“絶メシ”というワードはこうして生まれた! 「地域創生の手助けになれば」企画の仕掛け人に聞く裏話:絶メシロード

公開: 更新: テレ東プラス

日々ストレスにさらされているごく普通の中年サラリーマンの週末限定一泊二日の小さな冒険を描いた、ドラマ25「絶メシロード」(毎週金曜深夜0時52分放送)が、仕事に勉強に、家事に育児に、疲れた視聴者の心と身体を癒している。

「絶メシ」とは、店主の高年齢化や後継ぎ問題などで、時代とともに次々となくなっている"絶やすには惜しすぎる絶品グルメ"のこと。どこにでもいるアラフォー男が誰にも邪魔されない自由なひとときに心弾ませ、旅先で出会うさまざまな人々や「絶メシ」に思いを馳せる――。主人公の須田民生を演じる濱津隆之の人柄がにじみ出る、朴訥とした芝居も好評だ。

ドラマの原案・プロデューサーを務めるのは、「絶メシ」にフォーカスを当てた群馬県高崎市のローカル特化型グルメ情報サイト「絶メシリスト」を手掛ける博報堂ケトルの畑中翔太氏。

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前回は「絶メシロード」の"ロード"について、車中泊専門家にお話をうかがったが(こちら)、今回は"絶メシ"。地元に愛されてきた絶メシ店を紹介するだけではなく、それらのお店の後継者やインターン生の募集も行ってきた同サイトの成り立ち、ドラマ化までの道のり、そして今後の展望を畑中氏に聞いた。

地域創生の手助けになるようなドラマになれば

zetsumeshi_20200214_02.jpgドラマ25「絶メシロード」第4話より

──まずは、ドラマ「絶メシロード」企画の意図からお聞かせください。

畑中「ごく普通のサラリーマンが週末に、車中泊をしながら日本各地の"絶メシ"を求め旅をする、小さな大冒険を描いたドラマなんですが、ご覧になった方たちも車中泊をやってみたなと思ったり、知らない街のお店に行ってみたくなるような、そんな地域創生の手助けになるようなドラマになればいいなと思い企画しました」

──タイトルにある「絶メシ」は、長年にわたり地域で愛され続け、失うには惜しすぎる飲食店などを紹介する群馬県高崎市のローカルグルメサイト「絶メシリスト」から。同サイトは多くのメディアでも紹介され、国内外で複数の広告賞も受賞されたと聞いています。

畑中「ありがたいことにテレビ番組やネットニュースで多く取り上げられたのですが、これだけ露出があっても知っていただける方たちには限界があるんだなと思いまして。そこで"メディアに取り上げてもらう"のではなく"流す"側に回ることはできないかと考えて、私の方からテレビ東京さんにドラマの企画を持ち込みました」

──「"絶メシ""ロード"」の、もう一方「ロード」=車中泊はどこから?

畑中「"絶メシ"が持つ"グルメ"や"哀愁感"といった要素を考えた時に思い浮かんできたのが、同じテレビ東京さんの『孤独のグルメ』で。ただ、"絶メシ"だけだとテーマがかぶってくるかも知れないということで考え出したのが"車中泊"というキーワードでした。その当時、たまたま車中泊をする動画映像にハマっていまして。そこから感じた哀愁がどことなく"絶メシ"に通ずる部分があるなと思ったんです」

zetsumeshi_20200214_03.jpgドラマ25「絶メシロード」第6話より

──ドラマをご覧になった感想はいかがでしたか?

畑中「逆に、いかがでしたか?(笑)」

──私は地方出身者で、帰省するたびに思い出の店がなくなることも増えてきた年齢でもあるので郷愁を感じましたし。「店がなくなる前に行かなきゃ」と思いましたし。「こういう旅もいいな」と憧れも感じました。

畑中「もともと群馬県の高崎市発で始まり、今では福岡県や石川県にも広まりをみせつつある『絶メシリスト』ですが、おっしゃったように"絶メシ"という概念はどこの地方にもあり、都会であっても誰しもが1軒、2軒は持っているものだと思っていますし。ぜひ真似していただきたいと思っていたので、そうした感想はうれしいです」

原案となった企画「絶メシリスト」は、こうして生まれた

──そんな誰にでも必ず思い当たる「絶メシ」。海外の広告賞で「絶メシリスト」を紹介された際も、同じようなことを感じたとか?

畑中「"絶メシ"という言葉を、どうすれば企画の芯がブレることなく変換できるかと考えて"レッド・レストラン・リスト"と訳したのですが、海外でも多くの方に共感してもらえて。レッドリストというのは、絶滅の危機に貧している野生生物のリストのことで。"絶メシ=長年にわたり地域で愛され続ける町のレストラン"の危機的状況は、世界中どこでも同じなんだと思いました。

ドラマでは高崎に限らず、なるたけ多くの場所を訪れようと。関東甲信越・北陸地方を中心に全12話で12県11ヵ所、ガイドブックにはなかなか載らないような風景やお店を探したのも、日本全国でそうした共感があると思ったからです。何かしら町おこしのお役に立てればいいなと」

──そもそも「絶メシ」というワードは?(※注1)

畑中「最初は"絶飯危惧酒"という言葉が浮かんで。なくなってしまいそうなご飯屋さんであるとか飲み屋さんを紹介してはどうかな......と思ったことがきっかけでした。今はお惣菜やお菓子など、商店街全体に幅を広げているので、"絶メシ"でよかったなと思っています」

※注1:<絶メシの定義>は、家族もしくは少人数で経営している個人経営である。チェーン店ではない。昭和の空気を感じさせる歴史がある。後継者問題を抱えている、もしくは後継者問題を抱えていそうである。この店でしか味わえない絶品料理がある。地元高崎市民に愛されている。インターネット検索に出てこない、もしくはあまり情報がないこと。

──絶メシリストを作っている最中も再開発が進んだり、高齢化や跡継ぎ問題で上手くいかないことも多かったかと想像しますが。

畑中「そうですね。ある種、時間との戦いと言いますか。実際リストに挙がった中でも、すごくいいお店なのに閉店が決まった、ところもありましたし。駅前の再開発も全国のあちらこちらで。また、お店の人も『もう次はないから、紹介しなくていいから』とおっしゃる方もいらっしゃいましたね。ドラマのリストを作る際も、企画途中で閉店されたお店もありました」

zetsumeshi_20200214_04.jpgドラマ25「絶メシロード」第4話より

──ドラマでは実際に各地の店主さんへ取材し、それに基づいてストーリーが構成されているとのこと。場所選び、店選びはどうやって?

畑中「濱津隆之さん演じる主人公の民生さんが東京在住ですので、彼が一泊二日で行ける場所じゃなきゃいけないということで(※注2)、まずはここは可能だけど、ここは行けないよね、という範囲を決めて。そこから複合的にリサーチをかけて......インターネットはもちろんですが、仕事柄、全国のライターさんとの繋がりが多いため、居住地や出身地の"絶メシ"を教えてもらいました」

※注2:期限は金曜の帰宅後から妻と娘が大好きなアイドルグループのライブ遠征から帰ってくる土曜日の夕方まで! 誰も誘わない・誰も巻き込まない・予算はお小遣いの範囲内で! が民生のモットー。

──濱津さんにもインタビューさせていただきましたが、飾らない人柄が民生にぴったりで、放送が週末の深夜帯ということもあって実に和みました。

畑中「脚本が濱津さんありきで書かれていたので、私もぴったりだと思いましたし、映像を見て失礼ですけど、かわいいなと思いました(笑)。時間帯ということでは、濱津さんが特にお芝居もせずに、濱津さんが濱津さんのまま、ただただ美味しいものを食べて、運転して帰る──。それだけを映し出すドラマになったことも癒しに繋がったのかなと思いますね」

──先の「孤独のグルメ」との違いは意識されましたか?

畑中「民生=濱津さんの人間性を出していくこと。あとは車中泊をしてグルメを食べることは基本にありながら、さして成長しない主人公を目指しました(笑)。普通のドラマでは何かしら成長するんでしょうけど、何も変わらない。唯一、車中泊について自分なりに学ぶくらいで。企画の段階から、それくらいでちょうどいいんじゃないか。ある年齢になったおじさんが3ヵ月やそこらで成長するわけないよね......というところからキャラクターを考えていった感じです」

"普通"であること、"いつもの味がいつでも食べられる"こと

zetsumeshi_20200214_05.jpgドラマ25「絶メシロード」第5話より

──ドラマを見て紹介された土地や店に足を運び人も増えると思いますが、「絶メシリスト」の経験も踏まえまして何かアドバイスはありますか?

畑中「例えば大勢で行って、いろんなものを同時に、別々に頼まないであるとか、そういう個人店さんへの気遣いなどでしょうか。やはり旦那さんと奥さん1、2人でやられているお店も多いので。あとこれも当然ですが、定休日が情報に書かれている日と異なったり、その店独自のローカルルールのようなものがある場合もありますので、事前にチェックして行かれた方がいいかと思います」

──懐かしさ以外に、「絶メシリスト」に関わってきた畑中さんが思う絶メシ・絶メシ店のよさとは?

畑中「民生のセリフにも『普通だ』とありますが、どこのお店もちゃんと美味しいんですよね。この"普通"というのが、実は絶メシ的には誉め言葉で。今オムライスを食べようにも、すごく凝ってるじゃないですか? 案外この"普通のもの"を食べられる機会が少なくなっている気がして。

あと、いつもの味がいつでも食べられること。何でも屋さんじゃないですけど、お客さんのリクエストに応えているうちに、いろんなメニューがあること。私も同世代ですが、特に民生さんのような年齢の方にはたまらないお店だと思います」

──地域創生、町おこしという言葉が幾度か出ました。改めまして、このドラマをご覧になるみなさんにメッセージをお願いします。

畑中「私にも『昔はよく行ったけど最近は行ってないな』というお店はたくさんあって。いつまでもそこにあると思い込んでいるというのもあるし、いつの頃からかグルメサイトに載っていないと不安になって足が遠のいて......というお店はあるので、このドラマをきっかけにもう1回だけ行く......本当に1回だけでもいいから行ってもらえると、その掛け算でお店が続くことになるかも知れません。

このドラマで初めて"絶メシ"という概念を知る方も多いと思いますので、ゆくゆくはこの試みが全国に広がっていけばいいと思います。いざそのお店がなくなると知ると、長蛇の列をつくって食べに行く......ではなく、その前に行ってもらえるのが一番だと思いますね」

(取材・文/橋本達典)

【プロフィール】
畑中翔太(はたなか・しょうた)
博報堂ケトル クリエイティブディレクター / プロデューサー。2008年博報堂入社。手段やアプローチを選ばないプランニングで、数多くの統合キャンペーンを手掛ける。2018年クリエイター・オブ・ザ・イヤー メダリスト受賞。2017年、群馬県高崎市のシティプロモーションとして「絶メシリスト」を考案。ドラマ『絶メシロード』のプロデューサーも務める。
絶やすな! 絶品高崎グルメ 絶メシリスト

強制的にメニューを決められてしまうとんかつ屋

2月14日(金)深夜0時52分放送の、ドラマ25「絶メシロード」第4話は?

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第4話「とんかつ一(はじめ)」
どこにでもいるごく普通のサラリーマン須田民生(濱津隆之)。今日も一人の時間を満喫するため、車で旅に出て車中泊をする小さな冒険へ出発する。家族から「おじさん臭い」と言われ、さらに会社でもおじさん扱いをされショックを受ける民生。
旅に出たある日、「絶メシ」を求め発見したのはとんかつ屋。中は威勢のいい店主とお客さんで賑わっていた。初めて来るお客さんは「ミックス定食」でと強制的にメニューを決められ困惑する民生は......

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