マラソン中に過呼吸になったら深呼吸は✕? 爪の色でわかる! 知って安心「過換気症候群」の正しい応急処置法:主治医の小部屋

公開: 更新: テレ東プラス

毎週木曜夜7時58分から放送の「主治医が見つかる診療所」は、第一線で活躍中の医師たちが、病院選びのコツや最新の健康法など、医療に関するさまざまな疑問に答える知的エンターテイメントバラエティです。

さて、今回のWEBオリジナル企画「主治医の小部屋」には、20代の女性から過呼吸に関する疑問が寄せられました。さっそく同番組レギュラー・秋津壽男医師に原因や対処法について教えていただきましょう!

過呼吸になったら2拍置いたくらいの呼吸を意識

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Q:20代女性です。大学の授業でマラソンをしている途中で過呼吸になり、医務室に連れていかれました。担任の先生が「深呼吸して」というので試そうとしましたが、医務室の先生に「深呼吸はだめ。呼吸を浅くゆっくり」といわれ、そのとおりにしたら落ち着いて症状は5分ほどで収まりました。朝ごはんを抜いて走ったのがよくなかったのかな、と自省しましたが、どうして過呼吸は起きるのでしょうか。過呼吸になったときの対処法と、反対に絶対やってはいけないことがあれば教えてください。

―― 先生、過呼吸のとき体はどんな状態になっているのですか。

「過呼吸は若い女性に多い症状で、過換気症候群とも呼ばれます。よく狭い室内に大人数でいると酸欠になるなどといいますが、人は酸素が足りていないと息が苦しく、深呼吸して酸素を取り込めるとラクになります。ところが、不思議なことに人間の体は二酸化炭素が足りなくなっても苦しく感じるのです。これは血液中の二酸化炭素(炭酸ガス)濃度が低下することで血液の酸・アルカリのバランスが正常よりもアルカリ性に傾いた状態(呼吸性アルカローシスといいます)になるため。そうなると、息苦しさ、めまい、震え、唇や手足のしびれなどの症状が現れます。」

―― 普通に呼吸をしているはずなのに、なぜそうなるのでしょう。

「この過換気症候群の厄介なところは、必要以上に呼吸をしすぎたことで起こっている点です。マラソンを走っているうちに足りなくなった酸素を必死に速く短い呼吸をして補給したら正常まで復活した。ところが一生懸命に呼吸したことで、知らない間に二酸化炭素の必要量が70%、50%......と下がってしまった。そのために酸素が足りない苦しさは終わっているのに、二酸化炭素を吐き出しすぎて起きた苦しさがそれに取って代わった、ということです。酸素は十分足りているのにまだ苦しい。体は息苦しさの区別ができないからもっと酸素をもっと酸素をと余計に呼吸しようとするわけです。つまり過換気は呼吸の仕方が間違っている、一生懸命に呼吸したことが裏目に出ている状態だということです」

―― 過呼吸になってしまったらどう対処すればいいのですか。

「たとえば、ぜんそくで苦しかったら深呼吸をしたり、酸素吸入をしたりすればいいですよね。では過換気のときにはどうすればよいかというと、まずは自然にゆっくりと呼吸をすること。そうすれば代謝で体の中に二酸化炭素がつくられ溜まっていきます。過換気の人はハァハァと早くて深い呼吸をしていますから、それをあえてゆっくりした浅い呼吸にします。ただ、パニックになっている人に浅くゆっくりした息をしなさいといっても、余計にパニックになるだけです。そういうときは2拍置いたくらいの呼吸に整えるようにするとよいでしょう。

ちなみに、これまでは "ペーパーバッグ法" といって大きめの紙袋を口に当ててそれをフーッと膨らまし、その空気を紙袋がぺしゃんこになるくらいまで吸い込む対処法がよく取られていました。自分の吐いた息を繰り返し再利用することで二酸化炭素の不足を補う方法です。しかし、酸素濃度が下がりすぎたり、二酸化炭素濃度が必要以上に上がりすぎたりする可能性があるため、現在はあまり行われなくなっています」

爪の色で危険度を判断できる

doc_20200129_image3.jpg画像素材:PIXTA

―― 実際に起きたら死ぬのではないかと不安になりそうです。

「この症状でいちばん大事なところは、背景に肺や心臓の病気がなければ、いくら苦しくても死には至らないということ。なぜなら、本当に苦しくて意識を失ったなら無駄な過呼吸も止まるからです。そうなれば自然に体内の二酸化炭素濃度が回復して元に戻るんですね。ぜんそくで息が苦しい、もしくは食べ物が喉に詰まって窒息する......これは時間が経過すれば死亡します。しかし過換気はしばらく経つと収まるのです。

慌てて救急車を呼んだり救急外来にかかっても、医師や救命士はよくわかっていて、血液中にどのくらい酸素が含まれているかがわかる医療機器(パルスオキシメータ)を指につけて、酸素飽和度が97%以上あれば低酸素状態ではないと判断し、呼吸法を指導して落ち着くのを待つことがほとんどです。この症状に2〜3回なった経験のある人はパルスオキシメータ(画像は一例)を1つ買っておくと安心ですよ。

また、自分で緊急性を見分けるには、苦しい、どうしようこのまま死んでしまいそうだと思ったときに爪の色を見てください。爪がピンクや薄紅色だったら絶対に窒息しません。酸素は足りている状態ですから慌てなくても大丈夫です。

反対に青紫っぽい色をしている場合は本当の呼吸困難で酸素不足に陥っています。何がなんでも救急車を呼んでください。」

――過呼吸になりやすいタイミング、なりやすい人に特徴はありますか。

「若い女性に特に多いのですが、最近は若い男性にも増えています。マラソンのような酸素を多く必要とする激しい運動のほか、過度の緊張やストレスに弱い人も起こりやすくなります。意外なところでは、ライブハウスなどの狭い空間で倒れる人。実は酸欠でなく過呼吸のほうが多いんですね。

大事なのは、過呼吸になっても落ち着いてゆっくりした呼吸を試してみること。だめだと思って焦ると、自分自身でパニックを引き起こすことになります。過換気になりそうだと思ったときには、落ち着け、頑張れと自分自身に言い聞かせ、浅くゆっくりとした呼吸を意識するようにしましょう。

初めてなった人はどうしようとパニックになりますが、何度か経験するうちに悪いスパイラルに入るタイミングがわかるようになり、自分で対応ができるようになります。

すでにパニック障害と診断されて安定剤(抗不安薬など)の処方を受けている人は、過呼吸になりそうだなと思った時点で薬を飲むようにしてください」

―― 秋津先生、ありがとうございました。

【秋津壽男医師 プロフィール】

1954年和歌山県生まれ
1977年大阪大学工学部発酵工学科卒業 1986年和歌山県立医科大学卒業
1998年秋津医院を開業
日本内科学会認定総合内科専門医 日本循環器学会認定循環器専門医
日本医師会公認スポーツドクター 日本体育協会公認スポーツドクター
日本禁煙学会認定禁煙専門医
著書に「本当に怖いのは、第三の脂肪」(幻冬舎)、「薬を使わずに『生活習慣病』とサヨナラする法: 医師が教える『自己治癒力を高める』コツ」(三笠書房)など。

※この記事は秋津壽男医師の見解に基づいて作成したものです。

今回お話を伺った秋津先生も出演する「主治医が見つかる診療所【ただのカゼと思ったら命に関わるキケンな病気SP】」(1月30日木曜夜7時58分)。
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