飲み過ぎは認知症を誘発! 記憶を失うタイプは肝臓が過労死する恐れも:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

主治医が見つかる診療所」(毎週木曜夜7時58分から)は、医師や病院の選び方のコツや、無理なくできる健康法など、医療に関するさまざまな疑問に第一線で活躍する医師たちが答える、知的エンターテイメントバラエティ。

今回WEBオリジナル企画「主治医の小部屋」で取り上げるのは、お酒を飲むとたびたび記憶をなくすという心配事。同番組のレギュラー・上山博康医師に、その原因や危険性について教えていただきました!

アルコール代謝の悪い人は"ブラックアウト"する傾向が

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Q:30代男性です。飲酒時の記憶障害についてです。翌日になると、お酒を飲んでいた昨夜のことが思い出せません。初めて記憶をなくしたのは20代半ば頃で、数年前から頻繁に起こるようになりました。脳にダメージが生じると聞いたこともあり心配です。飲酒は多いときで週1回ぐらい、家では飲みません。

── 記憶がなくなるまでお酒を飲んでしまう方なのでしょうか。

「お酒を飲むと人格が変わったり記憶をなくしたりするいわゆる『酒乱』は、元々の性格に起因すると思われているかもしれませんが、実はアルコールを代謝するために必要な2つの分解酵素に要因があります。1つはアルコール自体をアセトアルデヒドという代謝できる物質に変える酵素(ADH)、もう1つはアセトアルデヒドを酢酸に分解し、水と炭素ガスに変える酵素(ALDH)です。

この酵素の働きには遺伝的な要素が大きく関係しています。例えば、お酒の飲めない人(下戸)は紀元前の中国南部部にアルコールを代謝できない女性が生まれたことから広まったため、アジア人に多く、白人種にはほとんどいないんですね」。

── この相談者は飲めない人ではなさそうですね。

「お酒を受け付けず飲むと顔が赤くなる人は酒乱にはなりません。具合が悪くなって吐いたり、頭が痛くなったり、顔が真っ赤になったりするのは、毒素であるアセトアルデヒドが代謝できずに全身に回るから。つまりアルコール自体は代謝できているわけですね。

一方、酒乱の人はというと、アセトアルデヒドの代謝はうまくできるのですが、アルコールを代謝する(アセトアルデヒドに変える)のに著しく時間がかかります。そのため血中のアルコール濃度が異常に高くなるんですね。そうなるとアルコール中毒のような状態になり、海馬の血流が悪くなってブラックアウト(お酒による記憶障害)を起こします。記憶が断片的になるのではなく、すべて忘れてしまうのです」。

肝硬変だけでなく、認知症になる恐れも

doctor_20200227_02.jpg画像素材:PIXTA

── ADHとALDHがうまく働くか、そうでないかの組み合わせによって分かれるということですね。

「そうです。その極端な例が一切飲めない人と酒乱になる人。あまり真っ赤な顔でぐでんぐでんに酔っている人は見かけないと思いますが、赤くなる人はアルコールの代謝はすぐにできても、アセトアルデヒドを代謝することができないのでそこまで酔えない。だから、顔色が変わる人が二日酔いになることは滅多にないんですね。

また、赤くもならずに飲み続け、今日は飲みすぎたーといえる人は両方代謝している人です。飲める人はアルコールもアセトアルデヒドも順調に代謝できるので、ついつい量が行き過ぎる傾向があります。大量の飲酒が原因で肝硬変になるのも、実はこのタイプの人。働きすぎた肝臓が突然、過労死するわけです。

ちなみに、通常栄養素などは小腸で吸収されますが、アルコールは胃粘膜から吸収されます。その血中濃度の上がり方は血糖より速いくらい。アセトアルデヒドを代謝できない人が、飲むとすぐさま真っ赤になるのはそのためです」。

── 先ほど海馬の話がありましたが、この相談者の方のように記憶をなくす人は脳にダメージが起こる可能性がありますか。

「脳が萎縮する『ウェルニッケ脳症』という病気の主な原因はアルコールの大量摂取です。今は喫煙ばかりに注目が集まっていますが、アルコールにも毒性があるのです。ただ、お酒もタバコも、糖尿病予防に甘いものもダメとなると、生きている楽しみはどこにあるのかと問いたくなりますよね(笑)。マナーが悪い人はどうかと思いますが、ある程度の余裕は必要なのかもしれません。

しかし、この相談者の場合はすでに海馬の記憶回路に影響が出ています。おそらく赤くならずにお酒をおいしく感じるタイプなのだと思いますが、ブラックアウトしてまで飲む必要があるのかは疑問です。

血中アルコール濃度に比例して脳はダメージを受けています。脳のダメージは認知症の入り口でもあります。お酒と認知症の関係はまだ実証されていませんが、全くの無関係とは言い切れません。時には飲みニュケーションも大事ですが、ブラックアウトは体質だと思って、うまく付き合っていくようにしてください」。

── 上山先生、ありがとうございました!

【上山博康医師 プロフィール】
社会医療法人禎心会脳疾患研究所所長。1973年北海道大学医学部卒業。秋田県立脳血管研究センター、北大医学部脳神経外科講師などを経て、1992年から旭川赤十字病院脳神経外科部長。日本脳神経外科学会専門医、日本脳卒中学会専門医。
2012年4月から現職。著書に「すべてをかけて命を救う」(青春出版社)、「闘う脳外科医」(小学館)など。

※この記事は上山博康医師による見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った上山先生も出演する「主治医が見つかる診療所スペシャル【血管若返りスペシャル!】」(2月27日木曜夜7時58分)。

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