「カネスを燃やすな!」戦争中、空襲による火災から常連たちが守った店と、受け継がれる名物「煮込み」:今夜はコの字で

公開: 更新: テレ東プラス

カウンターが"コの字"の店は、左右、斜め、人の顔が並び、上座も下座もないフラットな場。人と人が触れ合う"コの字酒場"を舞台にしたドラマ「今夜はコの字で」(毎週月曜深夜0時放送)が、BSテレ東にて放送中。

今回お邪魔したのは、第6話に登場した東京は江戸川区一之江の「大衆酒場カネス」。コの字上級者の恵子先輩(中村ゆり)の指南によって酒場探訪に目覚めた吉岡としのり(浅香航大)が、自らの勘を頼りに入った老舗の名店だ。

都営新宿線一之江駅で下車。環七通りを一路北へ。すぐに左へ折れて今井街道に入り、歩いて10分ほどで左手にお目当ての「カネス」が現れた。

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「いかにも昭和な佇まい。のれんが2枚掛かっているのも変わってるな」とは、「カネス」を目にした吉岡の第一声だが、まさに! 昭和の風情漂う、いい意味で"枯れた"外観がどこか懐かしい。

出迎えてくれた女将さんによれば、開業は昭和7年。当初は、なんと茅葺屋根だったというから驚く。「大衆酒場」と「中華そば」、2枚ののれんが掛かっているのは、昭和28年に先代がラーメンを出し始めたころの名残りで、かつては店内も2つに分かれていたそう。

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こちらが三代目女将の浅野頼子さん。

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厨房を担当する夫の彰彦さんと2人で店を切り盛りしている。珍しい店名は屋号から。"曲尺"に"ス"で「カネス」。真直ぐな商売という意味がある。

壁には吉岡役の浅香さんをはじめ著名人のサインが。「今夜はコの字で」原作者の加藤ジャンプさんも古くからの常連。彰彦さん役を演じた俳優・下総源太朗さんも撮影前に来店されたとか。

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どこか教室を思わせる広い店内でひときわ存在感を放つ巨大なコの字カウンターは、長椅子で20席ほど。

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テーブル席は4人掛けが2席。使い込まれて角が丸く削れた天板もいい趣きだ。

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まるで映画のセットのような昭和感が漂う店内。女将さんによれば、実際にいくつかの映画やドラマの撮影にも使われたことがあるそう。昔の体育館のような雰囲気があり、思わずタイムスリップした気分に。

時間は、平日の16時半。開店直後にも関わらず、すでに先客の姿が。まずは瓶ビールで喉を潤しつつ、壁に掛けられた古い写真を眺めていると、女将さんが「カネス」の成り立ちを説明をしてくれた。

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「万屋って言うのかしら? 昔は何でも売ってたみたいで。そこから酒の量り売りと飲食店を始めて。その茅葺屋根の写真は、前の東京オリンピックの年ね(昭和39年)。その翌年に今の鉄筋に建て替えて」

店の前には大正時代より路面電車が走り、昭和27年にはトロリーバスが運行を開始したが、昭和43年に廃線に。一時期は常連客の足が次第に遠のいたというものの「今でもわざわざ遠くから来てくれるお客さんがいらっしゃるのはうれしいわね」と女将さん。

とはいえ、「でも、今日みたいになんとなーくいつも人がいるくらいがいいのよね。何事もほどほどが丁度いいでしょ」と笑う。長野県から嫁いできたというが、チャキチャキとした東京の下町口調が心地いい。

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すると、向かい席の常連さんが「この辺は昔、畑しかなくて。飲める店といえばカネスくらい」と、絶妙な間合いで会話に入ってくる。これぞ「人と人が触れ合う」コの字カウンターの醍醐味。聞けば、御年70歳。「この店の娘(二代目女将の娘さん)と同級生」という、生粋の地元っ子だった。

続けて「大女将に聞いた話だけど、戦争中に茅葺に火が着いちゃって、常連さんたちが水を掛けてくれたんですって。『カネスを燃やすな!』って。今もみんな『なくなっちゃ困る』って言うからやってるようなものだわね」と笑う、女将さん。開業から87年。この地でいかに「カネス」が愛されてきたかを物語るエピソードだ。居酒屋の"居"は居心地の"居"などとよく言うが、来店して10分ほどで、その意味がわかった気がする。

ちなみに「大女将」とは、ドラマにも写真で登場した二代目女将・静子さんのこと。90歳を超えてもなお、定位置である煮込み鍋の前で時代とともに移り変わる酔客たちを見守ってきたが、2016年に逝去された。

と、ここで「取材はもういいから、これ食べてみてよ」と先ほどの常連さんに促され、名物の「煮込み」を注文することに。

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「カネス」のシンボル的存在、煮込み鍋を前に、女将さんが「何かあったらこれ(鍋)を抱えて逃げるわね」と語るスープは、終戦後から継ぎ足してきたもの。味付けは千葉県産の2種類の赤味噌を独自に調合。砂糖も酒も使わない。

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馬のモツと牛のフワ(肺)のみを使用し、コトコトとじっくり煮込んだモツはやわらかく、味は超濃厚! ややクセがあって、そこがクセになる煮込みに合わせて、「焼酎ハイボール」を追加する。

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焼酎にソーダを入れレモンを浮かべた下町のハイボールで、女将さんいわく「生レモンと砂糖を加えた自家製エキスでひと手間かけている」とのこと。酸っぱさの中に、ほんのりした甘さ加減がいいバランスで、氷が入っていないところも渋い。「じゃあ、私も同じものを」と、常連さんが続く。

次に恵子先輩とその妹・洋子(北香那)とともに「カネス」を再訪した吉岡も食した「柳川」と「サキイカ」をいただく。

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ドジョウとゴボウを卵でとじた「柳川」は、ドジョウ本来の旨味を引き出すため、"まる"と呼ばれる生きたままの状態で調理される。

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「柳川」(600円)は、粋の極みというべき逸品。味噌汁にした「どじょう汁」(400円)も。そのほか小鉢は200円台が中心と、大衆価格なのがうれしい。

「サキイカ」(300円)はイカ墨入り。これもまた旨い! 臭みのないドジョウの豊かな味わいとイカ墨の香りに誘われて酒が進む。おかわりは、日本酒。そして"東京の大衆酒場といえば......"な「ホッピー」も。いわゆる三冷スタイル(※注1)なところも、いちいち渋い!

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気づくと店内には、お客さんさんがズラリ。こちらは煮込み鍋の横に鎮座するだるまストーブが灯す火のせいか、はたまたほろ酔いのせいか、いい感じでほんわかと......。

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そんなわけで〆はもちろん、2枚ののれんのうちのひとつ「ラーメン」(500円)で。昔ながらのあっさりしょう油味が、やさしく胃袋を満たしてくれた。

安くて美味しい酒と肴と、ほどよい距離感のお客さん。何より大将と女将さんのお人柄。吉岡じゃないけれど、こうした酒場のよさを知ると、チェーン店には戻れなくなるな、うん。

最後にドラマで「カネス」の大将が言った「ウチは古いし高い店でもないから、お客さんに"来てよかった"と思ってもらえればそれでいいんだ」というセリフを思い出しながら店を後に。その言葉どおり、来てよかったと思う、例え駅から遠かろうともまた来たくなる、そんな店「大衆酒場カネス」でした。

※注1:三冷スタイル:氷は使わず、ホッピー、焼酎、ジョッキをキンキンに冷やして提供するスタイル。

(取材・文/橋本達典)

【取材協力】
大衆酒場カネス
住所:東京都江戸川区一之江6-19-6
営業時間:平日・土 16:30~22:00
     日・祝日 14:00~22:00
定休日:水曜日 第三水・木曜日は連休
※店舗情報は2020年2月のものです。

究極のコの字に強烈なカウンターパンチ!

2月17日 (月)深夜0時から放送の「今夜はコの字で」第7話は!?

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コの七
東十条「よりみち」

社長の角倉(堀部圭亮)にVRを使ったPR企画をプレゼンする吉岡(浅香航大)。自信はあったものの、今回は落選し、後輩の山田(小園凌央)からは「ドンマイ」と上から目線の言葉をかけられ、怒る気力もないくらい落ち込む。「もう何をやっても通る気がしない」とメールで弱音を吐く吉岡に、恵子(中村ゆり)から着信が。吉岡に喝を入れる恵子は、とっておきのコの字を紹介してくれる。

東十条駅を降り、商店街を抜け、真っ暗な住宅街を歩く吉岡。道を間違ったかと不安になる頃、赤提灯が見えてくる。エアコンもない店内の傾いたコの字カウンターには渋めの客が4人。ビールを頼むと女将(麻里万里)はグラスを出し、「そちら」と背後の発泡スチロールのケースを指す。開けてみると氷と瓶ビールが入っていた。ここが恵子の言う究極のコの字酒場なのか......?コの字中級者を自負していた吉岡だったが、強烈なカウンターパンチを食らった気分になる。

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