「福島に行くと肩書は意味がない、優秀だと思っていても全然役に立たない」ーー。「SAPジャパン」宮田伸一さんが語る地方での活動の大切さ

公開: 更新: テレ東プラス

企業のトップなど、今、会いたい人をフィーチャー。MCの田村淳が鋭く斬りこみ、トークセッションから新たなビジネスの創造を目指す「田村淳のBUSINESS BASIC」(BSテレ東 毎週日曜よる11時)。番組では「地方ビジネス最前線」と題し、「あすびと福島」「オイシックス・ラ・大地」「トラスコ中山」「SAP(エスエーピー)」の4つの企業の担当者が出演した。

テレ東プラスでは、この4つの企業の担当者を取材し、さらに深掘り。この記事では「SAPジャパン」常務執行役員であり福島浜通り復興・再生支援担当の宮田伸一さんのインタビューをお届けする。

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「何も役に立たないかもしれない」福島で知った衝撃

ドイツに本社を置き、世界180の国に展開する企業向けソフトウェアの世界的企業であるSAP。その日本法人であるSAPジャパンには各国法人の中で唯一独自の理念がある。

"ニッポンの「未来」を現実にする"

「私たちの強みはテクノロジーはもちろん、お客さんの熱い思いに徹底的に付き合っていくことができる人材が揃っていることだと思います。黒子として、お客さんと一緒になって新しいことに取り組んでいく。それはDNAになってきています」

その代表的な例が地方への取り組みだ。大分県とのビッグデータ活用の災害対策や、沖縄県における観光客の行動データ分析の取り組みは、現地でSAPの社員自身が課題を見つけ、そこから形になったものだ。

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宮田さん自身が地方での社会貢献、社会課題の解決への思いを抱いたきっかけは、日本のトップ企業の経営幹部候補が集まるリーダーシップ・プログラムで訪れた福島だった。

「プログラムはインドのスラム街やイスラエルの分離壁に行くなど、いろんな原体験とショックを与えて、日本の経営幹部候補の鼻を一遍ポキッと折るというのが目的なんです。その一環で先ほど挙げた場所に匹敵する場所として訪れたのが、東日本大震災の被害に遭った福島でした。廃墟になってしまった町、誰も歩いていない商店街、壊れてしまったコミュニティを目の当たりにし、SAPはここでは何の役にも立たないかもしれないと、一瞬立ち止まってしまいました」

半年後の2018年7月、宮田さんは福島を訪れた際に知り合った「あすびと福島」でSAPの研修をスタートさせ、これまで延べ100人以上が参加している。

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研修では津波の被害で廃墟になってしまった街、道路1本を挟み避難解除地域と避難継続地域が分かれる原発被災地の現状、住民が戻らない市街地の様子などを目の当たりする。

「例えば風邪を引いたら薬を飲めば治るというように、大概のことには解決策がある。けれど福島に行くと、誰もが納得する解決策が時に存在しない、ということを思い知る。ましてや肩書は全く意味がないし、会社では優秀だとしても現地ではひとりの人間としては全然役に立たない。もの凄くモヤモヤする」

こうした体験や、現地の社会起業家、リーダーたちとの対話が、社会というものの実態、社員にとって自分の生きる意味、SAPジャパンという会社の存在意義を見直す良い機会になるという。

もちろん、この研修を通して全ての人間が変わるわけではない。

「東京の魔力ですね。行くと強烈なインパクトを受けるのですが、東京に帰ってくると忙しいので多くは『四半期の目標を達成しなければ』と元に戻っちゃいます(笑)」

「よく2対6対2の法則と言いますが、組織の2割が変わったら残りはそれにつられて変わっていくものなのでそれで良いと思います。エネルギーを充填された2割のメンバーは、チャンスがあれば福島での経験の続きのような仕事がやりたい、地方に行ったりお客様を連れて行ったり、仕事としてど真ん中で社会課題に取り組みたい、となっていきます」

熱意がないとテクノロジーがいくらあっても何もできない

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番組では東北を支援する異業種3社(「あすびと福島」「オイシックス・ラ大地」「トラスコ中山」)と一緒に登壇した。いずれも以前から関係の深い企業だが「改めて素敵な方々と一緒にやってきたんだと思いました。番組出演にあたりお互いに相談し合ったことで絆も深まったと感じています」。

MCの田村淳さんの感想については「淳さんって頭が良いなと思いました。出演者がコメントしたらそれを拾うのか、拾わないのか。拾ったら次の展開をどう組み立てるのか。話の膨らまし方もすごく的確で、場の組み立てがすごく立体的に見えている。あれぞ芸だと思いました」とうなった。

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番組内で挙げた大分県や沖縄県での取り組み、さらに2019年には政府や地方自治体向けのビジネスを支援するシンクタンク組織「SAP Institute for Digital Government」も設立された。宮田さんはこうした組織的な取り組みがある一方で、ボトムアップからの取り組みも重要だと語る。

「泥だらけのジーパンと長靴で降り立って、現地で取り組む人たちと同じ目線で向き合う。自分の目で見るという原体験がないと上滑りをしてしまう。こうした取り組みは組織的な仕掛けに比べると、すぐにはビジネスにはつながらないですが、ただ新しいことをやる、こうした課題を解決するんだという熱意を生むエンジンなんです。それはとても大事なことだし、放送でも言いましたが、その熱意がないとテクノロジーがいくらあっても何もできないと思っています」

さらに熱意は人との縁を生み、別のプロジェクトへとつながっていく。

「例えば福島浜通りでいろいろとやっていると、民間の立場で地方の課題を解決しようと動いている人たちから『SAPさんもやっているんですね』と声がかかる。点と点がどんどんつながっていきます」

今後取り組みたい地方の問題は何ですか。そう質問すると宮田さんの口から出てきたのは地方ではなく、"東京の問題"だった。

「東京の立派なオフィスで、机の上の資料を基にビジネスモデルを作って、本当に地方の課題を解決できるのかというと、そうではなくて。どこの誰が苦しんでいるかちゃんと足を降ろしてみなきゃだめだと思います。そうじゃないと、ちょっとうまくいかないと『やめた』となってしまう。東京に暮らせば豊かですし、『この課題は絶対に自分が解決しなければならない』という熱量を持ちにくい。そういう点は東京のデメリットだと思うんです」

だからこそ日本中で起きている課題を自分事として考え、取り組んでいく。その大切さを知るSAPジャパンは、熱意をもった人たちとタッグを組み、地方から日本にイノベーションを起こそうとしている。


【SAPジャパン プロフィール】https://www.sap.com/japan/

エンタープライズ・アプリケーション・ソフトウェアにおけるマーケットリーダーとして、あらゆる業種におけるあらゆる規模の企業を支援しているSAP SEの日本法人として1992年に設立。常に最終消費者を意識した、デザインシンキングを用いたSAP独自の方法論と、インメモリー、モバイル、クラウドなどの技術を駆使して、イノベーションを支援している。

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