脚本に行き詰った時は...!? 野木亜紀子×宮藤官九郎が明かす人気作の貴重な裏話:コタキ兄弟と四苦八苦

公開: 更新: テレ東プラス

野木亜紀子宮藤官九郎。日本のエンタメ界をけん引する人気脚本家のふたりが、ドラマ24「コタキ兄弟と四苦八苦」(毎週金曜深夜0時12分放送)で、夢の競演を果たしているのをご存じだろうか?

今や映画・ドラマに欠くことのできない名バイプレーヤー・古舘寛治滝藤賢一が扮する真面目すぎてうまく生きられない兄・古滝一路と、そんな兄を見て育ったせいか、ちゃらんぽらんにしか生きられなくなった弟・二路が、ひょんなことから「レンタルおやじ」を始める......。映画「リンダ リンダ リンダ」(2005年)、「味園ユニバース」(2015年)、「ハード・コア」(2018年)など"通"好みの作品で知られる映画監督・山下敦弘が全12話すべての演出を手掛けることでも話題の本作で、野木は脚本を担当。宮藤は物語のキーマンとなるコタキ兄弟の先輩レンタルおやじ・ムラタを演じているのだ。

おふたりいわく、本作での競演は「偶然」とのことだが、もともとは脚本家を目指す以前、宮藤の作品に衝撃を受けたという野木と、野木作品のファンだったという宮藤。そこで「テレ東プラス」では、このトップランナー同士のビッグ対談をオファー。多忙を極めるスケジュールの合間を縫って、「コタキ兄弟」の舞台裏から脚本家としてお互いに気になること、そして仕事の流儀まで、存分に語っていただいた。

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「これ宮藤さんが読むの!? って、もう1回脚本見直しました」

──本日はドラマファンならば歓喜すること間違いなしの、人気脚本家おふたりの対談となります(一同、拍手!)。

宮藤「いやいやいや、そんな! やめてください。僕の方こそ野木さんのファンだったので、今日は楽しみにしています」

──野木さんは脚本家になる以前、「池袋ウエストゲートパーク」(TBS系)から始まる宮藤さん脚本の一連のシリーズに衝撃を受けたそうで。今回は野木さん脚本の「コタキ兄弟」で憧れの大先輩とある種の"競演"を果たされているということもあり、この場を設けさせてもらいました。

宮藤「衝撃、って。そんな人、いないですよ」

野木「いえいえ。当時、私は視聴者でしたが、宮藤さんの出現はドラマ界におけるエポックメイキングでした。脚本家を目指す人で影響を受けて真似しようとした人もたくさんいたと思います。といっても、誰も真似できないんですけどね。それから直近の『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(NHK)まで、ずっと楽しく見ているので、宮藤さんがムラタ役に決まった時は本当にうれしかったです」

──そもそも宮藤さん演じるレンタルおやじの先輩・ムラタは、どうやって決まったんですか?

野木「プロデューサーの濱谷(晃一)さんがオファーしてくださいました。ムラタは正体不明の、何とも言えない役なので、山下監督や古舘さんとも"誰にしようか?"とずっと話していて。最初の候補者の中に宮藤さんの名前も入っていたけど、お忙しいし無理だろうと思っていたら、ある日『決まりました』と。

うれしかったんですけど、『私が書いた脚本を、宮藤さんが読むの!?』って。同業者に読まれることなんて滅多にないし、大先輩だし、昔からのファンだし。変な緊張感がでてきて、もう1回、書いた脚本を見直しました。もう決定稿になってたので直せやしないんですけど(笑)」

kotaki_20200130_02.jpg宮藤演じる、「レンタルおやじ」代表・ムラタ

──宮藤さんは『コタキ兄弟』の脚本を見て、いかがでしたか?

宮藤「面白かったです。男ふたりの兄弟のやりとりが真実味があって。これ、本当に女性が書いたのかな? と思いました。感情の流れ、特にお兄さんの感情が同じ男としてよく分かるな。弟の離婚うんぬんの揺れ、みたいなものとか。それを男側から見てるのがすごいと思いました。それを女の人が書いてるというのが」

野木「(神妙な面持ちで)ありがとうございます。うれしいです」

宮藤「これって、もともとは古舘さんと滝藤さん発の企画から始まって。言ったらバディものじゃないですか?」

野木「そうですね。おじさんのバディ」

「サブタイトルが教訓になってるから本編でお説教しなくてもいい」

──2017年に偶然再会した古舘さんと滝藤さんが意気投合し、企画を立ち上げて、ということでしたね。

宮藤「難しくなかったですか? なんて言うか......みんな『バディものやりませんか?』って、たやすく言い過ぎじゃないですか(笑)。(提案する側からすれば)楽なんです、きっと。有名人をふたり連れてくればいいから。

でも大概、やり尽くされてるし。刑事、探偵、学校の先生、医者のバディものもある。しかも主役ふたりそれぞれを、ちょうどよく目立たせなきゃいけない(笑)、思ってる以上に難しいんですよ。実際に難しいし、僕もいくつかプロットを書いて成立していないものがありますし。

それを兄弟という設定にして。しかも。兄弟はおじさんで。加えてレンタルおやじをやってて。最初から大したことをやらない、って言ってるようなものじゃないですか?(笑)」

野木「(笑)、確かに! 大したことをやらないのは間違いないです」

宮藤「そこがまず、素晴らしいなーと思いましたし。台本を開いたら予想外に1話から結構攻めた内容で。なおかつ、兄弟それぞれがバランスよく"立ってる"んで、すごいなと思って。各回が絶妙に繋がっているストーリー展開にも、偉そうですが感心しました」

野木「わ、ありがとうございます」

kotaki_20200130_03.jpg第1話「一、怨憎会苦」では、私文書偽造の依頼!?

──レンタルおやじは依頼人の話を聞く仕事ということで、探偵もののスパイスも入りつつ。がんばった割りに、報われなかったり。また、ちょっぴり切ない展開もあって。「傷だらけの天使」や「探偵物語」(日本テレビ系)といった、往年のドラマのような。

宮藤「そう、報酬がないところ、千円しかもらえないというのもいいなーって。内容的にも今の時代の、やさしいバディものというか。これって、どうやって発想されたんですか?」

野木「古舘さんから言われたのは『俺たちで兄弟ものを書いて』ということと『芝居がしたい』ということで。そこから濱谷さんと、どうしましょうか? となり。毎回ゲストがいた方がいいけど、探偵が主人公はありきたりだよね、となって。そこから、だったらレンタルおやじはどうかとなって......でも、先に宮藤さんが"レンタルおじさん"を出されてましたよね? 『ゆとりですがなにか』(日本テレビ系)で。あのドラマも好きでした」

宮藤「吉田鋼太郎さん(の役)ですね。僕はそもそも『この商売、何!?』っていう驚きというか、戸惑いがあったから登場させて。同じおやじの自分からすれば、なんで知らないおっさんを呼んで、お茶して、しかもお金まで払わなきゃいけないんだって(笑)。でも、そっちの方が楽で、それを受け入れられるのがゆとり世代なんだろうなと気づいたんです。わかりやすいアイコンとして。あと主人公3人が知り合うきっかけとして出したんですけど。まさかレンタルおやじメインでくるとは思わなかったです。

あと(本作は)サブタイトルがまた、哲学的というか仏教的というか気になったんですけど、あれはどうして?」

野木「2017年に企画書を書いた当時は、『兄弟の役に立たないライフハック(仮)』みたいなタイトル案だったんですけど、2020年にライフハックはもう古いな、となって。レンタルおやじというのは決まっていたんで、じゃあタイトルをどうしよう? となった時に四字熟語もいいなと思ったんですよ。

で、何かないかなと探していたら"四苦八苦"(※注1)が目に留まって。もともとは仏教用語なんです。四苦と四苦で八苦というのがあって。どれも人間の本質をあらわしているじゃないですか。レンタルおやじとして、これを1コ1コやっていけばおもしろいし、新しいんじゃないかなと思って。思いついて、まず過去にやられてないかな? と、ググりました(笑)。偶然カブってしまったものでも、少し似てるだけですぐにパクったと言われるから」

※注1:「四苦」は生・老・病・死の四つの苦しみ。「八苦」は、四苦に愛別離苦(愛するものと別れる苦しみ)・怨憎会苦(憎むものと出会う苦しみ)・求不得苦(求めても得られない苦しみ)・五陰盛苦(心身の苦痛)。ドラマは全12話のため、オリジナルの"苦"を4つ足して「12苦」としている。

宮藤「あー、分かる。そういう世の中になってきましたもんね。あとメッセージとかテーマとか言わなきゃいけなような風潮に、見ている人たちも慣れてきちゃってるから『このドラマ、なにも言ってないじゃん!』って(笑)。別に(直接メッセージやテーマを)言わなくても、見た人の心が動けばいいんじゃないかなって思うんですけど。

その点、『コタキ兄弟』はサブタイトルが教訓になってるから、本編でお説教しなくてもすみますもんね? いい思い付き、発想だなと思いました」

kotaki_20200130_04.jpg第2話「二、求不得苦」は、新郎からの依頼で親戚のフリをして結婚式に参列

野木「そうですね。あと放送時間40分の枠なので、正味30分の短尺ドラマにはちょうどいいかな、というのもあって。"苦"という縛りで1時間枠だと、ちょっと重くなりそうなので。

でも、いざやってみると、ちょっとバタバタしましたね。1話はこんな苦がいいかな、2話はこの苦がいいかな......ってホイホイやってたんですけど、途中だんだん残りの苦が少なくなってきて。ヤバイヤバイ、最後までちゃんと組み立てないとはまらなくなるぞと(笑)。最終回が創作の苦というのも、なんか微妙じゃないですか?」

宮藤「王道なもの(苦)でシメたいですよね」

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