株より低リスク、国債よりハイリターン? 投資に新たな「選択肢」

公開: 更新: テレ東プラス

ワールドビジネスサテライト」 (毎週月曜~金曜 夜11時)のシリーズ特集「イノベンチャーズ列伝」では、社会にイノベーションを生み出そうとするベンチャー企業に焦点をあてる。「テレ東プラス」では、気になる第23回の放送をピックアップ。

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2019年末から2020年初にかけ、世界の株価は米中摩擦や中東情勢をめぐる報道に反応し、急激な値動きを繰り返した。「貯蓄から投資へ」と叫ばれて久しいが、こうした価格変動による元本の目減りを恐れて、資産運用に二の足を踏む個人は多い。一方、長引く低金利で個人向け国債の利回りは年0.05%(掲載時点)と、投資を促すには魅力不足が否めない。こうした現状に風穴を開け、投資の「新たな選択肢」を作り出そうとするベンチャー企業が登場した。

古い町並みが残る京都市に、19年、町家風の新たなホテル「京町家旅館『鈴』」がオープンした。ユニークだったのは、そのための資金の集め方。「33秒で目標の金額を集めることができた」と、運営会社の役員は驚く。目標金額の3000万円が、募集開始から1分もたたないうちに、個人から集まったというのだ。それもそのはず、投資した個人は年4.5%もの利回りが得られるという。個人向け国債などより2ケタ高い利回りだ。

innoven_20200121_01.jpg※京町家旅館「鈴」(京都市)。開業資金は「33秒で」集まった。

この仕組みを作ったのが、2016年創業のベンチャー企業「クラウドポート」。創業者の1人、藤田雄一郎社長は、自身を起業に駆り立てた思いについてこう語る。「今の日本は両極端。値動きのある株式や投資信託と、収益性があまりない個人向け社債(や国債)。ちょうどこの間に巨大な空白地帯がある。ここを埋めたい」。

innoven_20200121_02.jpg※ クラウドポート創業者の1人、藤田雄一郎社長

そんな思いから藤田氏らが作り上げたサービスが「ファンズ」。仕組みはこうだ。資金を集めたい企業は、その調達目的や、設定した利回りをサイトに掲載。そして資金を集めるためのファンド会社をつくる。個人は、このファンド会社に対して「貸し付け」という形で投資する。その後、投資した個人は利回りに沿ったリターンが得られるほか、満期が来たら元本が戻ってくる。株などのような「値動きによる目減り」はない。それでいて利回りは平均およそ年3.0%前後と、国債や社債を大きく上回る。つまり株・投信よりリスクが低く、国債・社債よりはリターンが大きい「ミドルリスク・ミドルリターンの金融商品」(藤田社長)といえる。

innoven_20200121_03.jpg※ 個人は、企業が設立したファンド会社に貸し付け、利回りに沿ったリターンを得る

元本は、その企業が経営破綻でもしない限りは戻ってくるが、逆に破綻すれば戻ってこない。社債と同様に、そのリスクはある。そこでファンズでは、この仕組みで資金調達できる企業を「上場企業」に限定した。経営情報を開示している上場企業なら、個人がファンズでの投資を考える際、ある程度自分で破綻リスクを判断できる。また、企業が契約に反して元本を返済しないというリスクも、常に市場の監視下にある上場会社であれば、より抑えられるという。

この仕組みが、迅速に資金を調達したい企業にも、リスクを抑えて一定の利益を得たい個人にも評価された。資金調達にファンズを利用した企業は10社を超え、いずれの案件も数分以内に資金集めが完了した。

また、ファンズが提供するのは、単なる「お金のやり取り」だけではない。

innoven_20200121_04.jpg※ ファンズが「お金のやり取り」以外に果たす、もう1つの役割とは...舞台はこの店

19年12月、東京・千代田区にある「大阪王将」の店舗に、数十人の「ファンズ」の投資家が集まった。クラウドポート藤田社長の「乾杯!」の合図とともに、テーブルいっぱいの料理を囲んで歓談が始まる。「養命酒のスープを使った酸辣湯麺です!」「本格的な味がしますね...」。実は大阪王将を運営するイートアンドは19年11月、新店舗をオープンするにあたり、ファンズで5000万円を調達。この日は同社にファンズで投資した人だけを招き、新商品の試食会を開いていた。

innoven_20200121_05.jpg※ 「大阪王将」で開かれた、ファンズ投資家限定の新メニュー試食会

「大阪王将」の営業本部長が自ら、"婚活パーティー"のようにテーブルを回り、投資家たちの意見を聞いていく。「女性は(店に)入りづらいですか?」「(揚げ物などの)茶色いイメージが強く、サラダとかのイメージがないので...」。厳しい意見も次々飛び出す。だがこれは「せっかく投資したからには成功してほしい」という投資家の思いの裏返しでもある。営業本部長は「一般客とは違う観点で話を聞ける。すごく助かる」と満足そうだ。

大阪王将はこのほか、ファンズの投資家に対し「株主優待」のような形で「期間中何度でも10%オフ」の特別割引券を発行。このように、ファンズを資金調達手段だけでなく、投資家を企業の「ファン」にするための仕組みにすることが、クラウドポートの狙いだ。「資金調達だけでなく、個人とつながりたいという企業のニーズは高まっている。個人と企業の新しい関わり方を、ファンズを通じて生み出す」(藤田社長)。

innoven_20200121_06.jpg※ クラウドポートの藤田社長。「企業と投資家の新たな関係」を作り出せるか

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