昭和の文豪たちも愛した神保町の老舗酒場「兵六」 さつま無双でグイッと一杯:今夜はコの字で

公開: 更新: テレ東プラス

カウンターがコの字の店は、左右、斜め、人の顔が並び、上座も下座もないフラットな場。人と人が触れ合う"コの字酒場"を舞台にしたドラマ「今夜はコの字で」(毎週月曜深夜0時放送)が、BSテレ東にて放送中。

今回は、第11話で、恋人からイタリア移住を提案され悩む恵子(中村ゆり)が、1人で考え事をするため訪れた神保町「兵六」へ。

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神保町の駅から2分ほど歩くと、「兵六」と書かれた大きなちょうちんが目に入る。昭和23年、終戦間もない神田神保町で産声を上げた酒好きにはあまりに有名な老舗の名店だ。

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趣ある佇まいに少々緊張しながら戸を開けると、三代目店主・柴山真人さんが出迎えてくれた。

柴山さんが「兵六」に入ったのは25歳の時。二代目が亡くなり、店を続けるために親族などが日替わりで店主を務めていた中の月曜日を担当。茶髪&長髪で、アクセサリーをじゃらじゃら付けてるような学生だったそう。「なぜか店に合わせようとは思わなかったんですよね。それでも意外と常連さんは逆におもしろがってくれて、離れずにいてくれました。常連さんは懐が深い方が多いんです」と、当時を振り返る。

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店内はコの字カウンターにテーブル席が2つ。壁には、林芙美子、高村光太郎、壺井繁治、吉屋信子ら昭和の文豪たちの直筆色紙など、様々な写真や書が飾られている。

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こちらは、初代店主・平山一郎氏。薩摩出身で、戦前、上海へ留学していたおり、作家で思想家の魯迅と交流を持っていたという。この経験から、「兵六」には薩摩の酒や料理に加え、「炒麺」「炒菜」「炒豆腐」「餃子」という上海メニューもあるのだ。

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さっそく飲み物を注文。飲み物メニューは、年期の入った壁に力強い文字で直接書かれているビール(大瓶)、さつま無双(芋焼酎)、麦焼酎、峰の露(米焼酎)、清酒の5点のみ。

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まずは「さつま無双」をいただくことに。お燗された焼酎と一緒にヤカンに入った白湯が出される。これを自分好みの濃さに割って飲む。お湯によりさつま無双の香りが一層ひきたち、その香りと一緒に飲む最初のひと口は柔らかくて温かくてホッとする味。幸せ~。

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隣の席は、鹿児島出身で、もう20年ほど通う常連さん。「鹿児島ではさつま無双と水を黒じょか(本格焼酎のふるさと鹿児島で使われている焼酎を熱燗にするための酒器)に入れておいて一晩寝かせたものを燗して飲むの。でも、そうやって手をかけてしっかり馴染ませたものより、兵六で飲む方が美味しいんだよ。燗の具合が絶妙だから」と、この店に通う理由を教えてくれた。

せっかくなのでこの店のオススメ料理をうかがうと、まずは名物の「兵六あげ」をとのことで、注文。

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「兵六あげ」は、油揚げにネギ、納豆、チーズをそれぞれ挟み焼いたもの。シンプルながら、皮のサクサク感と中身によって違う食感も楽しめる一品。ちなみに、「兵六あげII」もあり、こちらの中にはネギとチーズが一緒に入っているそう。

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他にも......と店内のメニューを見渡す。年期の入った紙に書かれた約10種類ほどのメニューは初代から引き継がれているもので、それ以外のメニューは後々追加されてきたもの。やはり上海メニューも食べてみたいと、「餃子」を注文。

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「餃子」は、手作りの皮をパリッと香ばしく焼いた中に、肉多めの餡が。噛むと野菜の甘さが口の中に広がり、食べ応えも抜群。

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さらに"限定"の文字にひかれ頼んだのが「春限定つけあげ」。「つけあげ」とは、「さつま揚げ」のことで、鹿児島ではこう呼ぶのだそう。

通常はプレーン・ごぼう・人参の3種だが、プレーン・菜の花・タケノコの春限定バージョン。菜の花の香りや、タケノコの食感が、口の中に春を運んでくれる。

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さて、もう一杯! と、「峰の露」(米焼酎)を。アルコール度数が高く凍らないので、冷凍庫でキンキンに冷やしてある。トロリとした酒を一口。くぅ~! これはきく~!

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ふと見渡せば店内はほぼ満席。

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「兵六」には、やってはいけない「四戒」がある。「他座献酬 大声歌唱 座外問答 乱酔暴論」。他の席の人にお酌をしない。大声で歌わない。他の席の人と議論しない。酔って暴論を吐かない。

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コの字の真ん中が柴山さんの定位置。ここから店全体を見渡し、「四戒」を守っている。

「お客さん1人1人が点で、コの字に並ぶことで点が線になる。その空いた一辺に僕が入ることでコの字がロの字、つまり線が面になる。そうすることでみなさんが気持ちよく飲んで、気持ちよく帰ってもらえるかなと」と柴山さん。

実は、「兵六」には電話がない。それには理由がある。

「今は文明が発達して情報過多になっていて、それも悪くはないし否定もしない。それらを認めたうえで、せめてここにいる数時間だけは俗世間から離れて本来の自分に戻ってほしい。その時間を提供したいんです」

昭和、平成、令和......本とともに時を刻む町には、全てを忘れて自分だけの時間に浸れるコの字酒場があった。

(取材・文/伏見香織)

【取材協力】
兵六
東京都千代田区神田神保町1-3
営業時間:17:00~22:30
定休日:土・日・祝日
※この情報は2020年3月16日時点のものです。最新情報をご確認の上、お出かけください。

恵子への思いを吹っ切るため吉岡が選んだコの字は!?

3月23日 (月)深夜0時から放送の「今夜はコの字で」第12話は!?

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コの十二
錦糸町「井のなか」
恵子(中村ゆり)と恋人の透(竹財輝之助)が抱き合う姿を目撃した吉岡(浅香航大)はその場から走り去った。じっとしていられず、山田(小園凌央)の住宅展示場の着ぐるみの仕事を代わりに引き受け、風船配りに精を出す吉岡。懸命に働くうちに、どんな仕事でも一途にやることの大切さを教えてくれたコの字酒場、そしてコの字へ導いてくれた恵子への感謝の気持ちでいっぱいになる。
恵子がイタリアに行ってしまう前に、お礼と自分の本当の気持ちを伝えたい...。そう決意した吉岡は恵子に電話をかけ、錦糸町のコの字に招待する。
一足先に「井のなか」に着いた吉岡は、日本酒の熟成酒を味わいながら、恵子とのこれまでを思い出し...。

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