異例の重版! ウラジオストクにイチ早く注目した雑誌『Maybe!』の企画力

公開: 更新: テレ東プラス

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JAL、ANAが同時に直行便の開設を発表し、今春から就航するロシアの都市「ウラジオストク」。そんな、にわかに話題のウラジオストクにイチ早く注目し、大特集を組んだ雑誌があります。

その名はカジュアルファッションマガジン『Maybe!(メイビー)』。「ウラジオストク行きの機内で女性がみんな持っていた!」という目撃談や、「直行便の増便はMaybe!が発破になったのでは?」という噂も......‬!? コアな需要をガッチリつかみ、異例の重版がかかったそうです。

最新号は「ジョージア(※旧グルジア共和国)に行こう!」特集という攻めっぷり。編集長の小林由佳さんと創刊から携わる漫画担当の金城小百合さんに、その企画力について迫ります!

初重版はMaybe! vol.5「はじめてのウラジオストク」特集

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──特集はいつもどのように決められるんでしょう?

小林:だいたい、そのタイミングで気になっていることですね。

金城:ウラジオストク特集のときは、一緒に旅行に行ったのがきっかけだったよね。Maybe! の前身として出した『This!(ディス)』の校了が終わったときで。校了作業がすごいつらくて、「これが終わったらどこか旅行したくない!?」って。

小林:そうそう。あんまり遠いとめんどくさいから、近くの国がいい。でも、台湾も韓国も行ったことあるし、行ったことなくて3時間くらいで行ける国を探したらロシアになった(笑)。

金城:大好きなさくらももこさんもエッセイの中で訪れていたハバロフスクと、その流れで憧れのシベリア鉄道に乗ってウラジオストクにも行くことになったんですけど。

小林:アジア圏しか行けないと思ってたから、こんな近くにヨーロッパみたいな場所があるんだってびっくりしたよね。

maybe_20200308_03.jpgMaybe! vol.5「はじめてのウラジオスク」特集

金城:すごい良かったよね! それで、ウラジオストクは成田から2時間半という近さなのと、最近簡易ビザで行けるようになったと聞いて、いつかウラジオストクの特集をやりたい! ってなりました。

──実は私もMaybe! 読者で、初の旅特集がウラジオストクだったことに当時驚きました(笑)。あまりに突飛なので、もっと戦略的に決められたのかと思っていたんですけど、意外にも好奇心が優先されているんですね。それまではウラジオストクのガイドブックってぜんぜんなかったですよね?

maybe_20200308_04.jpgMaybe! vol.5の情報ページでもおすすめしている『地球の歩き方 Plat ウラジオストク』

小林:ウラジオストクは2018年当時だと、『地球の歩き方 シベリア&シベリア鉄道とサハリン』の端っこにちょっと載っているって感じでした。Maybe!の「はじめてのウラジオストク」特集が出る3ヶ月前に『地球の歩き方 Plat ウラジオストク』が出たのかな。広告のタイアップが決まって、企画が正式にスタートしたくらいの時期だったんですけど。

金城:すごいありがたかったよね。

小林:うん。取材の参考にもなったし、この本があったからMaybe! では基本情報みたいなものをそこまで載せなくてもよかった。でも「ジョージアに行こう!」のときは本当にまったく1冊もジョージアのガイドブックがないから、かなりしっかり基本情報を載せてますね。

おしゃれな人が好きなものは流行る

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ジョージアに個人旅行したことがあるという金城さん

──最新号の「ジョージアに行こう!」特集はどういう経緯で?

小林:ジョージアは、カルチャー系のおしゃれな人がけっこう行ってたんですよ。ファッション系の人や、音楽家、絵本作家などのアーティストとか。おしゃれな人たちがこぞって行くってことは、これから流行るんじゃないかなって。面白そうだし、情報が少ない国なので行ってみたいなと思っていました。

金城:「ヨーロッパ最後の秘境」ってずっと言われているよね。実は私ジョージアに行ったことがあって。そのときは旅行会社の秘境ツアーだったんですが、添乗員さんは英語だしガイドブックもなくて、せっかく行ったのにジョージアのことが何もわからなくてもったいなかったなと思っていて。今回行くまでクラブが盛り上がっているなんてぜんぜん知らなかった。

maybe_20200308_06.jpgMaybe! vol.7「ジョージアに行こう!」特集

小林:そう、わからないことだらけ。でも今回はクラブもばっちり取材しました。あと、ジョージアはごはんがめちゃくちゃおいしかった! 日本でも松屋にジョージア料理の「シュクメルリ」が登場して話題になりましたよね。Maybe!で連載中のコナリミサトさんも熱い連続ツイートをしていました。

金城:シュクメルリがこんなに話題になるとは思わなかったよね。現地のもにんにくがたっぷり入っていて、本当においしいです。あとジョージアワインにも合う!

ジョージアは飛行機で12時間くらいかかるけど、シーズンによっては往復航空券が10万円ちょっとで、宿も1泊1,000円くらいからあるので、すごくリーズナブルに楽しめます。ぜひMaybe! を買ってみなさんも行ってみてください!

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小林:それと、「はじめてのウラジオストク」と「ジョージアに行こう!」特集の表紙を飾ってくれた玉城ティナさんの旅エッセイが2回とも、とても素敵で。よく観察してるなぁと感心するし、同じ景色でもこんなに見えているものが違うことに驚くし、ユーモアのある詩的な表現がいいですよね。

金城:旅特集は本当にティナちゃんに感謝だよね......‬。スケジュールも超ハードなのに、興味を持って参加してくれて。

小林:彼女はほんとタダモノじゃないです。才能のかたまり。しかも原稿がめちゃ早く届く(笑)。

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Maybe! vol.8「ジョージアに行こう!」特集より玉城ティナさん書き下ろしのジョージアの旅エッセイ

どこよりもMaybe! が一番素敵に紹介する

──スタッフ一丸となって「ジョージアの面白さを日本に伝えるためにガイドブックを作らなきゃ」っていう熱意で作ったんですか?

小林:いや、そこまでの使命感をもって本を作ったことはないですけど(笑)。単純に、旅行を趣味に留めておけなくて。どうしても仕事と結びつけてしまうっていう......‬。「せっかく行くなら取材できたらいいなぁ」って思っちゃう。

金城:個人で旅行するよりもいろんなことを知れるから、取材するほうが楽しいよね。そしてやっぱり、行くからには一番のバッグで返したいって思ってる。

小林:そうだね。行くからには素敵な紹介の仕方をね。

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金城:誌面づくりにおいて、小林さんは本当に責任感があって「同じテーマの中で一番のものを作りたい」っていう大前提がある人だから。‬‬......‬ Maybe! を取材に行かせてくれれば、最高のガイドブックを作れるよね(笑)。

小林:うん(笑)。行けばできるね。

──行かせてくれたら、Maybe! が一番素敵なものを作ると(笑)。

金城:でも今回、本当にそういうことで「ジョージアに行こう!」特集ができたんでしょう?

maybe_20200308_10.jpgVol.5のコナリミサトさんと、vol.7の玉城ティナさんによる広告ページ

小林:そう。「ナベグラヴィ」っていうジョージアの天然炭酸水を取り扱っている会社の方が、「はじめてのウラジオストク」特集を見て、「こんなに素敵に紹介できる雑誌なかなかないよ」と言ってくださいまして。在日ジョージア大使館の方にも繋いでいただき、取材費用をタイアップしてくださったおかげで、実現しました。

Maybe! は自動的に作れない

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金城さんの尽力で叶った今日マチ子さんがイラストを担当するMaybe! オリジナル広告

──Maybe! は今後も半年に1度刊行され続けるのでしょうか?

小林:クライアントさんが広告を入れてくださる限りは、そうですね。今のところ「毎号楽しみにしてるよ」って言ってくれるクライアントさんが何社か入ってくださっているし、新しい会社からもお声がけいただいています!

金城:良いニュースは大声で言っておきたいよね(笑)。

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──噂によると、Maybe! は何度も存続の危機を乗り越えてきたと伺ったのですが......。

小林:えっ? そうなの?

金城:聞いたことないよ〜! でも、そういうことを言いたがる「関係者っぽい人」っていっぱいいるからね......‬。「ジョージアに行こう!」特集は、現地のメーカーや大使館が協賛に入ってくれたけど、その交渉も熱意ある広告局の担当がやってくれたし、毎号特集に合わせて広告を出してくれる会社を探すところからMaybe! のチームでやってるから、知らない人から存続の危機とか言われていると思うとカチンとくる!‬‬

小林:そうだよね(笑)。

金城:タイアップ(広告)を交渉してもらってくるところからやってるから、自動的に出せるわけじゃないっていう意味では毎号存続の危機なのかもしれないけど、毎号クライアントさんはついてくれているし、その仕組みを編集部としては「存続の危機」だとは思ってないよね。毎号、そのぐらい手探りのところから作ってます!

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予想できない、異様なものが読みたい

──Maybe! って、特集自体は「恋愛ってなんだ?」や「普通とは?」「学生時代」など意外と普遍的で、Maybe! らしさがあるようでないというか。最新号が出る度にMaybe! という概念を更新しているように感じられます。「Maybe! らしさ」ってどうやって作られているんでしょう?

小林:Maybe! らしさ......むずかしい。......ページごとに担当編集が本当にそれが好きかどうかはすごく大事ですね。好きの熱量のあるページの集合体がMaybe! だと思います。だから一本縄な感じのMaybe! らしさはないのかも。

──でも、お2人以外の編集スタッフからしたら、やりたい企画があっても「好きです!」ってちょっと言いづらいんじゃないかと思うんですが......。

小林:言いづらい程度の好きは、きっとそこまで好きじゃないんだと思いますよ。「編集長になんか言われたら嫌だな」くらいのものは、やらなくてもいいんじゃないかと。もうちょっとイッちゃってるというか、「アイツになんか言われてもいいや、これを実現するぞ」っていう、熱量がある企画を載せたいですね。

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金城:あと、作っていく中で今まで自分が知らなかった面白い人やモノに出会うと本当に嬉しいよね! 最新刊の「ジョージアに行こう!」特集だと、イラストを描いてもらったWALNUTさんとか。やっぱりMaybe! は予定調和じゃない変な雑誌を作りたいっていうところから始まっているから、自分にしかできない持ち味がある書き手や写真家などのクリエイターにに集まってもらうっていうのが、すごく大事だと思う。

編集スタッフのみんなからも、本当は編集長も想像できないぐらいのアイデアを出してほしいわけじゃない? 言ったことをやってくれるっていうことが、すべからくいいわけじゃないよね。

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小林:うん。そういうときは「本当に言った通りにきたぞ」って思うもんね(笑)。私でも書けたものを書いてくれたってことだと、その人にとってももったいないですよね。‬‬

金城:これってMaybe! に限らず編集者はみんな持っている感覚というか。漫画家さんと打ち合わせして、私が言ったことが全部採用されていたらもう、ぜんぜん面白くない。創作物って絶対そうだから。思ってもない表現とか、思ってもみない思想を返してくれたときが一緒に仕事する中で一番嬉しいです。

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──想像を超えた「らしくないモノ」や「見たことがないモノ」が集まって、Maybe!という雑誌ができるんですね。

小林:そうあってほしい。出版物はどんなものでも、本当はそうあるべきだと思う。犯人が予想できる推理小説なんて誰も読まないじゃないですか?「絶対そうだと思ってた!」という結末ではつまらない。普段の会話だったらそれでいいんですよ。でも創作物は違う。Maybe! は雑誌として「今までにないもの」でいたいよね。

金城:うん。やっぱり異様なものを読みたい。

小林:なんか今日、真面目なことばっかりしゃべっちゃったね......‬。でも、やっぱり編集者がもっと各々本当に好きな本を出したら、取れる気がする。‬‬

──何をですか?

金城:天下だよね(笑)。

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撮影協力:ミカフェート 一ツ橋店

終始、力強い返答をくださったMaybe! 編集部。次の旅特集への意欲をたずねると「サハリンに行きたい!」(金城さん)とロシア、共産圏への興味は尽きないようです。後編ではヒットメーカーのお2人が持つ「思考の核」に迫ります。

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【書籍情報】
雑誌『Maybe!』(小学館)
好奇心旺盛なカルチャー好きへ向けて、特集テーマを紐解いて発信する新しくてリアルなカジュアルファッションマガジン。年2回刊行。
毎号、豪華なラインナップのインタビューは必読。豪華作家陣(コナリミサト、まんきつ、今日マチ子、沖田×華)による漫画連載も。最新号「ジョージアに行こう!」特集(vol.8)発売中。バックナンバーもネット書店などで購入できます。最新情報は公式サイト、SNSから。
Twitter @Maybe_magazine
Instagram @maybe.magazine

【プロフィール】

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小林由佳(こばやし・ゆか)(写真左)
山と溪谷社を経て、2007年小学館に入社。「図鑑NEO」編集部に所属しながら、Maybe! 編集長を務める。主な担当書籍は『あたらしいみかんのむきかた』『おじさん図鑑』『花と葉で見わける野草』『宇宙探検えほん』、小学館の図鑑NEO『花』『きのこ』『新版植物』(小学館)、『おとなのおりがみ』(山と溪谷社)。

金城小百合(きんじょう・さゆり)(写真右)
秋田書店を経て、2014年に小学館に入社。「週刊ビッグコミックスピリッツ」編集部所属。Maybe! では主に漫画連載を担当する。Maybe! での連載をまとめた『前略、前進の君』(作・鳥飼茜)が発売中。主な担当書籍は『あげくの果てのカノン』『プリンセスメゾン』(小学館)、『花のズボラ飯』『cocoon』(秋田書店)。現在『週刊スピリッツ』で担当作品『往生際の意味を知れ!』『サターンリターン』『恋と国会』が連載中。

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