」では、22年に渡って"「街に詳しい」コメンテーター"として出演し、独自の視点で街の魅力を伝えてきた山田五郎を直撃! 番組の魅力をはじめ、街づくりの理想、東京の今後までじっくり語ってもらった。

時代と共に、人気のある街が変化してきたなと感じます

──山田さんは98年からのご出演になります。この22年間を振り返ってみていかがですか?

「もうこの年になると、特に長いとは感じていませんでしたが(笑)。それでも、人生の3分の1以上も同じ番組に出演させていただいてきたわけで、スタッフや視聴者の皆様に改めて感謝せずにはいられません」

──「アド街」に登場する街は時代と共に様々な変遷を遂げていますが、番組はいつ見ても基本スタイルが変わらないのでホッとします!

「ベスト30だったのがベスト20になったりと、実は人知れず変化し続けてはいるんですよ(笑)。第1回は『代官山』だったと聞いていますが、スタート当初はまだバブルの香りが残っていましたよね。代官山が注目され、シロガネーゼという言葉が生まれ、横浜ではみなとみらい21地区に次々に新施設が生まれていました。その後も六本木ヒルズや東京ミッドタウンができた頃までは、まだどこか浮ついた感じが残っていましたが、2000年代に入ってからは番組でも立石や十条といったキャラの立った下町が取り上げられる機会が増えてきたように感じます。番組の基本スタンスは変わりませんが、人気のある街は時代と共に結構、変わってきましたよね」

──山田さんが特に気になる街はありますか?

「基本的にはどの街も、毎回全力で興味を持つようにしています。でも私生活では、原宿から渋谷、恵比寿にかけての"若者の街"に行くことが、めっきり少なくなりました。求めるものがそこになくなったんでしょうね。さらにネット販売が充実しすぎて、どんどん出不精になっています(笑)。神田で古本を漁ったり、レコードを探しに高円寺あたりまで足を伸ばすことも、あまりやらなくなっていて......。いかんですよね。世の中、便利になりすぎるのも考えものです」

──街歩きの楽しさが、奪われつつあるということでしょうか。

「そうですね。ただ、ネットというのは基本的にオンデマンドのツールで、物でも情報でもあらかじめ自分が求めているものとしか出会いませんから、予定調和に陥りがちです。効率はいいけれど、だからといってネットだけに頼っていると、世界が広がるどころか逆にどんどん狭くなっていく。その点、実際に街に出ると、嫌でも予期していなかったことに出くわしますよね。ある本を探して書店や古本屋さんを訪ねたはずが、見たことも聞いたこともない全く別の本に出会って、なぜかそちらを買ってしまったり(笑)。でも、そこから新たな発見がはじまって、世界が広がるわけじゃないですか。だから、どんなにネットが発達しても、街歩きの楽しみは永遠になくならないと思いますよ」

──そういう意味でも、「アド街」の必要性を感じますね!

「『アド街』をご覧いただくと、街に出れば毎回、新たな発見があることがおわかりいただけると思います。お店の情報はネットでも手に入るけど、それだけじゃない。そこに集う人々や醸し出される雰囲気は、常に変化しています。ベテランスタッフが撮ったテレビ映像からは、そういう微妙な空気感のようなものまで伝わってくるんですよ。皆さんが25年経った今もチャンネルを合わせてくださるのは、街が常に変わり続ける生き物であり、番組がその変化をとらえ続けてきたからだと自負しています」

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"暮らしている人が一番幸せ..."それが街の理想像

──5年前、MCが初代の愛川欽也さんから井ノ原快彦さん(V6)へと受け継がれました。お2人の印象やエピソードをお聞かせください。

「愛川さんは "最後の演劇人"という感じで、素晴らしい教養と確固たるポリシーをお持ちの方。僕は席が近かったので、収録中もよく雑談させていただきました。昔の映画の話で盛り上がったり、ご自身が撮りたい映画の構想を語り始めたりなさると止まらなくなり、八塩(圭子)さんや大江(麻理子)さんに『VTRを見てください』とたしなめられたことも一度や二度ではありません。僕がいちばん心に残っているのは、"街を作るのは人"という教え。これはイノッチにもしっかり受け継がれていると思います。『いい街とはそこに暮らす人たちが幸せな街』という"街の理想像"も。イノッチはそこを踏まえた上で、VTRでもゲストの発言でもいいところをどんどん見つけて拾っていこうとする姿勢が素晴らしい。愛川さんとイノッチ、峰(竜太)さんに薬丸(裕英)さんに歴代アナウンサーに僕と、レギュラー陣が世代はバラバラでも"街の理想像"を共有できてきたからこそ、番組が長く続いているのだと思います」

──暮らしている人が幸せな街が一番いい街...そんな部分を垣間見せてくれるのが、「アド街ック天国」なのかもしれません。

「そうですね。やっぱり"街をつくるのは人"であって箱ではないんですよ。再開発で新しいビルがどんどん建っても魅力的に映らないのは、どこも一緒だからです」

──なぜ、一緒になってしまうのでしょう。

「再開発で家賃が上がると、住む人や入るお店が限られて均質化してしまうからだと思います。たとえば80年代の原宿が若者文化の発信地になったのは、街がオシャレだったからではなく、便利な割に家賃が安かったからなんですよ。同潤会青山アパートや原宿セントラルアパートといった古いけど家賃が安い建物に、お金がないデザイナーやコピーライターやカメラマンが集まって、そのシナジーから新しい文化が生まれたわけです。その同潤会青山アパートが表参道ヒルズに再開発され、見た目はきれいになったけど、家賃は若者や新興ブランドには手が届かないほど上がってしまった。結果、他の再開発地区と同じような一流ブランドばかりが並び、今や表参道は新しい価値を創り出すより既存の価値を消費する街になっています。だから、街を活気づかせるには、再開発で家賃を上げるのではなく、逆に既存の建物の家賃を下げて人が集まりやすくした方がいいんじゃないかと思うんですよ。何度も言いますけど、街を作るのは箱ではなく人なんですから」

adomachi_20200403_02.jpg▲昔ながらのコミュニティを大事にしてきた、かつての「同潤会青山アパート」(原宿)
画像:PIXTA

オリンピック後に大きく変わるのは、外苑地区と晴海

──延期が確定し、2021年には「東京オリンピック・パラリンピック」が開催される予定です。山田さんは、開催後の東京はどう変わると思われますか?

「さほど変わらないんじゃないでしょうか(笑)。建物や道路といったインフラも、前の東京五輪のときのように街を一変させるほどの大整備は行われていませんから。五輪後も残念ながら東京の地価は期待するほど下がらず、少子高齢化が進んでも東京一極集中は変わらないような気がします。変わるとすればむしろ地方都市の方で、五輪後に景気が後退すれば地方経済にも影響が波及して、ますます過疎化が進みかねません」

──そんな中でも、ここは変わるだろう! という街はありますか?

「五輪後に変わりそうなのは、ひとつは国立競技場周辺の神宮外苑地区。外苑西通り沿いとスタジアム通り沿いの再開発は今後も進んでいくでしょう。もうひとつは晴海で、こちらは確実に激変します。選手村を住居に改装して、分譲と賃貸で5000戸を超えるHARUMI FLAGという新しい街が生まれますから」

──最後に、山田さんが今後の東京に期待することを教えてください。

「僕は東京という街の活力源は"雑多性"にあると思っています。台地と低地、山の手と下町が都心部でここまで複雑に入り乱れた地形を持つ大都市は、実は世界にもあまり例がありません。そんな地形も幸いして、この街では江戸時代からさまざまな職業や世代の人たちが近い距離で交わり合い、文化や経済を発展させてきたわけです。これからも、そんな雑多性を保ちつつバランスよく新陳代謝していく街であってほしいと願っています」

【山田五郎 プロフィール】
編集者・評論家。1958年東京都生まれ。上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し、西洋美術史を学ぶ。卒業後、㈱講談社に入社。『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。現在は、時計、西洋美術、街づくりなど、幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。『へんな西洋絵画』(講談社)、『知識ゼロからの西洋絵画入門』シリーズ(幻冬舎)など著書多数。TV:『ぶらぶら美術博物館』(BS日テレ)、ラジオ:『山田五郎と中川翔子の『リミックスZ』』(JFN)他、レギュラー出演中。

(取材・文/横田裕美子)

※このインタビューは、2020年2月末に行われたものです。

そして、いよいよ明日よる9時放送! 「出没!アド街ック天国~アド街の25年SPECIAL~」。

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1995年の春、愛川欽也さんが「おまっとさんでした!」といってスタートした当番組。4月4日(土)の放送で1250回を迎え、おかげ様で25周年!

振り返れば、日本全国、様々な街に出没してきました。今となっては撮影できない貴重で懐かしいシーンも数多! そこで今回は、これまでに撮影してきた25年分の秘蔵映像を一挙大公開! 拡大版でお届けします。

街の大きな魅力のひとつ、美しい風景。下町の路地裏から大自然の絶景まで、心を揺さぶる美しい風景の数々を紹介します。各地の温泉では麗しい入浴シーンにも挑戦。奇跡的に撮影できたマル秘入浴シーンをご堪能ください。
多くの人との出会いも番組の宝です。とある街で出会った少年少女の中には、後の大スターも! 若かりし頃のスター達の素顔に迫ります!

そして、街に人を呼ぶ最大の引力といえば、やはり美味しいもの。これまで紹介してきた飲食店は1万軒以上。その中から思いがけない所で出会った絶品飯の数々を紹介します。

【出演者】
司会:井ノ原快彦、須黒清華(テレビ東京アナウンサー)
レギュラー:峰竜太薬丸裕英、山田五郎
ゲスト:夏木マリテリー伊藤ケンドーコバヤシ生駒里奈

どうぞお楽しみに!

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