私がマタハラの被害者に!? まず何をすればいいのか専門家に聞いた

公開: 更新: テレ東プラス

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ニュースやワイドショーで耳にする機会が増えた「マタハラ(マタニティハラスメント)」。訴訟となるケースも増えているようで、いつ自分の身に降りかかってもおかしくありません。今まさに上司や同僚たちによるマタハラに悩まされている人もいることでしょう。

今回は"マタハラの被害に遭ったらどう対処すればいいのか"を、NPO法人「マタニティハラスメント対策ネットワーク(以下、マタハラNet)」の宮下浩子代表理事に伺いました。

会社が育休手当てを誤解して、解雇するケースも!?

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──早速ですが、マタハラの被害を受けた場合、まず何をすればいいか教えてください。

「一番大切なことは、『今後もその会社で働き続けたいかどうか』を考えることです。仕事にやりがいがあるなど、理不尽な扱いを受けてもなお働き続けたい理由があるなら、環境を変えることが必須となります。また、赤ちゃんを抱えて新しい職場を探すのは困難だから、転職したくないという場合もあるでしょう。そうなると、会社との交渉は避けられません。もうその会社で働き続けたくない場合も、補償要求のために交渉が必要となる場合があります」

──どうすれば環境を変えることができるのでしょうか?

「大切なのは会社がきちんと責務を果たしているのか、自分にはどういう権利があるのかなど、正しい知識を得ることです。職場に労働組合があれば話が聞けますし、厚労省のwebサイトなども役に立ちます。自分が無知だと、会社から不当に退職や降格を言い渡されても、『そういうものなのか』『仕方ないことなのか』と思ってしまうもの。正しい知識を身に着けておくことで、『それはおかしいですよね?』と言えることが大切です」

──制度について、特に誤認が多いのはどんなことですか?

「産休や育休の手当てが会社から支給されると勘違いしている女性は多いです。会社側が同様の誤解をしているケースも多々あります。その誤解があるため、『会社の損になるから解雇しよう』という流れになる場合もあるようです。育児手当は会社員なら勤務先で加入している雇用保険から、公務員なら共済組合から支給されます。また、契約社員や派遣社員、パート、アルバイトの場合も、条件を満たしていれば支給されることがあるんです」

裁判までいかなくても、マタハラ問題を解決できる

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──環境を変えることができなかった場合は、法的手段という選択肢もあるかと思います。まず、用意すべきはどんな証拠ですか?

「会社とのやりとりについては、口頭ではなく書面で用意してもらうのが得策です。暴言が多い場合などは、ボイスレコーダーでの録音も検討するといいでしょう。難しい場合は、『何月何日に相手からこういうことを言われて深く傷ついた』といった詳細なメモを、そのときそのときで残してください。相手が『そんな事実はない』といって認めないことも考えられるので、曖昧な証明で言い逃れされないよう、できる限り証拠を集められるといいですね」

──証拠を用意したら、いざ裁判という流れでしょうか?

「最近は裁判までいかずに、労働審判で解決しているパターンが多いです。労働審判とは、労働者と事業主の間で起きた労働問題を、労働審判官1名と労働審判員2名が審理するものです。問題を迅速かつ適切に解決することを目的に、平成18年にスタートしました。ただし、この制度を利用すると守秘義務が課せられるため、マタハラを受けたと声を上げられなくなるというデメリットはあります。また、労働審判で決着がつかなかった場合は、訴訟を起こすことはもちろん可能です。しかし、その職場でその後も働き続けたい場合は、穏やかに解決できるに越したことはありません」

──解雇されていた場合、裁判を起こしたくてもお金がないという女性もいるのでは?

「その場合は法テラスの利用がおすすめです。法テラスを利用すれば、月々数千円から数万円程度で弁護士についてもらうことができます。わたし自身、17年前に法テラスを利用してマタハラされた元職場を訴えたことがあるのですが、そのときは月々の利用料は5,000円でした。その金額で裁判が終わるまでサポートしてもらえます。裁判が終わった後には、(勝訴した場合)慰謝料などを含む金額が弁護士の先生の口座に振り込まれるのですが、わたしの場合は、そこから数パーセントを弁護士にお支払いした後、残りを自分が受け取ることができました。ただし、弁護士事務所によっては異なる場合もあるので、まずは金銭的なことも含めて弁護士の先生などに相談するのがいいでしょう」

──慰謝料の他にも請求できるのですか?

「解雇されずに働いていた場合、もらえた給料などを請求できます。また、マタハラを受けたことで心身の調子が悪くなり、医者にかかった場合は、診察費も請求可能です」

──いつ自分や身内が被害を受けないためにも、マタハラについて知っておくべきことはたくさんありそうですね。

「自分や身内が妊婦でないため、マタハラ問題に関心が薄い人は非常に多いです。しかし、妊婦に寄り添うことでみんなが働きやすい制度を作っておけば、いざ自分が通院することになったとき、親の介護をする立場になったとき、そのありがたみがきっとわかるはず。みんなでマタハラ問題を考えることをきっかけに、誰もが働きやすい会社、社会へと変化していってほしいなと思っています」

マタハラは、妊婦やその家族だけの問題ではありません。誰もが気持ちよく働ける環境づくりは、いずれは自分に返ってくること。一つひとつの会社がそうした意識を高めて、離職率を下げることは、日本の社会全体の景気をよくすることにもつながりそうですね。

【取材協力】
マタハラNet

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