「このドラマは確実に表現の幅を一歩、前進させた」野木亜紀子×宮藤官九郎 対談 延長戦:コタキ兄弟と四苦八苦

公開: 更新: テレ東プラス

ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜深夜0時12分放送)が、本日3月27日(金)最終回を迎える。真面目すぎてうまく生きられない兄・古滝一路(古舘寛治)と、ちゃらんぽらんにしか生きられなくなった弟・二路(滝藤賢一)が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始める......なんともゆる~く、まったりとした時間が流れる物語が、第8話を機に急展開を迎えている。

脚本を手掛けた野木亜紀子と、コタキ兄弟の先輩レンタルおやじ・ムラタを演じた宮藤官九郎、日本のエンタメ界をけん引する人気脚本家の夢の対談を前後編でお届けしたが、2人のトークはまだまだ続いていた! 記事公開時はネタバレになるため泣く泣く割愛したエピソードを、ここに延長戦としてお届けします。

※第8話以降のストーリーに関して言及しています。事前に情報を知りたくない方は視聴後にお読みください。

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──タイトルにある通り「四苦八苦」(「四苦」は生・老・病・死の四つの苦しみ。「八苦」は、四苦に愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦を加えたもの)をサブタイトルに、1話完結で描かれていた物語が、第8話以降、急展開を迎えました。

宮藤「いろいろ感心するところがたくさんあるんですけど、『コタキ兄弟』って途中からさっちゃん(芳根)の話になっていくじゃないですか? あれが一番すごいなと思いました。そっちに行きっぱなしなんだ、って」

野木「そうなんですよ」

宮藤「第8話で兄弟が入れ替わるネタがあって」

kotaki_20200327_02.jpg第8話「八、五蘊盛苦」。兄弟の心と体が入れ替わった!?

──大林宣彦監督の「転校生」的なネタですね。

宮藤「これすごい面白いなーと思ってたんですよ。もし僕がこの企画をいただいて、この設定でやっていれば7、8話あたりでやりたくなるだろうなと思ったネタだったんですよね」

野木「わー、うれしいです」

宮藤「で、面白いなーと思ってさらに台本を読んでいくと、その先にもっとすごいテーマがあって。"えっ、これやるんだ"と思って。あれって大丈夫でした?」

野木「テーマ的にというのは、さっちゃんが女性しか好きになれない、ということですね」

宮藤「僕、同性愛のコントと、『ごめんね青春!』(TBS系)で性同一性障害的なものを入れたことあるんですけど、すごく難しかったんですね。どう受け取られて、何を言われるかわからないから、(取り上げ方や表現方法について)専門の識者にいろいろおうかがいをたてたりしなきゃいけなかったり。ハッキリ言いたいのに、何で言えないんだろうって」

野木「軽々しくは扱えないですよね。個人的には、もっとしれっとやってくべきなんじゃないかとも思うんですけどね。変に触っちゃいけないみたいな感じもよろしくないじゃないですか」

宮藤「そうですよね」

野木「でもやるからには、ちゃんとやらなきゃいけないので、第11話は専門家の先生にお願いして、台本を見ていただいたんですけど」

宮藤「僕も"腫ものに触ってます、すみません......"みたいな感じに、どうしてならなきゃならないんだろうと思っていて。そういう人たちの中にも、いろんな人がいるだろうに。でも『ごめんね青春!』で、そういうコがいつの間にか女子の制服を着てるのに、誰も何も言わないというのをやった時でさえ難しい状況だったんで」

野木「"コスメ"(『ごめんね青春!』の生徒のあだ名)ですね。コスメ、好きでした。みんな当たり前のように受け入れていたの、良かったです」

kotaki_20200327_03.jpg第11話「十一、生苦」では、さっちゃん(芳根京子)が同棲していた元彼女が登場。

──コスメのことを素直に認める生徒たちが愛情込めて描かれた回で、息子の状態に戸惑う父に主人公が『ロッキー・ホラー・ショー』のDVDを渡すくだりも、宮藤さんならではの表現でした。

宮藤「結局は言葉に反応してるのかな? と。"オカマ"はもちろん、最近は"オネエ"ですらダメになりつつあって。我々が日常で使ってる言葉とは遠すぎる......"性同一性障害"的な言葉にしなきゃいけない、みたいな。でも"そんなことしてまでがんばってドラマで扱いましたよ"というのもやっていて気持ち悪くて。(プロデューサーの)磯山さんにもずいぶん闘ってもらって、ああいう着地点に落ち着いたんですけど」

野木「今の時代、何がどうなってどこを言われるか分からないですもんね」

宮藤「だから野木さんがおっしゃったように、しれっとやっていけたらいいと思うんですよ」

野木「ただ思うのは、今後もっとしれっとやっていければいいなとは思うけれど、今はまだ過渡期だと思うので、ちゃんとするところはちゃんとしなきゃいけない時期だと思っていて。説教臭いのは私もイヤなので、今回は"理解してもらう"......くらいの」

kotaki_20200327_04.jpg第11話「十一、生苦」より。妹のために奮闘する兄弟。

宮藤「あの堅物なお兄ちゃんが、それを受け入れる」

野木「そうですね。お兄ちゃんと同じで分かってない人は多いし、自分には関係ないこととして知ろうともしないんだけど、理解できて普通に受け入れられたらいいよね、っていうところがあったので書きました。せっかくテレビ東京の深夜で、各話ワンテーマで書かせてもらうのであればやっちゃおうかなって。古舘さんが企画段階のときに、ゲイを扱った話があってもいいんじゃないかということをちらっと言ってたんですよ。そのときは、うーんそうは言っても難しいよなと思ってたんですけど、こういう形ならできるかなと」

宮藤「僕も"決して腫ものじゃないんだ。普通にあることなんだ"というのを言いたいだけなんですね。でもそれに対して表現がどうこうと言われちゃうから。それでみなさん敬遠したり、あきらめたりするのはもったいないなと。だから、『コタキ兄弟』のチャレンジはすごくいいなと思いましたね。

『いだてん~東京オリムピック噺~』でも台本には入っていて結局はカットしたんですけど、最初のロサンゼルス五輪で女子の選手が生理がきちゃって出れなくなった......という話を書いたんですよ。これは実話で、マムシの粉を飲んでホルモンのバランスが崩れて。で、『これ誰が飲ませたんだ』『まーちゃんだ』『俺じゃないよ~』ってくだりを書いたんですけど(笑)」

野木「へ~、見たかった」

宮藤「それは尺の都合でなくなったんですけど、この話をラジオでしたら今度は『なんでなくなったんですか?』って言われて。『何か理由があるんですか?』とか、逆に勘繰られちゃうんで、そういう性のことについてはしばらくは難しいかなと思うし。だからがんばんなきゃなとも思うし。『コタキ兄弟』は、そこを闘ってる......と言っちゃうのはちょっと違うのかな。でも、確実に表現の幅を一歩、前進させたと思いました」

野木「ふざけながらも、真面目にやりました」

宮藤「キャラクターが真面目ですもんね。お兄ちゃんもそうだけど、弟も実は根が真面目。真面目であるがゆえに笑えることもありますからね。そこもすごいなーと思いました」

──「いだてん」に関しては『NHK大河ドラマ いだてん 完全シナリオ集』が発売中。宮藤さんの希望で、放送されたものでなく撮影前の台本(決定稿)が収録されているとのこと。現場で変更されたセリフやシーンと見比べるのも面白そうです。

野木「その方が面白いですよね。いろいろ見比べられて」

宮藤「このドラマを見て、ノベライズではないシナリオ集を買ってくれる人はこうやって(斜めに)読むと思ったのでそうしました(笑)。今回はディレクターさんがみなさん素晴らしい方ばかりだったので、現場でどんな判断があったのか。僕がこういう仕事をする前だったら、きっとうれしいだろうなと思ったというのもあります。『コタキ兄弟』もシナリオ集が出ると、喜ぶ人がたくさんいると思うんですけど」

野木「出たらうれしいですけどね。そこは、どこか出版社の方にお任せします(笑)」

(取材・文/橋本達典)

【プロフィール】
野木亜紀子(のぎ・あきこ)
1974年生まれ。東京都出身。日本映画学校8期。卒業後、ドキュメンタリー番組の制作に携わる。一般企業勤務を経て、2010年「フジテレビ ヤングシナリオ大賞」を受賞後、脚本家デビュー。主な作品に映画『図書館戦争』シリーズ(2013年、2015年)、ドラマ『空飛ぶ広報室』『逃げるは恥だが役に立つ』『アンナチュラル』(TBS系)、『獣になれない私たち』(日本テレビ系)、『MIU404』(TBS系、4月より放送)などがある。2020年に映画『罪の声』が、2021年には『犬王』が公開予定。著書『獣になれない私たちシナリオブック』が発売中。

宮藤官九郎(くどう・かんくろう)
1970年生まれ。宮城県出身。1991年より「大人計画」に参加。2000年、ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)の脚本で注目される。映画『GO』(2001年)、『謝罪の王様』(2013年)、『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』(2016年/監督兼任)、ドラマ『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)、『監獄のお姫さま』(TBS)、NHK連続テレビ小説『あまちゃん』、NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』など代表作多数。

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ついに最終回! 3月27日(金)放送、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」第12話は?

「十二、愛別離苦」最終回
母の旅館を手伝うため、さっちゃん(芳根京子)が喫茶シャバダバを辞めることになった。突然の妹との別れに動揺を隠せないコタキ兄弟。肩を落とす一路(古舘寛治)を尻目に二路(滝藤賢一)が提案したのは"古滝家一泊二日ツアー"!? 驚きの提案に慌てる一路だが、さっちゃんは快諾! 一つ屋根の下、兄妹で過ごす最初で最後の一日。遂に最終回!
兄弟はさっちゃんに真実を告げるのか? 更にレンタル兄弟おやじも解散の危機?

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