1泊12万円でも客足が途絶えない宿場町の宿...その魅力と気になる全貌

公開: 更新: テレ東プラス

日本には、少子高齢化や過疎により、生活に欠かせないインフラや拠点、観光資源が窮地に陥っている地域がある。しかしその一方で、現状に立ち向かう人たちも...。まちを支えるライフラインや観光資源をどうすれば「持続可能」にできるのか? 3月8日(日)に放送した「持続可能をつくる~金融の新たなカタチ」(BSテレ東)では、課題を一つひとつ克服する人々に密着した。

島民の生活が...貨物船の老朽化に立ち向かう人々

奄美群島の中央に位置する、鹿児島県徳之島。人口22万7000人の島を歩くと、散歩する牛に出会うほどのどかだ。ここには毎日、島に必要な物資を運ぶ貨物船「みさき」がやって来る。

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ところがこの日、荷下ろしをするために開くはずのゲートが突然開かなくなった。「みさき」は建造から30年近く経っているため、老朽化によりガタがきているとのこと。沖合でゲートを調整し、なんとか作動。船の中には島の食料品や建築資材などが詰まっている。島での配送を担う「共同通運」社長・永島さんは「ゲートが開いて良かった。船が止まったら大変! 台風で1週間止まったりすると、店が空っぽになってしまう」と胸を撫で下ろす。この日は事なきを得たが、抜本的なインフラ対応が必要だ。

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「みさき」を運行するのは、70年前に設立された鹿児島の会社。小さな船を持った船主たちが集まり、共同で貨物を運搬する会社として「共同組海運」を立ち上げた。実はこの会社、7年前に一度経営破綻している。5年半前に会社を引き継ぎ社長となった牛田さんの悩みの種は、破綻の原因になった燃油の値段。船を動かすためには1往復で200万円ほどかかり、燃油の価格変動に気苦労が絶えない。

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老朽化した船「みさき」についても頭を抱えていた。補修してもすぐにサビが発生するなど、毎年莫大なメンテナンス費用がかかる。「ここまで古くなると、電気関係が故障した時に部品がなく、作るのに1〜2ヵ月かかることも」と牛田さん。燃費が良く、大きな船に買い換えたいが、破綻による民事再生中では新たな融資を受けることが出来なかった。

現在、鹿児島から奄美の離島を巡る貨物船は「みさき」のみ。船が故障で止まると、生活用品だけでなく医療用酸素などを運ぶ手段もなくなってしまう。

そんな中、新しい貨物船を作る計画を考える牛田さんのもとに、「商工組合中央金庫」の木下さんがやって来た。実は去年、「共同組海運」の借入金を、商工中金と地元の地銀がいったん肩代わり。民事再生手続きを終わらせ、「共同組海運」は金融機関から新たな融資を受けられることになった。新しい貨物船が出来れば、運行停止のリスクは下がり、メンテナンス費用も浮く。島の生活を安定的に支えることができ、まさに「持続可能」なインフラになるのだ。リスクテイクという大胆な戦略をとった商工中金。決断に踏み切ったその理由は...。

「非常に公共性の高い事業をやっていることや、現在は事業が好転しているので、従来対応していなかったリスクマネーに踏み込んでいこうかと...」そう語る木下さん。

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東京・中央区にある商工中金の本社には、今回のケースのように一歩踏み込んだ融資の案件が続々と持ち込まれる。商工中金は業界の慣行に囚われることなく、積極的に融資することで地域経済を作ろうと動いていた。

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中小企業のなかなか進まないIT化

町工場が並ぶ東京・京浜島。長年日本のものづくりを支えて来たが、去年、企業の倒産件数が11年ぶりに増加。人手不足による倒産は過去最高を記録し、中小企業の経営を圧迫している。

55年の歴史を持つ「協和工業」。精密板金を行い、少量多品種で、主に大手メーカーの開発に使われる部品を生産している。しかし、営業の奈良さんが手にしている生産管理台帳は、まだ手書き。中小企業のIT化はなかなか進まない。

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そんな奈良さんに、「京浜島の中小企業のIT化を進めよう」という講習会の誘いがかかる。人手不足の今、業務効率を上げどう事業を持続させていくか...。奈良さんも効率化を考えていた。

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講習から1ヵ月。「協和工業」でも、IT化の実現に向け準備が進んでいた。「人手不足解消のためにITを取り入れて、長く続けたい」と奈良さん。経済活動を持続していく体制作りも重要なのだ。

1泊12万円でも泊まりたい...ラグジュアリーホテルの魅力

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長野県南部にある南木曽町。人口は最盛期の半分以下、4000人にまで落ち込んでしまった過疎の町。面積の95%が森林、山々に囲まれた南木曽町には、江戸と京都を結んだ中山道42番目の宿場町・妻籠宿(つまごじゅく)がある。今から50年以上前に町並みの保存運動が始まり、住民みんなで江戸時代の宿場町の姿を残してきた。町の博物館になっているのは、かつて武士達の参勤交代の宿に使われた脇本陣。当時の生活様式がそのまま残っている。

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そんな歴史ある風景を求めて足を運ぶのが、外国人観光客。新型コロナウイルスの影響で観光客が減少する中、妻籠宿への客足は途絶えない。しかし町役場は「このチャンスを活かしきれていない」という。伝統的な旅館や民宿はあるが数が十分ではなく、食事の施設も少ないので、観光客がお金を落としづらいのだ。町に来ても、ほぼ素通りされているのが実情。そんな南木曽町で、去年から若い人たちの新しい挑戦が始まっていた。

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江戸時代の家を改築して作ったラグジュアリーホテル「Zenagi」。1泊12万円という大胆な価格設定だが、1辺が30cm近くある巨大な大黒柱や、地元名産の和紙を使用し、墨絵の世界を表現した壁などが歴史を感じさせる。仕掛け人の岡部さんは「コンセプトは地方再生。地域に根ざした材料で、地域の職人さんと作っていく」と語る。

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去年の春に開業し、多くの宿泊客がやって来る「Zenagi」の目玉は、宿泊料金に含まれるアクティビティ。中山道を専属ガイドが案内するアクティビティや、渓谷を流れる水を使った遊びも。海外には日本のような渓谷がないため、豊富で綺麗な水で遊ぶアクティビティは外国人に絶賛されている。

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2月下旬、岡部さんは長野県松本市にある大手タクシー会社にやって来た。岡部さんはこのタクシー会社と協力して南木曽町を他の地域と繋げたルートを作り、多くの外国人観光客を呼び込みたいと考えていた。岡部さんにタクシー会社を紹介したのが商工中金の松尾さん。商工中金は、「Zenagi」も支援していた。

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ホテルをオープンする際、商工中金は、資金が少ない岡部さんに建物の改修資金など6000万円を融資。担保となる土地にそこまでの価値はなかったが、事業の将来に可能性があると判断した。「子どもの声がしない、若い人がいない町は悲しい。それは若い人が悪いのではなく、働く場所がない、町の魅力が足りないだけで、誰かが何かを始めなければいけない」と岡部さん。過疎のまま手をこまねいていては、地域がダメになってしまう――。そんな危機感をバネにして、地域を再生するための挑戦は続く。

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