お金から社会貢献へ 「オイシックス・ラ・大地」高橋大就さんが語る若者のヒーロー像の変化

公開: 更新: テレ東プラス

企業のトップなど、今、会いたい人をフィーチャー。MCの田村淳が鋭く斬りこみ、トークセッションから新たなビジネスの創造を目指す「田村淳のBUSINESS BASIC」(BSテレ東 毎週日曜よる11時)。番組では「地方ビジネス最前線」と題し、「あすびと福島」「オイシックス・ラ・大地」「トラスコ中山」「SAP」の4つの企業の担当者が出演した。

【番組出演時の書き起こし記事はこちら】

テレ東プラスでは、この4つの企業の担当者を取材し、さらに深掘り。この記事では「オイシックス・ラ・大地」(以下オイシックス)の執行役員・海外事業部長を務めながら、一般社団法人「東の食の会」事務局代表を務める高橋大就さんのインタビューをお届けする。

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企業間の垣根が取り払われた東日本大震災

ーー番組ではオイシックス以外に3つの企業が登壇しましたが、以前から担当者の方と面識はあったんでしょうか。

トラスコ中山さんは初めてでしたが、「SAP」の宮田伸一さんにはよくお世話になっていますし、「あすびと福島」の沖沢真理子さんとも別の立場でかかわっていて、よく知っていました。

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ーー今回一緒に出演したことで刺激を受けたり、改めて分かったことなどありますか。

基本的に目指しているところは共通で、アプローチ方法が違うだけだと感じました。いま、経済界の中では社会課題にちゃんと向き合おうという企業が明らかに増えています。企業間であったり、業態間であったりのコラボはやりやすくなったと感じています。

個人がフィーチャーされ、それぞれの組織にいるイントレプレナー(社内起業家)とつながれば何かが生まれる。昔であればあまりなかったことです

ーー変化のターニングポイントはやはり東日本大震災でしょうか。

私の経験上では東北の震災後です。企業間の壁が相対化されてすごくやりやすくなった。昔は食の川上と川下、例えば漁師と卸業者が対立するという構造になりがちでしたが、今はみんなで付加価値を大きくしていこうとつながれます。だいぶ垣根が低くなってきました。

食業界でいえば、オイシックスはその壁に対する問題意識が強く、以前から意図的に仕掛けてきたところもありました。

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ーー番組内でお話されていた"ヨソモノ"という感覚ですね。

オイシックスで言うと創立は2000年。その当時はネットで食品すら流通してないころで、インターネットで野菜を売らせてくださいと頼むと生産者の方から『なんだ、この新手の詐欺は』と反応があったそうです(笑)。そこから具体的に成功ケースを作り、定量的に証明して見せることで次のスケールにアップグレードしてきました。

ーーネーミングの変更が成功につながった「トロなす」や消費者の声を反映し生まれた「かぼっコリー」はまさに成功例ですね。番組に登場した以外で紹介したい成功例はありますか。

ご紹介したいのは「農家・オブザイヤー」です。それまで生産者の方はフィーチャーされることがほとんどなかった。そこをオイシックスではお客様の喜びの声を生産者にフィードバックすることで、よりよいものを作ろうというやる気を増してもらうという循環をやってきました。

さらに年に一度、お客様の支持が大きかった人を表彰しようと始まったのが「農家・オブザイヤー」です。政府が選ぶ賞はあるけど、これはお客様に選ばれる点がすごく喜ばれて、受賞した農家の方が泣いてしまうこともあります。

今回の番組のテーマであった「地方の課題」は、どれだけ意欲的な生産者が増えるかにかかっていると思います。「農家・オブザイヤー」であったり、農家の方が集まって課題を議論する「N-1サミット」で、農業生産者の地位を上げていく。これは「東の食の会」でやっている"ヒーローを作る"にも通じる部分です。その部分がない限り、地方で生産現場に若者が入っていくわけがなくて。最近は若者には「稼げる」だけではあまり響かない。それよりも「かっこいい」がすごく大事です。

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お金から社会貢献へ 変化した若者のヒーロー像

ーー「ヒーロー」=収入という考えでしたが、今の若者には別の点を重要視しているのですね。

接していて感じますが、若者はわれわれの世代よりも、お金よりも社会的意義へと確実に志向が寄っています。バブル世代は投資銀行や外資系に勤めて一番稼いでやるぞという人が多かったですが、今はそういう人がいない。

それよりも社会課題を解決するためのスタートアップであったりが今でいう「かっこいい」なんだと思います。もちろん、かっこいいけど食べられないでは難しいから、ある程度ちゃんとやっていけるという意味での儲かるは絶対に必要です。

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ーー特に注目してほしいヒーローはいますか。

それはもういっぱいいすぎて。素敵な動きについて紹介できたらと思います。福島の浜通り・中通り地域と会津地域って山は間にありますし、ほとんど交流がないくらい歴史的に分断されていたんです。それが震災後、浜通りで農業をするのが大変な中で、会津と中通り地域の農業者がリードして、浜通りの南相馬でホップを育ててビールを作り、南相馬の名産品にしようという動きがあります。

別に自分のフィールドでやっていれば儲かるのに、あえて浜通りに行くというのはすごくいいなと思っています。そういう領域を超える活動としては、いわき市の農業と水産業が一緒になって、ヒット商品を作ろうという動きもあります。

ーー先ほどお話されていた震災後に企業間の壁がなくなってきたことと似ていますね。

本当にそうだと思います。農業と水産業は伝統的に交わらなかったんですが、そもそも日本食には米の上に刺身が乗った寿司という料理があるのに、農業と水産業を分けて考えるのはおかしな話だと思ってました。

彼らの交流が始まると、お互い自然を相手にしながらやっている者同士すごく共感し合って、仲良くなっていったんです。いわき市は台風19号で大きな被害を受けたんですが、真っ先に支援物資を持っていたのは三陸の漁師たちでした。

ーーそうした断絶を繋げられるのも、"ヨソモノ"ならではの役割ですよね。

今はJAさんとも一緒に商品開発を進めています。オイシックスと農協って対立構造と捉えられがちですが、そんなことはなくて、むしろ一緒にやりたいと話していて仲も良いです。生産者が減り、日本の食流通が危機的な状況の中で争っている場合じゃない。何か一緒に価値を作っていかないと産業自体がなくなる。だからパートナーだと思うんです。特に海外では、中国へお米を輸出できるようになって、全農さんと一緒に連携してやっています。

地方の問題を今語る上で大事なのは東京よりも「海外の地方」

ーー高橋さんは海外事業の担当ですが、新型コロナウィルスであったり、現在は大変な状況ではないですか。

我々は香港でビジネスをしています。「デモやコロナウィルスで大変ですね」と言われるんですが、こういうときこそライフラインとしてのサービスの出番と考えています。というのも香港の人は今、外出をしたがらないので中食、デリバリーが劇的に伸びてい ます。

かつ、中国産のものは避けられているので、宅配で日本産であるオイシックスはすごく支持されています。中国の農産物もレベルは上がっていますが、味はまだまだ日本産が上ですし、一番は安全性ですね。

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ーー日本国内にいては分からない需要ですね。面白いですね。海外事業をやっているから見えてくることは他にもありますか。

地方の問題を今語る上で大事なのは、海外の地方をちゃんと見ることなのかなと思っています。東北と東京よりも、東北と海外のローカルコミュニティの方が実はシンクロしていると感じています。先日、サンセバスチャンに行ってきたんですけど、文化は違うんですけど、一次産業と一体で暮らしている感じなど、東北や三陸と空気感がすごく似ているんです。

地方があって、首都圏があって、その先に海外がある、と考えがちですが、でも実際はそんなことはなくて、例えば福岡は首都圏を経由せず、アジアとつながっていこうと戦略を立てていて面白い。海外と地方って真逆と捉えられますが、実はすごく近いと感じています。

ーーいろんな部分で構造を変える必要がありますね。

いろんなものをアップデートしていく、いかざるを得ないと思います。基本は全部を取っ払いたいんです。行政区域の壁、業態の壁、バリューチェーンの壁...。そんなことどうでもいいじゃんと思ってしまうんです。

例えば自治体からすると「うちの補助金でやっているのだから、他自治体のヒトやモノには使わないでくれ」というのがあると思うんです。でも女川町長は「うちの補助金だけど、結果的に東北が潤おえば女川も潤うので、他の地域に使ってもいい」というスタンスを取られて、結果的に成功しているんです。

ーー農業に限らず、日本の問題でもありますね。

パイを大きくすることを考えないと立ち行かない中で、小さいパイの奪い合いであっちが増えたらこっちが減るという議論をしていたら本当にもったいない。そう考えるからどんどん全体のパイが縮小していくので、そこを取っ払ってあげれば、海外を含めてお客様が広がると思うんです。

これも言っているだけでは仕方ないので、評論家ではなく実践者として、まずは成功モデルを作ることが一番大事だと思っています。

【オイシックス・ラ・大地 プロフィール】https://www.oisixradaichi.co.jp/

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有機・特別栽培野菜、添加物を極力使わない加工食品など安心・安全に配慮した食品の宅配サービスを「Oisix(おいしっくす)」「らでぃっしゅぼーや」「大地を守る会」の3ブランドで提供している。「Oisix」では2013年7月から必要量の食材とレシピがセットになったミールキット『Kit Oisix』を展開し、累計出荷数が4500万食(2019年11月末時点)を越え、好評を得ている。上記写真の本社内の壁の絵は、日本全国の契約農家のうち66か所の畑の土使って描かれている。

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