震災の被害と高齢化...南相馬は”社会課題の先進地域”。だからこそ前を向く――「あすびと福島」沖沢真理子さんに聞く

公開: 更新: テレ東プラス

地震と津波と原子力事故が人々から平穏を奪い、まもなく9年の月日が経つ。東日本大震災の爪痕が色濃く残る福島県南相馬市で、一般社団法人「あすびと福島」は"憧れの連鎖"を合言葉に、福島の次世代を担う人材育成に取り組んでいる。

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企業のトップなど、今、会いたい人をフィーチャー。MCの田村淳が鋭く斬りこみ、トークセッションから新たなビジネスの創造を目指す「田村淳のBUSINESS BASIC」(BSテレ東 毎週日曜よる11時)。今回番組では、シリーズ「地方創生ビジネス最前線!」と題し、地方で変革を起こそうとしている「あすびと福島」「オイシックス・ラ・大地」「トラスコ中山」「SAP」をフィーチャー。4社のキーマンが登壇し、地方創生について語った。

【番組出演時の書き起こし記事はこちら

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そこで「テレ東プラス」は、南相馬市で難局と向き合う「あすびと福島」沖沢さんを取材。現在の活動や近況などを伺った。

引っ込み思案の小学生が変わった

震災の多大な影響もあり、「20年先の社会課題」といわれる人口減少・少子高齢化に直面している南相馬市。「あすびと福島」は、南相馬市で次世代を担う若い人材の育成に取り組んでいる。小学生以上を対象に、体験学習や実践をレクチャー。沖沢さんは「高齢化が進み、課題がたくさんある地域だからこそ挑戦し甲斐がある。若い世代が課題を可能性と捉え、前進することが地域の新しい活力になる」と前を向く。

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再生可能エネルギーの学習から、若い世代が自分の想いを形にしていくことまで、「あすびと福島」で学ぶことは多い。実際に高校生などから自己実現のための相談も増えているという。

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「南相馬市といえば『何もない』が枕詞でした。でも、新しい動きに若者が反応し、さらに下の世代にも伝える連鎖が起きている実感があります」(沖沢氏 以下同)。引っ込み思案だったある小学生の男の子は、「あすびと福島」での学習を機に「発表するのが大好きになった」という。

また「あすびと福島」は、企業の社員研修なども行っている。「20年先の社会課題を先取りした"社会課題の先進地域"でもある南相馬市を体感していただき、問題解決や新たな復興事業を立案する研修が社会人の皆さんの一層の発展になれば...」と沖沢さん。

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目からうろこ! "よそ者の視点"

「番組にご出演されていかがでしたか?」そう尋ねると、「もう本当に...緊張しましたね。限られた時間の中で自分たちの考えや思いを知っていただき、引き出してもらうというのはなかなかない機会ですから。得がたい体験です」と笑う。

番組には、「あすびと福島」のほか、異業種3社も登壇し、他社から多くを学んだという沖沢さん。中でも、全国から良質な食材を取り寄せ、宅配サービスを提供する「オイシックス・ラ・大地」が提唱した"よそ者の視点"は、目からうろこだったそう。

「『あすびと福島』が関わっているうちで学習している小学生~大学生は福島の子どもたちがほとんど。そして私自身も福島県出身です。自分たちにとっては当たり前のことが、外から見たら面白く映ることがあるかもしれません。その視点は持っていなかったですね」。「あすびと福島」の今後の活動にも、大きく影響を与える発想だったという。

それでは、MCを務める田村淳さんの印象は......。沖沢さんは「本当に頭の回転が早く、視野が広い方」と話す。淳さんが斬り込んだのは、「あすびと福島」が唱える"憧れの連鎖"の仕組みについて。

トップランナーとなる若い人材が起業し復興に貢献する。その姿を見て育った下の世代が事業を起こし、またその下が......という人材開発のプロセスに淳さんは非常に興味を示し「実際どこまで形になっているのか」など詳細を求める質問があり、「"憧れの連鎖"のトップランナーは大学生世代まで成長している」とのやりとりをした。

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小さな一歩が地域を、そして世界を変える

地方創生の重要性が叫ばれる昨今だが、成功は簡単ではない。震災の被害や高齢化など、問題が山積みの南相馬市であればなおさらだ。地域を蘇らせる上で大切なことは何か。

「まずは自分が本当にやりたいことかどうか...」と沖沢さんは語る。「地方創生は、まず"自分の興味があることから始めて欲しい"と思います。小さな第一歩が少しでも地域のため、社会のためになっていれば、自ずと周りが助けてくれます。その繰り返しがやがて実を結び、気がつけば大きな力になっているはず。

ますます先が見えにくい世の中。前に進むか止まるか......もしも迷ったら、とにかく前に進んで欲しいと思います。自分がやりたいことは何か......常に問いかけていれば、迷ったときに立ち返ることができる。失敗から得る学びは大きいですし、『あすびと福島』が伴走する若い世代が、常にチャレンジ精神を持ち続けてくれれば嬉しいですね」。

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まずは身近な問題に目を向ける自主性から......。最後に沖沢さんは、「地に足をつけた活動の積み重ねこそが、地域の活性化につながる」と話してくれた。そんな小さな一歩の手助けをしていきたい、それが「あすびと福島」の、そして沖沢さんの思いだ。

(取材・文:森田浩明)

あすびと福島・プロフィール】

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東日本大震災から1年後の2012年4月。福島県南相馬市で子どもたちの自ら考え行動する力を育む体験学習を行うために、一般社団法人「福島復興ソーラー・アグリ体験交流の会」をスタートさせる。2013年、完成した南相馬ソーラー・アグリパークを舞台にして、地域の小中学校と連携した体験学習を行い、2014年には、福島県郡山市を拠点とした高校生のオープンスクールを開講。さらに大学生のための社会起業塾による人材育成へ。人材育成を継続する経済性を確立するため、企業の社員研修に役立ちつつ、その対価を浄財としている。

2016年1月。南相馬を大切にしながら福島全体の復興へ貢献する志をさらに明確にするため、名称を一般社団法人「あすびと福島」に変更。長期を要する福島の復興のために、次代を担う若い社会起業家=「福島型アントレプレナー」の早期育成に取り組み、育成プロセスの循環=「憧れの連鎖」を創り出している。

「田村淳のBUSINESS BASIC」(BSテレ東 毎週日曜よる11時)は、現在「BSテレ東YouTube公式チャンネル」で配信中です!

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