開発スタッフに聞いた『ロックマンエグゼ』製作秘話。次回作の可能性は......

公開: 更新: テレ東プラス

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2000年代のゲーム界を席巻した『ロックマンエグゼ』。近未来を舞台としたAIと共生する世界観、リアルとファンタジーの融合したシナリオ、アクションにカードゲーム要素をブレンドした斬新なバトルシステムは、当時の少年たちを瞬く間に魅了した。

今回は、そんな一時代を築いたタイトルの開発スタッフに、『ロックマンエグゼ』らしくテレビ会議でインタビュー! 脚本を務めるとともに、作品のアイコンとして前線に立った江口名人、デザイナーの石原雄二さん、橋永智幸さん、プログラマーの松田幸悦さん、片岡道徳さん、ロックマンシリーズのプロデューサーである土屋和弘さんに、伝説のヒットタイトルの裏側で起きていたここだけのエピソード、さらには次回作の可能性も聞かせてもらった。

capcom_20200118_01.jpg▲左から土屋さん、片岡さん、松田さん、江口名人、橋永さん

capcom_20200118_02.jpg▲江口名人は当時を思い出させる白衣姿!

capcom_20200118_03.jpg▲多忙を縫ってキャラクターデザインの石原雄二さんも参加してくれた

「江口名人」を生み出した"悲しい現実"

──まずは、江口名人について聞かせてください。名人はシリーズの脚本を担当されていますが、なぜ「江口名人」になったのでしょうか。

江口:これは本当に悲しい話なんですが......。

一同:(笑)

江口:初代ロックマンエグゼを発売した2001年、とある少年誌のイベントで「エグゼ」を出展することになりまして。その際に、ステージ上でゲームを解説する人を用意してほしいと頼まれたんです。で、上司が当時のプランナーに参加できないか聞いて回ったんですが、イベントの開催日はゴールデンウィークのど真ん中。

まずはディレクターが断り、先輩が断り......。ふと3人の視線を感じて振り向くと、上司が一言「空いてるよね?」と。僕は当時、まだ2〜3年目の新米社員でしたから、断る選択肢はありませんでした(笑)。

──思ったより生々しい......。

江口:「江口名人誕生秘話」というと輝かしいエピソードを想像されるかもしれませんが、現実は世知辛いものです(笑)。

松田:イベントに出演したときは、まだ「名人」ではなく「江口博士」という肩書きだったんですよね。

江口:そうそう。でも、ターゲットの子どもたちには「物知り」なだけじゃ刺さらないじゃないですか。やっぱり強くてナンボなので、対人戦69連勝という設定を引っさげて「江口名人」としてデビューすることになったんです。

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──69連勝は架空の記録なんですね。

江口:でも、確実に69連勝以上はしていますよ! イベントでは常に30人くらい行列ができていて、片っ端からから千切っては投げ、千切っては投げ。

松田:あの頃はすごい人気だったから。

──おお! やっぱり実力は「名人級」じゃないですか。

江口:............はい!

ただ、僕はあくまでもシナリオ担当なので、バトルシステムの開発にはほぼノータッチなんですよ。つまり、一般のプレイヤーさんと条件はあまり変わらないというか......。まあ、そんなわけで、エグゼ1と2までは勝てていました!(笑)

──では、エグゼ3からは......。

江口:そこからはプレイヤーさんが強くなりすぎて......。エグゼ2までに培ったテクニックをそのまま活かせるから、どんどん上達していくんですよ。

エグゼ2までは常にゲームボーイアドバンス(以下GBA)を持ち歩いていて、挑戦されたら受けて立つスタイルを貫いていたんですが、エグゼ3からは「あ、ヤバい負ける」ってなって(笑)。でも、名人は負けるわけにはいかないじゃないですか。そこで周囲から「名人はGBAを持ち歩かないでください」と、"バトル禁止令"が出てしまいました。

──子どもたちにバトルをせがまれたら、どうしていたんですか?

江口:もちろんエスケープですよ。「名人な、いまGBA持ってへんねん!」。

──(笑)。ちなみに、江口名人といえば「名人さん!」「"さん"はいらない!」のくだりがお馴染みでしたが、なにか由来があるのでしょうか。

江口:あれはアニメ版の名人のセリフなんです。主人公の熱斗くんが名人のことを「名人さん」って呼ぶんですが、それに対して「"さん"はいらない!」って正すのが定番のネタで、僕がアニメに寄せていった形ですね。

魅力的なキャラクターデザインはいかにして生まれたのか?

──ロックマンエグゼのキャラクターは、どのナビとオペレーターがセットなのか、瞬時に覚えられるくらいデザインがハマっていましたよね。

石原:ははは、そう思いますよね。でも、じつはナビとオペレーターで、それぞれデザイナーが違うことも多かったんですよ。

──そうなんですか!?

石原:物量が増えてきた「3」あたりからはほぼ完全に、ナビとオペレーターの担当者が別れましたね。基本的には、ストーリーが固まった段階でオーダーがくるので、デザインもイメージしやすかったです。あとは、人間にもナビにも同じモチーフやイメージカラーを取り入れていたのも、わかりやすかったかな。

あ、でも、インド人風のマハジャラマと西洋風魔法使いのマジックマンのように、たまに普通ではまずなさそうな組み合わせの場合もありましたね。なんでああなったんだろう(笑)。あれはあれで面白いと思います。

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──キャラクターデザインにおいてどんなことに気をつけられたんでしょう?

石原:まず考えたのは、ガチガチのメカでも人間でもない「ナビ」という存在をどう表現するか。現実にはあり得ないなんでもアリの世界だけど、想像を超えすぎるとプレイヤーもついていけなくなってしまうので、"独創性と親しみやすさのバランス"は常に意識していたと思います。

関節の処理なんかは、固そうで柔らかそうな不思議な素材感でまとめたりして。その上で「かっこいい!」とか「なんだコイツ~(笑)」みたいに楽しんだり驚いたりしてもらいたいなと。

橋永:遊んでくれるのが小学生なので、子どもでもイラストを描けるようなデザインを意識していましたね。

石原:そうですね。極力線を減らして、子どもでも、あとテレビアニメでも作画しやすいように気をつけました。それでもたまに凝った造形にしてしまい、形を取るのが大変なキャラもいて、申し訳なく思ったりしましたけど......。

人物のほうは、基本的には現代とほとんど変わらないファッションにして、親しみやすさを出そうとしています。ゲーム中は、小さなドットキャラと顔のアップしか表示されないので、特徴がはっきり伝わるようにも心がけました。

──ちなみに、思い入れのあるキャラクターは誰でしょう?

石原:どれも楽しんでデザインできたのでみんな好きなんですけど、思い出深いのはブルースですかね。かなり初期にやったものですが、自分の中でエグゼの方向性を最初に掴んだキャラなのと、なんせ格好いいので気に入っています。

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プログラムくんは、電子世界の妖精さん

──ロックマンエグゼの世界観は、本当に細部まで作り込まれていましたよね。その最もたるものが「プログラムくん」。電子機器のネットワークにプログラムくんが住んでいて、機能を管理しているというアイデアは、どこから生まれたのでしょう。

江口:そもそも主人公のひとりであるロックマン自身が、意思を持ったプログラムという設定じゃないですか。だから、ロックマンだけでなく、あらゆる電子機器にキャラクターを与えたらどうなるのかなと。そこで思い浮かんだのが、いわゆる「妖精さん」みたいな存在。

──プログラムくんは、電子機器を動かしている妖精さんなんですね。

江口:そこからどんどんイメージを膨らませていって......。たとえば、クルマにプログラムくんがいたら、きっとアクセル担当とブレーキ担当に分かれていて、アクセル担当は「僕がいないと走れない」、ブレーキ担当は「僕がいないと止まれない」って考えているだろうなと。そこまできたらシナリオも自然と思いつきますよね。「ブレーキ担当が風邪を引き、クルマが暴走してしまったので、薬を届けることになる」みたいな(笑)。

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──おぉ......。作る上で印象に残っているシナリオはありますか?

江口:炎のナビを使う悪役・ヒノケンのストーリーは悩みましたね。シリーズをまたがって何度も悪事を働くキャラクターなんですが、最初に電子レンジを燃やしたから、次はもっと派手なものを......とか。

あと、大火事を起こすと解決後のマップに焼け跡を残さないといけませんが、これが開発的に割と大変で。エグゼ3のフレイムマンなんかは、「それなら放火じゃなくてものすごく気温が上昇する事件にしよう」という開発都合で生まれた部分もありました(笑)。

エスケープが消え、プリズムコンボが生まれた理由は?

──お話を聞いていると、開発中の「地獄の苦労エピソード」みたいなのも結構ありそうですね。

松田:プログラマーの立場からすると、ソフトのデータ容量との戦いはきつかったです......。

片岡:しまいには1バイト単位で容量を削れないか、四苦八苦しましたよね(笑)。

橋永:使用する漢字の種類を減らしたり、街にいるキャラクターの体の向きを減らしたり。海外版だと、使用する文字の量が一気に増えて容量不足になるので、やむなく「プラグイン」のムービーをカットしたこともありましたね。

石原:プラグインムービーといえば、ムービーを1コマ減らすだけでかなりの容量削減に繋がるので、シリーズを追うごとにじりじりと枚数が減っていきましたね。「6」ではついにプログラムでアニメーションさせるという極まり方を......(笑)。

片岡:バグチェックと修正を含めて、1年でリリースしないといけなかったので、開発スケジュールもタイトだったなぁ。毎年、「夏になったからバグチェックするか」みたいな変なルーティーンもありましたね(笑)。

松田:地獄といえば、『ロックマンエグゼ4.5』の開発。

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片岡:あれは本当に酷かった!

松田:エグゼ4が完成して、すぐに4.5の開発がスタートしたと思ったら、エグゼ5の製作も始まって。さらには海外版とか、エグゼと他作品のコラボゲームの開発も重なったんですよね。4タイトルが同時進行している状態で、もうてんてこ舞い。

江口:開発人員も増えませんでしたからねぇ。かなり大変な状況でしたけど、体育会系のノリでなんとかやり切りました。みんな仲良かったですし、会社に泊まったり、開発フロアでキャッチボールしたり。"終わらない文化祭前日"みたいな感じで、楽しくやっていましたよ(笑)。

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──そういえば、エグゼ1からわずか11ヶ月で発売されたエグゼ2は、エグゼ1の不満点の多くが改善されていました。短期間でフィードバックも少ないなか、どうやってあれほどのクオリティアップを?

松田:あれはエグゼ1を開発した時点で、「ここはこうしたかったよね」みたいなのが結構あったんです。ただ、エグゼ1はGBAのローンチタイトルとして作っていて、なんとしても予定通りに発売しないといけなくて。スケジュールの都合上、妥協せざるを得なかった部分も多かったんです。エグゼ2の開発がスタートしたときは、真っ先にそれを改修しました。たとえば、『「エスケープ」は失敗だったよね』とか(笑)。

※エグゼ1ではウイルスから逃げる選択肢が存在せず、バトルチップ「エスケープ」を使った場合のみ逃げることができた。

江口:苦労したエピソードとは違いますが、驚いたのはエグゼ2の「プリズムコンボ」。次世代ワールドホビーフェアの大会で発覚したんですが......。

capcom_20200118_10.jpg▲プリズムコンボ:オブジェクト設置型のバトルチップ「プリズム」に「フォレストボム」を当てることで、周囲1マスの敵を秒殺するコンボ。

松田:あれはびっくりしましたね〜。まぁ、でも、状況を理解したら「そりゃそうなるよね」と(笑)。

──プリズムコンボって、どういう仕組みだったんですか? バグ技ではないんですよね。

松田:厳密にはバグではないですね。開発当初の段階では、プリズムコンボは成立していなかったんです。むしろプリズムコンボのような現象が起きないように、オブジェクトAが出るとオブジェクトBは壊れる......といった調整を重ねていたら、たまたまプリズムとフォレストボムの優先順位が同じになってしまったんですよ。

土屋:弊社の品質管理部には「チューニングチーム」といって、テストプレイをしながら不具合やゲームバランスの調整をするチームがあります。大人数のメンバーが本気で調整をしていたんですが、発売後は一夜にして何万人もの人たちがプレイするわけですから。想定外の不具合は、どうしてもありましたね。

気になる次回作の可能性は?

──ほかのハードに移植されたことがなく、現在はプレイできない"幻のロックマンエグゼ"として、アーケード版(ロックマンエグゼ バトルチップスタジアム)とモバイル版(ファントムオブネットワーク)もあります。ファンの間では移植待望論があるみたいです。

土屋:ありましたね、ガラケー版のエグゼ。

橋永:えっ、ガラケーのゲームでエグゼ出ていたんですか!?

土屋:出ていたんですよ。

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江口:強い移植の要望があるのですね。メモっときます!

石原:僕もテストでちらっとしか遊んだことがないので、移植希望です!(笑) 担当のディレクターが「ジャミングマン」のデザインをとても喜んでくれていたのを覚えています。

片岡:アーケード版のほうは、技術的にいろいろ難しそうですよね。それをクリアできたとしても、ゲームをするために必要なリーダーやカートリッジの再販がネックになるかなぁ......。

橋永:アーケード版やモバイル版の話とはズレますが、デザイナーとしてはGBAの画面の暗さに合わせて色彩調節をこだわったので、じつは移植版より当時のハードでプレイしてほしい思いもありますね(笑)。

──これだけ未来を的中させてきたロックマンエグゼですが、いま、改めてロックマンエグゼを作るとしたらどんな作品に仕上げますか?

江口:う〜ん、エグゼってネットワークが成熟しきっていない時代だからできた、っていうのもでかいと思うんですよね。「こうなってくれたら嬉しいな」とか、「そう遠くない未来こうなるだろう」と思って描いていたんですが、それらはほとんど実現するか、現実に越えられてしまいました。

橋永:Wi-fiが飛んでいるのは予想できなかったよね(笑)。有線でガチャガチャやっている時代でしたから。

江口:これからの時代を、ゲームというパッケージにまとめるのも難しくなってきたと感じます。今って、みんながみんな同じ未来を見ていないと思うんですよ。昔は「BBS」の時代で、みんなが同じ場所に集まって盛り上がっていましたが、今は「SNS」の時代。いわば「社会」が主体となっていた時代から、「個人」が主体の時代へと変わっているんです。一人ひとりが見たい未来像が、まったく別物なんですよね。それをゲームの世界観にどうまとめるかは非常に難問です。

──なるほど。次回作を待ちわびているファンも多いと思いますが、その可能性はあるのでしょうか。

土屋:ロックマンシリーズにはそれぞれ固有のファンがいて、続編を待望する多くの声も耳にしています。だから、「この作品の続編はもう作らない」みたいなルールは、まったくありません。ただ、ロックマンエグゼは当時のトップコンテンツだったと自負していて、生半可なアイデアでは熱い声に応えられない。続編を作るなら、周到なアイデアと準備、時代の風向き、マーケットの機が熟すのか......すべてが完璧に味方する必要があります。

江口:偶然が重なった部分もありますが、こうして「未来を予測できていた」と言っていただけるくらい、いろんなものがハマった作品です。それを上回るのは、簡単なことではありません。期待に応えながら想像を超えていく。それだけの確信を持てるような条件が揃ったら、もしかしたらチャンスが見えてくるのかもしれませんね。

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長い時間が流れてもなお、当時の少年たちの心に残り続けるロックマンエグゼ。決してハードルは低くないが、伝説のスタッフたちが次なる時代を見通したとき、ロックマンエグゼは再びファンを熱狂させてくれるのかもしれない。

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過去に発売された『ロックマン』シリーズタイトル5作品を、描きおろしイラストを配した専用BOXに収納した限定版『ロックマン&ロックマンX 5in1 スペシャルBOX』が12月19日にPS4/Nintendo Switchから発売予定。

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